こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

5月12日に開催された「第2回労働政策審議会条件分科会・職業安定分科会・雇用均等分科会同一労働同一賃金部会」(以下、「同一労働同一賃金部会」)にいってきました。

いつもの厚生労働省の会議室ではなく、今回は芝公園の中央労働委員会。会議の規模から言って、広めの会議室が適切ですね。蒸し風呂のような厚生労働省ではなくてよかったです。

労働者派遣法改正の前哨戦

さて、第2回の同一労働同一賃金部会では、前回に続いて厚生労働省から示された「論点(案)(短時間労働者・有期契約労働者関係)」にしたがって議論が行われました。

特に「行政による栽培外紛争解決手続等」「その他」を中心に審議がされています。

労働者派遣関係についてはまだ俎上にのっていませんが、3法一括改正という観点から、パートタイム労働法、労働契約法との整合性が図られることは十分に予想されることです。

恐らく、パートタイム労働法、労働契約法が整理されたものに労働者派遣法の特異点が加えられるカタチになるのだろうと思います。

第2回同一労働同一賃金部会は、労働者派遣法改正の前哨戦という位置づけと言えます。

一筋縄ではいかない「同一労働同一賃金」

そもそも何を以て均衡とするのかのグレーゾーンが大きいということが口々に指摘されました。今さらながらという気がしますが、基準がなければ待遇を同等にすることに難しいものがあることは当然です。

そして、そのような曖昧な判断基準で行政が、助言・指導・勧告あるいは公表することは好ましくない、行政も困るだろうという現実的な意見もがありました。そのとおりかと思います。

最終的には個別紛争で判断ということになるのでしょうか。仮に行政判断があったとしても本訴を妨げるものではない。労働者にとって労働委員会、労働審判などの選択肢もあるとのことで、結局は判断も曖昧、解決方法も曖昧という気がしないでもありません。

説明義務については負担の程度による差はやむを得ないが、きちんと説明できるかどうかが重要という意見もあり、やはり同一労働同一賃金が一筋縄ではいかないことを物語るような議論が続きました。

ガイドラインはわかりやすくとか、詳細にという意見もありましたが、細かすぎると裏をかく事業者が出る、テクニック的には縛りすぎない方がよいという指摘もあり、曖昧な部分は残るような気配です。

法改正の施行時期についても多くの発言がありましたが、これはすでに既定路線として働き方改革実現会議から2019年4月と実行計画が示されていることから、結果的には動かないのではないかと思われます。

日本型「同一労働同一賃金」

法律の建てつけとしては、4月24日のブログ「同一労働同一賃金に向けた派遣法改正の中身」でもお伝えしたように、やはり労働契約法20条、パートタイム労働法8条、9条あたりの整理がされそうです。

同一労働同一賃金の元々の考え方が経済対策という、ある意味で不純な動機によるもののせいか、格差是正のために同一企業内の均等・均衡待遇というところに落ち着いてしまっています。

それでは日本型雇用の延長線から脱することができず、将来的な発展性が見出せません。

一般的には「同一労働同一賃金」はヨーロッパ的な同じ仕事をしていれば同じ賃金という解釈がされますが、同一企業内の均等・均衡待遇を「同一労働同一賃金」と言ってしまうことには無理も感じられ、まやかしとも取られかねません。

日本型雇用から発した日本型「同一労働同一賃金」にはどこかいびつさを感ぜずにはいられないジレンマを感じます。

公益委員の日本総研の山田久氏からは、日本の雇用のあり方としてメンバーシップ型、ジョブ型をどう考えるのか議論すべき、東京大学の岩村先生からも集団的な労使関係の問題であるとの指摘がありました。本来はここからの議論が必要であると思います。

「分厚い中間層」の幻想

職務分離云々ということが言われますが、一般的にはすでに職務分離が進んだ状態が現状であり、今後、AIやIoT、ロボットなどにより働き方が大きく変わることを考えると、さらに職務分離は進むはずです。

ざっくり言えば、2割のメンバーシップ型雇用と8割のジョブ型雇用に分かれていくことは目に見えており、前政権が言っていたような「分厚い中間層」は幻想にすぎないのです。

企業は競争力を失い、そのまま日本の競争力も減退し、結果として望ましい雇用も失われていくのではないでしょうか。

必然に抗うことは、体力だけ消耗して得るものがないのではないでしょうか。

従来の日本型雇用を全否定することはないまでも、このような悪循環をたちきるためにも、日本型「同一労働同一賃金」からの脱却を図っていくことは非常に大切なことだと思います。

日本型「同一労働同一賃金」脱却の考え方

この第2回同一労働同一賃金部会では、昨年末平成28年12月16日にまとめられた「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告」の参考資料として示された検討会メンバーの個々の意見も配布されました。

実は、私はこの参考資料を失念していたので、この日になって改めて目をとおしました。この中には労働者派遣についても非常に重要なことが示されていることを知りました。

まず、座長の東京大学大学院経済学研究科の柳川範之教授の意見から抜粋すると以下とのことです。

同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告」の参考資料

東京大学大学院経済学研究科教授の柳川範之氏の意見(抜粋)

非正規労働者の待遇改善の問題を考えるうえでは、このように(いくつかの会社の)情報がきちんと提示され、できれば他社と比較できるようにしていくことが重要なポイントの一つだろう。

そうすれば、待遇が良い方を選択するという労働者側の選択を通じて、企業側は競争にさらされることになる。

他社と比べて低い賃金しか非正規労働者に与えていなければ、そこで働きたいと考える人がやがて減っていってしまうというメカニズムを通じて、賃金がある程度上昇すると同時に、同じような業務をしている人の賃金との差が小さくなっていくことが期待できる。

他社と比較できるようにしていくことが重要なポイント」と指摘されています。つまり企業横断的な「同一労働同一賃金」です。

経済学の視点として指摘されていますが、まさしくこのメカニズムを市場に求めることが日本型「同一労働同一賃金」脱却にもっとも近いもではないでしょうか。

同一企業内の「同一労働同一賃金」だけを追求している限り、このメカニズムは働きづらく、結果として当初の思惑である経済対策にさえいきつかないのではないかと思われます。

現実的な労働者派遣の「同一労働同一賃金」

労働者派遣については、ニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員(当時)の松浦民恵氏の以下の意見が非常に現実的なものとして映ります。

同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告」の参考資料

ニッセイ基礎研究所生活研究部主任研究員(当時)の松浦民恵氏の意見(抜粋)

派遣労働者については、均衡に係る3つの考慮要素(筆者注:①職務内容(業務内容・責任の程度)、②職務内容・配置の変更範囲(いわゆる「人材活用の仕組み」)、③その他の事情)のいずれを考慮しても同一にすべきと考えられる安全管理等については、直接雇用の場合と同様の対応がなされるべきだと考えられる。

ただし、派遣労働者については、平成27年の改正労働者派遣法において、派遣元事業主に対して、同一の組織単位に継続して3年間派遣される見込みがある派遣社員に関する雇用安定措置、雇用している派遣労働者に対するキャリアアップ措置が義務化されたばかりである。

特に基本給について、派遣先との均等・均衡のみがことさら強調されると、派遣先の直接雇用の給与水準が他の規模に比べて高い一方で、必ずしも難しい業務が割り振られるとは限らない大企業に、派遣労働者の派遣希望が集中し、労働市場横断的なキャリア形成が阻害され、中長期的な待遇改善のむしろマイナスになる懸念があることに留意する必要がある。

また、基本給における直接雇用との均等・均衡は、派遣先にとって、派遣料金に換算すると直接雇用よりも高いコスト負担となる可能性が高いことから、いわゆる「派遣切り」が誘発されることも危惧される。

松浦氏の指摘の通り、派遣先との均等・均衡が強調されると、むしろ派遣労働者にとってはマイナスになることの方が多いように思います。

働き方改革実現会議の実行計画にもすでに同様のことが記載されていますが、今後の議論としては、派遣先企業との均等・均衡待遇の扱いの程度が非常に重要になるのではないでしょうか。

派遣先企業から派遣元企業に待遇に関する説明が義務づけられたとしても、それがどの程度妥当なものかは派遣元には判断し得ないというのが実情です。

日本型「同一労働同一賃金」脱却の起爆剤

同一企業内の「同一労働同一賃金」を求める日本型「同一労働同一賃金」から脱却するためには、企業横断的な「同一労働同一賃金」を求めていくことが必要です。

派遣労働では企業横断的な賃金設定はすでに一般的なことが多く、これから同一企業内の「同一労働同一賃金」に後退することの方がむしろ現実味がありません。

これについては、「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告」の参考資料にあるリクルートワークス研究所主任研究員(当時)の中村天江氏の意見が目を引きます。

同一労働同一賃金の実現に向けた検討会 中間報告」の参考資料

リクルートワークス研究所主任研究員(当時)の中村天江氏の意見(抜粋)

派遣労働者の待遇改善には3つのアプローチが存在する。—–

第一のアプローチは、企業横断的な賃金格付けとキャリアラダーの整備を目指すものである。

フランスやドイツの労働協約賃金とそれに付随する諸制度は、内部労働市場が高度に発達した日本ではなじみにくい。

しかし、職種別に労働市場の相場で賃金が決まっている派遣労働に限れば、中長期的にはこの方向は十分射程に入る

「同一労働同一賃金」といった時に一般に想起される制度に最も近いのがこのアプローチだろう。

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派遣労働は「同一労働同一賃金」と相性がよい働き方である。その特性を強化していくことは、わが国における長期的な労働市場変革にも通じる。派遣労働者の待遇改善をどのようなアプローチで取り組んでいくのか決めることが、その最初の一歩である。

過去の日本型雇用からの経緯があるため、同一企業内の「同一労働同一賃金」を求めることは、ある意味仕方がないことなのだろとは思います。

しかし、今後の日本の雇用のあり方を考えると、企業横断的な「同一労働同一賃金」が一般化している派遣労働の賃金設定は、すでに次のステージに入っているとも言え、今後の賃金設定のスタンダードなものとして起爆剤になりえると言えます。

今回の派遣法改正にあっては、実行計画でも示されているように「同種業務の一般の労働者の賃金水準と同等以上であること」、つまり企業横断的な「同一労働同一賃金」を前提としたものであることを明確にする必要があるのではないでしょうか。

5月16日には第三回の同一労同一賃金部会が開催されます。ここでは派遣労働について議論される模様です。派遣法改正だけでなく日本の雇用のあり方を考える議論にして欲しいものです。

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