こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

昨日の拙ブログ「派遣法に与える『同一労働同一賃金』のおかしな議論」は、お陰様でかなり多くの皆さんにお読みいただけたようです。ありがとうございます。

いつものことではありますが、労働者派遣法がらみの話題は注目度が高いですね。やはり、皆さん目先のことには敏感ということでしょうか。

目先の問題は人材不足

さて、今日は目先どころか、今まさに旬の人材不足について考えてみたいと思います。

3月6日の拙ブログ「他人事ではない『人材サービス業界』の人材不足」では、人材サービス業界自体の人材不足について触れました。

人材サービスを提供するにしても、そのサービスを提供する人がいないとなると、人材サービスのビジネス自体が成り立たないのですから、自社内の人材不足は由々しき問題ですね。

一方、クライアントから受注を受けても、紹介できる人材がいないというのも同じように深刻な問題です。

恐らく、このようなことは私が言うまでもなく現場の皆さんは実感されていることではないでしょうか。

いつまで続く、人材不足

人材サービス事業者の皆さんのみならず、一般企業の皆さんから圧倒的にご相談を受けるのもこの人材不足です。

数日前にも「この人材不足はいつまで続くのか」というご質問を受けました。

残念ながら、当面、回復することはないはずです。マクロでみる限り、生産年齢人口だけでなく、労働人口の減少も顕著になっています。

拙著「雇用が変わる 人材派遣とアウトソーシング ─ 外部人材の戦略的マネジメントにも書きましたが、1997年をピークに生産年齢人口は減少に転じましたが、労働人口の減少は女性の社会進出や定年後の雇用延長制度の影響で、しばらくは急激には減少しませんでした。

なんとか2010年ぐらいまではもちこたえていましたが、それ以降はリーマンショックからの回復といわゆる団塊の世代の本格的なリタイアによって一気に問題が表面化したという背景があります。

この放物線のグラフのカタチが急に変わることは考えにくいものがあります。

人材不足が好転するとしたら

この放物線に変化があるとしたらどのようことが考えられるでしょうか。

まず一つは、景気の問題、経済の視点ということになります。

リーマンショック並みの景気低迷、大恐慌のようなことが起れば人材の余剰ということが起るでしょうけどそれはそれで望みたくはありませんよね。

もう一つは、技術革新の視点。AIやIoT、ロボットなどの第4次産業革命の進展です。

新たに生まれる仕事もあるとは思いますが、数のうえでは失われる仕事が多くなる可能性が高いと言えます。特に人材サービスが大きな役割を果たしている仕事には該当するものが多く含まれます。

これもビジネスとしては、縮小を意味するので、ありがたい話ではありません。

現在の人材不足とこの技術革新による人材の余剰がどこかで交差することになるのだろうと思いますが、さすがに現時点では先が読めません。

したがって、今後もつづく人材不足にどう対処するのかというのが、非常に大きな経営課題になると言えるのではないでしょうか。

募集媒体やワーディング、自社媒体?

よくあるのが、募集媒体は何を選べばよいのか、どのようなことを掲載すればよいのか、目を引くキャッチはどうするのか、あるいは自社媒体をもった方がよいのかという話です。

私自身も広告宣伝を担当していた当時は、もちろんそのようなことも考えました。具体的に求人広告を出稿するというフェーズであれば、それはたしかに重要です。

また、採用チャネルとして、ハローワーク、人材派遣、紹介予定派遣、人材紹介、学校へのアプローチ、企業説明会などでどうするか、さらにアウトソーシングやBPRというような話も続きます。

しかし、現状の人材不足を考えると、経営的にはそのような話でなんとかなるというレベルではなくなっていると考えることが必要です。

いまや人事戦略は経営戦略の柱です。特に経営者の方には、その認識を強くお持ちいただくことが必要ではないでしょうか。

人事の担当者の力だけではどうしようもないところまで労働市場は切迫しているのです。

人材採用が必要な根本原因

多くの場合「人が採れない」というところから話が始まります。そこで募集はどうしたらよいのか、採用はどうしたらよいのか、そして採用した人を定着させるためにはどうしたらよいのかという順で話が進みます。

しかし、よく考えてください。そもそもなぜ採用が必要なのでしょう。

新規事業や既存事業の成長による業容拡大で人材が必要ということであれば、この流れで話が進んでも不思議ではありません。

しかし、少なくとも現状を維持するために採用を考えているのであれば順序が逆です。

新たに採用をしなければならない原因は、欠員が生じているからではないでしょうか。

この場合、採用だけを考えることは、穴の開いた桶に水を注ぐのと変わりません。

あくまでも仮説ですが、恐らく現在、人材不足に苦しんでいる企業はこれまで無意識であっても人材を大切にしてこなかった企業が多く含まれているのではないでしょうか。

特にリーマンショック後、どのように自社の人材と接してきたでしょうか。

同業他社が好調にもかかわらず自社の業績はいま一つ。ボディブローのようにツケが効いてきているのではないでしょうか。

表面化しづらい不満

もちろん、その欠員が自らの夢のため、新たなチャレンジのため、あるいは出産などによるものであるならば、祝福して送り出すこともあるのだと思います。

しかし、なんらかの不満によってそのような欠員が生じているとしたらどうでしょう。

多くの場合、不満をもって去る人は、不満を明らかにせずに去ります。

要するに募集や採用を考える前に、まずは現状の人員との絆をどう結ぶか。経営レベルでは、これが最も重要な課題となります。

少なくとも人材不足が蔓延するなか、失った人材を取り戻すことは企業経営の観点からも非常に効率が悪いのです。

まずは、人材の流出を防ぐことが先であるという認識が必要です。

順序は、「募集→採用→定着」ではなく、「定着→募集→採用」なのです。

従業員の物心両面の幸せ

そこで思い出されるのが、稲盛和夫さんが、京セラでもKDDIでもJALでも同じように「全従業員の物心両面の幸せの追求」を経営理念に掲げたことです。

もちろん、人材のリテンションを目的としてこの理念を掲げているのであれば本末転倒です。

「部下は三日をして上司を見極める」と言います。見せかけの理念では、見え透いてしまいます。

ですから、経営者が心底、自社の従業員を大切にすると固い意志をもつことが大前提です。

そして、社員が自立的、かつ自律的に経営理念を実践する企業風土をつくらなければなりません。

それでこそ、従業員のモチベーションを高め、結果として定着率の向上につながるのです。

そのような企業には優秀な人材が自然に集まります。

客観的に自社をみつめることが第一歩

もちろん、従業員から支持され、共感を得、事業の隅々にまでこれが浸透し、実践される企業風土を構築することは簡単なことではありません。

組織、制度、人事、教育などあらゆる角度からしくみを創ることが必要になります。

ただし、これも闇雲に何かを変えればよいというものではありません。

すべては、完全なオーダーメイドの世界なので、何かの本を読んでうまくいくという話ではないのです。

もちろん、他の企業の真似をしてもうまくいきません。

経営理念に作り方などという概念はないのです。あるとすれば単に言葉の選び方や構成といった表面上なことに留まります。

客観的な視点…これが重要です。そして、過去から現在を俯瞰し将来を見通す力、業界の動向、政治、経済、社会、技術の動向などかなり広範な視野と深い洞察力も必要とされます。

高い倫理観も必要ですし、一方ではプロジェクト・マネジメントの力量も問われます。

ある意味、これらが簡単にできるのであればコンサルはいりません(笑)。

時間はかかるが効果は絶大

ホンモノの理念経営をしている企業は、そうではない企業と比較して1.7倍もの業績の差をつけています。

たまたま昨日ある方からこの話を伺って、実は以前、私も同じことを書いたことを思い出してしまいました。

筆者の研究レポート「『経営理念』の重要性とその実践」には、詳細に記載しているのでよろしければご参照ください。

もちろん、業績のために理念経営をするわけではありませんが、始めなければ始まりません。

人材不足で採用が上手くいかないという話が、理念経営にまで昇華されてしまうので、多くの人はピンとこないのかもしれません。

しかし、もう小手先の話で対処できる時代は終りました。

結局、解決策に近道はないのです。現状に甘えているだけでは「ゆでガエル」になってしまいます。

明日の飛躍のためにも経営者の決断が必要です。地道にやるべきことをやる企業が勝ち抜くのです。

街のあちこちに木蓮の花が目立つようになってきました。今週末からはいよいよお花見シーズン突入ですね。よい週末をお過ごしください。

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雇用が変わる

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