こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

心なしか今日は花粉が多いような気がします。くしゃみ連発(笑)。

さて、今日は、働き方改革の中で2番目の優先順位に位置付けられた賃上げについてです。

実行計画では、最低賃金について全国加重平均で1,000円を目指すとしています。

現在、最も高い東京で932円、全国の加重平均で823円です。年率3%程度を目途にするとのことなので、東京では再来年の2019年に、全国加重平均では2023年までの7年をかけて、やっと1,000円を超えることになります。

現在の所得格差を考えると最低賃金を上げていくということは必要なことだとは思いますが、いくつか問題もあるような気がします。

日本は本当に最低賃金が低いか

よく最低賃金の国際比較で日本は先進国の中で下から数えた方が早いというようなことが言われます。

しかし、多くの場合、フルタイム労働者の賃金の中央値に対する割合に基づいたランキングです。

OECDの2013年のデータでは、金額ベースで13位です。

日本より上には、1位から、オーストラリア、ルクセンブルグ、ベルギー、アイルランド、フランス、オランダ、ニュージーランド、ドイツ、カナダ、イギリス、アメリカ、韓国がランキングされています。

日本はGDPで第3位の経済大国なのだから、もう少し高くてもよいのではないかと思ってしまいますよね。

最低賃金アップの弊害

最低賃金を上げていったときの懸念として、単純労働系の仕事が賃金の絶対額の低い発展途上国に流れていくことがあるのではないでしょうか。

人材不足だからある程度はむしろよいのかもしれませんが、残った仕事に対応できるかどうかが問われるということになります。

介護・看護、運送、建設は人気がなく、飲食も人が集まりません。これらは、リーマンショック以前から慢性的な人材不足業界です。つまり、根本的に担い手がいないということです。

一方、IT系エンジニアも圧倒的に人材不足とされていますが、それなりの知識が必要です。

人材不足でも希望者がいない、あるいはスキルが不足しているということになると一定の単純労働の雇用が海外に流出したあとに、結局、マッチング上の失業が増えるということが考えられるような気がします。

政策上、頭数合わせの需給調整は考えられても、現実には希望やスキルなどによってマッチングできないということも起こるのではないでしょうか。

人件費の高騰に企業が耐えられるか

マイナス金利のような状態の中で、年率3%の賃上げというのは、かなりの大盤振る舞いです。

単純に計算すれば、年率3%上げれば7年で1,000円を超えますが、それこそ机上の空論です。

企業の収益が3%以上向上し続けることがなければ、明らかに無理です。

年率3%の賃上げが7年も続いたら多くの企業は経営が立ち行かなくなるのではないでしょうか。

リーマンショック以降、企業の内部留保が急激に増加しているので、政府は他人のふところを当てにしているのだと思いますが、収益力のある企業とない企業に大きな開きができていくように思います。

賃金を上げたくても挙げられない、人材が流出する、人材が採用できない、人手不足倒産が増えるという図式も増えるような気がします。

最低賃金を上げるためには

最低賃金は、いわゆる非正規雇用がその対象になることが多いと思いますが、企業が年率3%ずつ最低賃金を上げようとするならば、その対策は限られます。

内部留保を切り崩す、値上げする(売れる保証はない)、正社員の賃金を減らす、生産性を上げる、原価を下げる(質がさがる?)というようなことしかありません。

一般的には人件費という観点からは、正社員の賃金を減らすか生産性を上げるということになるでしょう。

しかし、現状の過度に正社員が守られている状況では難しいものがあります。解雇以前に不利益変更となってしまいます。

最低賃金を上げるという政府の掛け声はよいのですが、その原資をどこからもってくるかということも併せて考えなければ、絵に描いた餅に帰すのではないでしょうか。

人材サービス業界の役割

すでにイタリアで実績があるように、雇用を流動化させたほうが雇用の安定も賃金アップも実現に近くなるように思います。

また、AIやIoTを初めとする第4次産業革命により、否が応でも雇用の流動化は進むことになると思います。

その時、人材サービス業界がどのような役割を果たせるのかというのが非常に大きな課題ではないでしょうか。

需給調整機能として、どのような職種で人材の余剰があり、どのような職種で人材不足かを知っているのは人材サービス業界です。

流動化した雇用環境でいかに人材育成を図り、適切なマッチングを行い、成長産業にシフトさせるかこそが人材サービスの役割ではないでしょうか。

その意味では、政府もいつまでも難しい問題から目を逸らさず、人材サービスを活用する政策をとることが必要なのだと思います。

以下、働き方改革実現会議の実行計画から賃上げの部分を記載します。

3.賃金引上げと労働生産性向上

(1)企業への賃上げの働きかけや取引条件の改善

アベノミクスの三本の矢の政策によって、デフレではないという状況を作り出す中で、企業収益は過去最高となっている。

過去最高の企業収益を継続的に賃上げに確実につなげ、近年低下傾向にある労働分配率を上昇させ、経済の好循環をさらに確実にすることにより総雇用者所得を増加させていく。

このため、最低賃金については、年率3%程度を目途として、名目GDP成長率にも配慮しつつ引き上げていく。これにより、全国加重平均が1,000円になることを目指す。

このような最低賃金の引き上げに向けて、中小企業、小規模事業者の生産性向上等のための支援や取引条件の改善を図る。

また、中小・小規模事業者の取引条件を改善するため、50年ぶりに、下請代金の支払いについて通達を見直した。

これまで下請事業者の資金繰りを苦しめてきた手形払いの慣行を断ち切り、現金払いを原則とする。

近年の下請けいじめの実態を踏まえ、下請法の運用基準を13年ぶりに抜本改定した。

今後、厳格に運用し、下請け取引の条件改善を進める。

産業界には、これを踏まえた自主行動計画に基づく取組の着実な実施を求めていく。

このフォローアップのため、全国に配置する下請けGメン(取引調査員)による年間2,000件以上のヒアリング調査などにより、改善状況を把握し、課題が確認されれば、自主行動計画の見直し要請など、必要な対応を検討し、実施する。
(2)生産性向上支援など賃上げしやすい環境の整備

賃上げに積極的な企業等を後押しするため、税制、予算措置など賃上げの環境整備に取り組む。

具体的には、賃上げに積極的な事業者を、税額控除の拡充により後押しする。

また、生産性向上に資する人事評価制度や賃金制度を整備し、生産性向上と賃上げを実現した企業への助成制度を創設する。

さらに、生産性向上に取り組む企業等への支援を充実させるため、雇用保険法を改正して雇用安定事業と能力開発事業の理念に生産性向上に資することを追加するとともに、雇用関係助成金に生産性要件を設定し、金融機関との連携強化を図るなどの改革を行う。

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