- 参議院選挙後、陰に隠れた労働政策事情(8月17日)
- ドンピシャ、9月に「働き方改革実現会議」発足(8月20日)
- 「残業時間、上限規制導入を検討 働き方改革相」日経新聞より(8月30日)
■ 極め付け、「規制改革推進会議」の人選
そのような中で、昨日9月2日に「規制改革推進会議」が設置され、そのメンバーが選出されました。
従来の「規制改革会議」の設置期限がこの7月で満了したことを受け、その後継組織として新たに仕切り直しされたものです。
雇用関係だけに的を絞ると、従来の規制改革会議では鶴光太郎慶應義塾大学大学院商学研究科教授が委員を務め、雇用ワーキンググループを牽引してきましたが、新たに設置された規制改革推進会議では鶴先生に代わって八代尚宏昭和女子大特命教授が就任しています。
八代先生は、かつて第一次安倍内閣から福田内閣の折、塩崎恭久内閣官房長官、大田弘子経済財政政策担当大臣、菅義偉総務大臣という布陣の中で経済財政諮問会議議員も務めており、今回の人事は当時のリベンジ・シフトとも言えるものです(安倍総理のお友達人事という言われ方もしていますが…)。
今回の規制改革推進会議でも対象となる課題ごとにワーキンググループを設置する形になると考えられますが、八代先生がその座長を勤めることになるのではないかと予想されます。
■ 期待される芯のある雇用規制改革
以前、私は前職時代に八代先生の当時の国際基督教大学の研究所にお伺いしてお世話になったり、国際会議にご協力を頂いたこともありますが、雇用問題の根幹が「労労対立」にあると仰っていたことが非常に強く印象に残っています。つまり、いわゆる正規・非正規の利害対立にあるということです。
その意味では、現在どちらかというと正規雇用に軸足が置かれて論じられている同一労働同一賃金よりも、正規・非正規の溝を埋める方向に向かう議論になることが考えられます。つまり、ほとんどの労働組合が正社員によって構成されている中、労働者の立場に立っているという労働組合の発言が強くなればなるほど、いわゆる非正規雇用者にとってはデメリットにつながることがあるということです。
4月25日の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の折にも、たまたま終了後に同じエレベーターに乗り合わせ少しお話をしましたが、個別紛争について(金銭解雇の)枠がなければ裁判の妥当性が得られないということを仰っていました。八代先生の雇用の流動化に関する主張は一貫しています。
現在の同一労働同一賃金の議論は、いわゆる非正規雇用の待遇改善にかかることばかりで、経営者側としては人件費負担が重くなることばかりであるため、今回の人事で個別紛争の出口に道筋がつけられることも考えられます。労働者派遣法についても辛口な八代先生の影響力に期待したいところです。
今後の注目点は、この規制改革推進会議の雇用ワーキンググループのメンバーということになるでしょうか。 継続性を考えると水町勇一郎先生は当選確実かと…。
(日本経済新聞 / 2016/9/2) 政府は2日の閣議で、7月末で設置期限が切れた規制改革会議の後継組織「規制改革推進会議」を設置することを決めた。 12日に初会合を開く予定だ。新議長に政策研究大学院大教授の大田弘子氏が就任。これまでの規制改革の経験や女性活躍を重視した。 規制改革推進会議は14人で構成する。
(◎は議長、○は議長代理、◇は前身の規制改革会議から再任) 菅義偉官房長官は2日の記者会見で「規制改革は成長戦略の中核だ。新たな体制のもと強力に推進したい」と語った。 委員は14人。議長代理にフューチャーの金丸恭文会長兼社長、富士フイルムホールディングスの古森重隆会長兼最高経営責任者(CEO)らが就く。 議長の人選で重視したのは「経験」「女性」「特区」の3点だ。大田氏は前身の規制改革会議で議長代理として、会議を運営した経験がある。関係省庁や業界団体との折衝や、毎年の答申文書の作成のノウハウもある。 第1次安倍政権時に女性閣僚の目玉として経済財政相に就き「安倍晋三首相の信頼が厚い」との評がある。首相が掲げる女性活躍のアピールにもつながり「首相が主導した議長人事だ」(内閣府幹部)との声もある。 国家戦略特区との連携も重視した。8月の内閣改造では特区と規制改革の担当相を一本化した。地域限定の規制改革を全国展開しやすくなる。 特区のワーキンググループ座長は大阪大の八田達夫名誉教授。大田氏とは政策研究大学院大学で同時期に学長と副学長を務めた間柄で、2つの会議の連携も深まりそうだ。 |
一方、以下のような記事も…。
規制改革人事にみる「働き方改革」の行方 大田氏内定の裏側
(日本経済新聞 / 2016/9/2) 規制改革会議の後継組織である「規制改革推進会議」の議長に、政策研究大学院大の大田弘子教授が内定した。 7月の参院選前に着手していた人選では、昭和女子大の八代尚宏特命教授も議長候補に浮上したが、最後は大田氏で決着した。 首相官邸が「女性活躍」や「政策決定現場での経験」を重視したとされるが、霞が関では官邸の別の思惑も人選に影響したとの見方が出ている。 ■実績や経験重視で大田氏に 大田氏は第1次安倍政権で経済財政相に就任。第2次政権でも規制改革会議の議長代理を務めたほか、政府税制調査会の法人課税専門委員会の座長なども務めてきた。 大田氏を補佐する議長代理にはJA(農業協同組合)改革に取り組んだフューチャーの金丸恭文会長兼社長を起用したことをみても、「実績や経験を重視した」という見方ができる。 ただ経験値では八代氏も豊富だ。2006~08年には経済財政諮問会議の民間議員となり、諮問会議のもとにつくった労働市場改革専門調査会の会長も務めた。 07年4月には既婚女性の就業率向上の数値目標設置や正社員の労働時間の1割削減を柱とした報告書をまとめるなど、現政権が力を入れる「働き方改革」を先取りするような議論を主導していた。 今年8月の内閣改造で就任した山本幸三規制改革相も当初は官邸に対して八代議長案を推した。 ■八代氏の労働市場改革論と開き では、八代議長はなぜ実現しなかったのか。ある経済官庁の幹部は「官邸が看板政策に掲げる働き方改革と八代氏が訴える労働市場改革には開きがある」と解説する。 八代氏は経済成長の観点から「解雇の金銭補償の法制化を含めた雇用の流動化が必要」という立場を強調してきた。 非正規労働者の待遇改善や長時間労働の是正など労働者目線に重きを置く安倍政権からみれば、八代氏が主張する改革は「ややドラスチック(過激)に映る」(前述の経済官庁幹部)というわけだ。 安倍政権は9月中に「働き方改革実現会議」を発足させる。春までの一億総活躍国民会議の議論を引き継ぎ、同一労働同一賃金などの実現に向けた実行計画をまとめる。 内閣官房幹部は「(長時間残業の是正など)世論受けが良い政策をまとめたうえで、政治的な抵抗が大きい雇用の流動化などの検討を慎重に進めていく」と、生産性向上に向けた雇用改革も否定はしていない。 ただ「幻に終わった八代議長案」を考えると、成長重視の雇用改革が主軸になる可能性は高くない。 (川手伊織) |
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