昨日、8月29日の日経新聞朝刊に「残業時間、上限規制導入を検討 働き方改革相」という記事がありましたが、改めてこの発言のあった8月28日のNHK「日曜討論」を振り返って観てみました。

日曜討論1タイトルは「どう進める働き方改革」で、主なテーマは長時間労働の抑制と非正規の待遇改善に伴う同一労働同一賃金というものです。

すでにご覧になった方も多いかとは思いますが、長時間労働の抑制については、以下のような見解が示されています。

  • 規制強化が必要、上限規制を設定する
  • 生産性を上げる必要がある
  • 経営者が積極的に取り組む必要がある
  • 公共入札の優遇措置など環境整備が必要である
  • コンサルティングに対する助成も検討する

長時間労働の抑制については、業種業態や企業体質にもよるのかも知れませんが、筆者の経験では、むしろ企業経営の立場からすると時間外手当の抑制のために、いかに長時間労働を削減できるかということはすでに行われているように思います。

当然、同等以上の質、量の成果を少ない時間で達成しなければならないということで生産性向上について取り組まなければならないことは言うまでもないのですが、一定規模、社会的にも認知度の高い企業であれば、長時間労働によるメンタルや過労死の問題は少ないようにも思います。

日曜討論2問題は、労働法制など歯牙にもかけない悪質な事業者の存在です。結局のところ労働者派遣の問題とよく似ており、労働者の立場をきちんと汲んで「人」を大切にする企業と労働者を道具ととらえて悪し様に利用する企業という二極により問題が複雑になるのではないでしょうか。

見た目には崇高な企業理念を掲げながら、「社会に貢献する尊い事業をやっているのだから」という理由で経営理念を楯に従業員の長時間労働を強いるような企業は人材サービス事業者にもあります。若いうちはとことん働け、そうでなければ力がつかない、休みの日は次の仕事のことを考えろ、仕事の役に立つ本を読め…というのはある意味ではそうなのかもしれませんが、それを手放しで鵜呑みに肯定し、助長する、強制する、あるいは賞賛するような企業風土になってしまうとそれは話が違います。

ここら辺は、見分けをつけることが極めて難しいところではありますが、ただ「長時間労働の抑制」と旗を掲げるだけでは、本来の意味とはかけ離れたものになってしまうため注意が必要です。

政策として「長時間労働の抑制」を図るためには単に規制を強化するだけでなく、悪質な事業者をきちんと取り締まれるような実効性のあるしくみが必要ということだと思います。

日曜討論3この番組を見ていて気になったことは「どうしたら生産性を上げることができるのか」というところまで踏み込めていないことです。個々の企業によって事情が異なるため一律にどうすればということは言えないのだとは思いますが、本来考えるべき点はここです。

一般企業はもちろんですが、人材サービス企業自身もこれを考えていかなければなりません。なお、この番組で採り上げられたもう一つのテーマ「同一労働同一賃金」については、すでに拙ブログでも採り上げてきた内容と大きく変わりません。

働き方改革実現会議の日程として、年末までに同一労働同一賃金について「合理的でない不公平はなにか」のガイドラインが出されること、働き方改革全体としては年度末、来年3月までには実行計画を出すとのことです。

また、この番組で採り上げられなかったものとして、インターバル規制、高齢者の雇用、テレワーク、採用、傷病・障碍者雇用、女性の雇用などについても働き方改革で採り上げられる見込みです。

関連ブログ

ドンピシャ、9月に「働き方改革実現会議」発足

参議院選挙後、陰に隠れた労働政策事情

+++++

残業時間、上限規制導入を検討 働き方改革相

加藤勝信働き方改革相は28日のNHK番組で、残業時間の上限規制の導入について、9月に発足する「働き方改革実現会議」で検討する考えを示した。労使間で協定を結べば労働時間を上限なく決められる実態があるとして「時間外の労働規制についてしっかり再検討したい」と述べた。政府は今年度中に働き方改革に関する実行計画をまとめる。

労働基準法は労働時間は1日8時間、週40時間までと定める。ただ労使で協定を結ぶ企業では法定時間を上回る労働が目立つ。加藤氏は時間短縮に取り組む企業向けに「コンサルティングの支援もしていく」と語った。

(日本経済新聞 / 2016/8/29)