10月25日に拙ブログ「『働き方に関する政策決定プロセス』どうなる?」で「公労使三者構成は維持すべき」「微妙な労政審の立ち位置」「重要なことはプロセスではなく人選?」といったことを書いてみましたがが、今日は「第4回働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」を傍聴してきました。
■ 落としどころが見えない議論
結論から言うと、この「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」、落としどころが見えません。
情報筋によると、この会議はそもそも塩崎厚生労働大臣の肝いりで始まったもので、メンバーはよく言えばかなりバラエティに富んだものですが、一方、荒っぽく言えばバラバラです。
どこかに収れんさせようというメンバー構成ではないから、話が飛びまくり煮詰まらない。結局、それが一定の落としどころを見えなくしているようです。
これをまとめる事務局は大変だろうなぁというのが率直な感想です。というか、それほど驚くような結論にはならないような…。
■ 政策決定のスピードが遅いのは労政審のせい?
会議で示された資料の中で、興味深いものがありました。それは、「労働政策の政策決定スピードについて」というもので、直近5年間で成立した17の政策について、研究会・検討会、労政審、国家審議でそれぞれ費やされた期間をまとめたもの。
もっとも長いのが研究会から法案成立まで50.1か月かかったもの。何だと思いますか?
研究会で5.5か月、労政審で通算7.8か月、国会審議で24.1か月の合計50.1か月。これ、労働者派遣法の平成24年改正法ですね。
ちなみにこの50.1か月というのは、契機となった時点(例えば、日本再興戦略で俎上に上がった時点)から、実際に法案が成立するまでの期間で、研究会と労政審、労政審と国会審議の間のインターバルなども含んだ期間です。
2番目が、労働契約法で41.9か月で、研究会18.8ヵ月、労政審16.9か月、国会審議4.4か月、3番目がパートタイム労働法で、研究会7.5か月、労政審28.3か月、国会審議2.0か月、さらに4番目が労働者派遣法の平成27年改正法で35.3か月、研究会10.2か月、労政審6.1か月、国会審議18.3か月。
■ 国会でもてあそばれる派遣法
これらの数字を見ていて、おやっと思ったのは労働者派遣法の国会審議の長さ。実は、17の政策のうち国会審議で10か月を超えたのは3法案だけなのです。そのうち2つが労働者派遣法です。他は概ね2~5か月で成立しています。
研究会や労政審で費やした期間を見ると、労働者派遣法は、労働契約法やパートタイム労働法よりもむしろ短いぐらいです。
「やっぱり」という感じですよね。なぜ労働者派遣法になると国会審議が長引くのでしょう。どう考えても政争の具にされているとしか思えません。
「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」は、そういうことを考える会議ではないので、この資料を見てこんなことに気づいてしまうのは私ぐらいなものなのかもしれませんが、刻々と変化する労働市場の中にあって、50か月も政策決定に時間をかけていては、現実と乖離したものになるのは当然ですよね。
ちなみに政策決定に1年以上費やされたのは17法案のうち8法案です。そうであれば、その8法案がどうだったのかと総括してみた方が解決は早いのではないかと思ってしまいます。
■ 結局の落としどころは。。
話が戻りますが、そもそもこの「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」は、労政審に対する存在意義や審議のスピードを問うことから始まったらしいのですが、必ずしもそうではない。
労働者派遣法を含む特定の法案について時間がかかっているのであってすべてについて時間がかかっているわけではありません。
労政審の存在意義としては、専門性の付与、利害調整、正当性の確保、実行性の担保といったことが挙げられましたが、ILOの三者構成の原則もあることから、結局のところ労政審のあり方自体は変わらないのではないかというのが私の見方です。
その中で、誰をそのメンバーに加えるのかということについては、さらに議論になることになるのではないかと思います。
■ 望まれる当事者の参加
少なくとも労働者派遣法の議論では、本当の意味の当事者はいませんでした。労労対決とされるいわゆる非正規問題の代表が労働組合というのはどう考えても当事者の意見を代弁しているとは思えません。
私は研究会、労政審の議論を可能な限り傍聴しましたが、要するに建議された内容は、使用者側と労働者側、その中心となっている経団連と連合にとってどちらでもよいようなことは取り残された感があります。
そしてそこには、派遣労働で就労する人の声はありませんでした。オブザーバーとして参加した業界団体からの声も多くは採り上げられていません。
「働き方に関する政策決定プロセス」以前に、労政審のあり方として当事者の参加について議論をしてほしいものです。
働き方に関する政策決定プロセスについての これまでの主な議論の整理(論点整理) (案)1. 総合的・中長期的な議論が不足しているのではないか ○制度改正等の短期的な議論が多く、労働政策の基本的方向性や中長期的なあ り方の議論が十分ではないのではないか。 ○政府の会議体が決定した雇用労働政策の大枠に沿って法案等の議論が行わ れており、戦略的議論が十分ではないのではないか。 ○具体的な制度設計を行っている各分科会、部会の横通しが十分ではないので はないか。 2. 議論が硬直化している可能性があるのではないか ○労使の利害調整の色彩が強く、公益的な観点からのエビデンスに基づく議 論が十分ではないのではないか。 ○議論の質を確保しつつ、必要な政策決定スピードが確保されているか。 3.多様な意見が十分に反映されているのか ○正規・非正規労働者、産業、地域、年齢等の観点から見て、多様な働き手や 企業等の意見が政策に十分に反映されているか。 4. 労政審の意義と構成をどう考えるか ○労政審で政策や制度改正などを議論することをどう考えるか。 ○労政審における公労使三者構成、労使同数の意義についてどう考えるか。 |
今日の日比谷公園は、ガーデニングショーをやっていていつもより賑やかでした。湿度も低く快適な秋ですね。
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