先日の拙ブログ「平成28年度『優良派遣事業者認定制度』説明会」でお知らせしましたが、「認定基準チェックリスト」も同時に公開されています。

改めて、昨年度のチェックリストと比較をしてみましょう。

優良派遣事業者認定制度 何が変わったか

昨年度と比較をすると以下の3つの項目が削除され、全85項目が82項目に減っています。(番号は昨年度の項目番号)

【派遣社員の適性就労とフォローアップに関する基準】

39. 派遣社員等に対して、相談や苦情を申し出ることができる社外の相談窓口(公的機関等)を積極的に周知している。

40. 派遣社員等の就業上の悩みや不安、希望に関する相談等について、外部の専門家を紹介できる仕組みがある

【派遣先へのサービス提供に関する基準】

83. 派遣先からの派遣労働関連の問い合わせに対して、迅速かつ正確に回答ができる仕組みがある

外部機関を周知したり、紹介すること自体は、事業者の良し悪しとは少し離れたものだと思いますし、派遣先からの問い合わせに回答できない事業者はそもそも事業者として成り立たないのだから削除されたことにはうなづけるものがあります。

いずれも昨年度の審査でもそれほど重視されたものではないと考えられることから、事実上はほとんど内容は変わっていないと考えておいた方がよいでしょう。

「優良派遣事業者認定制度」は本当に必要か

ここで、なぜ「優良派遣事業者認定制度」があるのか考えてみたいと思います。実は、2012年の労働政策審議会で話題になったときから、私はどちらかと言うとこの制度については懐疑的でした。その一方、今になってよくよく考えてみるとそれなりに存在意義もあるように思います。

まず、なぜ懐疑的だったかというと、概ね以下のような理由を挙げることができます。

  1. 労働者派遣事業そのものが認可事業であり、特に従来の一般労働者派遣事業は厚生労働大臣の許可を得て事業を営んでいるのだから上乗せした検定は必要ない。
  2. 本当に必要な内容であれば許可基準に含めればよい。
  3. 実際に許可を得ている事業者と優良派遣事業者の認定を受けた事業者の間にどのぐらいの優劣の幅があるのかが曖昧である。
  4. 審査項目の実施、未実施だけの判断であり、そこには質の差についての議論はない。
  5. 人材派遣はサービス業である。よってサービスの良し悪しは市場原理に任せた方がよい結果を生む。
  6. ただでさえ利益率の低い人材派遣ビジネスで、認定を受けるための直接的なコストだけで40万円前後の審査料がかかる。当然、更進のための費用負担も避けられない。
  7. とかくこのような検定には意図するしないにかかわらず利権がつきまとう。またその検定を司る機関の思惑が入る。
「優良派遣事業者認定制度」は諸刃の剣

実際にふたを開けてみるとそれなりにメリットもあるようです。人材サービス産業協議会によれば、「優良派遣事業者認定制度」の認定取得によるメリットとして以下が挙げられています。

  • 社内の意識改革や業務体制の見直しになった
  • 自社のブランディング強化につながった
  • 取引先からの評価が向上した
  • 自社に対する信用が高まった
  • 競争力の強化につながった
  • 派遣社員の満足度が高まった
  • 親会社からの評価が向上した

たしかに事業者の立場として考えるとそのとおり、それなりにメリットといえるのでしょう。「社内の意識改革や業務体制の見直し」を除けば、概ね「ブランディング」に大括りできるのではないでしょうか。その意味では客観的な評価というものが必要とされているということでしょう。

その一方で、もしも「優良派遣事業者の認定事業者のクセに○○だ」というネガティブな評価を得てしまったらどうでしょう。ブランディングも信用もあったものではありません。

つまり、認定を取得するまではよいとして、取得した後に審査項目にあることができていなかった場合は、いや仮に審査項目にあろうがなかろうが、サービスの利用者となる求職者、就業者、企業に不満があれば、心理的に大きなダメージにつながることは容易に想像できます。カンタンに言えば「嘘つき」のレッテルを貼られ信頼失墜は免れないのです。

「ブランド=信頼」です。期待が大きい分だけ、その期待を裏切った時の反動は大きなものとなります。優良派遣事業者の認定を受けることは諸刃の剣といえるのです。

重要なことは取得ではなく継続

改めて「優良派遣事業者認定制度」の意義を考えると、認定を受けるまではそれなりにエビデンスを揃えて審査を受けたとしても、継続してそのオペレーションができているかどうかが最も大切であるということに行き当たります。さらにそれ以上のサービスの質の向上が求められるでしょう。

審査はエビデンスに基づいて行われるため、審査の場面だけを取り出してみるとエビデンスの有無が重要ということになりますが、実際にはそのオペレーションが地に足のついたものである必要があるのです。

「優良派遣事業者認定制度」についての懐疑的な部分が消えたわけではありませんが、一方では「社内の意識改革や業務体制の見直し」のためのきっかけとして非常によい制度であるとも思います。

意識改革や業務体制を維持するための経営理念や経営体質、組織や制度など真の経営力が求められる改革こそが「優良派遣事業者認定制度」の最大の存在意義といえるのではないでしょうか。これらがきちんとできたときには、「さすがに優良派遣事業者の認定を受けただけのことはある」というポジティブな評価を得ることができるのです。

認定の取得よりもそのあとの認定された内容の継続こそが「優良派遣事業者認定制度」の意義といえるでしょう。むしろこのような制度がなくても業界全体が社会から信頼をもって必要とされるようになるといいですね。

今日もまた台風、九州ではすでに大きな被害が出ているようです。通り道となった四国、近畿、中部、東海地方の皆さん大丈夫でしたか。関東は嵐の前の静けさです。寝ている間、明け方には通過しそうですが。。

関連記事:平成28年度「優良派遣事業者認定制度」説明会