こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

衆議院総選挙が終わり、若干、気が抜けた感もありますが、その後、無期転換の話やら人材採用の話やらで、西へ東へという状態が続き、少し間が開いてしまいました。

その間、総選挙の総括、トランプ大統領の来日といった時流のことや、採用に関すること無期転換ルールへの対応など、書きたいと思ったこともいろいろあるのですが…。

そこで、今日は一昨日の11月7日に加藤勝信厚生労働大臣が記者会見で、11月5日に報道された、自動車大手の無期転換に関する雇用ルールの変更についてコメントしたことを考えてみたいと思います。

■ 無期転換ルール、悪法も法

無期転換については、私も講演を依頼されたり、個別に対応策について相談を受けたりもしています。

まず一つは、2012年の民主党政権下の改正労働契約法の19条の5年の無期転換措置。もう一つは、2015年の改正労働者派遣法の3年の雇用安定措置。二つ併せて2018年問題とされ、ただでさえ不可解な法律をさらに複雑にしているという状況です。

しかし、我が国は法治国家です。よく言われるように「法の支配」を基本原理としている限り、法があれば法に従うのが大前提です。

従って、お話する内容も法の正しい理解に基づき、その法が成立した立法趣旨に則って運用することが大切というスタンスです。

■ 時代錯誤の無期転換ルール

そうは言っても、どう考えてもこれらの法律はスジが悪すぎます。

私は、労働契約法、労働者派遣法ともにその改正議論がされた労働政策審議会をほとんど傍聴していましたが、いずれの議論でも、唖然としながら見ていたことを鮮明に覚えています。

「5年の無期転換措置…??、企業は4年11か月で雇い止めをすることになるでしょ?」

「3年の雇用安定措置…??、派遣元事業者は2年11か月で派遣契約を終了させることになるでしょ?」

これが、第一印象です。

そして、「クーリング期間…??、企業はこの期間を挟んで雇用を続けるだけでしょ?」

これが、つぎの感想。

いずれも労働者にとって、よいことは何もないのです。不安定さが増すだけです。労働者は職を失う可能性が高くなるということです。

立法趣旨が、正社員こそが正しい、無期雇用の方が安定する、間接雇用はけしからん、というものなので、そもそもが時代に合っていないのです。

■ 法が悪ければ法を変えよ

法の支配…つまり、いまブーム?の立憲主義と似た考え方ですが、法律が現実に合っていないのであれば法律を変えるしかありません。

これらの法改正当時から、学識者の間でもこれらを疑問視する声は多く、いまだにその声はくすぶっています。

企業活動を知っている人間からすれば当たり前です。先が見えない時代に簡単に無期雇用を促進してしまってよいのかと考えるのは、企業経営として当たり前なのです。

たまたま、リーマンショック以降は、継続して景気が回復しています。目先の「いま」だけを考えればそれでもよいかもしれません。

しかし、景気には必ず上向き、下向きが伴うのです。そのようなことも考えずに企業に雇用の保障だけを求めることは無理なのです。

無理どころか、企業活動を停滞させ、景気の上昇を抑制し、結果として雇用を奪っていくという悪循環をつくってしまいます。

■ 司法に委ねられる無期転換ルール

結局、加藤大臣も「労働契約法そのものは行政の規範ではなくて、最終的には司法の中で決定される」と、ある意味、逃げています。

これは加藤大臣が悪いわけでも何でもなく、法が悪いのです。恐らく、このように応えざるを得ないということでしょう。

行政の長である大臣が「法律がおかしいから守らなくてもよい」とは言えないでしょうから代弁すると、民主党政権がおかしな法律をつくってしまって困る、ということだと思います。

私もコンサルタントとして「法律がおかしいから守らなくてもよい」とは言えません。

可能な限り立法趣旨を踏まえて対応するしかないということです。

■ 無期転換ルール、どう変える?

「対応するしかない」というのは、言い換えると「渋々」「嫌々」「仕方がないから」ということになります。

ハッキリ言えば、「5年の無期転換措置」にしても「3年の雇用安定措置」にしてもナンセンスなのです。

労働者の雇用を不安定にするだけです。従って、答えはシンプルに「やめる」です。

企業経営を知らない人間が机上の空論で考えただけの悪法です。

役に立たないモノは「やめる」。これほどわかりやすいことはないでしょう。

これらを捏ね繰りまわすとロクなことがありません。

■ 雇用の安定はどうする?

では、雇用の安定はどうするのかということになるのでしょう。

不確実な時代に雇用が不確実になるのは、自然の理です。企業活動も不確実なのです。

もちろん、恣意的で不合理な不当な解雇が許されるものではありませんが、一方では、企業活動を活性化し、景気を上昇させ、雇用を創りだす、好循環を生むことの方が、はるかに前向きではないでしょうか。

まず、雇用の多様化、流動化を前提として認識することが必要です。

そうであれば、その多様化、流動化を支えるための確固とした仕組みが必要です。

雇用の安定とは、「一つの会社に縛り付けること」ではなく、「雇用が途切れないようにすること」と定義することです。

■ 人材サービスの活性化

まず、雇用が途切れないようなしくみの充実を図ること、次に多様化、流動化に耐えられる人材育成をすること、さらに途切れた場合のセーフティネットを充実させること。

徹底的に政策をここに注ぐことが必要ではないでしょうか。

雇用が途切れないようなしくみ…一つはハローワークであり、もう一つは民間の人材サービスです。

ハローワークは一定の役割を果たしているのだろうと思いますが、残念ながら民間の人材サービスのようなマッチングの精度はありません。

これまで民間の人材サービスに関する法律は常に政争の具とされ、あるべき姿が語られてこなかった経緯があります。

本来は雇用が途切れないしくみとして非常に大きな役割を果たすべき事業のはずです。

それが、恣意的な政治の力によって大きく歪められたこと自体が労働者にとって悲劇です。

もう一度原点に立ち返って、政策を見直す方が急がば回れのように思います。

■ 雇用の安定を図る具体的な施策

人材サービス業は、サービス業です。

いかなるサービス業も規制を緩和すること、そして競争の原理を働かせることでサービスの質が向上するのです。国鉄もそうでした。郵便局も同様です。JRもJPも昔よりはるかにサービスがよくなっています。

そうであれば、事業規制は徹底的に「排除」することが必要です。最近、「排除」という言葉を使いにくくなりましたが、役に立たないモノはやはり「排除」するしかありません。

そのうえで、人材育成に積極的に取り組み、途切れることなく雇用を確保する事業者に対してインセンティブを与える。

一方では、悪徳事業者の「排除」。これも徹底的に行う。

■ 将来を見据えた「同一労働同一賃金」

そして同一労働同一賃金の推進。

これまでも言ってきたように、現在語られている同一労働同一賃金のガイドラインで示された内容はスジが悪く、同一企業内での均衡待遇がメインです。

一朝一夕には難しいことは重々承知していますが、少しずつでも職務で待遇が決まるという本来の同一労働同一賃金に近づけていく政策が必要です。

実際にはすでにこの「同一労働同一賃金」という表現は、「働き方改革関連法案要綱」から姿を消しており、「雇用形態にかかわらない公正な待遇の確保」という表現に置き換わっています。

さすがに「同一労働同一賃金」という表現は、はおこがましいということでしょうか。

■ 無期転換ルールの抜本的な見直しを

一般にイメージされる職務で待遇が決まる「同一労働同一賃金」を担保していかなければ、雇用が途切れないようにして不安定さは解消されたとしても、待遇がさがるというもう一つの課題は解決しません。

併せて、職務で待遇の均衡を図るスジのよい「同一労働同一賃金」の方向に舵を切ることが必要です。

ぜひ、加藤大臣には無期転換ルールについて、「抜本的に見直す」とコメントしてもらいたいものです。

加藤大臣会見概要

(H29.11.7.(火)10:29~10:42 省内会見室)

(記者)

労基法の無期転換ルールの件ですが、大手自動車メーカーで期間工従業員を無期雇用に出来ないような雇用ルールの変更があったという報道がありますが、現状について厚生労働省は認識されているのか、または、そのような企業についてどのように捉えられているのかお願いします。

(大臣)

報道の内容は承知しておりまして、都道府県労働局に実態把握をするのように既に指示をしているところであります。

従いまして、本件についてはそこに止まるところでありますけれども、私どもとしては労働者の保護をしっかり図っていくということや、そして今回の無期転換ルールの趣旨を踏まえて適切に対応していくということが必要であるということであります。

引き続き、必要な啓発、指導をやっていきたいと思います。

(記者)

実態把握された上で、何か必要な対策等を講じていくというお考えがありますでしょうか。

(大臣)

いずれにしても、まず実態把握をしてみなければ次のことを申し上げることは出来ないわけですから、無期転換ルールがこれから施行されていくわけでありますので、しっかりその趣旨を我々としても引き続き啓発していきたいと思っております。

(記者)

三点ほどお伺いいたします。一点目は、先般の大手自動車メーカーの件ですが、大手自動車メーカーは6ヶ月のクーリング期間を使った手法だと思います。

一般的に5年の直前に雇止めとするような事例が、自動車メーカー以外でもかなり多くの会社で行われているというような印象を受けております。

先ほど、実態調査というお話をされたと思いますが、そういった問題についても調査を進めていくのかということを確認させていただければと思います。

もう一つは、この法案自体は民主党政権時代にできたものだと思いますけれども、できたときから抜け道が多いのではないかというような指摘はされていた法律だと思います。

もともと、法律自体が施行後5年で見直すことを検討することが含まれている法律だと思いますが、今後、法改正の必要性について大臣はいかがお考えなのかお伺いいたします。

最後に、一般論としてお伺いいたしますが、雇止めの法理が新しく19条で入った関係もあると思いますが、そもそも客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、雇止めは無効であるということが盛り込まれていると思います。

今回、6ヶ月ルールをある面、抜け道として使うことについて、公序良俗に反するのではないかという指摘もあると思います。

一般論として、6ヶ月ルールを安易に使うということが違法行為に当たる可能性があるのかどうかその点についてお伺いいたします。

(大臣)

メーカーから具体的な話が出てくればその都度、実態把握をしていく必要があると思っておりますが、いずれにしても、来年の4月1日からの施行でありますから、それに向けてこれまでも無期転換ルールに対する啓発等図ってきたわけであります。

いよいよ残り半年ということでありますから、そうした指導や啓発を更に行っていきたいと思っております。

それから、見直しのお話について、これは施行してどのような状況かを見て通常は判断するということでありますから、施行された後の状況、もちろん施行されるまでの状況も含めてかもしれませんけれども、その状況を踏まえながらしっかり規定を踏まえて対応していく必要があると思っております。

それから、三点目の御質問については、あくまでも19条は19条として書いてあるわけでありますから、これを踏まえて進めていくということであります。

ただ、御承知のように労働契約法そのものは行政の規範ではなくて、最終的には司法の中で決定されるという観点になり、お話があった公序良俗という話も含めて最終的にはそれぞれ事案の中で、司法が判断するということに最終的になるのだろうと思いますけれども、ただ、私どもとしては先ほど申し上げた来年4月1日の施行に向けて、このルールというものがどのような趣旨であり、どのような形で導入されているものなのかなど、このようなことについてしっかり啓発、指導に引き続き努めていきたいと思っております。

車大手、期間従業員の無期雇用を回避 法改正、骨抜きに

朝日新聞デジタル 2017年11月4日05時03分

トヨタ自動車やホンダなど大手自動車メーカーが、期間従業員が期限を区切らない契約に切り替わるのを避けるよう、雇用ルールを変更したことが分かった。改正労働契約法で定められた無期への転換が本格化する来年4月を前に、すべての自動車大手が期間従業員の無期転換を免れることになる。雇用改善を促す法改正が「骨抜き」になりかねない状況だ。

2013年に施行された改正労働契約法で、期間従業員ら非正社員が同じ会社で通算5年を超えて働いた場合、本人が希望すれば無期に転換できる「5年ルール」が導入された。申し込みがあれば会社は拒めない。08年のリーマン・ショック後、大量の雇い止めが社会問題化したことから、長く働く労働者を無期雇用にするよう会社に促し、契約期間が終われば雇い止めされる可能性がある不安定な非正社員を減らす目的だった。施行から5年後の18年4月から無期に切り替わる非正社員が出てくる。

改正法には、企業側の要望を受け「抜け道」も用意された。契約終了後から再雇用までの「空白期間」が6カ月以上あると、それ以前の契約期間はリセットされ、通算されない。これを自動車各社が利用している。

ログイン前の続きトヨタは15年、期間従業員の空白期間を、それまでの1カ月から6カ月に変えた。ホンダ、日産自動車、ダイハツ工業も13年に空白期間を3カ月から6カ月に変更した。

自動車業界の期間従業員は、半年程度の契約を繰り返して働き続けることが多い。日産の期間従業員は連続で4年11カ月まで、トヨタ、ダイハツ、ホンダは連続2年11カ月か3年まで働ける。例えば、期間従業員が2年11カ月働いて、いったん退社、6カ月未満で再契約し、2年1カ月を超えて働けば、無期雇用に切り替わる権利を得られる。だが、空白期間を6カ月にすれば、どれだけ通算で長くなっても無期転換を求められない。

空白期間を6カ月に変更した理由について、日産、ダイハツ、ホンダの広報は、労働契約法の改正を挙げた。トヨタ広報も「法の順守はもちろん、時々の状況に応じた制度づくりを行っている」と答えた。

三菱自動車、マツダ、スバルの空白期間は以前から6カ月だった。スズキは再雇用をしていなかったが、13年に認める代わりに6カ月の空白期間を導入した。トヨタなど4社の空白期間変更により、自動車大手8社すべてで、期間従業員は無期転換の権利を得られないことになる。

法改正の議論では、経団連が「企業が再雇用をしなくなって労働者の雇用機会が失われる」などと主張、空白期間をとりいれることになった。労働組合は5年ルールの形骸化を防ぐため、空白期間を設けることに反対していた。労組関係者は「法案をまとめるために妥協の産物としてつくられた抜け道が、利用されてしまった」という。

無期雇用に転換したとしても、ボーナスや定期昇給がある通常の正社員になれるわけではない。ただ、無期雇用で職を失う心配がなくなれば、住宅ローンを借りやすくなったり、有給休暇を取りやすくなったりする。サービス残業などの違法行為にも、泣き寝入りしなくてすむ。

厚生労働省によると、期間を定めた契約で働く人は1,500万人にのぼり、うち3割が同じ企業で5年超続けて働く。400万人以上が無期雇用を申し込む権利を手にする計算だ。非製造業を中心に無期雇用の制度づくりを進める企業もある一方、無期雇用の権利が発生する前に雇い止めする企業も出ている。

自動車各社は無期転換とは別に、正社員登用を進めていることを強調する。ただ、登用者数が期間従業員全体に占める割合は、1割程度にとどまる社が多い。(大日向寛文)

労働問題に詳しい嶋崎量(ちから)弁護士の話 改正労働契約法の趣旨に反する雇用が、日本を代表する自動車産業で広く行われていることは驚きだ。他業界への波及が懸念される。不安定な雇用で働かせ続けたい経営側も問題だが、万一これを容認したのであれば、労働組合も社会的責任が問われかねない重大な問題だ。非正規社員の間には、「正社員の雇用安定しか考えていない」という労使双方への批判がもともと強い。労使で早急に議論をして改めてほしい。

■自動車大手8社が設けた空白期間

  • トヨタ自動車 1カ月→6カ月(2015年)
  • ホンダ    3カ月→6カ月(2013年)
  • 日産自動車  3カ月→6カ月(2013年)
  • ダイハツ工業 3カ月→6カ月(2013年)
  • スズキ        6カ月(2013年)
  • スバル    1日 →6カ月(2008年)
  • マツダ        6カ月
  • 三菱自動車      6カ月

※カッコ内は変更時期。スズキは13年の制度変更まで再雇用をしていなかった

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