「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」イメージ本日、12月14日に塩崎厚生労働大臣も出席の場で「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」から報告書が提出されました。

おっと、赤穂浪士の討ち入りの日ですね。

この会議は、本年7月28日から5回にわたって開催されたもので、その目的は、従来の労働政策審議会の運営を見直すものとし、労働参加率向上やイノベーションの創出などを実現するために広く声を吸収し、機動的な政策決定を行うこととされています。

課題として「議論する政策課題と議論の場」「データやエビデンスに基づく議論」「議論のスピード」「多様な意見の反映」の4つが挙げられ、それぞれ以下のように改革案が示されました。

結論を見ていると、鳴り物入りでできた会議の割にはそれほど特別なことはなく、むしろこの程度の結論にわざわざ有識者を集めて会議をすることがあるのだろうかと思ってしまうようなものだと感じます。

物足りない思いもあり、それぞれについての私の感想も記載します。

(1)議論する政策課題と議論の場

現場を熟知した労使が法律の制定・改正等の議論に参画することは、現場の実態を踏まえた議論が尽くされること、当事者である労使の合意形成が図られることなどから、実効性のある法制度となり、遵守もされるという意義がある。

以下の事項については、公労使同数の三者構成による現行の分科会・部会で議論することが適切である。

① 我が国が批准している ILO 条約で要請されている事項(最低賃金制度の 運用、職業安定組織の構成及び運営並びに職業安定業務(職業紹介、訓練、 労働移動支援、雇用保険制度等)に関する政策の立案)

② 中央レベルの労使交渉的側面がある職場の労働条件(労働時間、賃金、安全衛生等)など労使を直接縛るルールに関する法律等の制定・改正

しかし、働き方やそれに伴う課題が多様化する中、旧来の労使の枠組に 当てはまらないような課題や就業構造に関する課題などの基本的課題については、必ずしも公労使同数の三者構成にとらわれない体制で議論を行った方がよいと考えられる。

これを踏まえ、基本的な課題については新たな部会(「労働政策基本部会 (仮称)」(以下「基本部会」という。))を本審の下に設置し議論することとする。

基本部会は、公労使同数の三者構成ではなく有識者委員により構成するものとし、課題に応じて高い識見を有する者を選任する。

この中には、企業や労働者の実情を熟知した者も含めるものとする。委員は有識者として 個人の識見に基づき自由闊達な議論を行うものとし、また、そのような者を選任する。

基本部会においては、委員からの課題の提起を受けて議論を始めることもあり得る。

また、ほとんどすべての法律の制定・改正を労政審で議論するということは、我が国が批准しているILO条約で要請されているものを除くと法制度の実効性を確保する等の観点から慣行的に行われているものであるので、他の会議等から提言された課題については、課題の性質や議論の状況等を勘案しつつ、慣行を見直し、柔軟な対応を行う。

(1)議論する政策課題と議論の場

ILOの三者構成の原則は最初からわかっていることです。労働政策審議会で議論することが必要ということは崩しようがないですね。

また、法制度に直接関係しないことでも横断的な検討が必要なことがあることもわかっていたことだと思います。

前例主義に関する視点が欠けていると思います。例えば、労働者派遣法でも平成27年改正法のように多くの学識者も疑問を持つようなことが、そのまま放置されています。

「マージン率の開示」「日雇派遣の原則禁止」「離職後一年以内の受入禁止」「グループ企業派遣の8割規制」「みなし雇用制度」は、前例に捉われることなく躊躇なく改善してほしいものです。

前任者(先輩?)が携わった法律を覆すのはメンツをつぶす、というような官僚的な考え方は排除し、忖度なくあるべき姿を求める意識を明らかにしてほしいと思います。

(2)データやエビデンスに基づく議論

(1)の基本部会の運営に当たっては、これまでよりも、データやエビ デンスに基づく議論が重要となることから、各委員がデータに基づく問題提起やエビデンスの提示等を行い、議論をすることが望まれる。

また、事務局も可能な限りデータやエビデンスを収集・整理し、これを提供すべきである。

さらに、基本部会以外でも、できるかぎりデータやエビデンスに基づく議論が行われることが必要である。

(2)データやエビデンスに基づく議論

過去のことはデータやエビデンスに基づくことは重要だと思うのですが、ものごとには事実に隠れた真実というものもあると思います。

ものごとの本質をわきまえた議論にしてほしいものです。派遣労働を積極的に選択しているか否かのデータは、43.2%が不本意、43.1%が自ら選択、と明らかです。

これだけでも現在の労働者派遣法がデータに基づいているとは言い難いのですが、不本意の中には希望が叶わない、能力が不足しているというような人も含まれているはずです。都合の良いデータだけで判断することはむしろ危険です。

ほとんど語られることはないのですが、労働者側に問題があることも多いのです。このようなこともきちんと考えるべきでしょう。

また、第4次産業革命にみられるようなことは、データやエビデンスといった結果を待っているヒマはありません。一定程度は見通して方向付けをしていくことが求められると思います。洞察力のある思考が必要になると言えるでしょう。

(3)議論のスピード

労政審での議論のみでなく、課題設定から法案成立までのトータルのスピードを速めるように労働政策の決定プロセスを運用する。

適切な課題設定を行うためには、それに先立ち今の時点での労働政策の評価が重要になる。

そのため、労働施策の運用実績の点検・評価を行う。

(3)議論のスピード

実は、実際の審議期間は労政審よりも国会の方が長いという事実があります。特に労働者派遣法などいわゆる非正規雇用に関する審議は圧倒的に国会で足踏みをしています。

政争の具となっている証左とも言えますが、これについては厚生労働省ではどうしようもないですね。

特に労働者派遣法の平成27年改正法の附帯決議は厚生労働省も振り回されたと言えるのではないでしょうか。

必ずしも厚生労働省を責めるわけにはいかないので、これはチョット可哀想かと思います。

(4)多様な意見の反映

分科会・部会及び本審の労使の委員の選任に当たっては、産業構造、就業構造等にできる限り配慮する(例えば、多様な年齢や雇用形態、商業・サービス業、医療・福祉、IT 関係等の委員を増やす。)。

また、分科会、部会においては、課題によって、多様な意見、利害を反映させるため、労使団体の代表以外の臨時委員あるいは専門委員を臨時的に任命する。

委員の任命で反映しきれない部分については、ヒアリング等を活用する。あわせて、多様な意見・利害を反映させる観点から、情報通信技術の発展に応じてテレビ会議等に関する機器を整備しつつ、地方人材の登用を促進する。

また、必要に応じて地方視察やホームページ等を通じた国民からの意見募集も積極的に活用する。

(4)多様な意見の反映

結局のところ労働政策審議会の人選は今回の議論で最も重要な部分だと思っていました。誰が議論に加わるかということは非常に重要だと思います。

労働者派遣法の議論では、当事者が欠落しています。せっかくオブザーバーとして業界団体から参加をしていても「口封じ」のような発言までされ非常に残念な思いをしました。

当事者にとってきちんと発言できる環境をつくるだけでも大分違うのではないでしょうか。

なお、これらは労働政策審議会の次の委員改選期(平成29年4月)から反映されるとのことです。

「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」報告書

 

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