PDF版:「ニッポン一億総活躍プラン(案)」に見る、今後の人材サービス

メイン画像:発言する安倍総理12016年5月18日(水)に、第8回「一億総活躍国民会議」が開催され、「ニッポン一億総活躍プラン」の素案が示されました。5月中に閣議決定される方向です。

ほぼ、内容が固まっていることを前提に、今後の労働法制、特に人材サービス業界に大きな影響を与えるであろうことについて、フォーカスしたいと思います。

まず、大前提となる考え方として、以下が示されています。

一人ひとり、それぞれの人生を大切にする考え方が、 一億総活躍であり、国家による押しつけといった、すべてを画一的な価値観にはめ込むような発想とはむしろ対極にある考え方である

つまり、規制の在り方として、「画一的なものではなく、柔軟に対応する」ことが政策上の基本的な考え方であると言えます。これは、ぜひその考え方で議論されることを望みたいものです。

労働法制として大きくクローズアップされることとして、「働き方改革」が挙げられており、多様な働き方が可能となるよう、 社会の発想や制度を大きく転換しなければならないとしています。

「働き方改革」には「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」「長時間労働の是正」「高齢者の就労促進」の3つが大項目として掲げられています。

いずれも重要な問題ですが、特に重視されているのが、2015年9月11日に法案が成立した「労働者の職務に応じた待遇の確保等のための施策の推進に関する法律」(同一労働同一賃金推進法)と言えるでしょう。

「働き方改革」を概観すると以下のように捉えることができます。

一億総活躍社会の実現に向けた横断的課題である働き方改革の方向
1.同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善

まず、「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」ですが、以下のように記載されています。

女性や若者などの多様で柔軟な働き方の選択を広げるためには、我が国の労働者の約4割を占める非正規雇用労働者の待遇改善は、待ったなしの重要課題である。

我が国の非正規雇用労働者については、例えば、女性では、結婚・子育てなどもあり、30代半ば以降、自ら非正規雇用を選択している人が多いことが 労働力調査から確認できるほか、パートタイム労働者の賃金水準は、欧州諸国においては正規労働者に比べ2割低い状況であるが、我が国では4割低くなっている。

再チャレンジ可能な社会をつくるためにも、正規か、非正規かといった雇用の形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保する。

そして、同一労働同一 賃金の実現に踏み込む。 同一労働同一賃金の実現に向けて、我が国の雇用慣行には十分に留意しつつ、躊躇(ちゅうちょ)なく法改正の準備を進める。

労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の的確な運用を図るため、どのような待遇差が合理的であるかまたは不合理であるかを事例等で示すガイドラインを策定する。

できない理由はいくらでも挙げることができる。大切なことは、どうやったら実現できるかであり、ここに意識を集中する。

非正規という言葉を無くす決意で臨む。 プロセスとしては、ガイドラインの策定等を通じ、不合理な待遇差として是正すべきものを明らかにする。その是正が円滑に行われるよう、欧州の制度も参考にしつつ、不合理な待遇差に関する司法判断の根拠規定の整備、非正規雇用労働者と正規労働者との待遇差に関する事業者の説明義務の整備などを含め、労働契約法、パートタイム労働法及び労働者派遣法の一括改正等を検討し、関連法案を国会に提出する。

これらにより、正規労働者と非正規雇用労働者の賃金差について、欧州諸国に遜色のない水準を目指す。最低賃金については、年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていく。

これにより、全国加重平均が1000円となることを目指す。このような最低賃金の引上げに向けて、中小企業、小規模事業者の生産性向上等のための支援や取引条件の改善を図る。

また、GDPの7割を占めるサービス産業の賃金を改善していくためには、生産性向上が不可欠である。サービスの質を見える化し、トラック運送、旅館、スーパーなどの分野で、業種の特性に沿った指針を策定し、法的枠組みに基づく税制や金融による支援を集中的に行うことにより、サービス業が適正な価格を課することができる取引慣行を確立する。

一人親方や中小零細事業主が安心して就業できる環境の整備を進める。

「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」の中でキーワードを拾うと以下のようになります。

  • 非正規雇用労働者の待遇改善は、待ったなしの重要課題
  • 正規か、非正規かといった雇用の形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保
  • 同一労働同一賃金の実現に向けて、我が国の雇用慣行には十分に留意しつつ、躊躇なく法改正の準備を進める
  • 大切なことは、どうやったら実現できるかであり、ここに意識を集中
  • 非正規という言葉を無くす決意で臨む
  • ガイドラインの策定等を通じ、不合理な待遇差として是正すべきものを明らかにする
  • 労働契約法、パートタイム労働法及び労働者派遣法の一括改正等を検討

非正規雇用労働者の待遇改善について「待ったなし」「躊躇なく」「非正規という言葉を無くす決意」という強い覚悟で臨むことが述べられており、すでに必要性の要否を語る次元は過ぎて、実行性の議論に重点が置かれています。

不合理な待遇差を是正することが最大のポイントとなると考えられ、労働者派遣法についても改正されることになります。従来から、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法のいわゆる非正規雇用を巡る法律間でも不均衡があったことから、その是正が求められることになるのではないでしょうか。

2.長時間労働の是正

2番目の「長時間労働の是正」には、以下のように記載されています。

長時間労働は、仕事と子育てなどの家庭生活の両立を困難にし、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の家庭参画を阻む原因となっている。

戦後の高度経済成長期以来浸透してきた「睡眠時間が少ないことを自慢し、超多忙なことが生産的だ」といった価値観が、この3年間で変わり始めている。

長時間労働の是正は、労働の質を高めることにより、多様なライフスタイルを可能にし、ひいては生産性の向上につながる。

今こそ、長時間労働の是正に向けて背中を押していくことが重要である。

週49時間以上働いている労働者の割合は、欧州諸国では1割であるが、我が国では2割となっている。このため、法規制の執行を強化する。長時間労働の背景として、親事業者の下請代金法・独占禁止法違反が疑われる場合に、中小企業庁や公正取引委員会に通報する制度を構築し、下請けなどの取引条件にも踏み込んで長時間労働を是正する仕組みを構築する。

さらに、労働基準法については、労使で合意すれば上限なく時間外労働が認められる、 いわゆる 36(サブロク)協定における時間外労働規制の在り方について、再検討を開始する。

時間外労働時間について、欧州諸国に遜色のない水準を目指す。あわせて、若者の長時間労働の是正を目指し、女性活躍推進法、次世代育成支援対策推進法等の見直しを進める。

「長時間労働の是正」の中のキーワードは以下のとおりです。

  • 長時間労働の是正に向けて背中を押していく
  • 法規制の執行を強化する
  • 下請けなどの取引条件にも踏み込んで長時間労働を是正する
  • 36協定における時間外労働規制の在り方について再検討

雇用形態に関わらず「長時間労働の是正」が図られることになります。これまで労働法制としては存在していても、これに対する行政指導が有名無実に近いものがあったこともあり、今後は、行政指導が強化されることが大きなポイントになると考えられます。

企業は、業務改善や技術革新により生産性の向上ができなければ、人員を増加させることしか道がなくなることから、人材サービス事業者にとっては、ビジネスチャンスと言えるでしょう。

また、下請代金法・独占禁止法違反の適用についての指導が強化されることになるため、アウトソーシングでは契約の見直しも必要になることが考えられます。

なお、派遣労働者の長時間労働についても是正の対象になるため、現状でそのような事例がある場合は早期に是正をしていくことが望まれます。

3.高齢者の就労促進

最後に「高齢者の就労促進」ですが、以下が記載されています。

日本には、アクティブシニアとも言われるように、元気で就労の意欲にあふれ、豊かな経験と知恵を持っている高齢者がたくさんおられる。

他方、高齢者の7割近くが、65歳を超えても働きたいと願っているのに対して、実際 に働いている人は2割にとどまっている。生涯現役社会を実現するため、雇用継続の延長や定年引上げに向けた環境を整えるとともに、働きたいと願う高齢者の希望を叶えるための就職支援を充実する必要がある。

人口が減少する中で我が国の成長力を確保していくためにも、高齢者の就業率を高めていくことが重要である。

将来的に継続雇用年齢や定年年齢の引上げを進めていくためには、そのための環境を整えていく必要がある。

企業の自発的な動きが広がるよう、65歳以降の継続雇用延長や65歳までの定年延長を行う企業等に対する支援を実施し、企業への働きかけを行う。

また、継続雇用延長や定年延長を実現するための優良事例の横展開、高齢者雇用を支える改正雇用保険法の施行、企業における再就職受入支援や高齢者の就労マッチング支援の強化などを進める。

人材派遣の観点から言うと、これまで高齢者雇用の領域は必ずしも十分ではなかったものと考えられますが、今後、高齢者の労働力率がますます増加するにあたって、受け皿としてのビジネスチャンスと捉えておくことが必要かと思います。

  • 雇用継続の延長や定年引上げに向けた環境を整える
  • 高齢者の就業率を高めていく
  • 企業における再就職受入支援や高齢者の就労マッチング支援の強化

元気で就労の意欲にあふれ、豊かな経験と知恵を持っている高齢者という観点からは、「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」にある、「一人親方や中小零細事業主が安心して就業できる環境の整備」もこの一環として考慮する必要があるのではないでしょうか。

 

以上、非常に雑駁ですが、「ニッポン一億総活躍プラン」の中から「働き方改革」の部分を抽出して概観してみました。

詳細については、「ニッポン一億総活躍プラン(案)」をご参照ください。