こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

先週、12月1日の日本経済新聞朝刊の一面トップに「事務派遣 最大3割値上げ 各社、待遇改善の原資に 無期雇用転換にらみ交渉」という記事が掲載されました。

お読みになった方も多いと思いますが、内容は労働契約法の無期転換に伴い派遣元が派遣先に派遣料金の値上げをするというものです。

派遣先が派遣社員を安定的に受け入れ続けられるメリットと引き換えに派遣元が派遣社員を無期雇用し、その雇用リスクについて料金を上乗せするものと解釈すればよいでしょうか。

■ 雇用リスクを引き受ける保険会社

派遣元事業者は、派遣先企業の雇用リスクを引き受ける保険会社のようなものです。

その保険料が上乗せされるとするならば、当然と言えば当然です。

何年も前から、ただ単に「無期転換はよいこと」と業界関係者の中で広がりましたが、これはそれほど単純ではないはずです。

確かに不安定とされる派遣労働が安定的になるという点で、派遣労働者からすれば良いことなのかも知れませんが、これはその安定さを嫌う企業が長期的な派遣の受け入れを打ち切るという逆ザヤが生まれる可能性が高い妙な法律です。

その代用として派遣元が無期雇用をしていれば、派遣先での期間制限を免れることになるので、単純に無期転換をすればよいという判断に至るのだろうと思います。

■ 人材サービス業は営利企業

しかし、それを真に受けて派遣社員をむやみに無期雇用化してしまうとどうなるでしょう。

たまたま景気が上向き、たまたまその業種が活況、たまたまその職種に対するニーズがある、たまたまその地域が潤っている、たまたま大口の派遣先との取引が上手くいっている、そのような時に何も考えずに派遣社員を派遣元で無期雇用してしまったらどうなるのでしょう。

民間の営利企業として経営を考えればこれほど大きなリスクはありません。簡単に無期転換は良いことだと言うほど無責任なことはないです。

もちろん業種、職種、地域などによって無期転換をすることが事業戦略上よい結果を生むこともあるのかもしれませんが、少なくとも何でもかんでも無期雇用をしてしまえばよいという話ではありません。

ほとんどの場合、派遣社員は派遣元事業者の内勤社員よりも人数が多いはずです。

もしも、「たまたま」の前提が崩れたときに、それらの派遣社員が待機状態にさらされたとしたら、経営が立ち行かなくなることは目に見えています。

■ 就業規則による回避

雇用を継続できない理由として就業規則に異動の承諾を拒否した場合のことが記載されていれば問題ないという向きもあるかもしれません。

しかしそれでは雇用の安定は保障できないと言っているのと同じです。

本質的な解決につながるものではありません。

そもそもに遡ると、労働契約法よりも上位概念となる契約自由の原則にも反する当時の民主党政権が考えたその場しのぎの法律なので、実効性がともなわない可能性が高い法律だとしか言いようがありません。

■ 料金改定をするためには

そうは言っても悪法も法です。法律は守らなければなりません。

そのリスクを可能な限り回避するためには、一つの対策として料金を改定し待機リスクを減らすことが必要なのは当たり前です。

以前お話したある事業者さんはそれもせずに単純に無期転換させるとのことでしたが、経営コンサルタントとしてはそのようなリスクは絶対に背負わせてはいけないと思っています。

では、どのように料金改定をするのかということになりますが、ハッキリ言って奇策はありません。

派遣先企業を訪問して頭を下げまくっても、そう簡単にうんとは言ってもらえないでしょう。

冒頭に挙げた日経新聞の記事では「人材派遣大手が相次ぎ一般事務派遣の料金の引き上げに乗り出す」と書いてありますが、実態は以前から試みているもののなかなか派遣先企業から受け入れてもらえないというのが正直なところでしょう。

■ サービスの向上しかない

私は以前、前職で粗利改善の全社プロジェクトを牽引したことがあります。結果からいうと3年間で営業利益率が167%改善、恐らく当時いわゆる大手事業者の中では圧倒的に高い利益率を創出することができたと思います。

その時の社内報に粗利改善を行うためには、確かなブランド力が必要で、ブランド力は信頼から醸成される。仕事のクオリティを上げることでよいスパイラルを生むということを書きました。

振り返ってみると今も何ら変わることはありません。やることをやらずに値上げをして欲しいと言っても派遣先企業がそれに応じるとは思えません。私自身が派遣先企業の立場にあった時の経験でもそのような派遣事業者はむしろ願い下げと思っていました。

■ やはり「真の経営力」

何度も言いますが、やはり「真の経営力」が必要です。

サービス業の「真の経営力」とは、目に見えないサービスの価値を高め、より利益の高いサービスを提供し、結果として財務体質を強化させ、継続的な成長を図れる力です。

そのためには、組織制度を整え、サービスの向上を図り、管理体制をしっかりさせ、人材育成をし、PDCAを働かせる。

より価値の高いサービスを提供し、胸を張って適正な料金を設定できるだけの力をもつことこそが料金改定の秘策です。奇策はありません。

その秘策をどのように実施するかについてはお問合せくださいね(笑)。

こんなことを考えている矢先に当時のプロジェクトでお世話になった人生の先輩からとても嬉しいメールが届きました。

管理の要として鋭く目を光らせていただいた功労者です。とかく営業部門だけが花形のように見られがちですが、管理がきちんとしている企業は営業も強くなるのだと改めて思います。

事務派遣 最大3割値上げ 各社、待遇改善の原資に

無期雇用転換にらみ交渉

日本経済新聞 2017/12/1付

パーソルテンプスタッフなど人材派遣大手が相次ぎ一般事務派遣の料金の引き上げに乗り出す。2018年4月から勤続年数が5年超の有期雇用社員の希望者を無期雇用に転換する必要があり、コスト増加分を転嫁し、待遇改善などの原資に充てる。無期雇用に転換する社員について1~3割の値上げを目指す。人手不足の中、一般事務職にまで待遇改善の動きが広がってきた。

パーソル、マンパワーグループ、アデコ、東京海上日動キャリアサービス(東京・新宿)の4社が顧客企業と交渉に入った。

改正労働契約法に基づき、18年4月から勤続年数が5年を超える有期雇用の希望者は無期雇用への転換を申し入れできるようになる。

現在の一般事務派遣はほとんどが有期雇用で、契約が終わり新たな派遣先が見つかるまでの待機期間中は派遣会社から給与は支払われない。だが、無期雇用では待機期間中も給与が支払われる。派遣社員にとっては待機期間中でも常に一定の収入が保証され、生活の安定につながる。マンパワーやアデコは無期転換した派遣社員に交通費も支給する。

勤続期間が5年を超える対象者は4社合計で18年度に最大3万8千人に上る。一般事務などの派遣社員は業界全体で推定60万人強いるとされ、6%に当たる。

働き方改革に対応するために事務処理に人手を確保したい企業は多く、一般事務派遣の需要は拡大している。エン・ジャパンが展開する求人サイトでは一般事務派遣の求人広告件数は17年10月には2年前の15年10月の2倍以上に増えた。平均時給も緩やかな上昇傾向にある。一般事務派遣への新規の就業者も増えているうえ、求められる技術が一段と高度化していることもあり、派遣会社は教育のための費用も増加傾向にある。

4社が法対応を機に、大幅な派遣料金の引き上げを打ち出したのは、人手確保のためのコストが上昇しており、無期転換に伴い、今後発生するコストをすべて自社で負担するのは難しいと判断したためだ。「人手確保が経営課題で、ある程度は受け入れざるを得ない」(都内の中小サービス業)との声もあり、4社は値上げが通りやすい環境にあると見込んでいる。

国内の非正規雇用は約2000万人。労働者全体の約4割に当たる。料金引き上げで得た原資を元に、待遇改善などを通じ人手確保に取り組む動きは、特に人手不足感が強い物流や外食業界で先行するが、一般事務にも波及してきた格好だ。

人材派遣大手10社のうち、値上げを打ち出した4社以外の6社でも18年度に勤続期間が5年を超えるのは最大2万人規模に上る。6社は無期雇用転換を理由にした値上げには今のところ慎重な姿勢で、対応が分かれている。

各社とも対象となる派遣社員が希望すれば地域限定正社員の雇用形態などで無期雇用に転換する方向で就業規則を見直す。パソナは無期雇用の社員を派遣する職種を拡大することで対応する。

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