金木犀のよい香りが漂う季節になってきましたね。

働き方改革実現会議昨日は「働き方改革実現会議」でテーマとして挙げられた以下の9つの項目のなかから「時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正」について採り上げてみました。

すでに世の中の業種も、職種も、働き方も多岐にわたっているなかで画一的な解を求めることは不可能という感じですね。

労使間でそれぞれの実態に合わせて無理のない解決策を見出す、国は規制で枠にはめるのではなく労使間の協調が自律的に相互尊重が成り立つようサポートをする、という方向に向くのがよいように思います。

  1. 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  2. 賃金引き上げと労働生産性の向上
  3. 時間外労働の上限規制の在り方など長時間労働の是正
  4. 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援、人材育成、格差を固定化させない教育の問題
  5. テレワーク、副業・兼業といった柔軟な働き方
  6. 働き方に中立的な社会保障制度・税制など女性・若者が活躍しやすい環境整備
  7. 高齢者の就業促進
  8. 病気の治療、そして子育て・介護と仕事の両立
  9. 外国人材の受入れの問題
一筋縄ではいかない「同一労働同一賃金」

さて、今日は安倍首相が一番目にテーマとしてあげた「同一労働同一賃金」を採り上げてみたいと思います。

同一労働同一賃金推進法は、昨年の労働者派遣法改正と同時に成立した法律であり、いわば派遣法から派生したような法律ですから、当然ながら人材サービス事業者のみなさんにも大いに関係してくることになります。

「同一労働同一賃金」、これが一筋縄ではいかないことはすでに多くの有識者の間では当たり前のように語られていますが、私は「同一労働同一賃金」についても長時間労働是正で述べたことと同じように画一的な規制の枠にはめない方がよいと考えています。

「同一労働同一賃金」の解釈

「同一労働同一賃金」、たしかに響きの良い言葉です。同じ仕事をしているなら賃金も同じであるべきだ、ということ自体はまったくもって正しい。正しいのにできないのはなぜか。この世に同一の仕事というものはないからではないでしょうか。

「同一労働同一賃金」を文字通りに解釈しようとすればこういうことになるのでしょうが、もう一つの解釈として同じキャリアであれば同じ賃金と捉えるケースもあるようです。

これはこれで同じキャリアの人などいない。同じ能力の人もいない。仮に同じキャリアであっても同じ仕事をするわけではない。だからますますややこしくなります。

簡単には受け入れられないヨーロッパの仕組み

ご存知のようにヨーロッパでは歴史的にもマイスターやギルドのような制度のもとに職務型の雇用がベースとなってきたため、比較的「同一労働同一賃金」の考え方での運用が受け入れられているのだと思いますが、我が国の戦後の雇用慣行である終身雇用、年功序列は職能型の雇用システムです。

一足飛びにヨーロッパと同じようにということは明らかに無理があります。つまり、「同一労働同一賃金」の実現は、まず不可能だと思っています。強いて言えばやはり「同一労働同一賃金」の推進ということになるのでしょう。

そこで政府が進めようとしているのが、「合理的理由のない不利益取扱い禁止」。ドイツやフランスでもこれが実態を反映した一般的な考え方として捉えられているようです。

職務内容以外の事情、例えば、在職期間、キャリアコース、法的状況など企業の中での位置づけの違い、企業経営上の必要性などが基本給の違いを合理的理由として認めているとのことです。

派遣先の従業員との違いについてこれらの理由が説得力をもつかどうかが問われることになるでしょう。

落としどころは「合理的理由のない不利益取扱い禁止」

これからの議論では、労働側は文字通りの「同一労働同一賃金」を求め、政府の落としどころは「合理的理由のない不利益取扱い禁止」、使用者側は最終的には雇用の流動化を求めるところでのせめぎ合いになるのではないかと思います。

「同一労働同一賃金」、結局のところどこまで同一とするのかの議論になるのではないかと思いますが、それにしても対象を契約社員や限定正社員にしぼるようなことをしなければ、話がまとまらないような気もします。

いずれにしても、まずは「同一労働同一賃金」の定義の明確化をすることが必要になるでしょう。

労働者派遣法での均衡待遇の扱い

派遣法では均衡待遇について以下のように定められていますが、派遣就労こそ職務型の典型なのですから、派遣先社員との均衡よりも同一職種、同一地域での均衡で賃金が設定されていることが多いですよね。

職種で派遣されている派遣労働者が、たまたま派遣された企業の業績の優劣で賃金が異なるというのもおかしな話にならないのでしょうか。派遣先企業での同一労働同一賃金が高じると、比較的給与水準の高い大企業と取引の多い派遣元事業者に登録するほうが賃金が高いことになってしまうようにも思えるのですが…。

パートタイマーやアルバイトでも交通費が支払われるのに人材派遣は支払われないというのは、合理的な説明がつかないという議論もあります。交通費が支給されないことが多いことは「合理的理由のない不利益取扱い禁止」に該当するといった待遇面での均衡がクローズアップされることになるかもしれません。

労働者派遣法(抜粋)

(均衡を考慮した待遇の確保)

第三十条の三   派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者の賃金水準との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する一般の労働者の賃金水準又は当該派遣労働者の職務の内容、職務の成果、意欲、能力若しくは経験等を勘案し、当該派遣労働者の賃金を決定するように配慮しなければならない。

2   派遣元事業主は、その雇用する派遣労働者の従事する業務と同種の業務に従事する派遣先に雇用される労働者との均衡を考慮しつつ、当該派遣労働者について、教育訓練及び福利厚生の実施その他当該派遣労働者の円滑な派遣就業の確保のために必要な措置を講ずるように配慮しなければならない。

このトピックからは外れますが、日経新聞に働き方改革実現会議メンバーのコメントがあったので、ご参考まで転載しておきます。

働き方会議 出席者のコメント  2016/9/27 23:43

政府の「働き方改革実現会議」(議長・安倍晋三首相)の出席者が初会合後、首相官邸で記者団に語った内容は以下の通り。

■経団連・榊原定征会長

「働き方改革は一億総活躍社会の実現に向けて最も重要なチャレンジだ。経済界としても最大限協力したい。経団連も今年は働き方改革の集中取り組み年と定めている。残業時間に上限を入れるにしても、労働者保護と業務維持の2つの観点を考慮して議論を進めるべきだ。長時間労働の是正は公務員を含めて総合的に実施すべきだ。公立学校の先生も長時間労働が常態化している。同一労働同一賃金は非常に大事で、同じ働き方をしている人が不合理な処遇をされるのを根絶しないといけない。(脱時間給制度を盛り込んだ)労働基準法改正案を今臨時国会で成立させてほしい」

■日本商工会議所・三村明夫会頭

「人手不足に対応するには、大胆な改革と同時にしっかりと現実をふまえた改革の2つのバランスが重要だ。長時間労働の抑制に取り組んでいるが、それでもなお残る原因をつぶすことを考えないと絵に描いた餅になる。実態を調べて対応したい。残業の上限は業種にもよるし、一律で機械的に上限を決めることには賛成できないが、抑制するためにどういう仕組みが必要かという議論には参加したい。働き方改革は極めて広範囲で、首相による9項目の提示の仕方はよかった。外国人材について労働力が増えることは賛成だが、一定のコントロールの中でやらないといろいろな問題が起こりうる」

■連合・神津里季生会長

「働くことを軸とする安心社会について、かねての考え方を説明した。同一労働同一賃金、長時間労働の是正、公正取引の問題、この3点に重点を置いて話した。私どもは『底上げ春闘』ということを今年とくに力を込めて言っている。どうやって賃金を引き上げていくか、格差をなくしていくか、底上げを図っていくかは極めて大きなテーマだ。外国人労働者の問題もある。そこは慎重に考えるべきだ。テーマが9つというのは、限られた期間の中で非常に数が多い。時間が足りなかったということは許される話ではない。着実に前に進めるべきところは焦点を絞ってやっていくことが必要だ」

■りそなホールディングス・新屋和代執行役

「大勢の閣僚が出席しており、働き方改革に対する力の入れようが大変なものだと感じた。法定労働時間外や休日に従業員を働かせるために労使で結ぶ36協定の見直しは、どのような影響があるかよくみていきたい。ただ、大きな流れは長時間労働の是正だ。今までできなかったことをできるよう努力したい。りそなホールディングスは同一労働同一賃金の仕組みを人事制度に取り入れている。きょうの会議で簡単に紹介した」

■女優・生稲晃子さん

「自分が経験した乳がんや5年間の闘病生活、そのなかでも仕事をしてきた経験を話すことで何か役に立つのではないかと思い、参加した。副作用があるなかでも仕事をしている人がいる。自分ががんであることを隠しながら仕事をする人がいる。告白してキャリアを失うことを恐れて、黙って一生懸命仕事と治療を続けているのは、同じ経験をした者として心が痛む。2人に1人ががんになるといわれているこの日本で、がんに対する偏見もまだまだある。がんに限らず、大病を患った人たちが幸せに仕事ができる社会を首相のもとで話し合い、実現していきたい。企業が病気を理解していくことが大切だ」