こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

本日6月5日に開催された「第5回労働政策審議会労働条件分科会・職業安定分科会・雇用均等分科会同一労働同一賃金部会」(以下、「同一労働同一賃金部会」)で、「同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)(案)」が提示されました。

働き方改革では、同じく本日6月5日に時間外労働の上限規制等についてすでに建議されており、同一労働同一賃金に関する法整備についても今日の報告案をもとに、次回第6回にも建議に至りそうです。少し慌ただしくなってきました。

論点はこれまでどおり

今日の報告案で示された内容は、以下の6点で構成されています。

  1. 基本的考え方
  2. 労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備
  3. 労働者に対する待遇に関する説明の義務化
  4. 行政による裁判外紛争解決手続の整備等
  5. その他
  6. 法施行に向けて(準備期間の確保)

論点としてこれまで議論された「労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備」「労働者に対する待遇に関する説明の義務化」「行政による裁判外紛争解決手続の整備等」「その他」はそのままで、それぞれについて「短時間労働者・有期契約労働者」と「派遣労働者」が分けて記載されています。

労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備

「労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備」の派遣労働者については、1)派遣先の労働者との均等・均衡による待遇改善か、2)労使協定による一定水準を満たす待遇決定による待遇改善かの選択制とすることが適当とされています。

5月17日のブログ「第3回同一労働同一賃金部会(派遣労働者関係)議論始まる」でも書きましたが、当初の事務局案どおり選択制と明記されています。

派遣労働がすでに企業横断的な働き方であるという観点から現実的で妥当な表現になっていると思います。

具体的には、以下の2方式が適当とされています。ここは重要です。

1) 派遣先の労働者との均等・均衡方式

ⅰ) 派遣労働者と派遣先労働者の待遇差について、短時間労働者・有期契約労働者と同様の均等待遇規定・均衡待遇規定を設けた上で、当該規定によることとすること

ⅱ) 派遣元事業主が「ⅰ」の規定に基づく義務を履行できるよう、派遣先に対し、派遣先の労働者の賃金等の待遇に関する情報提供義務を課す(提供した情報に変更があった場合も同様)とともに、派遣元事業主は、派遣先からの情報提供がない場合は、労働者派遣契約を締結してはならないこととすること(なお、派遣先からの情報は派遣元事業主等の秘密保持義務規定(労働者派遣法第24条の4)の対象となることを明確化すること)

ⅲ) その他派遣先の措置(教育訓練、福利厚生施設の利用、就業環境の整備等)の規定を強化

2) 労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式

派遣元事業主が、労働者の過半数で組織する労働組合又は労働者の過半数代表者と話し合い、十分に派遣労働者の保護が図られると判断できる以下の要件を満たす書面による労使協定を締結し、当該協定に基づいて待遇決定を行うこと

① 同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準と同等以上であること

② 段階的・体系的な教育訓練等による派遣労働者の職務の内容・職務の成果・能力・経験等の向上を公正に評価し、その結果を勘案した賃金決定を行うこと

③ 賃金以外の待遇についても、派遣元の正規雇用労働者の待遇と比較して不合理でないこと

ただし、「1)派遣先の労働者との均等・均衡方式」によらなければ、実質的な意義を果たせない待遇(例:給食施設・休憩室・更衣室の利用)については、省令で明記の上、「2) 労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式」の対象としないことが適当である。

また、派遣元において労使協定が周知されるよう必要な規定を設けるとともに、労使協定の有効期間を定めることや、労働基準法施行規則の規定を踏まえた過半数代表者の選出等に関するルール、労使協定の状況等を行政が把握できる仕組みを規定するなど、省令等において、労使協定の適正性を確保するための措置を講ずることが適当である。

さらに以下についても言及されています。

〇 これらの規定(上記「1)」及び「2)」)の履行に際しては、派遣元事業主に派遣労働者の待遇改善を行うための原資の確保が必要となることから、派遣先に対し、派遣料金の設定に際し、派遣元事業主が上記1)・2)の規定を遵守できるよう、必要な配慮義務を設けることが適当である。

派遣元のことを気遣うような記述は珍しいですね。実際問題、派遣先の理解が進まなければこの法律は絵に描いた餅になるのだから当然と言えば当然ですが、派遣元が履行するために原資が必要だから派遣先に協力するよう配慮することを義務付けるということです。

人材不足で採用難でもあるので、派遣先の負担は必須となりますが、一方では派遣料金が割高と映り、派遣サービスの利用を控えるということもありうるかもしれません。ここはきちんとした説明根拠が必要だと思います。

○ 1)・2)のどちらの方式によるかを派遣先が知りうるようにすることなどについても必要な規定を設けることが適当である。

これは恐らくインターネットなどで告知することが求められるのではないでしょうか。

労働者に対する待遇に関する説明の義務化

待遇に関する説明義務は「短時間労働者・有期契約労働者」と同様に「有期契約労働者」「派遣労働者」についても以下のように求められることになりそうです。パートタイム労働法と足並みが揃うということになります。

派遣労働者についても、派遣元事業主に対し、下記のⅰ)~ⅲ)及び派遣労働者が求めた場合には待遇差の内容やその理由等についての説明義務・不利益取扱禁止を課すことが適当である。

ⅰ) 特定事項(昇給・賞与・退職手当の有無)に関する文書交付等による明示義務、その他の 労働条件に関する文書交付等による明示の努力義務(雇入れ時)(パートタイム労働法第6条第1項・第2項)

ⅱ)待遇の内容等に関する説明義務(雇入れ時)(パートタイム労働法第14条第1項)

ⅲ)待遇決定等に際しての考慮事項に関する説明義務(求めに応じ)(パートタイム労働法第14条第2項)

なお、派遣労働者の場合、短時間労働者・有期契約労働者と異なり、雇入れ時でなくても、派遣先の変更により、待遇全体の変更があり得る。このため、上記(1)のⅰ)及びⅱ)の説明義務については、雇入れ時に加え、労働者派遣をしようとするときを加えることが適当である。

これらは、現行の労働者派遣法の以下に代わって設けられることになります。

① 待遇の内容等に関する説明義務(雇用しようとする時)(労働者派遣法第31条の2第1 項)

② 待遇決定に際しての考慮事項に関する説明義務(求めに応じ)(労働者派遣法第31条の 2第2項)が課せられている。

行政による裁判外紛争解決手続の整備等

現行の労働者派遣法にも、行政が派遣元事業主に報告徴収・指導、助言・改善命令・事業停止命令・許可取消し、派遣先に報告徴収・指導、助言・勧告・公表を行う規定があります。

これが前述の「労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備」「労働者に対する待遇に関する説明の義務化」についても、適用するとのことです。

また、派遣労働者についても、「労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備」「労働者に対する待遇に関する説明の義務化」について、労働局長による紛争解決援助や調停といった行政ADR(裁判外紛争解決手続)を利用できるようになります。

なお、均衡待遇規定について、解釈が明確でないグレーゾーンの場合は行政指導の対象としない一方、雇用形態が非正規であることを理由とする不支給など解釈が明確な場合は対象とするとのことです。

3法一括改正という観点からは、パートタイム労働者も有期雇用労働者も派遣労働者も対応が同じになっていくのはよいと思います。こうやって並べてみると、やはりこの3つの雇用形態が論理的に並んでいないのは気になりますが…。

その他

以下のような規定を設けることも書かれていますが、いま一つイメージが湧きませんね。

就業規則の内容はほとんど個別契約書の中に入っているように思うのですが…。

短時間労働者には、国による施策の基本方針の策定、就業規則の作成・変更時の意見聴取(努力義務)、通常の労働者への転換、労働者からの相談体制の整備、雇用管理者の選任等の規定が設けられている。

~ 略 ~

派遣労働者については、労働者派遣法における別途の法制により同趣旨が達成されているものも多いが、就業規則の作成・変更時の意見聴取(努力義務)については、派遣労働者についても同様に、新たに対象としていくことが適当である。

法施行に向けて(準備期間の確保)

施行については、事業主がいわゆる正規・非正規雇用者それぞれの待遇の内容、待遇差の理由の再検証等、必要な準備を行うために一定の時間を要するため、施行に当たっては、十分な施行準備期間を設けることが必要と記載されていますが、これについては既定路線どおり2019年4月1日を目途にということになりそうです。

「時間外労働の上限規制」と同じタイミングになることが予想されますが、それまでの間にきちんと準備をすることが必要ということですね。

なお、今後は国会での成立後、さらに施行前に以下のようなことが議論されることになりそうです。

  • 派遣先の労働者の賃金等の待遇に関する情報提供義務の具体的内容
  • 「一般の労働者の賃金水準」や労使協定の詳細
  • 待遇差に関する説明義務の具体的内容

何度も書いていますが、すでに「同一労働同一賃金ガイドライン(案)」「働き方改革実行計画」が前提としてあるので、大筋で変わることはありませんね。

実は、今日の同一労働同一賃金部会、出ようとしたらどうしてもPASMOが見当たらず探し回っているうちに30分ぐらいが経ってしまい、どう考えても間に合わない時間になってしまい痛恨のパスをしてしまいました。

その分、まじめに報告案に目を通し、そこから読み取れることをお伝えしましたが、今日の議論ではこれに何らかの意見があり、微調整されたものが次回示されることになるように思います。

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