こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

昨日のブログ「第3回同一労働同一賃金部会(派遣労働者関係)議論始まる」で、不謹慎かなと思いながらガダルカナルの戦いと派遣労働は似ているのではないかと書いたら、ある人から面白いと言ってもらいました。

この話は、合理性よりもそれまでに積み重ねてきた背景に執着し、方向性を変えないことが失敗につながるというものです。名著「失敗の本質」に学ぶもので、もちろんふざけた話ではありません。

これを我が国の雇用に当てはめると、少子高齢化、グローバル化、高度情報化に伴い世の中が変わっているにも関わらず、日本的雇用として積み上げられた終身雇用、年功序列、企業別組合に執着し、労働政策の方向性を変えられないということが、まさにこれに合致しているような印象です。

合理的に考えると雇用については多様性と流動性が求められているのだろうと思いますが、いつまでも精神論だけで突き進むことは国益として大きな失敗に通じることになってしまわないか心配です。

もう一つのガダルカナル

昨日は、同一労働同一賃金の議論がこのガダルカナルに通じないようにという話を書いたのですが、もう一つ、同じような状況にあるのが、「予見可能性の高い紛争解決システム」です。

一昨日5月15日に「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」から第18回にしてようやく報告書案が示されました。

同検討会は、「『日本再興戦略』改訂2015」(平成2015年6月30日閣議決定)に基づいて設置されたものです。

2015年10月29日に発足し、透明かつ公正・客観的でグローバルに も通用する紛争解決システム等の構築に向けた議論を行うことを目的として解雇無効時における金銭救済制度の在り方とその必要性を含め、予見可能性の高い紛争解決システム等の在り方の検討する会議とされています。

私も当初から関心をもって何度か傍聴に通ったのですが、常に一進一退にも及ばないほど労使対立が激しく、これまで傍聴した検討会、労政審の中でも群を抜いていました。

先が思いやられる議論

この検討会では何かを決めるつもりがあるのだろうかというほど、同じような議論を何度も繰り返してきたのですが、今年に入ってからの第12回(1月30日) 以降、前回の第17回(4月26日)までの6回は、金銭救済制度のあり方についての議論が続いていました。

これに一応の区切りをつけるものになるのが今回の検討会の報告書案です。

なお、いつまでも結論が出ないことについては拙ブログの「結論を出さないことが目的?…雇用改革が『牛歩』になるワケ」(2016年8月25日)で詳しく書いたのでご参照ください。

金銭解決、企業からの利用は不可

概要については、昨日5月16日の日本経済新聞朝刊に小さく採り上げられています。この内容についても大分前に聞いたような話ばかりですが、ここまで議論を重ねたという実績が重要ということでしょうか。焦点は解雇の金銭解決です。

解雇解決金、厚労省が原案提示 企業申し立て認めず

日本経済新聞 5月16日朝刊

裁判で不当とされた解雇の金銭解決制度の創設に向け、厚生労働省は15日、月内にもまとめる報告書原案を有識者検討会で示した。

解雇の助長を防ぐため、制度の利用を企業から申し立てることは認めないとした。

労働者が自分の意思で職場復帰しない場合、企業が支払う解決金に限度額を設けることも盛り込んだ。

裁判で不当な解雇と認められた場合、解雇された人が望めば職場復帰をあきらめる代わりに企業から解決金を受け取れるようにすることを「不当解雇の金銭解決」と呼ぶ。

15日の検討会では解決金に上下限を設けることに対し、委員から「検討会での同意は取れてない」「高額になりすぎないよう中小企業の負担に配慮してほしい」などの意見が出た。

いわゆる正規・非正規の問題は、非正規ばかりのことを採り上げていても解決はせず、正規の雇用のあり方も含めて考える必要があるという点で、この個別紛争の問題は避けては通れません。

また、この問題は有期雇用の雇い止めも含まれることになります。人材サービス事業者の皆さんにも直接的に影響する話です。

不当解雇は無効

もちろん、不当解雇がよいという話ではありません。流動化が求められるという話とは別問題です。

ヨーロッパでは、むしろ日本よりも解雇規制は厳しいとされているようです。ここでの議論は、解雇規制を緩めるというものではなく、不当解雇が無効となった時の話です。

あっせんや労働審判、民事訴訟上の和解において、個別労働関係紛争の多くが、金銭で解決されているという実態があるということから、金銭解決を図ることを意図したものです。

報告書に目を通すと、具体的な限度額について下限の水準で1~3か月、あるいは下限を6か月、上限を24か月とするような考え方があるといった意見が付されています。少し生々しくなったと言えるかもしれません。

今後、労働政策審議会に議論の舞台が移ることになりますが、今回の報告書を見る限り、話がまとまるまでには相当の時間がかかるように思います。また、労働政策審議会でまとまったとしてもその先の国会でも大荒れになることが予想されます。

いずれにしても実態にそった現実的な議論を望みたいものです。ガダルカナルにならないように…。

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