厚生労働省厚生労働省から先週末の10月21日(金)に開催された「第3回働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」の資料が公表されました。

当日は所用があり、私は傍聴に行けなかったのですが、初回がほぼフリーディスカッション、前回の第2回と、この第3回が有識者からのヒヤリング、次回の第4回が論点整理となっているので、とりあえず意見は出つくされた(一応、2回のヒヤリングで良しとした)ということになるのでしょうか。

労政審の公労使三者構成は維持すべき

これまでの議論の内容を見ると、まず労働政策審議会の会長、慶應義塾大学商学部教授の樋口美雄氏は、前提として「労政審の公労使三者構成は維持すべき」としたうえで、「現在の労政審では、中長期的な労働政策をどうすべきかといった議論や横串の議論が不十分」としており、「本審の下に「企画部会」を設置して集中的に議論するようなことも必要」と述べています。

連合の事務局長、逢見直人氏も「雇用・労働政策は、職場実態を熟知した労使が、職場実態を踏まえた議論を尽くして立案するプロセスが必要不可欠」としており、労働政策審議会の必要性については一致しているように思われます。

厚生労働省からもILOの原則について資料が示されていますが、ILOでも三者構成の原則が明示されていることから、現行の労働政策審議会の枠組みそのものはおかしなものではないと考えられます。三者校正が「公労使」なのか「政労使」なのかという問題は残りますが、現実的には「公」がなければ専門的な見解は得られないはずです。

微妙な労政審の立ち位置

一方、労働政策審議会の立ち位置についてですが、連合からは「三者構成原則の考え方の本源にあるのは、労使自治の原則。労使が交渉により自らを規制するルール(雇用・労働政策)を立案・議論・決定し、それに法的拘束力を与えるのが政府の役割」とされています。

これに対し、東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏からは、「そもそも審議会とは、政策や法律の決定機関ではない」「本来は、第三者や専門家からの意見を集約する場であり、現実として利害調整が行われるとしても、それが政策決定でなければならない、というのでは本末転倒」との指摘もされています。

これについては後者の方が正しいように思われます。政治的な決定はあくまでも国会でされるべきでしょう。

重要なことはプロセスではなく人選?

樋口氏は「本来、働くルールは労使交渉で決めるべきもの」、連合は「労使を抜きにした政策決定プロセスは、職場実態から乖離した政策となり、制度として職場に根付かない」としており、いずれも労使協議を重視しています。

「労使抜きにして」決められないのは、本当にそう思います。しかし、労働者派遣法はどうでしょうか。当事者がいるところで議論がされているでしょうか。

平成27年改正法の労働政策審議会での議論には、使用者側にオブザーバーとして業界団体が加わりましたが、その折には労働者側から「オブザーバーの発言が多い」などという指摘もあり、職場実態を最もよく知るオブザーバーの意見を制し、とても労使の意見を聴いたものとは思えないような場面もありました。

職場実態を熟知した労使が政策決定に関与することで、政策の実効性を担保することに異論はありませんが、そうであればその議論に加わる人選が極めて重要ということにならないでしょうか。当事者不在の政策は、職場実態から乖離したものとなってしまうと思います。

決めるべき法律の範囲は?

「EU派遣労働指令」では、法制度の成り立ちの前提として、派遣労働の利用の禁止または制限については、派遣労働者の保護、安全衛生、労働市場の機能の確保、濫用防止に関する一般的な考え方に限るとしています。

我が国でも、労働者の保護以外のことは極力、法律でしばらない方がよいのではないかと思うのですがいかがでしょう。「労働市場の機能の確保」のためにマージン率の開示が必要とは思えません。すでに以前の規制改革会議からも濫用防止に絞った方がよいとの指摘がされています。

今回の「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」では、政策決定のスピードのことも言われていますが、決めなくてもよいことを決めようとするから時間がかかるということもあるように思われます。

労使協議に委ねるべきことや事業規制については法制度の範囲から外すことでスピードも速くなるのではないでしょうか。

求められることは政治家の資質

国会私は前述のように、当事者となる人選や法制度の範囲を見直すことで、従来の研究会、労働政策審議会を経るプロセスにそのものついて維持することについては妥当と思います。

現在のように首相官邸主導で法規制改革が図られているとしても、やはり専門家や当事者の意見は十分に聴くべきだと思うので、これまでのプロセスを飛ばしてもというわけにはいかないのではないかと思います。

一方では最終的な決定は国会でということも崩しようがないのだと思いますが、そうなるとその最終的な議論に加わる政治家の質は極めて重要ではないでしょうか。

平成27年改正労働者派遣法では国会での附帯決議で驚くようなオマケがついてしまいました。私は国会審議を見守っていましたが、政府の答弁を見る限り、内容をきちんと理解しているとは思えないようなもので、一定程度まとまっていたものが、大きく歪められたという印象が強く残るものとなりました。

もっとも、その政治家を選んでいるのは私たちということになるので、そこから見直さなければならないという話ですが、樋口氏の「政策決定スピードについては労政審だけでなく、検討会や国会審議も含めた精査が必要」というのが言い得て妙ということでしょうか。

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