お蔭さまで昨日の拙ブログ「人材派遣業『小規模事業者の倒産が増加』」がことのほか評判がよかったのですが、さすがに目の前のことになると皆さん敏感ですね。今日はその続きを…。

結局のところ「明確な経営戦略はあるか」ということが問いなのですが、ほとんどの経営者は「ある」と答えるのではないでしょうか。

ただ、実際にその中身を聞いてみると、どう考えても「戦略」とは言い難いこともしばしばあります。

言葉の定義が違っているとも言えますが、多くの場合「戦略」「目標」「戦術」を誤って捉えている、もしく混同していることが多いように思います。特に「目標」「戦術」をもって「戦略」としていることが多々あります。

これらは似て非なるところもあり、また、いずれも必要なものですが、それぞれについてきちんと意識をし、明確に分けて考える必要があります。

まずは環境分析から

経営戦略策定の階層「戦略」を立てるためには自社を取り巻く環境、強みや弱みを客観的に把握し、深い洞察力をもって先を見通さなければなりません。

こういう話をすると必ず、「今に集中することが必要だ」という声も上がるのですが、「現在」のことばかりを考えていては必ず行き詰ります。

「戦略を立てる時間としての「今」に集中し、進むべき道を正しく判断するために立ち止まって考えることが必要です。

特に法規制や技術革新に大きな変化がある現在では、現状維持はリスクです。自らが変わらないことはリスクであるということをきちんと意識し、変革をしなければ明日はありません。

特に経営者は大きな視点で全体を見渡し、中長期の経営戦略を練る必要があります。

「小よく大を制す」戦略

真田丸中小事業者が戦略を立てるうえでまず考えなければならないことは「小よく大を制す」です。いよいよクライマックスを迎えるNHKの真田丸がことのほか人気ですが、小国である真田家は北条、上杉、徳川の間を生き抜き、最後は豊臣方で徳川との戦いに善戦したというのはまさに「小よく大を制す」だったのだろうと思います。

そこで必要となる考え方が、先日の拙ブログでもお伝えしたマイケル・ポーターの競争優位の3つの基本戦略です。

コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中化戦略の3つしかありません。コストリーダーシップは、徹底的にコスト削減を図り安く売る、あるいは同価格で売って大きな利益を得る、のどちらかです。

これは余程の破壊的イノベーションがない限り、中小事業者には取りづらい戦略です。どうしても体力勝負になるため、規模の経済が働く大手にはかなわないでしょう。

7~8年ぐらい前になるでしょうか。ある学識者の方が「人材派遣は規模によらないビジネスだ」と仰っていましたが、その時私はそうは思いませんでした。

実際に派遣労働者や企業にあるサービスを提供するときの原価計算をしてみたことがあるのですが、圧倒的にスケールメリットのある規模が大きい方が有利でした。

もっと簡単に考えると、例えば名刺を10人分印刷するときと1,000人分印刷するとき、あるいはコピーを100枚取るときと10,000枚取るとき、パソコンを10台買うときと1,000台買うとき、どちらのコストが割安かと考えれば簡単です。やはり規模の経済は働くのです。

中には一定規模がなければ中小事業者には難しいものもあります。キャリア形成支援などはその最たるものでしょう。

したがって、中小事業者は余程の革新的な戦略・戦術がない限り、コストリーダーシップ戦略は採れないということになります。

差別化戦略と集中化戦略

ではどうしたらよいかというと、中小事業者は、大手事業者と戦わずして勝つ戦略を採るしかありません。つまり、差別化戦略か集中化戦略です。あるいはこの2つのミックスです。

大手事業者にとっては効率が悪く、参入しづらいニッチなセグメントに、独自のノウハウや知識や経験をつぎ込んだうえ、他のどこにも負けないサービスを生み出していくことこそ重要なのです。

そしてランチェスター戦略ですね。差別化戦略、一点集中主義、局地戦、接近戦、一騎討ち戦、陽動戦。圧倒的な強さのをもつ大手以外はすべてこれらが必要です。

あとは、事業構造に併せてPLC、3C、4P、PPMなどの分析もしたうえで、明確な戦略を策定することになります。

経営戦略の策定で重要なことは3つ

いずれも個別の事業者の話になってしまうので、ここでは何とも申し上げられませんが、強いて言うならば経営戦略の策定で重要なことは3つです。

一つは、手前勝手な分析、ご都合主義の分析からは適切な戦略は生まれないということです。自分に都合の悪いことから目を逸らしてしまっては正しい姿がわからなくなります。客観的な意見を採り入れる度量を持つことが必要でしょう。

もう一つは、分析がゴールではないということです。あくまでも分析はゴールを導き出すための通過点だという認識をもたなければなりません。分析だけして安心してしまうケースもあるのでこれは要注意です。「だからどうする?」の答えを出さなければ戦略になりません。

そして最後に策定した戦略が妥当であるかどうかの判断。これも洞察力のある客観性が求められます。無手勝流では戦えません。

3月決算の事業者はもうそろそろ来期の戦略が出来上がるころかと思いますが、まずはこの戦略の優劣によって将来が決まるので非常に重要な局面ですね。

 

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