昨日11月6日の「弁護士ドットコムニュース」で、「派遣先でハラスメント被害、「派遣会社」の法的責任は? 裁判で慰謝料命じた事例も」という記事が掲載されました。
派遣先企業から派遣社員へのパワハラ被害を知りながら、それに対応しないまま、雇い止めにしたことで、リクルートスタッフィング社が派遣社員から訴えられているというものです。
この記事だけでは真相がわからないので、同社の対応の是非については何とも言えませんが、その是非はともかく、このようなことが報道されると経営的にはダメージが多いといえます。
まず、広報的にもメディアからの問い合わせを受け、その対応いかんによっては苦境に立たされることもあります。
そして、ことの真偽に関わらず、企業、派遣社員、求職者などからは、そのような目で見られる可能性が高くなります。
また、ブランディング上も、ある種のレッテルを貼られることになるので、このような報道は避けたいところです。
■ 派遣社員を派遣先企業から守る義務
そもそも、パワハラとはどのようなものを言うのでしょうか。
厚生労働省によれば、「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内での優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」と定義されています。具体的には、以下の6つが挙げれています。
- 身体的な攻撃
- 精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過少な要求
- 個の侵害
このような行為が派遣先企業から自社の派遣社員が被害を受けた場合どのように対処すべきでしょうか。
この記事にもあるように「派遣元にとっては派遣先もお客だから言いにくい」ということになるのでしょうけど、やはり雇用主として派遣元事業者は派遣先企業に対して適切な措置を講ずるよう申し入れをするというのがあるべき姿ではないでしょうか。
私もこの記事にあるように派遣元事業者は自社の派遣社員を派遣先企業から守る義務があると思います。
■ 派遣先企業にとっても害のあるパワハラ
たしかに顧客となる派遣先企業に申し入れをすることは、ある種の勇気がいることだと思いますが、このようなパワハラを見過ごすことは顧客にとって本当によいことなのでしょうか。
経営的にマクロの視点で見ると、派遣先企業にとってもパワハラを許す風土は決して良いものとは言えないのです。
いくつか例を挙げるならば、以下のようなマイナス要素が生じてしまうからです。
- 周囲の従業員のやる気の喪失
- 職場環境の悪化
- 生産性の低下
- 人材の流出
- 雇用不安の創出
- 精神疾患の発症
- 社会的なイメージの低下
- 賠償責任
つまり、これを放置することは派遣元事業者として派遣先企業に対して誠実ではないと言えるのです。
■ 労働組合と同様の機能を果たす
ありがちなことは、派遣社員からこのような訴えがあっても何もしないということかもしれません。
顧客となる派遣先企業の担当者と派遣元事業者の営業担当者の間でこのようなやりとりをすることは、日ごろの取引関係から考えると言いづらいですよね。もちろん「ものは言いよう」ですから、どう伝えるかということも考える必要があるでしょう。
輪をかけて被害者側の派遣社員を雇い止めにするというようなことは、人道的にも許されることではありません。
派遣元事業者は、派遣社員からも頼りになる存在として、労働組合と同様の機能を果たすことも求められているのだと思います。
■ 機能として分離する
派遣先企業の担当者と派遣元事業者の営業担当者の間だけのこととすると、あらぬ間違いに向いてしまうこともあるのかもしれません。
優良派遣事業者認定制度では、派遣社員の相談窓口を設置し、それを周知することを求めています。さらに派遣社員からの不満や苦情に適切に対応、改善がされ、記録や内部報告がされることも必要とされています。
つまり、このようなことがあった場合、これはパワハラに限ったことではありませんが、営業担当者個人で対応するのではなく派遣元事業者全体の問題として捉える必要があるということです。
そうであれば、営業担当者とは別に客観的な判断ができる担当者なり担当部署を設置することが必要になります。
もしかるすると、その案件だけを採り上げるとビジネスを失うことになるかもしれませんが、この記事にあるように報道で採り上げられることの方がダメージが大きいのです。
組織論の話になりますが、リスクマネジメント上も、少しでも客観的な立場で判断ができる相談窓口を設置することは効果があるのではないでしょうか。
ちなみにリクルートスタッフィング社は、優良派遣事業者の認定も受けており、そのような相談窓口を設置しているようですが、その周知が不足していたということでしょうか。
記事の文脈を見る限りでは、派遣先企業の担当者と派遣元事業者の営業担当者の間だけで話が進んでしまったような印象を受けます。
■ 信頼につながる毅然とした勇気で対処
実は、筆者の前職でも同様のことがあり、相談窓口となるコンプライアンスの担当部署が派遣社員からの相談に対応した例がありました。
その相談はパワハラではなくセクハラでしたが、その担当部署は営業担当者から事情をヒヤリングした上で、営業担当者は交えずに派遣先企業のコンプライアンス担当部署に申し入れをしました。
つまり、派遣先企業の担当者と派遣元事業者の営業担当者の間の問題ではなく、派遣先企業と派遣元事業者の間の問題として、問題を昇華させ、双方ともにコンプライアンスを担う客観的な立場で問題の善処にあたったということになります。
その結果、誰もが知っている日本を代表する一部上場の派遣先企業の役員が退任に追い込まれ、一件落着ということもありました。
派遣先企業もコンプライアンスを踏み外すことを良しとはしていないのです。それ以降、その派遣先企業からの信頼は以前にも増し、安定的に人材派遣事業者の業者選定で指名されるようになったということにつながりました。
派遣先企業の経営体質にもよるのかもしれませんが、いずれにしても、派遣元事業者は自社の派遣社員を派遣先企業から守るために毅然とした勇気をもって対処することが必要なこともあるように思います。
派遣先でハラスメント被害、「派遣会社」の法的責任は? 裁判で慰謝料命じた事例も
2016年11月06日 09時56分 派遣先企業でのパワハラ被害を知りながら、必要な対策を取らないまま「雇い止め」したなどとして、都内に住む元派遣社員の男性(30代)が、大手派遣会社「リクルートスタッフィング」(リ社)などを相手に裁判を起こしている。 この男性は2015年、派遣先でパワハラ被害に遭い、医者から「抑うつ状態」の診断を受けた。 そこで、派遣会社を通じて、職場環境を改善してもらおうと相談したところ、逆に派遣会社から「明日から出勤しなくてよい」と言われてしまったという。 男性はその後、派遣先に出勤できないまま、契約期間満了で雇い止めされてしまった。 男性は、提訴後の記者会見で、「助けてもらえると思って相談したのに、派遣会社は企業寄りで、絶望を感じた」などと当時の気持ちを語っていた。 ネットでは、「派遣元にとっては派遣先もお客だから、言いにくいわな」と派遣会社に理解を示す意見も多く見られる。 一般論として、派遣会社には派遣先での業務について、労働者を守る義務はないのだろうか。黒栁武史弁護士に聞いた。 ●派遣会社の責任を認めた「東レエンタープライズ事件」を読み解く 結論から言うと、派遣会社には、派遣先でのハラスメントから労働者を守る義務があります。 この義務を果たさなかった場合、派遣労働者に対する損害賠償責任を負う可能性があるでしょう。 派遣会社の責任を認めた裁判例として、「東レエンタープライズ事件」(大阪高裁平成25年12月20日判決)を紹介します。 この事案では、派遣先でセクハラ被害を受けたとして、派遣労働者の女性が派遣会社に損害賠償を求めました。 判決は、労働者派遣法31条を参照し、派遣会社は「派遣先が派遣就業に関する法令を遵守するように、その他派遣就業が適正に行われるように、必要な措置を講ずる等適切な配慮をすべき義務」を負うとしています。 つまり、派遣労働者が問題なく勤務できるように、派遣先の労働環境に適切な働きかけをしなさいということです。 また、判決は、その義務の具体的内容として、派遣会社は、派遣先でのセクハラ被害の申告に対し、「事実関係を迅速かつ正確に調査し、派遣先に働きかけるなどして被害回復、再発防止のため誠実に対処する義務」や、被害を訴えた派遣労働者が「解雇されたり退職を余儀なくされたりすることのないよう配慮すべき義務」などを負うとしています。 そして、派遣会社はこれらの義務を果たさなかったと認定して、同社に対し、女性への慰謝料として50万円を支払うよう命じました。 今回の男性の事案でも、男性の主張を前提とすれば、派遣先でのパワハラ被害への対処などを怠ったとして、派遣会社が損害賠償責任を負う可能性があると考えられます。 (弁護士ドットコムニュース) |
● いよいよ、11月8日(火)「出版記念パーティ」開催
ご厚意で開催していただく拙著の出版記念パーティが迫りました。私の出版もさることながら、人材サービス業界に関係する錚々たる方々がお集まりいただけるそうです。ご都合のつく方がいらっしゃいましたら、ぜひ、ご臨席ください。
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