新年、明けましておめでとうございます。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

この年末年始、カレンダーの巡り合わせもよかったせいか、12連休という大型連休を過ごされた方もいらっしゃるのではないでしょうか。

もともと私は仕事を、やるときはやる、やらないときはやらない、とハッキリしているので、正月三が日に頭の片隅でダラダラと仕事のことを考えるようなことはしません。

もちろん、仕事の内容によって大晦日でも三が日でも仕事をしたこともありますが、基本的に休むときは休みます。メリハリが必要ですね。

そもそも仕事は自分でマネージするもので、突発的なことに振り回されるのはマネジメントができていない証左です。ましてや「付き合いで」とか「なんとなく」というようなことでは、働き方改革は乗り切れません。

さて、年頭にあたり、2018年の人材サービス業界の見通しについて採り上げてみたいと思います。

■ 働き方改革関連法案は可決?

まず、1月4日付の日本経済新聞朝刊、恒例の産業天気図ですが、「働き方改革が追い風」で人材派遣は「晴れ」とされています。「晴れ」の産業は全業種中7業種だけです。昨年に続いての「晴れ」は、業界の皆さんにとっては嬉しい年の始まりですね。

「働き方改革」では主に長時間労働の是正、同一労働同一賃金の推進がキーとなりますが、これらはどのように人材サービス業界に作用するのでしょう。

「働き方改革関連法案」は、昨年の衆議院解散総選挙の余波で国会審議に及ばず、今年の通常国会で予算の審議が終わる4月以降に採り上げられる可能性が高いと言われています。

内容的には「ホワイトカラー・エグゼンプション」(=「高度プロフェッショナル制度」=「残業代ゼロ法案」=「脱時間給制度」)を除けば、比較的スムーズに法案が可決する可能性が高いと思われます。

一括の法案なので、この「ホワイトカラー・エグゼンプション」でつまづくと、すべての法案が通らなくなることも有り得ますが、全体的に見ると何らかの落としどころを見つけて着地ということになるのではないでしょうか。

施行は当初の2019年4月から大きく遅れて2020年4月になり、時間的な余裕ができるとは思いますが、法案が可決すればその方向に向かって動きだすということになるでしょう。

■ 罰則付き時間外労働の上限規制

そのような中、まずは、長時間労働の是正から考えてみましょう。

ご存知のように働き方改革関連法案には「罰則付き時間外労働の上限規制の導入」が盛り込まれています。

原則月45時間、年360時間、特例で、① 年720時間、② 休日労働を含み、2か月ないし6か月平均で80時間以内、③ 休日労働を含み、単月で100時間未満、④ 原則である月45時間(1年単位の変形労働時間制の場合は42時間)の時間外労働を上回る回数は、年6回までと、やや複雑な規定がされることが見込まれています。

企業にとってみると、罰則を受けたくはない、あるいは人材不足が続く中で待遇改善をしなければ人材の確保が難しいという中で、この法案に向け社内の体制を見直すことが求められます。

「付き合いで」とか「なんとなく」で長時間会社にいるような場合は、その生産性を上げれば、長時間労働の是正につなげられるでしょう。

しかし、すでに仕事のやり方も考えられることはすべてやった、それでも長時間労働が発生してしまうという場合は、人員を増やすしか手立てがありません。

人材サービス事業者の皆さんにとってはここが狙い目です。営業政策上はこれに該当する企業からの受注が業績向上につながると言えるのではないでしょうか。

■ ほど遠い「同一労働同一賃金」

正月と言えばお餅ですが、「同一労働同一賃金」についてはやはり「絵に描いた餅」に近いものがあるように思います。

特に人材派遣については、派遣先均衡と派遣元均衡の二つの選択肢が用意はされていますが、派遣先均衡つまり「派遣先の労働者との均等・均衡方式」はどうしても現実的とは言い難い。

同様の業務内容であれば、派遣先の社員と同様の待遇を、と言っても派遣先がその内容を明かしてくれない限りは派遣元としては何もできません。もしも派遣先均衡を選択するという事業者があるとすれば、派遣先企業のことを知らないと言わざるを得ません。

義務がない中で、派遣先が待遇を明かすことはあり得ません。従って、結局は派遣元均衡、つまり「労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式」を採らざるを得ないのです。

もともと、人材派遣は職種によって賃金が決まる雇用形態です。

労働政策審議会では労使の合意が取れたうえで建議がされているので、大きく内容が変わることはないとは思いますが、根本的に中途半端な法案なので実効性も疑問というのが正直なところです。

同一労働同一賃金では、不合理な待遇格差の判断の考慮要素として、①職務内容(業務内容・責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲(いわゆる「人材活用のしくみ」)、③の他の事情(「職務の成果」「能力」「経験」)が示されています。

結局のところこれまでと大きく変わるものではないのですが、人材サービス事業者にとって重要になるのがその待遇差についての説明責任が生じるということです。

これについては、きちんと説明できるだけの根拠をもつことが必要となるでしょう。

■ 2018年問題、どうなる

気になるのが4月からの労働契約法の無期転換と10月からの労働者派遣法の雇用安定措置。いずれも人材派遣事業者の皆さんにとっては影響がある問題です。

恐らく、多くの事業者の皆さんが頭を抱えている問題だろうとは思いますが、昨年の後半になってもまだ何も対処をしていない事業者さんもかなり多かったような印象です。

昨年2017年7月20日の連合の有期契約労働者を対象としたアンケート結果によれば、有期契約労働者の84%が「無期労働契約への転換」の内容まで知らないと回答し、7割半が「正社員を希望」しているにも関わらず、実際の労働市場では関心が薄いということも透けて見えます。

恐らく「正社員を希望」をしているのであれば、職を探す段階でそう考えて行動をしているはずなので、半ば諦めている節もあるような気もします。そもそも無関心な人はいわゆる正社員になることに興味がないとも言えます。

無期転換を進めようとする人材サービス事業者さんからよく聞く話では、無期転換を促進しようとしても派遣社員がそれに応じないということも多いとのこと。

「正社員こそが正しい」という、いわゆる労働者側の思惑と、実態との乖離が大きいのではないでしょうか。

■ 影響の大きい厚生労働省の法解釈

2018年問題を取り巻くもう一つのトピックは、2017年末12月27日に厚生労働省から公表された大手自動車メーカー10社に対する聞き取り調査の結果です。

期間従業員の有期労働契約について「2年11ヶ月(又は3年)としている企業は7社」とされ、さらに期間従業員の再雇用については「再応募が契約終了から6ヶ月未満の場合には再雇用しない運用としている企業は7社」、つまりクーリング期間の6ヶ月を満たさなければ採用しないという運用であることが判明しています。

これらの調査結果について厚生労働省は「現時点で直ちに法に照らして問題であると判断できる事例は確認されない」との認識を示しています。

2017年11月9日付の私のブログ「無期転換ルール、「そもそも」を問え!」でも書いたとおり、5年も前に労働政策審議会での議論を傍聴した時点で思ったとおりのことがそのまま起こっているのです。

少なくとも錚々たる顔ぶれの労政審の先生方がこのようなことを予想できなかったとは思えず、やはり当時の民主党政権の悪政ぶりが際立っているとしか思えません。

このブログでは「法が悪ければ法を変えよ」と書きましたが、この厚生労働省の認識は「法が悪いから法の解釈を変えた」ということでしょうか。

加藤勝信厚生労働大臣は「労働契約法そのものは行政の規範ではなくて、最終的には司法の中で決定される」と言っていますが、この解釈によって半ば司法の判決に対するガイドラインを引いたようなものです。

労働者にとってよいことは何もない法制度なので本来であれば無くしてしまった方がよいぐらいですが、この解釈によって法的な面からも労働市場における影響度は軽減されたと言えるのではないでしょうか。

■ 労働者派遣法の改正

今年は平成30年です。労働者派遣法は、大きく改悪された平成24年改正、平成27年改正を経て3年目になります。つまり、見直しのタイミングに当たるということです。

実際に昨年9月15日に開催された第40回労働政策審議会では、平成30年度労働政策の重点事項(案)について採り上げられ、「労働者派遣制度の見直しに向けた検討」も重点項目として掲げられています。

ただし、ここでは「検討」となっているだけで「改正」とはなっていません。恐らくこれから検討が始まるということでしょう。

平成24年法の①日雇派遣の原則禁止、②労働契約の申込みみなし制度、③グループ企業派遣の8割規制、④マージン率等の情報提供、⑤1年以内に離職した労働者への規制は、今でも大きな弊害が続いています。

さらに労政審でほとんど議論のなかったことが国会の場のドサクサ紛れに妙な附帯決議がついた平成27年改正法も見直さなければなりません。

法改正については個社で何かができるというものではありません。現実の労働市場を一番よく知っている業界として、きちんと声を挙げ、本当の意味で労働者のためになる法律に是正することが必要だと思います。

また、これが本当に労働者のためであれば、結果として人材サービス業界にもメリットが出てくるはずです。

目先にばかり捉われるのではなく、労働者の視点、長期的な視点で労働市場を活性化させるのも人材サービス業界の役割ではないでしょうか。

■ 今後も続く人材不足への対応

最後に少子高齢化による人材不足です。2017年の出生数は史上最少の94万人。つまり彼らが成人する20年後の少子化もすでに確定しているということです。

景気の後退やAIやロボティクスによって一時的に人材不足が解消されることはあるかもしれませんが、大枠では少なくとも20年後まで人材不足への対応を経営戦略の核に据える必要があります。さもなければ企業の存続すら危ぶまれる事態になっているのです。

これについては、人材サービス企業も一般企業も同様ですが、採用時点の求人広告をどうにかすればなんとかなるという次元はとっくに過ぎているという認識が必要です。

広告やホームページの表面的な言葉で飾り立てることには限界があります。重要なことはそこに書けるファクトとなる中身です。

どんなに経営理念で上辺の理想を訴えても、きれいごとを並べ立てても、実態として働き手からみて魅力のある企業でなければ、本来求められる人材採用には至りません。

さらに言えば、言葉にならない、目には見えないソフトウェアが求められる時代になっているということです。

■ 形式知から暗黙知、そして実践知へ

一般的に仕事に求められるのは暗黙知をいかに形式知にするかということです。私自身もこのことは言ってきましたし、実際にそのようなしくみ創りをしてきました。

優良派遣事業者認定で問われることは、ほとんどが形式知です。

もちろん、形式をしくみとして整えるからこそ結果としてサービスレベルが向上するということは確かでしょう。否定する余地はありません。

しかし、残念ながらその質については問われません。主観的な「質」について計りようがないので致し方ありません。

一方では形式知になる前の暗黙知がそもそも正しいのかという議論も必要なのではないでしょうか。

ここでは敢えて形式知だけでなく暗黙知をもう一度見直すことを提案したいと思います。

いつも言う「真の経営力」は、この見えない部分にあります。ある日蓋を開けてみたら競合他社と埋めようのない差ができていたとしたら取り返しがつきません。

形式知のもととなる暗黙知を見直し、さらにそこから実践知へつなげることで、「真の経営力」を身につけることが必要ではないでしょうか。

産業天気図の「晴れ」に浮かれて売上しか見ていない事業者は淘汰されるでしょう。今年はその試金石になる年になるような気がします。

年頭にあたり、人材サービス業界にとって重要になる働き方改革、2018年問題、労働者派遣法改正、そして人材不足について採り上げてみました。

本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。

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