こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

やっと桜が咲き始めました。いよいよです。

さて、昨日、3月28日の夕刻17:40~18:15に働き方改革実現会議が開催され、「働き方改革実行計画」が公表されました。

今日は、この「働き方改革実行計画」によって労働者派遣はどうなるかという観点で書いてみたいと思います。

ほとんど触れられない人材派遣

働き方改革実現会議では、長時間労働の是正をはじめ、女性・若年層、高齢者の雇用、外国人労働者など多岐にわたっているため、人材派遣については、ほとんど陰に隠れている状況です。

まずは主要メディアの論調ですが、人材派遣については毎日新聞でわずかに触れられた以外は、言及しているものは見当たりません。

読売新聞:働き方改革、19年度導入…同一賃金や残業規制

朝日新聞:運送業と建設業、残業規制を猶予 働き方改革実行計画決定

毎日新聞:長時間労働に法規制 派遣も同一待遇 政府決定

日本経済新聞:働き方改革へ実行計画 残業上限や同一賃金

産経新聞:働き方改革実行計画を決定 平成31年4月にも関連法施行

NHK:働き方改革に向け改正法案の策定加速へ 政府

毎日新聞は、人材派遣について以下のように触れていますが、これだけでは何を意味するのかわかりません。

派遣労働者の賃金水準が派遣先の変更で変わることを防ぐ方策も盛り込んだ。派遣労働者を受け入れている企業が、派遣会社に対して賃金など待遇に関する情報を提供するよう義務付ける。派遣労働者の賃金水準を同業種の労働者と同等以上とすることを労使協定に盛り込むことなども求めている。

ただ、論調としては、派遣に厳しい見方をする毎日新聞にしては比較的冷静というのが感想です。

人材派遣にとってはまずは一息

先週3月22日の拙ブログ「派遣法に与える『同一労働同一賃金』のおかしな議論」に書きましたが、同一労働同一賃金の議論については、「派遣先との均等・均衡」が義務づけられると、人材派遣業界にとってかなり厄介なことになると危惧されるものでした。

実際、この3月22日時点では、本当に危うい状態で、業界関係者の一部でもかなり深刻な議論が飛んでいました。

昨日公表された実行計画では、条件付きで派遣先との均等・均衡を求めないとされ、最悪の事態は回避できたようです。

派遣先労働者との均等・均衡待遇を求めない

「働き方改革実行計画」は、10年先までのロードマップを含めて61ページありますが、その中から人材派遣に関することだけを抽出すると以下になります。

2.同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善(抜粋)

(1)同一労働同一賃金の実効性を確保する法制度とガイドラインの整備

(同一労働同一賃金のガイドライン)

④ 派遣労働者の取扱 派遣元事業者は派遣労働者に対し、派遣先の労働者と職務内容、職務内容・ 配置の変更範囲、その他の事情が同一であれば同一の、違いがあれば違いに応じた賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施が求められる。

(法改正の方向性)

④ 派遣労働者に関する法整備派遣元事業者は、派遣先労働者の賃金水準等の情報が無ければ、派遣労働者の派遣先労働者との均等・均衡待遇の確保義務を履行できない。

このため、派遣先事業者に対し、派遣先労働者の賃金等の待遇に関する情報を派遣元事業者に提供する義務などの規定を整備する。

一方、派遣労働者については、同一労働同一賃金の適用により、派遣先が変わるごとに賃金水準が変わることで不安定となり、派遣元事業者による段階的・体系的な教育訓練等のキャリアアップ支援と不整合な事態を招くこともありうる。

このため、ドイツでは、労働協約を締結することで同一労働同一賃金の適用を除外している。

しかしながら単に労使の合意のみに委ねると、同一労働同一賃金の実効性を担保できない恐れがある。

このため、派遣労働者として十分に保護が図られている場合として以下の3要件を満たす労使協定を締結した場合については、派遣先労働者との均等・均衡待遇を求めないこととする。

この場合でも、単に要件を満たす労使協定を締結することだけでは足りず、3要件を満たす形で協定が実際に履行されていることが求められる。

<1>同種業務の一般の労働者の賃金水準と同等以上であること

<2>派遣労働者のキャリア形成を前提に能力を適切に評価して賃金に反映させていくこと

<3>賃金以外の待遇について派遣元事業者に雇われている正規雇用労働者の待遇と比較して不合理でないこと

この中のキモは何と言っても「派遣労働者として十分に保護が図られている場合は、派遣先労働者との均等・均衡待遇を求めない」というものです。

裏を返せば、条件が整っていれば派遣先との均等・均衡だけでなく、派遣元での均等・均衡でもよいということになります。

まったく実効性がない派遣先との均等・均衡よりはよいと言える状態です。

人材派遣は、もともと職務型の雇用形態のため、敢えてました職能型かつ企業別労働組合の枠組みに抑え込むことはいかがなものかと思っていたのでまずは一息です。

派遣元での均等・均衡の条件

気になるのはその条件ですが、以下の3点です。

まず「<1>同種業務の一般の労働者の賃金水準と同等以上であること。」ですが、 これまでも概ね市場の相場によって賃金が設定されてきた経緯があるので、大きく変わることはないでしょう。

つぎの「<2>派遣労働者のキャリア形成を前提に能力を適切に評価して賃金に反映させていくこと。」は、平成27年改正法で物議を醸したキャリア形成支援を彷彿とさせるものがあります。

どのようにその能力を適切に評価するのかということは、かなり主観的な要素も含まれるためまた問題になりそうです。

最後の「<3>賃金以外の待遇について派遣元事業者に雇われている正規雇用労働者の待遇と比較して不合理でないこと。」は、事業者としての説明責任を負うことになります。

労働者派遣事業では、内勤社員が行っていないような業務も多くありますが、そこら辺の扱いはどうなるのでしょう。

いずれにしても、これらの3つの条件をすべて満たし、労働協定を締結する必要があります。

今後は、この条件の強弱を巡って労働政策審議会での議論が進むものと思われます。

改正派遣法の施行は2019年4月?

今後は、労働政策審議会での議論、建議、年内には国会提出、法案成立を目指すことになりそうです。

早ければ2019年4月、遅くとも10月には施行はされることになると思われます。

同一労働同一賃金については、根本的に考え方が間違っていることから、私自身はかなり懐疑的です。これについては、また別の機会に書きたいと思います。

少なくとも目先のことだけで言えば、まずは概ね妥当と言えるでしょう。

※労働者派遣法、パートタイム労働法、労働契約法の3法一括改正の時期について、当初、2018年4月とお伝えしましたが、2019年4月の予定の誤りです。訂正してお詫び申し上げます。

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