こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

5月2日のブログ「百害あって一利なし、『マージン率の開示規制廃止』を」と昨日5月9日のブログ「規制改革会議のお墨付き『マージン率の開示規制廃止』」ではマージン率開示の規制廃止に絞って書きましたが、改めて、昨日触れた2013年10月4日の「労働者派遣制度に関する規制改革会議の意見」をよく読み返してみました。

解説の必要がない完成度

この「労働者派遣制度に関する規制改革会議の意見」、一部は実現されているものの、十分に尊重されたとは言い難いものがあります。

俯瞰すると、この意見は非常に完成度が高いものだっただけに、非常に残念です。

働き方改革実行計画では、長時間労働の是正について「なかでも罰則付きの時間外労働の上限規制は、これまで長年、労働政策審議会で議論されてきたものの、結論を得ることができなかった」と述べられています。

ある意味で、労働政策審議会に対して疑問が呈されているということになるのではないでしょうか。

労働者派遣制度についても、規制改革会議から優れた意見が示されても、労働政策審議会で議論されたものの結論を得ることができなかったと言えると思います。

労働政策審議会の重要性

労政審では労使の意見の間を取ったどっちつかずな結論が導き出されることがあり、結果として労使双方にとって不満が残る不毛な議論になることが多くあるからだろうと思います。

かと言って、労政審の必要がないのかというわけではありません。

今回の同一労働同一賃金の議論では、働き方改革実現会議から先にガイドライン(案)が降ってきたというカタチになっていますが、本来であればやはり労政審で専門的な議論がされたうえで、政策に反映されるべきでしょう。

公労使の三者構成の原則がきちんと守られることは重要だと思いますが、結局、政労使の働き方改革実現会議の方が強いということでしょうか。公労使なのか政労使なのかは別途、よく考えてみる必要があるのかもしれません。

平成24年改正法は労政審主導で

「労働者派遣制度に関する規制改革会議の意見」は、働き方改革実行計画のガイドライン(案)のような強権発動の位置づけにあるものではありません。

しかし、平成24年改正法についての意見はきわめて的を射たものです。

「日雇派遣の原則禁止」「労働契約の申込みみなし制度」「グループ企業派遣の8割規制」「マージン率等の情報提供」「1年以内に離職した労働者への規制」の5項目については、すべて漏れることなく見直されることが望まれます。

ぜひ、労政審で再度この内容を精査し、エビデンスに基づき、ヒステリックな感情論に陥らない議論のもとに審議をしてもらいたいものです。

平成27年改正法の附帯決議の見直しも

もう一つ、忘れてはならないことは、平成27年改正法の附帯決議の見直しです。

平成27年改正の議論の中で、労政審では俎上になかったものが、国会審議のドサクサに紛れて「キャリアアップ措置」について附帯決議されました。

平成24年法改正の5項目についてまったく見直しがされない中で、さらに意味不明な法改正がされたことはこれまでにも何度となく書いてきたことです。

キャリアアップそのものは全く否定する余地はありませんが、その内容について政府が民間企業に対して、有給無償だとか、1年に8時間だとか、交通費をどうしろというような箸の上げ下ろしにまで口を出すことは、常軌を逸しています。

市場原理に任せ、よりよいサービスにつなげるためにも、平成27年改正法の附帯決議について併せて見直しをしてほしいと思います。

労働者派遣制度に関する規制改革会議の意見(規制改革会議)

1 意見の背景

○ 労働者派遣制度について、当会議は本年6月の答申においてとりまとめを行い、その後、同趣旨の閣議決定がなされた。これも踏まえて、厚生労働省「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」において、「労働者派遣制度の見直しに関する報告書」(以下「報告書」)がとりまとめられた。

○ 現在、労働政策審議会(職業安定分科会労働力需給制度部会)において審議が開始されており、年内に結論を得た上で、平成26年通常国会以降に必要な法制上の措置を行う予定である。

2 基本的な考え方

〇 当会議は、労使が納得した上で多様な働き方が選択できる社会を構築すべきと考えており、こうした立場から「意見」の表明を行うものである。以下の点について、労働政策審議会で議論されることを強く望みたい。

○ 報告書の基本的な方向性、すなわち、(1)いわゆる26業務の廃止、(2)有期雇用派遣労働者に対する個人レベルの期間制限は、規制改革会議の主張に沿ったものであり、堅持されるべきである。派遣労働を「臨時的・一時的な業務」、「専門業務」、「特別の雇用管理を要する業務」に限定するという現在の規制体系・手法を抜本的に見直し、簡素でわかりやすい制度とすべきである。その際、派遣労働者、派遣元及び派遣先事業者の実情を踏まえ、かつ見直しの影響を十分勘案して、働く機会の縮小を招くことがないようにすべきである。

○ 報告書では、依然として、正社員の仕事を奪うべきではないとする「常用代替防止」が規制の根拠として維持されている。非正規雇用労働者が全体の4割近くなった現在、労働者派遣法だけが「常用代替防止」を通じて従来の日本的な雇用慣行の維持を法の基本原則とすることに固執するのは妥当ではない。諸外国では、不安定雇用の拡大防止の観点からの規制はあるものの、我が国のように正社員の保護を目的とする規制は稀である。派遣労働の規制根拠をEUのように「派遣労働の濫用防止」(実態にそぐわない派遣の利用や低処遇・不安定雇用の防止)に転換すべきである。さらに、「派遣労働の濫用防止」は、派遣先の正規雇用労働者との均衡処遇の推進によって実効性を確保すべきである。その際、派遣労働者に不合理な格差が生じないよう、我が国の実情に即し、処遇全般に目配りした幅広い「均衡」を図るべきである。

3 期間制限の在り方について

(1)上限設定のあり方

現状では有期雇用派遣が多いことから、これまで期間制限がなかった26業務においては新たな期間制限が設けられることになる。結果的に働く場の選択肢が失われることがないように、上限設定に当たってはその影響とともに有期労働契約の無期契約への転換制度(労働契約法18条)との整合性に十分配慮するべきである。

(2)派遣先レベルでの規制

継続的な受入期間が上限を超す場合に必要とされる労使のチェックは、不透明な手続き等により派遣を望む労働者の就業の機会を奪ったり、事業者の効率的経営を阻害する過重なものにならないようにすべきである。

 (3)雇用安定措置

有期雇用の場合に派遣元に求められる雇用安定措置は、その内容によっては、受入期間の上限に至る前に雇止めが増加するなどの懸念がある。派遣労働者の契約期間への影響等を注視しながら、実効性のあるものとすべきである。

4 平成24年改正法の規定について

平成24年10月施行の改正労働者派遣法に新たに盛り込まれた規定について、契約締結・職業選択・採用の自由といった根本原則や、他の労働規制とのバランスがとれたものになるように見直しを行うべきである。

(1)日雇派遣の原則禁止

日雇派遣(契約期間30日以内)の原則禁止は、その濫用が不安定雇用とワーキングプアの増加を招くのではないかとの問題意識から設けられたものである。しかし、限られた期間・時間だけ働きたいと考える労働者がおり、短期間に労働者への需要が集中する業務もある。こうした状況の下で、日雇派遣を規制することは、むしろ就労マッチングや派遣元による雇用管理の有効性を損ない、他の形態(直接雇用等)の日雇を増加させているにすぎないとの指摘がある。直接雇用の日雇契約等との整合性を考慮し、濫用的利用の防止を図りつつ、例外規定も含めた抜本的な見直しが必要である。

(2)労働契約の申込みみなし制度について

労働契約申込みみなし制度(一定の違法状態が発生した場合に、派遣先が派遣労働者に対して直接雇用の申込みをしたものとみなす制度。平成27年10月施行予定。)については、いわゆる請負と派遣の区分があまりに厳格なため、意図せずして違法に陥りやすいという問題がある中で施行された場合、過剰な「みなし」が行われるのではないかといった不安が指摘されている。また、他の制度、例えば、有期労働契約の無期契約への転換制度(労働契約法18条)との整合性、報告書に記載された雇用安定措置との関係、契約締結の自由との関係も考慮すべきであり、廃止を含めた見直しが必要である。

(3)グループ企業派遣の8割規制

グループ企業派遣は、派遣労働者、派遣先、派遣元間での情報の共有が容易であるため、就労マッチングを高め、グループ内で有機的に労働者のキャリアを積み重ねることができるというメリットがある。また、期間の定めがない労働者の雇用を行う特定労働者派遣事業の観点からは、安定した派遣先の確保が不可欠であることも考慮すべきである。派遣労働の濫用防止を図りつつ、8割という基準の妥当性を含め、規制の抜本的な見直しが必要である。

(4) マージン率等の情報提供

マージン率の明示義務については、マージン率の中に社会保険料や派遣労働者のキャリアアップのための派遣元負担費用なども含まれることから、比率の高さが必ずしも派遣労働者の低待遇を示すとは言えない。また、日本の他の産業で同様の公開を求めている事例もなく不公平であるという指摘がある。これらを踏まえ、マージン率の明示義務については、派遣先労働者と派遣労働者の均衡処遇を推進しつつ、廃止すべきである。

(5) 1年以内に離職した労働者への規制

直接雇用されていた労働者を派遣労働者で置き換えることで労働条件の切り下げが行われないように、離職後1年以内の者と労働契約を結び、元の勤務先に派遣することが禁止された。しかし、このことは就業機会の喪失につながるケースもあるため、適切な例外を認めるべきである。

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