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データから読む「人材派遣の営業戦略」

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データから読む「人材派遣の営業戦略」

企業が人材派遣サービスを利用する理由は、厚生労働省の「平成24年度派遣労働者実態調査」によれば以下とのことですが、人材派遣事業者の営業担当の皆さんはどのようにこのデータをご覧になるでしょうか。このデータから何を読み取るかによって皆さんの営業成績がアップするかも知れないのです。少し詳しく分析をしてみましょう。

企業が人材派遣サービスを利用する理由 %
欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため 64.6
一時的・季節的な業務量の変動に対処するため 36.7
専門性を活かした人材を活用するため 34.2
軽作業、補助的業務等を行うため 25.2
雇用管理の負担が軽減されるため 14.9
常用労働者数を抑制するため 14.6
自社で養成できない労働力を確保するため 10.2
勤務形態が常用労働者と異なる業務のため 4.7
社内を活性化するため 3.3
その他 5.7

(回答:3つまで選択可)

上位3つの回答、「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため(64.6%)」、「一時的・季節的な業務量の変動に対処するため(36.7%)」、「専門性を活かした人材を活用するため(34.2%)」は日頃の営業活動でよく遭遇しているニーズだと思います。

非効率な新規クライアントからの受注

「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」に対応するには、言うまでもなく常にコミュニケーションを絶やさないことが必要です。人材派遣サービスがタイミングビジネスとも言われるゆえんです。急な欠員に迅速に対処することがクライアント企業の目的ですから、人選の早さがモノを言います。ただし、いつ欠員が出るかわからない企業を探すことになるのですから、一般的に新規クライアントからの受注は非常に効率が悪いものになります。訪問頻度の割には受注につながる確率は低いということです。

つぎに「専門性を活かした人材を活用するため」に対応することも常にコミュニケーションを絶やさないことが求められますが、まず「専門性を活かした人材」とはどのような人材を指すのかの理解が必要です。業種やクライアント企業独自の状況や地域などによることになりますが、求められる専門性が何なのかは常に把握をしておかなければなりません。しかもそれが欠員で必要とされているのか、新規に必要なのかの把握も必要です。前者であれば「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」と同様に非常に効率が悪いことになり、後者であれば日頃のコミュニケーション、つまりクライアント企業との接触頻度に加えてコミュニケーションの深さが重要ということになります。

「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」にしても「専門性を活かした人材を活用するため」にしても、いずれも新規クライアント企業から受注をすることのハードルは変わりません。しかし、対象とするクライアント企業を取り巻く法律の改正や社会からの要請などと言った外部要因を掴みながらアプローチができるという点では、「専門性を活かした人材を活用するため」の人材ニーズに対応する方が多少は成果の出る可能性が高いと言えるかも知れません。その反面、「専門性を活かした人材」という条件がつく分だけ、人材のマッチング制限があることになり、成約に結び付く可能性は低くなるということも言えます。

1:5の法則(新規顧客に販売するコストは既存顧客に販売するコストの5倍かかるという法則)を考えるとまずは既存のクライアント企業のロイヤリティを向上させ、既存契約の継続と新たなニーズの発掘に力を入れる方が、優先順位が高いということは前提として理解しておく必要があります。

世の中の動きを読む先手必勝の営業

さて、それでも新規開拓をということであれば、「一時的・季節的な業務量の変動に対処するため」に人材を必要としている企業へのアプローチはどうでしょうか。どのような企業でも業種、職種を問わず多かれ少なかれ業務の繁閑があります。人材派遣事業者の皆さんにとって一番腕の奮いどころとなるのはその落差の激しい業務ということになります。

繁閑の落差がわかりやすい例で言えば、クリスマスやバレンタインデー、バーゲンセールやお中元、お歳暮シーズン。目に付くのは販売の現場かも知れませんが、その裏にあるビジネスプロセスを考えるといたるところに人材ニーズがあることがわかります。商品が動けば伝票の処理が生まれ(昨今はPOSがあるのでレジの入力業務でしょうか)、経理処理も必要になります。モノの移動には受発注業務や運送や倉庫での仕事にも影響が出ます。工場で一日中ケーキにイチゴを載せる仕事があると聞いて筆者もなるほどと思ったことがあります。重要なことは目に映る仕事の裏で何が動いているか想像を巡らせるということです。

定期的に繁閑がある業務もあります。人材派遣サービスに携わる皆さんにとっても思い当たることもあるはずです。派遣スタッフからのタイムシートの回収とその入力、クライアント企業への請求書発送と給与支払の業務。忙しければ忙しいほど売上が上がっていることになるので喜ばしいことではありますが、業務上はどう平準化するかも同時に考えなければなりません。せっかく売上が上がってもそれに関わるコストで利益を損っていたら元も子もないことになります。

よく言われる選挙や入学試験のようなイベントももちろんですが、前述のように対象となるクライアント企業を取り巻く法律の改正や社会からの要請などと言った外部要因には敏感に反応することが必要です。世の中の動きを読む営業は先手必勝となります。

営業を科学する効率のよいアプローチ

同じ新規開拓をするにしても、「一時的・季節的な業務量の変動に対処するため」に対応することは、目的が明確である分「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」「専門性を活かした人材を活用するため」の対象となるクライアント企業に「人材ニーズはありませんか?」とアプローチするよりも受注確率が高いということにならないでしょうか。

従って、まずは既存クライアント企業からの信頼獲得による継続と拡大、つぎに新規開拓をするのであれば、①「一時的・季節的な業務量の変動に対処するため」、②「専門性を活かした人材を活用するため」、③「欠員補充等必要な人員を迅速に確保できるため」へのアプローチが優先順位となり、その積み重ねで得た新規クライアントからの信頼を獲得しながら既存顧客として次の受注につなげる。地道な努力ですがこの繰り返しが結果として実を結ぶことになると言えます。

人材派遣サービスで営業を担当している多くの皆さんはこれらのことを身体ではわかっていることだと思います。営業担当者だからこその動物的勘も否定しません。しかし、企業が人材派遣サービスを利用する理由として上位3つの項目を考えるだけでもこれらのことが見えてくるのです。もう少し、掘り下げて見てみましょう。

自社サービスの優位性を磨く

まず、「軽作業、補助的業務等を行うため(25.2%)」です。明らかに労働集約型の業務で、比較的多くの派遣スタッフを採用している可能性が高いと言えます。軽作業と言えば一般的には仕分け、組み立て、加工、梱包、検品など製造系の業務を思い浮かべると思いますが、事務系でもあります。郵便物の仕分け、封入封緘、大量なコピー、チェック作業、単純な入力作業など多岐に渡ります。

「軽作業、補助的業務等を行うため」の人材ニーズを理由とする企業は、継続的に人材ニーズがある可能性が非常に高いということになるので、ある意味、営業のアプローチをする対象としては絞り込みがしやすい企業と言えるでしょう。また、労働集約的な業務であるがゆえに比較的、派遣するスタッフの人数の増加も見込める企業とも言えます。

その半面、「軽作業、補助的業務等を行うため」の人材ニーズを理由とする企業には参入しようとする人材派遣事業者も多く競争が激しいことは言うまでもありません。既存クライアント企業の場合は当然ながら守りが重要です。日ごろから派遣スタッフのフォローをしっかりと行い、問題がないかきちんと把握をしながら随時その解決を図るとともに、クライアント企業の動向についても常に掴んでおく必要があります。

また、新規にアプローチする場合は、すでに取引のある同業他社の中に分け入ることになるので、皆さまのサービスの優位性をしっかりとアピールする必要があります。皆さまのサービスを利用したときにどのような便益があるのか、特長があるのか、どのように課題を解決するかなど説得力のある説明が必要です。もちろん、それが事実に基づくものではなりません。実際にサービスの提供が開始されてから、クライアント企業から「こんなはずじゃなかった!」というのは最悪です。リピートオーダーは二度とないものになってしまいます。

専門性のある圧倒的な強み

「自社で養成できない労働力を確保するため(10.2%)」はどうでしょうか。自社で養成できない労働力、つまり一般的なスキルでは通用しない特殊な職種ということになります。

例えば、通訳・翻訳・速記、建築設備運転・点検・整備、広告デザイン、インテリアコーディネーター、アナウンサー、薬剤師など、特殊な経験、知識、技能、あるいは資格が必要となり文字通り自社で養成できないような業務について潤沢にサービス提供できるというのは大きな強みになるのではないでしょうか。

このような職種については、人材派遣事業者自身が必要とされる経験、知識、技能だけでなく、感性や世界観のような主観的なレベルまで見極めができないとマッチングさえできない領域です。クライアント企業が「自社で養成できない労働力」なのですから、ますます人材派遣事業者の人選の責任は重くなります。

「自社で養成できない労働力を確保するため」に人材派遣サービスを利用する企業にサービスを提供するためには人材派遣事業者の皆さんが専門性を極めなければなりません。逆にこの領域は募集、登録、営業、マッチングなどが分業化されている大手の人材派遣事業者は手を出しづらいという側面もあり、業界再編や淘汰が見込まれている今、中堅、中小の人材派遣事業者の皆さんはどこまでこのような専門性を身に着けることができるかが非常に重要な戦略の一つということが言えるでしょう。

アプローチをする相手の見極め

「雇用管理の負担が軽減されるため(14.9%)」、「常用労働者数を抑制するため(14.6%)」の人材ニーズは他の理由と比較すると少し角度が違います。「社内を活性化するため(3.3%)」に至っては、かなり視野が広くレベルの高い発注者であると捉えることができそうです。社内に外の空気を入れて新しい風を吹かせようという意思があるのですから、成長が見込める企業と言えるかも知れません。

いずれにしても、経営者もしくは経営に準ずる役職者の発想と言えますが、これらのことをいくら現場の担当者の方に訴えてもなかなか理解を得られないこともあるのではないでしょうか。

例えば雇用管理の業務に就いている人事担当者の方に「雇用管理の負担が軽減される」と言っても、その方が非常に忙しいなら兎も角、そうでなければその方の業務が奪われることになるのですから逆効果です。経営レベルで話ができる相手へのアプローチが必要ということになります。募集のコスト、採用の手間、勤務管理や給与計算、福利厚生など派遣料金と派遣スタッフへの給与の間にあるコストについてきちんと説明することが大切です。

「常用労働者数を抑制するため」の人材ニーズも経営的な視点が色濃く出ている理由だと思います。人材派遣事業者の皆さんにとっては最も腕の振るいどころのある理由ではないでしょうか。クライアント企業の人材ポートフォリオを描き、どの業務をどのように切り出し人材派遣サービスの利用につなげるかの提案力が求められます。人事コンサルタントの役割が期待されているのですから、クライアント企業の業界特性や業務内容を十分理解して提案をしなければなりません。また、人材派遣サービスを導入した結果、かえって人件費が増加してしまったということのないよう気をつける必要もあるでしょう。

多様な人材ニーズと多様な働き方

最後に「勤務形態が常用労働者と異なる業務のため(4.7%)」の人材ニーズですが、一般的には、日勤、夜勤、交代制、非常勤など、いわゆる通常の労働者(=社員)に適用される所定内労働時間とは異なる勤務形態に対応することが目的です。まずは、このような勤務形態を必要とするクライアント企業を探すことになりますが、当然ながら、このような勤務形態に対応できる人材がいなければサービスの提供がおぼつきません。人材派遣事業者の皆さんは求職者の募集、登録まで遡って戦略を考える必要があるでしょう。

従来の9時から17時まで、月曜日から金曜日までというフルタイムで働くことが当たり前とされてきた雇用慣行は大きく様変わりし、企業の人材ニーズも人びとの働き方も多様化しています。双方のニーズをどのようにマッチングするかということこそ、人材サービスの醍醐味と言えるのではないでしょうか。

要するに企業の人材ニーズの枠組みに人が従う時代は終わったということです。企業にも都合があるし、人にも都合がある。相互に尊重できる企業と人が生き抜くことができる時代に入っているのです。「勤務形態が常用労働者と異なる業務のため」の人材ニーズに限らず、政府の進める「多様な働き方の推進」の担い手は人材サービス産業であるという気概が必要と言えるでしょう。

これまで述べてきたことは十分ではないかも知れません。違った角度から見えることもあるかも知れません。また、皆さんの強み、弱みや置かれた環境に照らすと必ずしも当てはまらないこともあるかも知れません。しかし、「企業が人材派遣サービスを利用する理由」を示す一つのデータだけでもこれだけのことが見えてくるのです。多様な人材ニーズと多様な働き方のマッチングに考えをめぐらせ新たな雇用を創出しましょう。

2015年11月

人材サービス総合研究所

水川浩之

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