こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。
「今年は暑い!」と言われながらも、関東地方は毎日どんよりした、比較的気温の低いお盆シーズンが終わりました。
長い人は8月11日から20日までの10連休という方もいらっしゃったと思いますが、皆さんはゆっくりお休みされたでしょうか。
働いているのか休んでいるのかよくわからないような状態は生産性も悪いですから、働くときは働く、休むときは休むというメリハリは大切ですね。
■「労働政策総合推進法」制定?
さて、そんな長い休み中、8月18日づけの日本経済新聞で「労働政策総合推進法」制定という報道がされました。
この記事によると現行の「雇用対策法」を衣替えして、働き方改革の理念を盛り込んだ基本法を制定するとのことです。
ということで、早速その「雇用対策法」を見てみました。
内容は以下のようになっています。
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「基本法は国の重要政策の理念や方針を示すもの」とのことですが、現行の「雇用対策法」を見る限り、理念や方針というよりもかなり雑多な運用レベルの内容のような気がします。
■ 新たに基本法としての位置づけ
記事では「新たに基本法と位置づける」とされていますが、すでに現行の「雇用対策法」がかなり運用レベルに寄っていることを考えると、基本法としての位置づけと言っても限定的なような気がします。
たしかに「雇用対策法」第一条の目的には理念や方針が記載されています。今回の衣替えがこの部分をいじるだけということであれば、疎かな印象を拭えません。
(目的)
第一条 この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、雇用に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。 2 この法律の運用に当たつては、労働者の職業選択の自由及び事業主の雇用の管理についての自主性を尊重しなければならず、また、職業能力の開発及び向上を図り、職業を通じて自立しようとする労働者の意欲を高め、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努めなければならない。 |
ましては、現状では、2項の「労働者の職業選択の自由」や「事業主の雇用の管理についての自主性」については、尊重どころかむしろ一定の枠に抑え込むような法制度が増加しているとも思え、どのような扱いになるのかは注目すべき点のような気がします。
■「働き方改革関連法案」の露払い?
また第四条(国の施策)では、職業あっせん、知識・技能の習得、労働力需給の不均衡是正、再就職支援、女性・青少年・高年齢者・障がい者の職業安定、不安定雇用の是正、外国人の雇用促進、地域の雇用改善など幅広く国が政策を講ずることが定められています。
今回の基本法の制定を「働き方改革関連法案」の露払いとするのであれば、これに同一労働同一賃金を支えるための不合理な待遇差是正、従業員の職務や能力の明確化、公正な評価、生産性の向上や長時間労働の是正を支えるための残業時間の上限規制などが被されたようなものに衣替えするということでしょうか。
■ あるべき姿とは逆行
理念や方針は考え方の根幹として非常に大切なものですが、本来、これらは先に定めるもので後付けで決めるものではないはずです。
同一労働同一賃金に至っては、最初にガイドライン有りきで話が進んでいるので、ちぐはぐさ感が否めません。
本来は理念、方針に従って法制度が整備され、それに沿ってガイドラインが策定されるというものだと思いますが、今回の成り行きはすべてにおいて逆行しています。
尤も、同一労働同一賃金は、一般にヨーロッパで捉えられるものよりも遥かに幅広く、不合理な待遇格差がないようにというもので、結局のところ日本型雇用慣行をむしろ助長する懸念さえあるようなところに落ち着いています。
政府の本気度という観点ではかなり骨抜きになったとも言えます。
ここに書いたことはあくまでも日本経済新聞の記事だけを読んだ私の感想ですが、8月末の労政審で内容が明らかになるそうなので要注目ですね。
働き方改革で基本法整備へ 厚労省、今秋に法案提出
日本経済新聞 2017/8/18 22:09 厚生労働省は働き方改革を政府をあげて推進するため、改革の理念を盛り込んだ基本法を作る。 現在の雇用政策の基本方針を盛った雇用対策法を衣替えし、「労働政策総合推進法」などの名称で新たに基本法と位置づける。働き手に対する公正な評価や、正当な賃金を得る意義などを明記する。 今秋の臨時国会に法案を提出する。 基本法は国の重要政策の理念や方針を示すもの。 働き方改革は安倍政権の看板政策のひとつで、厚労省は基本法の制定が必要と判断した。 法律の名称や具体的な中身は8月下旬にも開く労働政策審議会(厚労相の諮問機関)で示す。 厚労省は企業が従業員の職務や能力を明確化し、公正な評価を推進することの重要性を盛り込む考え。 雇用形態に関係なく、仕事の中身や成果で公平に報いる賃金制度の必要性なども明文化する。 政府は3月に「働き方改革実行計画」をまとめた。 残業時間の上限規制や、正社員と非正規社員の不合理な待遇差をなくす「同一労働同一賃金制度」の導入案などを計画に盛った。 秋の臨時国会で関連法案を提出し、2019年度の導入をめざす。 |
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