こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。…最初のフレーズ、単語登録しました(笑)。

昨日、2月1日(水)に「第6回働き方改革実現会議」が首相官邸で開催されました。

ニュースや新聞を見る限り「長時間労働是正」のことばかりが報じられています。

議題としては、「同一労働同一賃金」「長時間労働是正」となっているので、同一労働同一賃金についても語られたはずです。

なぜか報じられた形跡がありません。どなたかご存知ですか?

しかたがないので、いろいろと調べてみました。その結果を皆さんにも共有します。

「同一労働同一賃金」も議論されていた

会議は、17時40分~18時40分のおよそ1時間が費やされましたが、半分ぐらいは同一労働同一賃金についてだったということがわかりました。

残りの半分は長時間労働の是正ということになりますが、報道では長時間労働ばかりがクローズアップされたということです。

長時間労働も雇用について関わる人材サービス事業者の皆さんにとっては重要なトピックだとは思います。

しかし、人材サービスに携わる皆さんにとっては、労働者派遣法の平成27年改正法でパッケージとして附帯決議がついた「同一労働同一賃金」の方が業務上にも影響が大きいのではないでしょうか。

議論という名の「御前会議」

会議は、有識者の委員から順次、発言があり、最後に安倍総理が挨拶をするというもの。いわゆる御前会議ですね。

会議でありながら、しかも議論と言いながら、話し合いも討議もありません。

ひたすら、各委員が用意した資料にしたがって好きなことを述べるだけ。恐らく安倍総理も用意されたコメントを最後に述べただけということでしょう。

これならば国会の議論の方がまだおもしろいという感じです。

結論は「裁判で争うことが可能な法制度」

逆に言うと、最初から結論は決まっていて、誰がどう言おうと安倍総理のコメントは決まっており、それで閉会。

まずは結論からということで、安倍総理の最後の挨拶から見てみましょう。ここでは「同一労働同一賃金」にしぼります。

安倍総理コメント

本日は、同一労働同一賃金の法制度の在り方及び長時間労働是正について、御議論いただきました。

正規・非正規を問わず、仕事ぶりや能力がきちんと評価され、意欲をもって働けるよう、同一労働同一賃金の導入により、不合理な待遇差をなくさなければなりません。

そのためには、企業の中で、正規・非正規を含めた労使の話合いがなされることが大切であります。

同一労働同一賃金の法制度の在り方について、様々な御意見をいただきました。

大切なことは、不合理な待遇差の是正を求める労働者が、最終的には、実際に裁判で争うことが可能な法制度とすることであります。

企業側しか持っていない情報のために、労使の話合いの際に労働者が不利になることのないよう、さらには、労働者が訴訟を起こせないといったことがないよう、法制度の在り方について、実行計画の取りまとめに向けて、御審議をお願いします。

コメントの前半はこれまでも述べられてきたことばかりです。

ここで注目しなければならないのは、安倍総理も「大切なことは」と言っているように、「不合理な待遇差の是正を求める労働者が、最終的には、実際に裁判で争うことが可能な法制度とする」ということです。

今後、、今後の同一労働同一賃金の議論で、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の改正が採り上げられることになりますが、かなり重要なポイントになると思います。

要するに、改正される法規制の議論では「裁判で争うことが可能かどうか」が焦点になるということです。

安倍総理のコメントへの導線

この日の会議で出された「同一労働同一賃金」に関するコメントをすべて読むと、安倍総理のコメントが自然に導き出されるようになっています。

まずは、「同一労働同一賃金」を先導している東京大学の水町先生。

私は以前、水町先生の研究室にもお伺いしたことがありますが、カジュアルに現場の声を聴こうとする姿勢は好感がもてます。

水町先生の発言力は、現在の若手の学識者としては日本大学の安藤至大先生と双璧ではないでしょうか。

水町先生のコメントの中にも「待遇差の不合理性が裁判所で審査されうるような規定とすることが重要」と入っています。

その水町先生のコメントに少し手綱を引いているのが、慶應義塾大学の樋口美雄先生と東京大学の岩村正彦先生です。

樋口先生とも何度かご挨拶したことがありますが、非常にロジカルでいつもわかりやすいお話をしてくださいます。

樋口先生は、「労使で十分に話し合い、最終的には裁判で」とコメントされており、まずは労使でということが見て取れます。あまり政府が介入しない方が健全ですね。

岩村先生は、「非正規労働者も含めた労働者の代表や労働組合と使用者とが協議・交渉」とし、いわゆる非正規労働者も含めることを指摘しています。これも結構、重要な視点だと思います。

また、岩村先生は、三者構成の原則に則った労働政策審議会での議論の必要性についても指摘しています。

これまで内閣府主導で進んできた議論も専門性の必要な内容については厚生労働省の公労使での議論が必要ということでしょう。

概ね、水町先生の牽引に対して、ベテランの樋口先生、岩村先生が補足しながら方向が決まっているという感じです。

「労働者派遣法」は別扱い

ガイドライン案でもすでに労働者派遣は別な扱いがされていますが、樋口先生のコメントには注目が必要です。

派遣労働者については、単に派遣先の労働者と待遇を比較するやり方だけでは、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、労働者にとって不安定であり、派遣元による段階的・体系的な教育訓練等のキャリアアップ支援と不整合な事態を招きかねない。

これまで私もことあるごとに言ってきたことですが、労働者派遣はもともと職務型の雇用にあるため、派遣先の労働者との均衡というのはおかしな話になるということです。

樋口先生のコメントは、非常に的を射たものでこれを読んだだけでスッキリします。

岩村先生が労働政策審議会でと発言され、労働政策審議会の会長の樋口先生が派遣は別とおっしゃっている。つまり、最終的に派遣は別になるということですね。

おそらく、もともと職務型の雇用という意味では、派遣先ではなく、同一職種での賃金設定に不合理がなければよいということになるのではないでしょうか。

慎重な表現とすれば、派遣先企業の同一職種との均衡を配慮しながら、同一職種で均衡をたもつ賃金設定でもかまわないということかもしれません。

人材派遣事業者としてはオペレーション上も重要なところですが、大分見えてきたような気がします。

「ガイドライン案」への労使の評価

この他のコメントとしては、連合、日本総研、イトーヨーカ堂、と労使あるいは有識者のコメントが続いています。

連合は、いつものように「もっと厳しく」というスタンス、イトーヨーカ堂は「ガイドライン案でよい」という受け止め方です。

連合の神津会長は、合理性の立証責任は、使用者が負うことを求めています。

実効性という観点では私もその方がスジは通っているとは思いますが、あまり強硬なものにしてしまうと日本経済が硬直化してというしまうという現実論もあります。

そこら辺はさじ加減ということではないでしょうか。

イトーヨーカ堂の田中氏は、ガイドライン案については評価するものの「法改正施行までは、一定の期間をとるべき」と現実的な路線でコメントをしています。いわゆる非正規比率が高い同社では必要なのでしょう。

気になることは、日本総研の高橋理事長。派遣について「派遣先の従業員との比較での不合理な待遇差を禁止することを基本とする制度を設けるべき」と派遣先社員との均衡に軸足があります。

高橋理事長とも一度だけお目にかかったことがあります。テレビ東京のワールドビジネスサテライトのコメントもスッキリしていて好きなのですけどね。

日本総研には、私も業務上お世話になったことのある山田久さんというよくわかっている専門家がいらっしゃるので、ぜひ調整をお願いしたいところです。

ADRってなに?

最後に「ADR」という言葉。ここにきて急に出てきたような気がしますが、一体何でしょう。

調べてみると、ADRとは「裁判外紛争解決手続」のことで、Alternative Dispute Resolutionの略だそうです。

現状、個別労働紛争になると、労働局のあっせん、労働審判、裁判という道筋がありますが、これ以外に何らかのしくみを創るのか、現状の道筋を整理するのかはよくわかりません。

恐らく厚生労働省では「予見可能性の高い紛争解決システムの構築」、つまり金銭解雇のことも睨んで、ADRということをクローズアップしているのではないでしょうか。

今週は、金銭解雇のことも話題になっていましたが考えすぎですか?

以下、「第6回働き方改革実現会議」の「同一労働同一賃金」に関するコメントをすべて掲載します。勉強になりますよ。

よい週末をお過ごしください。

東京大学社会科学研究所 水町勇一郎氏

○政府の「同一労働同一賃金ガイドライン案」(平成28年12月20日)の根拠となる法律規定を整備する必要がある。

具体的には、労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法にその根拠となる規定を置く法律改正を行うことが必要である。

その際には、「ガイドライン案」に明示されていない退職金、家族手当などの給付や事例も含め、賃金、福利厚生、教育訓練などすべての労働条件について、待遇差の不合理性が裁判所で審査されうるような規定とすることが重要である。

○待遇差に関する使用者の説明義務を法律上明確な形で定めるべきである。待遇差の合理性・不合理性について、裁判上の立証責任を使用者が負うのか労働者が負うのかに世間の注目が集まっている。

法的には、この点は「規範的要件」と呼ばれるものであり、いずれにしても、使用者と労働者の双方がそれぞれ自らの主張を基礎づける事実について立証をし、裁判官が責任をもって判断すべきものであると考えられている。   

例 1)「待遇の相違は合理的なものでなければならない」と法律で規定     

→ 使用者が評価根拠事実(待遇の相違が合理的であること)を立証       

→ 労働者が評価障害事実(待遇の相違が合理的でないこと)を立証     

⇒ 裁判官が両者を踏まえて「合理的」か否かを判断   

例 2)「待遇の相違は不合理なものであってはならない」と法律で規定     

→ 労働者が評価根拠事実(待遇の相違が不合理であること)を立証      

→ 使用者が評価障害事実(待遇の相違が不合理でないこと)を立証     

⇒ 裁判官が両者を踏まえて「不合理」か否かを判断    

ここでより重要なのは、労働者の待遇について制度の設計と運用をしている使用者に、待遇差についての労働者への説明義務を課し、労働者と使用者の間の情報の偏りをなくすことである。これによって、待遇に関する納得性・透明性を高めるとともに、不合理な待遇差がある場合にその裁判での是正を容易にすることができる。

○待遇差についての疑問や紛争が生じた場合の相談や解決の機関として、裁判所だけでなく、より簡易で迅速に問題の解決につなげることができるような制度、例えば裁判外の紛争解決手続き、いわゆる行政ADRを当事者が身近に利用できるようにする法整備を行うことも重要である。

慶應義塾大学 樋口美雄氏

〇同一労働同一賃金の法制については、正規・非正規の不合理な待遇差がなくなるように労使で十分に話し合い、最終的には裁判で、しっかりと是正されることが必要。

・正規と非正規の待遇差については、ガイドライン案で示された内容のみならず、ガイドライン案に記載されていない待遇の項目や、問題となる例・問題とならない例として示されていないケースも含め、最終的には、裁判で争われる際に、不合理な待遇差が是正される制度とすることが必要。

・待遇差の理由などに関し、使用者側のみが有している情報を労働者が必要とする場合がある。このため、使用者側に、労働者の待遇差について、説明義務を課し、その内容について、労使間の情報の非対称性をなくしていくものとする。

・不合理な待遇差は、最終的には裁判で是正されるとしても、コストなどハードルが高い面もある。裁判を提起する前段階で、労働者が活用できるADRの制度を整備することも必要。

・派遣労働者については、単に派遣先の労働者と待遇を比較するやり方だけでは、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わり、労働者にとって不安定であり、派遣元による段階的・体系的な教育訓練等のキャリアアップ支援と不整合な事態を招きかねない。

東京大学教授 岩村正彦氏

> 有期雇用は高齢者の雇用創出や欧州では若年者の雇用創出という有益な機能もあり、パートタイム雇用とは必ずしも問題が同じではない(私の第4回、第5回提出資料参照)。有期雇用が持つ上記のような効用を損なわない条文とすべき。

たとえば、争われている手当以外の支給状況や雇用保険・年金から支給される給付の受給状況が処遇格差が不合理であるかの判断にあたって考慮要素となることを明記するのが適切。

> 第4回・第5回提出資料でも指摘したように、非正規従業員の処遇改善を着実に、かつ混乱や弊害を発生させずに推進させるためには、賃金体系全体の見直しを非正規労働者も含めた労働者の代表や労働組合と使用者とが協議・交渉によって進めることを促す規定を盛り込むことが適切。改正法の施行時期もこうした労使協議・交渉のための時間の確保を見込んで設定すべき。

> 加えて、上記のような労使の協議・交渉を促すために、処遇格差が不合理であるかの判断のための考慮要素として、争われている手当等の処遇に関する労使協議・交渉の経緯も含めることが適切。

> 具体的な法律案の作成にあたっては、企業の賃金・処遇の実情を熟している労使を含めた三者構成の労働政策審議会で、労使 の意見も聞きつつ議論をし、それにもとづいて成案を練り上げることが肝要。

連合会長 神津里季生氏

真に非正規雇用労働者の処遇改善に資する実効性ある法規制の実現に向け、以下の点に留意して法制化作業を進めるべき。

1.雇用形態間の合理的理由のない処遇格差を禁止すべき。

法制化の方法は、雇用形態間の合理的理由のない処遇格差を禁止するものとすべき(派遣労働者については派遣先企業で直接雇用される労働者との均等待遇)。この場合、同一企業内での雇用形態間の均等待遇をいうものとし、原則を適用すべき労働条件は、賃金・一時金などだけでなく処遇全般とすべき。

2.労働契約法に総則的規定を置いた上で、関係法の見直しを行い、強行的・直律的効力を持たせるべき。

労働契約法に全般的にカバーするための総則的規定を置き、関係法(労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法等)も所要の見直しを行うべき。なお、総則的規定はこれに反する部分を無効とする強行規定であるとともに、無効とされた部分を補完する直律的効力もあることを併せて明記すべき。

3.合理性の立証責任は、使用者が負うものとすべき。

労働者と使用者の力関係による各労働者の労働条件や人事管理に関する情報の偏在を解消し、法律の実効性を高めるため、合理性の立証責任は使用者が負うものとすべき。

4.職場の集団的労使関係での話し合いに基づく納得性のある処遇にすべき。

職場の集団的労使関係の中で、実質的な話し合いを行い、納得性のある処遇にすべきであり、その際には、非正規雇用労働者の声も踏まえた実質的な話し合いが行われるようにすべき。

5.労働政策審議会において速やかに議論を行うべき。

非正規雇用労働者が雇用労働者の約4割を占める中、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の合理的な理由のない格差の解消は待ったなしの課題。法規制のあり方については、ガイドライン(案)とともに、現場実態を熟知した労使が参画する労働政策審議会において速やかに議論を開始し、真に実効性ある法規制を早急に実現すべき。

日本総合研究所理事長 高橋進氏

> 正規と非正規の間の不合理な待遇差については、ガイドライン案で取り上げられていない処遇(退職金など)も含め、裁判で争われ、是正されることが可能となる実効的な制度とすべき

> 最終的には裁判で解決されるべきものであるが、裁判にはコストがかかるため、労働者側が容易に利用できる紛争処理スキーム(ADR)も整備すべき

> 労働者派遣については、現行制度上、不合理な待遇差を禁止する規定が存在しない。派遣先の従業員との比較での不合理な待遇差を禁止することを基本とする制度を設けるべき

> この際、派遣先の従業員の処遇に関する情報を持たない派遣元事業者がルールを順守するためには派遣先企業から派遣元企業への情報提供が必要となることなど、有期雇用やパートにはない視点も含め、実効性のある制度とすべき

イトーヨーカ堂 田中弘樹氏

同一労働同一賃金「ガイドライン案」について

> 政府の同一労働同一賃金「ガイドライン案」は、「同一とすべきもの」と「差を認めるもの」の両方を明示したものとなっている。

> これは、不合理な処遇格差の是正だけでなく、正社員登用への道や多様な働き方に資する処遇体系も認めたものであり、労働者ニーズと日本の雇用実態を踏まえており、非常に評価できる。

> したがって、この「ガイドライン案」の実効性を高め、かつ、非正規社員のキャリアパスを阻害するような「職務分離」が起きないよう留意して、法制化を進めるべきである。

ガイドライン案に関する法制化について

>「ガイドライン」の法改正施行までは、一定の期間をとるべきである。

> 今回の対応は処遇全般にかかわることであり、社内で納得のいくものを作ることが同一労働同一労働の実行力を高めることに繋がる。

> したがって、労使で納得感を得られるように十分に議論がなされるための時間は確保すべきである。

>「賃金格差の合理性」を説明することは、誰であっても非常に困難であり、その説明義務を企業に求めるとなると大きな問題を引き起こす懸念がある。

> それは「職務分離」である。そもそも説明が困難なものについて、争いになったときに説明義務を負うとなれば、企業は非正規社員に補助的な仕事しか与えなくなる。

> これでは、従来以上に正規・非正規という2つの区分に集約・分離してしまい、多様な働き方や正社員登用への道といった目的から大きく後退してしまう。

> イトーヨーカ堂では、全社員に処遇基準を公開。長年議論を重ね、納得感のある処遇制度を作り上げてきた。

> 現行法を更に進めた「定期的な賃金制度等の開示」によって「ガイドライン」の実効性は高まるのではないか。

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