12月19日付日本経済新聞テレビのニュースは、プーチン大統領の来日に占拠され、秋田犬の箸置きを持って帰ったという話まで詳細に報道されていますが、プーチン大統領の来日がなければ間違いなく一面トップになっただろうと思えるのが「同一労働同一賃金」です。

本日12月16日の日本経済新聞、一面に「非正規にも賞与 政府指針案、同一賃金へ支給求める」、そして詳細として経済面に「賃金差是正を優先 「同一賃金」政府案 生産性向上に課題」という記事が掲載されました(最下段に引用)。

このガイドラインは、内閣府主導の「働き方改革実現会議」から出されたもののようです。

一方では、厚生労働省の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」の中間報告も本日公開されました。これらの内容はニュアンスが異っています。

「同一労働同一賃金」のガイドラインについては、業界の見識の高い皆さんもかなり注視されていることと思いますのでその内容を見てみましょう。

すべて非公開の議論からの中間報告

「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」は、本年3月23日に設置されて以来、11回に渡って開催されてきたものですが、他の検討会と圧倒的に異なる点として、一回たりとも公開されておらず、すべて非公開で議論が進んだことが挙げられます。

議事録が公開されているからよいというものではないように思います。まずは、プロセスの不透明さは拭えません。

ガイドラインは、実際には12月20日に「働き方改革実現会議」から正式に示されることになりますが、「率直な意見交換を期すため」という理由で閉じられた議論になったことは残念です。

法的拘束力のないガイドライン

日経新聞の記事によれば、「ガイドライン自体に法的拘束力はないが、待遇差の是正が裁判で争われたときに司法判断の参考となる可能性がある」となっています。

そもそも「ガイドライン」というものは、「指針」「指標」「ルール」「マナー」などと解釈されますが、これが時と場合によって捉えられ方が違う。行政レベルでは地域や指導監督官によって理解が違うということが非常に困りますね。

曖昧な「ガイドライン」によって、行政指導が行われるので、その判断にはかなりバラツキがあるというのが問題です。

しかし、「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」の中間報告では、「ガイドライン『案』は現時点では効力を発生させるものではない旨をきちんと周知すべきである」としており、ルールとして押し付けるものではないことが提言されています。

「きちんと周知」して欲しいものです。

待遇差の説明責任なし

この記事の一番のミソは、「待遇差に関する説明責任はない」ということです。説明責任がないのであれば、ある意味、どうとでもできてしまうことになりますね。

企業側の立場から見ると「合理的理由のない不利益取扱いの禁止」と言っているにもかかわらず、合理的理由を説明する責任はないというのは抜け穴そのものです。

中間報告では「いわゆる「職務分離」の動き形式的に違った職務を割り当てる形でガイドラインを形式的に守ろうとする動き)が広がってしまうおそれがある」と、敢えて説明責任を追求せず一定の時間をおいたうえで民間の取り組みを促すとしています。

私自身、これまでも「同一労働同一賃金は理想だが、法律として縛るものではない」と言ってきましたが、そのような落としどころになるということでしょうか。

賞与については業界からも驚きの声

この記事にある賞与については業界内でも驚きの声があがっていますが、待遇全般を見渡せば賞与もその対象になることはある程度は予見されるものでした。

パートタイム労働法ではすでに第10条に「職務の内容に密接に関連して支払われる賃金(基本給、賞与、役付手当等)について、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、短時間労働者の職務内容、能力、経験等を勘案し、決定(努力義務)」となっており、労働契約法、労働者派遣法との一括改正ということで言えば、その内容が後退するとは思えず、何らかの考え方は盛り込まれるだろうことは考えられたことです。

この記事では賞与についてかなり明確に「会社の業績など貢献に応じた部分は非正規にも正社員と同一支給を」とされています。

%e5%8a%b4%e5%83%8d%e6%96%b0%e8%81%9e%e5%90%8c%e4%b8%80%e5%8a%b4%e5%83%8d%e5%90%8c%e4%b8%80%e8%b3%83%e9%87%91すでに発刊されている12月19日付の労働新聞の一面トップでは、「『過大な負担』を懸念という記事が掲載されているように、使用者側からはかなりの反発も予想されるのではないでしょうか。

「正社員の賃金水準の引き下げによる対応は許されない」とされていますが、人件費割合を高めることは企業経営にとっては死活問題にもなるため、実質的には引き下げの方向に向かうことになるように思います。

つまりいわゆる正社員の賃金は、下がらないまでも上がらないという状況になるのではないでしょうか。まさに正規、非正規の労労対立そのものです。

労働者派遣は派遣先社員との同一待遇に

派遣社員については、記事では「職務内容が派遣先社員と同じ場合、賃金や福利厚生の待遇を同一に」とされています。

わざわざ「派遣先社員と同じ場合」ということは、これまでほとんど職務給で賃金レベルが決まって来た労働者派遣については、職務よりも派遣先による同一賃金を優先させるということでしょうか。

ほぼ職務型の賃金体系になっている労働者派遣が職能型でもない企業依存型?の賃金体系になるのは違和感があります。

この記事だけを見るとかなり無理があり、大きな矛盾をはらむことになりますが、中間報告では、特に労働者派遣だけを採り出して以下のように記述しています。

派遣社員に対する対応 

派遣社員について、均等・均衡待遇をどのように進めていくかは、他の非正規社員の待遇改善とは異なる方法をとることが適切か、その方法としてどのようなものがあるかも含めて、今後さらに検討していく必要がある。

派遣社員の待遇改善に際しては、まずは派遣元事業者内の他の社員との待遇格差の是正がある。

これは、有期契約社員やパートタイム社員の待遇格差是正と同様に進めていくべきであろう。

その際、派遣事業では非正規社員が社員の大半を占めることもあるため、労使の適切な検討プロセスを経て取り組み方針を決定していくことが一層重要となる。

派遣先社員との均等・均衡待遇に関しては、派遣元事業者と派遣先事業者との間の連携・協力の在り方、労働市場における派遣社員のキャリア形成等、派遣特殊的な論点があり、その在り方については、本検討会でも議論が尽くされていない。

欧州諸国では、派遣先社員と派遣社員の均等・均衡に関しては、直接雇用とは異なる派遣特殊的な方法が採られている国もあり、企業横断的賃金決定メカニズムが存在しない我が国ではさらに丁寧な制度設計が求められる。

要するに「まだこれから」ということになります。中間報告の内容は極めて現実を考慮した良識的なものだと思います。

労働者派遣法は、労働契約法とパートタイム労働法とは異なった運用が求められる可能性が高いということが言えるでしょう。

ますます求められる「真の経営力」

いずれにしても、いつも言うように、今後、労働者派遣事業者にとって求められることは「真の経営力」です。

同一労同一賃金では、すでに交通費などの手当てについても対象として採り上げられています。

中間報告でも「手当を優先的に」としていることから、手当や福利厚生、設備の利用などについては、盛り込まれる可能性が高いため、より一層の経営努力が求められることになります。

丁度、昨日、業界の重鎮と言われる方と話をする機会があったのですが、「これまでの事業者の成長は体力勝負だった。昨今、興隆している事業者は若くて体力のある事業者ばかりだ。結局、経営として進歩をしているわけではなくいわゆる体力で売り上げが拡大しているだけであろう。本来は経営力としてしくみを整えることが重要だ」と仰っていました。

私もまさにその通りだと思っています。膨張ではなく成長…「真の経営力」はインサイドアウトからしか身につきません。経営力とは売上を上げることだけに執心することではありません。

なかなかその域に達しないとも言えますが、技術革新への対応も含めて今後はどうしても経営力を身につけることが必要になるはずです。

中間報告をきちんと読むと、現時点で新聞の記事に一喜一憂することもないとは思いますが、議論の行方については十分注視する必要があります。

「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」の中間報告

日本経済新聞 12月16日朝刊

非正規にも賞与 政府指針案、同一賃金へ支給求める(一面)

政府が働き方改革の目玉としている同一労働同一賃金の実現に向け、正社員と非正規労働者の賃金のあり方や不合理な待遇差を示したガイドライン案が分かった。

%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%83%e3%83%97%e3%83%9c%e3%83%bc%e3%83%8901賞与では「業績などへの貢献に応じた部分は同一の支給をしなければならない」と明示。

原則として非正規労働者にも賞与の支給を求める内容で、処遇の改善につながる見通しだ。

政府は20日に第5回の働き方改革実現会議を開き、ガイドライン案を示す。

賃金や福利厚生など労働者の処遇全般について、待遇差の基本的な考え方を明記。具体的な事例を盛り込みながら説明している。

特に企業や非正規労働者への影響が大きいのは賞与だ。

業績などへの貢献度合いが同じ場合は同一の支給を求めるとともに「貢献に違いがある場合にはその差異に応じた支給をしなければならない」とも明記した。

企業では非正規労働者に賞与を支給していない場合も多い。

厚生労働省の調査では、賞与を正社員に支給する会社は8割を超すのに対して、パート労働者には4割弱にとどまる。

金額も従業員1000人以上の企業ではフルタイム労働者が130万円超なのに対して、パート労働者は4万円に満たない。

基本給を決める要素を「職業経験や能力」「業績・成果」「勤続年数」の3つに分類した。

それぞれの要素が正社員と非正規労働者で同一であれば同じ水準の支給を原則としつつ、違いがある場合には待遇差を認める。

時間外勤務や深夜・休日手当は同じ割増率で支払わなければならないとした。

通勤手当や出張費、慶弔手当なども同一の支給を促す。社員食堂や更衣室の利用といった福利厚生や、職業訓練の受講機会なども同一とするように求めた。

待遇差の理由を従業員に説明する義務は記載を見送った。

政府は年明けから関連する法律の改正作業を本格化させる。

ガイドライン自体に法的拘束力はないが、待遇差の是正が裁判で争われたときに司法判断の参考となる可能性がある。

企業はガイドラインを参考に、賃金制度や職務規定の一定の変更を迫られる見通しだ。

賃金差是正を優先 「同一賃金」政府案 生産性向上に課題(経済面)

同じ仕事に同じ賃金を支払う「同一労働同一賃金」の実現に向けたガイドライン案は、安倍政権が進める非正規労働者の処遇改善で大きな役割を担う。

最低賃金の大幅引き上げ、経済界へのベースアップ(ベア)要請を合わせた「3点セット」で、減速感が漂うアベノミクスの再加速につなげる。

ただ賃金差を是正するだけでは、経済成長を支える生産性の向上にはつながらない。

「正規と非正規の賃金差は特に大企業において顕著であり、是正の必要がある」。

安倍晋三首相は11月29日に開かれた働き方改革実現会議で、ひときわ力を込めた。

アベノミクスは賃上げによって個人消費を底上げし、経済の好循環を実現することに力点がある。

最大の推進力となるのが同一労働同一賃金だ。

フランスやドイツでは業種ごとに同一労働同一賃金が定められ、労使交渉も業種単位で実施する。

職種や技能のレベルに応じて賃金が決まり、正社員と非正規労働者の間で共通だ。

企業ごとに賃金制度が異なる日本にそのまま導入することは不可能。

そこで政府は不合理な待遇差をできるだけ具体的な実例で示し、企業に格差の是正を促す方策を採った。

日本は欧州諸国と比べて正社員と非正規労働者の処遇格差が大きい。

日本ではパートタイム労働者の時間あたり賃金がフルタイム労働者の6割弱にとどまる。

米国の3割に比べれば格差は小さいが、フランスの9割、ドイツの8割より大きく見劣りする。

%e3%82%af%e3%83%aa%e3%83%83%e3%83%97%e3%83%9c%e3%83%bc%e3%83%8902賞与も加味した賃金差はさらに大きく、特に大企業で格差が深刻だ。

能力や経験、役割の違いによって賃金差が生じるのは当然だが、一部の企業では許容できる範囲を超えているのではないか。

政府の問題意識はそこにある。大きすぎる格差は非正規労働者のやる気をそぎ、生産性の向上にとっても大きなマイナス材料だ。

働いた成果に正当に報いる仕組みの構築が必須だ。

企業の懸念は総人件費の増加にある。

政府が講じるべきは、企業の生産性を高めることを後押しする改革だ。

時間ではなく成果で評価する脱時間給を盛り込んだ労働基準法改正案は今国会でも成立が見送られた。

経済界の不満は根強い。政府も企業に改革を求めるのであれば、自分たちも一歩を踏み出す必要がある。

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