こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

昨日、今日とかなり冷え込んでいますね。すでに3月も中旬を迎えます。春の気配が待ち遠しくなってきました。

話題にならなかった経済同友会の意見書

さて、少し前のことになりますが、3月22日に経済同友会から「『働き方改革』に関する主要論点に係る意見」という意見書が公表されています。

ほとんど話題になることはなかったのですが、指摘としては「ごもっとも!」という内容だったので、ここで採り上げておきます。

この報告書は、長時間労働、賃金引き上げと労働生産性の向上、テレワークなどの「働き方改革」について経済団体として意見表明されたものです。

ここでは、人材サービス業界にとって最も影響が大きいと考えられる「2.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善について」を採り上げます。

裏読みが必要な報告内容

この報告の冒頭には、昨年12 月に提示された「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」について、概ね妥当と評価をしているのですが、実際に中身をよく読んでみると、かなり厳しい指摘が含まれていることがわかります。

ある意味、「大人の表現」とも言えるのではないかと思いますが、意図することを裏読みすると以下のようなことが書かれています。

  • ビジネスの現場を考慮していない
  • ガイドラインの内容では不十分
  • 各企業の多様な制度をすべて網羅することは無理
  • 判例によるルールづくりは、現場の混乱や労働政策の硬直化を招く
  • 民間の自主的プロセスを重視すべき(→政府が介入すべきではない)
  • 時代にそぐわない制度の見直しが必要

滲み出る出る解雇規制の整理

そして、「正規」「非正規」の二元論については、以下のように意見しています。

  • 多様な働き方を主体的に選択できる社会の実現をめざすべき
  • 労働市場を柔軟化し、労働移動を可能にする改革も併せて必要

特に「労働移動を可能にする改革」については、労働契約のあり方、職業訓練・仲介の強化などを検討する必要性が指摘されていますが、この「など」の中には解雇規制の整理、単刀直入に言えば、金銭解雇の制度についても求めているように受け取れます。

経済団体としては、なかなか言葉にできないところではあるとは思いますが、言外にこのようなことまで含まれていると考えてよいのではないでしょうか。

概ね要望書

冒頭の「概ね妥当」以外は、すべて要望というのがこの意見書の趣旨かと思います。つまり意見書という名の要望書と捉えてよいものです。

「ガイドライン(案)」が法律よりも先に独り歩きを始めてしまったこと自体に問題があります。

私は前々から指摘をしていますが、同一労働同一賃金は、そう簡単に実現できるものではないと思います。

むしろ、実現できないものという考え認識したうえで、どうしたら近づけることができるかという議論をした方がよいのではないかと思います。

また、経済同友会の指摘にもあるように、あまり政府が介入すべき問題ではないのではないでしょうか。

「働き方改革」に関する主要論点に係る意見

経済同友会 2017.2.22.

…1.省略…

2.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善について

 (1)同一労働同一賃金ガイドライン

・ 昨年12 月に提示された「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」は、現時点で明確に「待遇差が不合理」と考えられる典型例を示したものであり、その範囲内において、内容は概ね妥当であると考える。

・ ただし、各企業がそれぞれの戦略・方針に基づいて多様な人事・給与制度を構築している中で、今回のガイドライン案では明示されていないことも多い。例えば、企業の実務担当者からは、ガイドライン案では示されていない以下の点について、今後解釈が求められる可能性があるとの指摘があった。

  • 企業合併によって併存する異なる給与制度の取扱い
  • 「与えられる職務」に応じた基本給の支給(「職業経験・能力」「業績・成果」「勤続年数」に応じた基本給の支給については、ガイドライン案に問題となる/ならない場合が明記されている)
  • 多様な福利厚生や手当の取扱い(ガイドライン案では、いくつかの事例が示されているが、各企業の多様な制度をすべて網羅することは無理であり、原則を示すことが必要ではないかとの意見)

・ こうしたグレーゾーンについては、訴訟によって決着させるべきとの意見がある。しかし、現在のような裁判官任用制度のもとで、裁判官が職場の実態を十分に理解しているとは言いがたい現状を前提とすると、裁判所の判断を通じた性急なルールづくりを進めると、現場の混乱や労働政策の更なる硬直化を招くおそれがある。

・ 海外の同一労働同一賃金は、職務が明確に限定される中で、「職務給」と産業横断的な「協約賃金」が雇用形態にかかわりなく適用されることで成立している。事情が異なる日本においては、異なるプロセスが必要である。

・ したがって、まずは各企業が、個人の成果、転勤・配置転換・時間外労働の許容度などに対するプレミアムについて可視化を図り、待遇差に関する「合理的理由」を丁寧に示した上で、各社の労使で協議するような民間の自主的プロセスを重視すべきである。

・ その際、業績・成果に見合った均等処遇を実現する上で、賃金の引き下げや手当の見直しなど、不利益変更が発生することもある。これについては、時代にそぐわなくなった制度の見直しに係る制度変更を容易にすることが望ましい。

 (2)「正規」「非正規」の二元論からの脱却

・ 将来的には、「正規」「非正規」の二元論からの脱却を図り、その区分を超えて、多様な働き方の選択肢が存在し、個人の価値観、キャリア志向、ライフステージにおける多様なニーズに応じて、働き方を主体的に選択できる「ワーク・ライフ・マネジメント」が可能な社会の実現をめざしていくべきである。

・ そのためには、労働市場を柔軟化し、円滑な労働移動を可能にするための諸改革(労働契約のあり方、職業訓練・仲介の強化など)の検討も併せて必要である。

…2.以降省略…

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