とうとうトランプ大統領が就任しました。

日本時間の1月21日午前2時、たぶん世界中の多くの人が就任式のテレビ中継を見守ったのではないでしょうか。

私も時折、意識が遠のきながらも、最後までテレビの前にいました。

就任演説を聞いていると、どう考えても「理念がない」というのが率直な感想です。

アメリカの大統領なら大統領らしく、世界の平和とか繁栄、協調や秩序、自由、あるいは地球環境や未来といったことが言われてもよいと思いながら、ついぞありませんでした。

真摯さや尊重といった価値観が語られることもなく、「なんだかなぁ」というのが正直なところです。

トランプ大統領を選んだのはアメリカ国民です。もはやアメリカ国民がアメリカが世界のリーダーであることを捨てたということでしょうか。

ひたすら、かつてのアメリカンドリームのようなことばかりなのは、メラニア夫人を初め、映画にでてきそうなセレブなトランプ・ファミリーからも感じます。

演説の中の言葉の表現は選挙期間中よりも柔らかいものの、内容的には変わらないと捉えられるものでした。

ビジョンは「アメリカ・ファースト」

「本当に大切なことは、どちらの政党が政権を握るかではなく、私たちの政府が国民によって統治されているかどうか」…そのとおりです。

ただ、それが自国さえよければよいというようなメッセージばかりが伝わって来たと思うのは私だけでしょうか。

「この瞬間から、アメリカ第一となります」というのが、ビジョンということなのでしょう。

「すべての決断は、アメリカの労働者とアメリカの家族を利するため」と判断基準が示されています。

「政治の根本にあるのは、アメリカに対する完全な忠誠心」とのことですが、他国のことなどかまっていられないということでしょうか。

我が国の人材サービスへの影響は?

さて、前置きが長くなりましたが、トランプ大統領の就任によって我が国の人材サービスにどのような影響がでるか、引き寄せて考えてみましょう。

具体的に述べられていることは、まず、貿易、税、移民、外交問題です。

「私たちは2つの簡単なルールを守ります。アメリカのものを買い、アメリカ人を雇用します」と言っているので、貿易については保護貿易ということになるのでしょう。

すでにTPPからは離脱することが正式に表明されました。

今後、日本からの輸入品について関税が高くなることが想定されます。

そうであればアメリカへの輸出比率が高い企業は苦しくなります。

メーカーは生産量が減少し、製造部門や物流部門、貿易部門での人材ニーズが低くなるのではないでしょうか。

自動車・同部品(33.9%)、一般機械(21.5%)、電気機器(15.8%)、原材料別製品(7.1%)化学製品等(6.4%)、科学光学機器(2.7%)に関するメーカーと取引がある場合は要注意ということになります。

言うまでもなく、これらの企業と取引のある中小企業も余波が考えられます。

中国との関係が深い企業も要注意

日本からアメリカへ直接輸出をしていなくても、アメリカとの取り引きの比率が高い企業は注意が必要でしょう。

例えば、日本国籍であっても中国で生産してアメリカに輸出する企業。

トランプ大統領というと、とかくメキシコを目の敵にしているイメージが強いですが、貿易相手国としては中国からの輸入が最大です。

ちなみにメキシコは2位で、3位がカナダ、4位が日本です。

対米輸出に制限が加えられることになるため、それが日本国籍の企業であっても対象となる可能性が高いと言えるでしょう。

外交問題としても中国には厳しい見方がされているのでなおさらです。

いずれにしてもアメリカへの輸出依存が高い企業では人材ニーズが低下すると考えておく必要があるのではないでしょうか。

アメリカからの輸入企業は安泰

一方、貿易はTPPの目がなくなったとは言え、二国間協定はあるので、輸入品とのバランスも考慮されるはずです。

日本がアメリカから輸入しているものは、食料品・農水産物(19.3%)、化学品等(18.6%)、航空機・同部品(11.4%)、光学機器・医療機器(11.4%)、一般機械(10.4%)。

2015年の日本からアメリカへの輸出総額が1,313億6,400万ドル、アメリカから日本への輸入総額が624億4,300万ドルと輸出超過です。

日本側も輸入関税をちらつかせるかもしれませんが、輸出入額だけを見るとアメリカからの主張が強くなりそうです。

トランプ流のビジネスライクな取り引きという点では、どうしてもアメリカへの輸出関税が高く設定される可能性の方が高くなります。

したがって、輸入品を扱う企業については、日本が対抗措置を採らない限りはとりあえず大きな変動はなく、貿易実務やこれらの営業のような職種については安泰と考えられるのではないでしょうか。

インフラ投資からの恩恵は?

「新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、そして鉄道を、このすばらしい国の至る所につくる」とも言っています。

公共投資によって雇用を創出し経済を底上げするというのは、ハコモノで経済をなんとかしようという自民党と同じですね。

アメリカは、発展途上国ではなないので、設計などの技術的な面で何かを輸入するということもないと思います。

新幹線ぐらいは、日本から輸入してもらいたいものですが、ほとんどのことは自国内でできるのでしょうか。

強いて言えば、建設機械、工作機械の分野は日本からの輸出が見込める分野だと思います。

人材サービスは、この分野にはあまり大きなビジネスはないように思うのでほとんど恩恵はないのではないでしょうか。

自分のことは自分で

「すべての国々に、自分たちの利益を最優先にする権利があることを理解しています」…要するに、他国のことまで面倒見切れないと言っているのだろうと思います。

ある意味、「自分のことは自分でやれ」と言っているので、自立を促すという点で当たり前とも取れますが、安全保障上は急に突き放されても困ります。

もともとアメリカから軍事力を持つなと言われていた日本が、突然、もう面倒みないと言われるわけですから、戦後70年続いてきたパラダイムは変わることになるということでしょうか。

すぐに何かが変わるという話ではないとは思いますが、米軍が日本から引き上げるという話になれば、米軍をビジネスの対象としてきた地域や企業はマイナスに動きます。

米軍基地の存在に反対している地域にも、米軍基地の存在によって経済が回っている企業は必ずあります。

そこに雇用があるわけですから、人材ニーズは減少します。米軍関係者は10万人弱ですから、大きな影響はないとも捉えられますが、沖縄を初め、厚木、横須賀、座間、横田、岩国、三沢など、特定の地域、企業にとっては大きな影響があると言えるでしょう。

為替変動の景気への影響が一番大きい

このようなことを考えていると、それほど大きな影響はないようにも思えます。

しかし、もう少し視点を広げてみると、結局は為替変動の景気への影響が一番大きいように思います。

現在は、ドル高の相場が続いていますが、これはアメリカ企業が輸出するための競争力をそぐことになります。

したがって、政策的にはドル高を抑制する方向に動くはずですが、そうなると当然、円高に振れます。

円高になれば輸出企業は苦しくなり、製造業の比率が高い日本の経済にとってはマイナス。

マクロでみると、経済が低迷すれば雇用も減るという図式が成り立ちます。

残念ながらトランプ大統領の就任は、総じてみると人材サービスにとってはマイナスということになるのではないでしょうか。

部分最適は方向感を見失う

「私たちは雇用を取り戻します。私たちは国境を取り戻します。私たちは富を取り戻します。そして、私たちの夢を取り戻します」と言っています。

そして、「空虚な話をする時間は終わりました。行動を起こすときが来たのです。できないことを話すのはもうやめましょう」とも言っています。

これは、企業経営でもよくある、部分最適の追求です。

理念がないところで、どこに向かって行動を起こすのでしょうか。

「すべての決断は、アメリカの労働者とアメリカの家族を利するため」というのは、企業で言えば、自社の利益至上主義と同じです。

部分最適にしかなり得ません。その先に何があるのか、何を求めるのかを明確にしなければなりません。

部分最適は、必ず方向感を見失い、衰退や破綻に向かいます。

20年ほど前に、ニューヨーク、セントラルパークの南側に面したホテルに泊まりました。5番街のトランプタワーまで歩いたことを思い出します。

トランプ大統領には、リーダーシップを発揮して世界の全体最適を求めてほしいものです。

トランプ大統領就任演説 日本語訳全文

NHK News 2017.1.21

ロバーツ最高裁判所長官、カーター元大統領、クリントン元大統領、ブッシュ元大統領、オバマ大統領、そしてアメリカ国民の皆さん、世界の皆さん、ありがとう。

私たちアメリカ国民はきょう、アメリカを再建し、国民のための約束を守るための、国家的な努力に加わりました。私たちはともに、アメリカと世界が今後数年間進む道を決めます。

私たちは課題や困難に直面するでしょう。

しかし、私たちはやり遂げます。

私たちは4年ごとに、秩序だち、平和的な政権移行のために集結します。

私たちは政権移行中の、オバマ大統領、そしてファーストレディーのミシェル夫人からの寛大な支援に感謝します。彼らは本当にすばらしかったです。
しかし、きょうの就任式はとても特別な意味を持ちます。

なぜなら、きょう、私たちは単に、1つの政権から次の政権に、あるいは、1つの政党から別の政党に移行するだけでなく、権限を首都ワシントンの政治からアメリカ国民に返すからです。
あまりにも長い間、ワシントンの小さなグループが政府の恩恵にあずかる一方で、アメリカ国民が代償を払ってきました。

ワシントンは栄えてきましたが、人々はその富を共有していません。

政治家は繁栄してきましたが、仕事はなくなり、工場は閉鎖されてきました。

既存の勢力は自分たちを守ってきましたが、国民のことは守ってきませんでした。

彼らの勝利は皆さんの勝利ではありませんでした。

彼らが首都で祝っている一方で、闘っている国中の家族たちを祝うことはほとんどありませんでした。

すべてが変わります。

いま、ここから始まります。

なぜなら、この瞬間は皆さんの瞬間だからです。皆さんのものだからです。

ここに集まっている皆さんの、そして、アメリカ国内で演説を見ている皆さんのものだからです。

きょうという日は、皆さんの日です。皆さんへのお祝いです。

そして、このアメリカ合衆国は、皆さんの国なのです。

本当に大切なことは、どちらの政党が政権を握るかではなく、私たちの政府が国民によって統治されているかどうかということなのです。
2017年1月20日は、国民が再び国の統治者になった日として記憶されるでしょう。

忘れられていた国民は、もう忘れられることはありません。

皆があなたたちの声を聞いています。

世界がこれまで見たことのない歴史的な運動の一部を担う、数百万もの瞬間に出会うでしょう。

この運動の中心には、重要な信念があります。

それは、国は国民のために奉仕するというものです。

アメリカ国民は、子どもたちのためにすばらしい学校を、家族のために安全な地域を、そして自分たちのためによい仕事を望んでいます。

これらは、高潔な皆さんが持つ、当然の要求です。

しかし、あまりにも多くの国民が、違う現実に直面しています。

母親と子どもたちは貧困にあえぎ、国中に、さびついた工場が墓石のように散らばっています。

教育は金がかかり、若く輝かしい生徒たちは知識を得られていません。

そして犯罪やギャング、薬物があまりに多くの命を奪い、可能性を奪っています。

このアメリカの殺りくは、いま、ここで、終わります。

私たちは1つの国であり、彼らの苦痛は私たちの苦痛です。彼らの夢は私たちの夢です。

そして、彼らの成功は私たちの成功です。

私たちは、1つの心、1つの故郷、そしてひとつの輝かしい運命を共有しています。
きょうの私の宣誓は、すべてのアメリカ国民に対する忠誠の宣誓です。

何十年もの間、私たちは、アメリカの産業を犠牲にして、外国の産業を豊かにしてきました。

ほかの国の軍隊を支援する一方で、非常に悲しいことに、われわれの軍を犠牲にしました。

ほかの国の国境を守る一方で、自分たちの国境を守ることを拒んできました。

そして、何兆ドルも海外で使う一方で、アメリカの産業は荒廃し衰退してきました。

私たちが他の国を豊かにする一方で、われわれの国の富と強さ、そして自信は地平線のかなたに消えていきました。

取り残される何百万人ものアメリカの労働者のことを考えもせず、1つまた1つと、工場は閉鎖し、この国をあとにしていきました。

中間層の富は、彼らの家庭から奪われ、世界中で再分配されてきました。

しかし、それは過去のことです。

いま、私たちは未来だけに目を向けています。

きょうここに集まった私たちは、新たな命令を発します。

すべての都市、すべての外国の首都、そして権力が集まるすべての場所で、知られることになるでしょう。

この日以降、新たなビジョンがわれわれの国を統治するでしょう。
この瞬間から、アメリカ第一となります。

貿易、税、移民、外交問題に関するすべての決断は、アメリカの労働者とアメリカの家族を利するために下されます。

ほかの国々が、われわれの製品を作り、われわれの企業を奪い取り、われわれの雇用を破壊するという略奪から、われわれの国を守らなければなりません。

わたしは全力で皆さんのために戦います。

何があっても皆さんを失望させません。

アメリカは再び勝ち始めるでしょう、かつて無いほど勝つでしょう。

私たちは雇用を取り戻します。

私たちは国境を取り戻します。

私たちは富を取り戻します。

そして、私たちの夢を取り戻します。
私たちは、新しい道、高速道路、橋、空港、トンネル、そして鉄道を、このすばらしい国の至る所につくるでしょう。

私たちは、人々を生活保護から切り離し、再び仕事につかせるでしょう。

アメリカ人の手によって、アメリカの労働者によって、われわれの国を再建します。

私たちは2つの簡単なルールを守ります。

アメリカのものを買い、アメリカ人を雇用します。

私たちは、世界の国々に、友情と親善を求めるでしょう。

しかし、そうしながらも、すべての国々に、自分たちの利益を最優先にする権利があることを理解しています。

私たちは、自分の生き方を他の人たちに押しつけるのではなく、自分たちの生き方が輝くことによって、他の人たちの手本となるようにします。
私たちは古い同盟関係を強化し、新たな同盟を作ります。

そして、文明社会を結束させ、イスラム過激主義を地球から完全に根絶します。

私たちの政治の根本にあるのは、アメリカに対する完全な忠誠心です。

そして、国への忠誠心を通して、私たちはお互いに対する誠実さを再発見することになります。

もし愛国心に心を開けば、偏見が生まれる余地はありません。

聖書は「神の民が団結して生きていることができたら、どれほどすばらしいことでしょうか」と私たちに伝えています。

私たちは心を開いて語り合い、意見が合わないことについては率直に議論をし、しかし、常に団結することを追い求めなければなりません。

アメリカが団結すれば、誰も、アメリカが前に進むことを止めることはできないでしょう。

そこにおそれがあってはなりません。

私たちは守られ、そして守られ続けます。

私たちは、すばらしい軍隊、そして、法の執行機関で働くすばらしい男性、女性に、守られています。

そして最も大切なことですが、私たちは神によって守られています。
最後に、私たちは大きく考え、大きな夢を見るべきです。

アメリカの人々は、努力をしているからこそ、国が存在し続けていけるということを理解しています。

私たちは、話すだけで常に不満を述べ、行動を起こさず、問題に対応しようとしない政治家を受け入れる余地はありません。

空虚な話をする時間は終わりました。

行動を起こすときが来たのです。

できないことを話すのはもうやめましょう。

アメリカの心、闘争心、魂を打ち負かすような課題は、存在しません。

私たちが失敗することはありません。

私たちは再び栄え、繁栄するでしょう。

私たちはこの新世紀のはじめに、宇宙の謎を解き明かし、地球を病から解放し、明日のエネルギーや産業、そして技術を、利用しようとしています。

新しい国の誇りは私たちの魂を呼び覚まし、新しい視野を与え、分断を癒やすことになるでしょう。

私たちの兵士が決して忘れなかった、古くからの知恵を思い起こすときです。

それは私たちが黒い肌であろうと、褐色の肌であろうと、白い肌であろうと、私たちは同じ愛国者の赤い血を流し、偉大な自由を享受し、そして、偉大なアメリカ国旗をたたえるということです。

そしてデトロイトの郊外で生まれた子どもたちも、風に吹きさらされたネブラスカで生まれた子どもたちも、同じ夜空を見て、同じ夢で心を満たし、同じ全知全能の創造者によって命を与えられています。

だからこそアメリカ人の皆さん、近い街にいる人も、遠い街にいる人も、小さな村にいる人も、大きな村にいる人も、山から山へ、海から海へと、この言葉を伝えます。

あなたたちは二度と無視されることはありません。

あなたの声、希望、夢はアメリカの運命を決定づけます。

そしてあなたの勇気、善良さ、愛は私たちの歩む道を導きます。

ともに、私たちはアメリカを再び強くします。私たちはアメリカを再び豊かにします。

私たちはアメリカを再び誇り高い国にします。

私たちはアメリカを再び安全な国にします。

そして、ともに、私たちはアメリカを再び偉大にします。

ありがとうございます。

神の祝福が皆様にありますように。

神がアメリカを祝福しますように。

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