人材サービス総合研究所℠ | 人材サービス企業の "しくみ創り" の経営パートナー

所長の「真顔」インタビュー

「人材サービス総合研究所」所長の水川さんのコンピテンシーや哲学について「真顔」をご紹介します。

「実践する学問」としての哲学

 

— 今回は水川さんの哲学、というか考え方についてお訊かせください。

Socrates-Plato-Aristotle哲学ですか?それは難しいテーマですね。ソクラテスやプラトン、アリストテレスがどんなことを唱えたとか、いろいろな学派があってといったことを学ぶ、学問としての哲学という捉え方もありますが、私自身はそのような哲学についてはまったく知らないですよ。

考える人ただ、「哲学する」という動詞としての表現があるじゃないですか。その意味で哲学とは、まずは思考するということかなと思っています。ロダンの「考える人」ですね。そして考えたことを実行する。「実践する学問」という言われ方もしていますが、人生観とか労働観、仕事観、倫理観のようなモノの見方、考え方、価値観について考えること、それを整理して体系化すること、そして実践することという一連の動き、生きている中で積み重ねた知識や経験、思想という意味で哲学することは重要なのかなと思っています。漠然としていてすみません。

— フィロソフィですね。水川さんの経営哲学は「人材サービス総合研究所・フィロソフィ」にあるということでしょうか。

そういうことになりますね。「フィロソフィ=哲学」…辞書のとおりですね(笑)。企業経営という観点で言うと人材サービス総合研究所の「フィロソフィ」が私の経営哲学ということになります。これまで生きてきた中で得た知恵とか経験を前回お話した点と点、線と線、面と面のように組み立てていったら「フィロソフィ」というカタチになったということです。

「紡ぐ・組む・編む」=「しくみ創り」

— このようなものを組み立てるのは難しいですよね。言葉の選択も含めて、なかなか出来る人はいないように思いますが。

そうなんですか? 要するに目的を明確にする、目標を立てる、価値観を定めるというだけのことだと思うのですが。

— 「フィロソフィ」を創る、というか、そのような境地に至るには知識や経験だけでなく、ご自身のコンピテンシーやどのような人から影響を受けたかということも大きいと思うのですがいかがでしょう。

それは大きいですね。自分のコンピテンシーは何なのかということを改めて考えてみたことがあるのですが、子どものころに好きだったこと、得意だったことが、結局自分のコンピテンシーなのかなと思っています。前回、私は「しくみ創り」屋だとお話ししましましたが、ものごとを繋ぐ力、結びつける力みたいなことにつながったのかも知れません。

紡ぐ組む編む「紡ぐ・組む・編む」=「しくみ創り」ということが自分にとってのコンピテンシーというところに行きつきました。そもそも「しくみ」は「仕組み」と書きますからね。人材サービスは目に見えないサービス、つまりソフトウエアを売っているので、私は「しくみ」を「創る」と表現するようにしています。

「三つ子の魂百まで」恐るべし

— どのようなことがお好きだったのですか?

砂遊び、積み木、レゴです。幼稚園にはぶらんこや滑り台やジャングルジムとかあるじゃなですか。でも私は砂場にいる時間が一番長かったことをおぼろげながらに覚えているんです。

砂場砂は、集めても集めても崩れるでしょ。それでも飽きもせず山を作ったりするんです。そのうち、底辺をしっかり作らないと大きな山にならないことに気づいて底辺になる部分をしっかり作ることを覚える。この段階で、ものごとの基盤が大切だということを理解するわけです。もう少し知恵がついてくると水を含ませると崩れなくなることを知る。どろんこ遊びですね(笑)。

砂ってすごく曖昧で漠然としたモノですよね。それをカタチのあるものにすると意味のあるモノになるのです。「紡ぐ」っていうのはもともと繭から糸を紡ぐというのが語源らしいですが、繭玉の漠然とした集合体から糸という意味のあるものに縒り合せる。糸を紡ぐことと砂で山をつくるのと同じではないでしょうか。漠然とした曖昧な素材に意味を与える。これがまず一つです。

— なるほど。積み木は「組む」ですか?

はい。積み木も手垢でドロドロになるまで遊びました。積み木自体には三角、四角、丸というカタチがすでにあります。それらを組み合わせることで自分が創ろうと思うものになっていくわけですが、そもそも何を作ろうかというところから始まります。目標が明確なわけです。

つみきそれぞれのカタチ、大きさ、数が決まっている積み木は、砂と違って、ある意味、制約があるわけです。その制約の中で目標を達成しなければなりません。工夫が必要になりますよね。

「組む」を英語で言うと「Assemble」という言葉になると思いますが、制約のある中で目標に向かって工夫をすること…製造業には素材を造る企業と素材を組み立てる企業がありますが、積み木の場合は後者ですね。

何らかの目標に向かって企業活動を行うときに、人、モノ、金、情報という制約のあるリソースをどう適正配分して組み立てるのかということと同じです。リソースの全体像を把握していなければ途中で足りなくなったり、カタチが崩れてしまいます。全体最適を見いだす全体思考が必要ということです。

— 積木ってそんなに奥が深いものだったのですね(笑)。レゴではなにを?

もちろん、子どものころにそんなことを考えていたわけではありませんよ。ただ、リソースを把握した上で作るということは無意識にしていたと思います。レゴになるとその制約が少し緩やかになります。その代り、複雑になったり難しくなったりしますね。

レゴレゴの場合は色も含めてリソースの選択肢が飛躍的に多くなるわけです。カタチや大きさも自分の工夫次第で自由度が高くなります。その工夫のためには集める、整理する、並べる、組み立てるということもしなければなりません。優先順位や時間的なことも考える必要があります。

例えば、散らかった情報を集める、整理する、並べる、組み立てるって「編む」ことなんだと思います。「編集」の「編」ですね。つまりレゴで自分が意図したものを創ろうとしたときにはそのような編集能力も必要になるのだと思います。

企業は成長にともなってリソースの選択肢は多くなります。目的のために目標を設定し、価値観を明らかにして、人の意識のベクトルを合わせる、戦略に基づいて組織、制度を整え、適切な戦術で顧客の価値を創造する。これは編集と変りません。

英語としては、「Architect」とか「Design」という言葉が適切だと思います。企業経営には設計思考とかデザイン思考が必要なのではないでしょうか。ハードウェアもソフトウェアもですね。私は「カタチ」と「キモチ」と言っていますが。どのようなリソースをどのように配分してどのようにお客さまの期待を超える価値を提供するか、これが企業経営の機能だと思います。

しかけ Mechanism— 「紡ぐ・組む・編む」というコンピテンシーが、砂場、積み木、レゴで培われたたっていうのはおもしろいですね。それが、「フィロソフィ」につながっているということになるのですね

そうだと思います。もちろん、それ以降の経験の積み重ねがあるので、砂場、積み木、レゴだけではないでしょうけど、「三つ子の魂百まで」と言いますからね。子どものころに身に付けたコンピテンシーは後々までかなり影響があるそうですよ。

よくよく考えると音楽や文章も「紡ぐ・組む・編む」だと思うのです。音を「紡ぐ」とか、言葉を「紡ぐ」と言いますよね。曲を作るのは音を「組む」ことでしょうし、それにアレンジを加えるのは「編曲」だから「編む」ですね。文章の段落を「組む」とか雑誌を「編集」するとか。こういうことが比較的得意だということも、砂場、積み木、レゴのお陰かも知れませんね。

論理的思考がブレないもと

— 他にもコンピテンシーに大きな影響を与えたものはありますか? 例えば、「水川さんはブレない人だ」と言う人は多いですが。

頑固とか言いたいんでしょう?(笑)。

でも、頑固とブレないは本質的に違いますよね。例えば、自分の主義主張が間違っていたとしてもそれを曲げないのは頑固だと思いますが、目的や価値観に対して揺らぐことなく筋を通すことは頑固とは言わないでしょう。それがブレないということなら、確かにブレないですね。やり方について柔軟に適応することは必要だと思いますが、ブレること自体が気持ち悪い。特に論理的な矛盾をそのまま放置するのは気持ちが悪いですね。

logictreeただ、論理というのは何を頂点として捉えるかによってまったく違う構造を形成してしまいます。だから、何を頂点とするかが非常に重要なのです。利己的なことを論理の頂点とすると、どこかで屁理屈になったりするのはこのためですね。このことは、以前、立命館アジア太平洋大学で「ロジカル・コミュニケーション」の講義をさせてもらっていた時にも学生の皆さんにお話しました。

論理の頂点、つまり、考え方の頂点は真摯で誰が見ても正しいと思えること、人として正しいことが頂点にないとどこかで論理破綻を起こすと思うのです。考え方が大切だというのは、まさにこのことなのではないでしょうか。

稲盛和夫さんからの教えを繰り返し考えるうちに、考え方が大切だということはこういうことなのだろうと思うようになりました。社会に出てから稲盛さんほど影響を受けた人は他にいません。直接、薫陶を受けられるような機会を頂けたのは本当に有り難いことです。感謝の言葉しかないですね。

二人の偉大な経営者との出会い

— 稲盛さんとの出会いが水川さん自身の哲学に大きな影響を与えたということですね。

はい。尊敬しているからと言って、単純に真似をしたわけではありませんが、「人材サービス総合研究所」の社是は「敬天愛人」としました。人材サービス企業へのサポートを通して「人」に敬天愛人貢献しようという志に相応しいと思うのです。子どもの頃に西郷隆盛の伝記を読んでからずっと「敬天愛人」の言葉は好きでしたし、私が人材サービス業界に入った動機はここにあるのですからこの社是はピッタリです。人を大切にしない事業者へのサポートはお断りします。

KDDIの社是は「心を高める」ですが、これも「フィロソフィ」の基本的価値観にしっかり埋めみました。社是を「敬天愛人」としたいきさつは、ホームページの「社是『敬天愛人』について」にも詳しく書きました。

— やっぱり「編む」力ですね。

編むということで言うと、アデコに勤務していた時に経営理念の翻訳をした経験も貴重だったと思います。社長室長をやっていた頃だと思います。本国の役員に翻訳したあとのチェックは誰がするのかと尋ねたら、「あなたに任せる、本国ではチェックはしない」というから責任重大です。翻訳というのは英語力よりも日本語力の方が重要ですね。辞書にある言葉や直訳だけでは魂が入りません。四苦八苦して翻訳をしました。この時、欧米の経営理念の構成がよくできていることを知りました。非常に論理的で漏れダブリがない。どう訳すかの言葉の選択は私でしたが、とてもいい勉強になったと思います。

— その経営理念はどなたが考えられたのですか?

klaus.J.Jcobsアデコの創始者、故クラウス・J・ヤコブス会長です。世界一の人材サービス企業を創った人ですね。その経営理念を各国のアデコに展開することになり、日本では私が翻訳を担当することになりました。

その後、ご本人の希望で日本の精神文化を学びたいというリクエストがあり、なぜか私が接待役を仰せつかりました。京都、奈良を二泊三日で案内したのですが、この時、ご本人が経営理念どおりの立ち居振舞いをすることに感銘を受けました。まず最初に「和をもって尊しとなす」が日本の精神文化の源であると法隆寺を案内したのですが、ちょうど瓦の寄進の事業をしていてご自身も寄進したいと。会議などではなかなか生身の人柄ってわからないことも多いですが、三日間も同行しているとやっぱり人柄が出ますよね。

実は、稲盛さんとブラジルへの出張に同行させて頂いたこともあるのですが、ヤコブスさんと一緒に歩いていると稲盛さんとまったく同じオーラを感じたことを覚えています。当時、グローバルではKDDIとアデコは「Fortune Global 500」で同じぐらいの企業規模でしたが、世界でも指折りの企業の創設者のお二人と接することができたことは幸運だったと思います。

経営の要諦は従業員満足から

— 経営理念の内容はどのようなものだったのですか?

“better work, better life” 「よりよい仕事をとおして、よりよい人生を」ですね。当初、「life」を「生活」と訳す社員もいて困りました(笑)。従業員も含め、すべてのステークホルダーがよりよい仕事に就くことで、よりよい人生をという意味なのですが、今でもこのフレーズは好きです。

adecco exectives京都、奈良のツアコンから戻った後、東京で管理職を交えた懇親会があったのですが、「ところで君の本来の仕事は何?」とヤコブス元会長から尋ねられ、「ビジネスプロセスオーナーとしてBPRをやっている」と答えたら、「一番大切なことは何だと思う?」と。「すべてのステークホルダーにより高い価値を提供すること」と答えると、さらに「一番大切なステークホルダーは誰だと思う?」と鋭い突っ込み(笑)。目の前の最大の株主に少し躊躇したのですが、思いきって「従業員」と答えると即座に「その通り!君は正しい」と言って貰えたことはとても印象的でした。

このことは、京セラ、KDDIはもちろん、JALの再生でも「全従業員の物心両面の幸福を追求する」を理念の第一義に据えた稲盛さんと同じ考え方なのだと思います。お客さまへサービスを提供するのは従業員ですから、従業員がその気にならなければよいサービスは生まれません。従業員の幸福を求めることは必然ですね。

プライベートジェットでスイスに帰国するヤコブスさんを成田まで見送りに行ったのですが、別れ際に「君のツアーのプロセスはパーフェクトだった」と褒めてもらい、とても嬉しかったです。考えてみるとヤコブス元会長と会話をした最後の日本人は私ということになります。

— ドイツで生活された経験も役にたったのではないですか?

そうですね。ドイツのブレーメン出身のヤコブス元会長から、私の片言のドイツ語に「君のドイツ語はデュッセルドルフ訛りがあるね」とからかわれました(笑)。多少なりともヨーロッパの文化を理解したうえで、日本の文化を伝えるという役割を果たせたことは大きかったと思います。ここでも「編む」ことをしたのかも知れませんね。ヨーロッパの人がどういうことに価値を感じるかを理解していたことはまさにそうだと思います。

ドイツでの暮らしは、かなり私の考え方に与える影響が大きかったと思います。コミュニケーション力や論理的思考についてはすでにお話ししましたが、他にも自分の考え方に根ざすような経験…体験と言った方がいいかも知れませんが、やはり異文化の体験というのは大きかったです。

多様性への理解を培った海外駐在

— ドイツにはどのぐらいいらっしゃったのですか?

3年半です。仕事はドイツ以外の西ヨーロッパ諸国の代理店のコントロールだったので、とりあえず公用語は英語でした。結局、ドイツ語はレストランで使う程度の言葉しか覚えられませんでした。もっとも英語もいつまでたっても苦手ですけどね(笑)。

— どんな体験が役に立ったと思いますか?

体験ですから、感覚的に感じ取ったもの、空気感のような曖昧なものですが、確かに自分の中に入り込んでいることは間違いありません。かっこよく言えば国際感覚ということになるのだと思いますが、言葉にできなくてすみません。

germany文化や歴史、習慣という点でいくつか挙げると、まずは多様性を認めるということでしょうか。車は左ハンドルで右側通行、もちろんウィンカーとワイパーも左右が逆です。電車の乗り方も違う、改札というものがない。タクシーのドアは自分で開ける、一人の時は助手席に乗る。レストランではビールより高い水を頼んだり、お勘定はテーブルでするとか。知識として知っていてもそれが日常のこととして現実になると違和感がありますよね。でも認めざるを得ない。認めなければ暮らしていけませんから。

初めのうちは「ヨーロッパってすべてにおいて素晴らしい!」と思っていたのですが、しばらくすると「何をやらせてもダメ!」に思えてくるんです。最後は、いいところもあるしダメなところもあると悟りました。その価値基準は自分の尺度であって誰にとっても同じではないんですよね。当たり前と言えば当たり前の話なのですが、そう思えるようになるまで少し時間がかかりました。多様性を認めるというのはそういうことかなと思います。異文化に浸かることは多様性を認めることを知るためには非常によいのではないでしょうか。

逆に日本の素晴らしさも実感できました。妙になんでも欧米を賛辞するのではなく、日本の方が良いところもたくさんあるということをきちんと認識することが必要ですね。日本人はもっと日本を誇りに思うべきだと思います。

— それは、海外旅行だけでは実感できなさそうですね。

ケルン大聖堂はい。旅行と住むのではだいぶ違うように思います。それから、長期展望に対する考え方でしょうか。木造造りの日本と石造りのヨーロッパの違いは大きいと思います。ドイツに行って初めて観光したのはケルンの大聖堂でした。ご存知の方も多いと思いますが、荘厳な教会を建てるのに600年もかけたと言うのです。当時の寿命を考えると十世代以上かかって建てるのですから気が遠くなります。最後の世代より前に携わった人は完成を見ることもなく亡くなったということになります。将来の立派な姿を夢見てそれぞれの人がそれぞれの役割を担ったのです。

このことは、ビジョナリー・カンパニーという本にある「時を告げるのではなく、時計をつくる」に当たるのではないでしょうか。自分が、自分が、と自らの存在をアピールし、自らの利益を優先することよりも、長い計画の中の一部となって貢献することを尊しとする。これはまさに「一隅を照らす」の精神と同じではないでしょうか。

— スペインのサグラダファミリアはまだ建設中ですもんね。

SagradaFamiliaバルセロナにも何回か行きましたよ。サグラダファミリアは、300年の予定ですよね。もしかすると、何世代にも渡って多くの人が建設にあたること自体に宗教的にも意味があって、敢えてゆっくり建てているのかも知れませんね。もしそうだとすると、持続可能性という観点でかなり奥の深い考え方ですね。

ヨーロッパで学んだことをもう一つ挙げるなら、良いものを大切に長くという考え方でしょうか。たぶんこれもヨーロッパ、特にドイツの歴史観からきたものだと思いますが、耐久消費財についてはお金をかける習慣があると思います。家とか家具などは非常によく吟味し、本当に気に入ったものを手に入れようとします。次に比較的長く使う食器とか調理器具。身につけるものとしては皮革製品とか時計や宝飾品。これらは自分のantique watch代だけでなく子や孫の代まで使えるものを選ぶことも多く見受けられました。それを引き継ぐ子や孫も「これは親から引き継いだものだ」と嬉々として話をしてくれます。古いものに価値があると言います。

購入する時には多少高価なものであっても、それを大切に長く使うというのは単なる高級志向とは違います。日本では次から次へと新しいものを購入し、古くなったものはどんどん廃棄するということも多く見受けますが、中には手入れをして長く使えるものもたくさんあるはずです。手入れをして長く使えば愛着も湧き、結果として不要なものは買わないということにもつながります。これは、極めて合理的です。もともとそのような考え方を持っていたのですが、ドイツで暮らすようになってから、ますますその傾向が強くなったと思います。

リーダーシップとマネジメント力

— ドイツでの体験以外でも何か水川さんの哲学やコンピテンシーに影響したことはありますか?

中学から高校にかけてのブラスバンドでの経験も大きかったと思います。すでにお話したように中学一年で母を亡くし、途方もない絶望感に苛まれていたこともあり、勉強そっちのけでグラブ活動に熱中しました。それこそ朝、昼、夕方遅くまで音楽室に入り浸るような状況でした。そして中学三年になった時に部長に選ばれました。取り立てて音楽的な才能があったわけではなかったし、それまでは人の先頭に立つようなタイプではなく、どちらかと言うと友達の中では目立ちもせず、霞むこともないような中途半端な子どもだったのですけどね(笑)。

吹奏楽部ブラスバンドというのは、音楽的なこともさることながら、人数も多いので練習の日程調整や楽器の保管、楽譜の管理、イベントに伴う移動や運搬などマネジメントの要素も非常に大切になります。それを私が仕切ることになったのは自分でも驚いたぐらいです。70人以上の全校で最大の組織をまとめる役回りです。当然ながら、リーダーシップが求められますよね。卒業式の日に空虚感に襲われながら一人で音楽室にいると、たまたま亡き恩師が入ってきて「一所懸命に部長をやった経験は将来必ず役に立つ」と励ましてくれたことは今でも鮮明に覚えています。入学した時の音楽の成績は、なんと「1」だったのですが、卒業の時は「5+」と学年で二人しかいない成績。「1」から「5+」まですべて取るのも難易度が高いですよね。

— リーダーシップとマネジメント力はその頃からということですね。ピーター・ドラッカーが「わがままなくせに、多くの人を育てるボス」のことを言っていますが、水川さんはそういうタイプですよね。

ドラッカーの「マネジメント」ですね。それだけだと、人聞きが悪いですよね。誤解があると困るので、あとで原文を挿入しておいてくださいね。

 「うまくいっている組織は、必ず一人は、手を取って助けもせず、人づきあいも良くないボスがいる。この種のボスは、とっつきにくく気難しく、わがままなくせに、しばしば多くの人を育てる。好かれている者よりも 尊敬を集める。一流の仕事を要求し、自らにも要求する。基準を高く定め、それを守ることを期待する。何が正しいかだけを考え、誰が正しいかを考えない。真摯さよりも、知的な能力だけを評価したりしない」(ピーター・F・ドラッカー)

…今はネットがあるから、すぐに調べられていいですね。なんだか褒められているんだか、けなされているんだか。

— 実際には人づきあいが悪いわけでも、気難しいわけではないですよね。リーダーシップとマネジメント力は何かで学ばれたのですか?

わがままでもないですよ(笑)。中学のブラスバンド以来、比較的、リーダー的な立場に立つことが多くなったので、自然に身についたような気がします。もちろん会社でそういう研修を受けたことも何度もありますが、こういうものは座学ではなかなか身につかないですね。その時はわかったような気になるのですけどね。

IMDその意味では、アデコで働いていた時に受けたリーダーシップ研修はとても印象に残っています。3年間に渡って3回、本国のスイスで行われる各国の幹部クラスを対象とした研修です。

ローザンヌ…オリンピックのIOCとかバレエのコンクールで有名なところですが…その街にあるIMDというフィナンシャルタイムスでヨーロッパのランキング第一位のビジネススクールでの研修、これが結構ハードなんです。ケーススタディやワークショップ、フィールドワークや映画を観てのディスカッションが中心なのですが、ただでさえ英語が苦手なのに朝から晩までまるまる一週間、英語漬けで朝、昼、晩の食事の時間すら気が抜けない。世界中から社員が集まるので、それこそ多様性そのものです。

IMD friendsそもそもリーダーシップとは、上に立つ人にだけ求められるものではありませんよね。方向性を示し、周囲を巻き込み、自ら率先垂範して目的を達成することは誰にでもできることです。誰もがリーダーシップを発揮できる風通しのよい組織を創ることは企業にとって非常に大切なことではないでしょうか。

— 最後にお嬢さんのことを伺っていいですか?お嬢さんへの愛情強いですよね?

娘には弱い(笑)。子どもに愛情があるのは皆さん同じではないですか。私にとっても娘は掛がいのない存在ですね。とにかく可愛い。ただ二十歳を過ぎてから余計なことはできるだけ言わないようにしています。子どもの頃から自分で考えることを良いこととして教育してきたのですが、その力は身につけてくれたかなと思います。私が起業したいと打ち明けた日の翌日、「You can make it, Go for it!」というメッセージがテーブルの上に置いてありました。涙がでるほど嬉しかったですね。

— どうもありがとうございました。

ありがとうございました。

<「真顔」では、水川さんのコンピテンシーについて伺いました。(Y) 2016.03.06.>

≫ 所長の「横顔・素顔・真顔」に戻る ≫ ホームに戻る

 

  • Facebook
  • Hatena
  • twitter
  • Google+
PAGETOP
Copyright © 人材サービス総合研究所℠ All Rights Reserved.
Powered by WordPress & BizVektor Theme by Vektor,Inc. technology.