少し前のことになりますが、12月22日の塩崎厚生労働大臣の記者会見の内容が26日に公表されました。

「雇用環境・均等局」「子ども家庭局」の設置

厚生労働省来年度の予算案が閣議決定されたことを受けたものですが、「働き方改革」の一環として、「雇用環境・均等局」「子ども家庭局」というものを設置するそうです。

なぜか、メディアではまったく扱われた形跡がないのですが、予算案が国会で承認されてからということでしょうか。

現状、労働系では「労働基準局」「職業安定局」「職業能力開発局」「雇用均等・児童家庭局」の4つの局がありますが、名称だけで見ると「雇用均等・児童家庭局」を「雇用環境・均等局」「子ども家庭局」の二つに分けるように見えます。

塩崎大臣によれば「児童家庭局」を「子ども家庭局」とし、明示的に「子ども」を入れたとのことですが、そうであれば「雇用均等局」を「雇用環境・均等局」にし「環境」を明示的に入れたということになりますね。

「同一労働同一賃金」シフト

これまで「雇用均等・児童家庭局」では男女雇用機会均等法やパートタイム労働法が扱われてきましたが、この存在そのものが従来の「男は仕事、女は家庭」というパラダイムを引きずったものと言えるのでしょう。

ヨーロッパの「同一労働同一賃金」も、1957年のEUローマ条約「男女同一労働同一賃金」から始まり、2009年の「同一価値労働同一賃金」に遷移しました。

それを考えると、男女格差もさることながら、いわゆる正規・非正規格差や長時間労働が問題視されるいま、「雇用均等・児童家庭局」から「雇用環境・均等局」を独立させることは組織論として妥当だと考えられます。

今後さらなる組織の整理も?

大雑把に非正規雇用の扱いの観点で言うと「労働基準局」が契約社員、「雇用環境・均等局」がパートタイマー・アルバイト、「職業安定局」が労働者派遣という切り分けにも見えてきます。

雇用形態による担当部局の切り分けがあると、どうしてもその政策に差異ができてしまうので、さらなる整理も必要になっていくのではないでしょうか。

キャリア形成支援が横断的に

また、職業能力開発局が局から統括官組織に変り、「人材開発統括官」となるようです。位置づけとして省内横断的にということになるのでしょう。

雇用形態に関わらず人材開発が重視されることになると思われます。これは文部科学省との連携が望まれるのではないでしょうか。

「同一労働同一賃金」はまだこれから

「働き方改革」が「新三本の矢」の一本目の矢の経済再生最優先でやるという基本路線のど真ん中の改革と位置付けられており、大きな予算がつけられているとのことですが、重要なことは「お金を使うこと」ではなく「成果を出すこと」です。

ばら撒くのではなく、しくみとして「働き方改革」が地に足のついたものとなるようにしてほしいものです。

「同一労働同一賃金」については、「これで全部解決するということは、必ずしもそういうことがすぐに実現するわけではない」との認識も示されています。

あくまでも基本給、昇給、賞与、各種手当、教育訓練や福利厚生も含めて同一にしていくということを「明確にしたことが、処遇改善に大きくつながる」とのことです。

「今まではどちらかというと職務給が主流ではない」とのコメントも考慮すると、職務給を前提とした派遣労働は、むしろこれからの要になるとも捉えられます。

組織は戦略に従う

いずれにしても、一億総活躍社会の実現というビジョンに従い、その中核となる「働き方改革」の「同一労働同一賃金の推進」「長時間労働の是正」を行うために、厚生労働省の組織を変えるということは理に適っているように思います。

これは企業経営でも同様ですが、「組織は戦略に従う」と言います。皆さまの事業にとってもいかに的を射た精緻な戦略をたてるかがまず重要だということですね。ますます戦略思考が必要になるのではないでしょうか。

年内最後のブログとして、来年度を見通すためにも厚生労働省の組織改編についてお伝えしました。

昨日あたりから、急に冬の気配を感じるようになりました。どうぞ、皆さんよいお年をお迎えください。

塩崎大臣会見概要(H28.12.22(木)10:12~10:27 省内会見室)

(大臣)

おはようございます。

本日の閣議では、平成29年度予算案が閣議決定されました。

平成29年度厚生労働省予算案では、一億総活躍社会の実現のために、「働き方改革」、「新三本の矢」などを重点分野として、一般会計で1.2パーセント増の総額30兆6,873億円を盛り込んでおりまして、スピード感を持って、施策を展開してまいりたいと思っております。

また、来年度の組織再編につきましては、医療・保健関係の技術分野を統理する次官級の「医務技監」の創設がまず第一にございます。

初めて医系技官の方の次官級のポストができたということであります。

働き方改革や子育て支援、児童虐待対応、生産性向上を強力に進めるために、「雇用環境・均等局」を作ります。

さらに、「子ども家庭局」、初めて「子ども」という言葉が明示的に入りました。それも、家庭とセットの「子ども家庭局」でございます。

そして、「人材開発統括官」ということで、これは職業能力開発局が局から統括官組織に変わったということであります。

詳細については、この後のブリーフィングで、事務方にお尋ねいただきたいと思います。以上、私からでございました。

(記者)

来年度予算についてですが、特に大臣として力を入れた分野や施策がありましたらお教えください。

(大臣)

今回の来年度予算については、一億総活躍プランが今年の6月に閣議決定されてから初めての予算編成ということであります。

この間も同一労働同一賃金のガイドラインを議論しましたが、「働き方改革」は「新三本の矢」の一本目の矢の経済再生最優先でやるという基本路線のど真ん中の改革ということで、数々の予算が入っております。

… 略 …

(記者)

同一労働同一賃金のガイドラインについてですが、先日、ガイドラインが発表になりまして、通勤手当など、一部手当も同一の取扱いを求めるなど、一部前進したという点もあるのですが、基本給などについては、差を容認するような形の傾向にもなっており、現状を大きく変えるような形にはなっていないのではという指摘もあります。

職務給の徹底という同一労働の欧州型と同等とは言えない形になったと思いますが、その点の評価や、今後どう進めていくかを教えてください。

(大臣)

総理も明確に申し上げたとおり、今まではどちらかというと職務給が主流ではない、日本の状況の中ではなかなか同一労働同一賃金の実現は難しいと国会などで言ってまいりましたが、いや、そのようなことはないのだ、そういう中でもできることはあるのだということを、今回のガイドライン案でお示しして、どこまでが合理的で、どこからが合理的ではないかという目安をお示ししたということですから、大きな一歩、前進だと私は考えております。

しかし、そうは言いながら、現状を踏まえた上で、こういうことを言っているので、勤続年数で同じだったら同じ賃金を払うというのは、能力を度外視してやるということですから、これは世界の常識からは少し違うことを言っているので、そういうことで前文が付けられておりまして、そこには明確に、今後、各企業が職務や能力等の内容の明確化と、それに基づく公正な評価を推進し、それに則った賃金制度を労使の話し合い、これは非正規も含めた労使の話し合いという意味ですが、可能な限り速やかに構築していくことが、同一労働同一賃金の実現には望ましいと思っています。

これからは労使が非正規を含めて一体となって、こういう職務の明確化、職務に必要な能力の明確化、それと賃金との関係性を明らかにするとともに、公正な、フェアな評価が行われる人事評価体制を構築する中で、初めて本格的な同一労働同一賃金というものができるのだということであります。

私としては、労使がこれから、今、申し上げたような形で、しっかりと話し合いを、これは正社員も含めて給与体系全体の見直しをやっていくべきだということを、実現会議でも申し上げたところでございます。

また、そういった体系をオープンにしていく、企業単位でやっていくと、やはりオープンにしていかないと、ほかの企業はどうなっているのかというのがよく分かりませんから、それをしっかりとやっていただくことが、真の同一労働同一賃金の実現に近づくということではないかと思います。

この前文とセットで今回のガイドライン案をよく見ていただいて、大きな一歩前進であるガイドライン案を基に、さらに労使で非正規を含めて皆様方が賃金体系全体を、同一労働とは何かということをしっかりと議論していただくことが大事であって、それによって初めて同一賃金というのが定義づけられてくるということではないかと思いますので、私は大変大きな前進を、今回のガイドライン案を示すことによって、その一歩が始まったと思います。

これで全部解決するということは、御指摘のとおり、必ずしもそういうことがすぐに実現するわけではないわけですが、今まで難しいと言われてきたことに対して、そうではないのだということを、安倍総理としても明確にしたということを申し上げているわけでございます。

ガイドライン案はあくまでも案であって、これから法改正の議論をしっかりと踏まえた上で、最終的には、国会で決まる法律に見合ったガイドラインに作り直すということを明確に書いてあるわけでございますので、そこのところはしっかりと申し上げていかなければならないと思っております。

いずれにしても、例えば、基本給、昇給、賞与、各種手当についても指摘をするとともに、教育訓練や福利厚生もカバーするということで、同一にしていくということを明確にしたことは、非正規の皆様方の処遇改善に大きくつながることだと思っておりますので、大きな一歩前進で、これから努力をみんなしなければならないということだと思います。

※出生率が、2016年の子どもの数が初めて100万人を割ることになったことについても質疑応答されていますがここでは省略しました。

http://wwwhaisin.mhlw.go.jp/mhlw/C/?c=227901

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