昨日の第5回働き方改革実現会議の「同一労働同一賃金」のガイドライン案について、今朝は新聞各社が一斉に採り上げました。中でも日本経済新聞は一面トップに採り上げるだけでなく、総合2面、経済面などでも詳細まで丁寧に扱っています。
先日12月16日はプーチン大統領の来日で一面トップではありませんでしたが、今朝は十分トップに値する記事として採り上げられたということでしょう。
経済界にしてみれば、この「同一労働同一賃金」の規制の強弱によって、経営状態が大きく異なることになるため、注目されて当たり前ということになります。
概ね、どの新聞も実効性については懐疑的な捉え方をしていますね。私自身はそう簡単に実効性がない方がよい…というよりも…一定程度の時間をかけながら是正をしていかないと、むしろ労働者にとってもマイナスに作用するのではないかと考えています。
その意味では、今回のガイドライン案の段階までは実効性が懐疑的な分だけ、丁度いいぐらいではないかと思っています。つまり急激な実効性がないぐらいがいい塩梅ということです。
ただ、今後それぞれの法規制に落とし込む段階によってかなり労使の意図が盛り込まれることも考えられるため、これからの議論は十分注視をしておく必要があります。
法規制が厳しすぎると職務分離が起る、甘すぎると格差是正につながらないというジレンマが横たわっているのですが、どう考えても一朝一夕にヨーロッパと同様に扱うことは無理があります。
私自身、3年半ドイツに住んだことがありますが、文化、歴史、社会など何をとっても日本とは違うことばかりです。そう簡単に雇用制度を輸入できると考えること自体が間違っているのだと思います。
かと言って今回のガイドライン案が無駄なものかというと、そんなことはありません。その意義として以下のように考えておくとよいのではないでしょうか。
- 日本とヨーロッパを比較して、いわゆる正規・非正規の格差が圧倒的に日本の方が大きいことへの問題意識が喚起できたこと。
- 言うまでもなくヨーロッパの職務型の雇用システムと日本の職能型の雇用システムに大きな違いがあることが周知できたこと。
- 法律ではなく労使双方によって賃金システムを決めるべきことであることが明確にされたこと。
- 賃金や手当について何を検討課題とすべきかが一定程度明らかにされたこと。
- 文字通り半歩でもその方向に向かって進みだしたこと。
ある程度、カタチができるまでには30年ぐらいかかるような気もしますが、概ね2045年…つまりAIの発達によりシンギュラリティ(技術的特異点)を超えると言われるころまでには、間違いなく働き方は変わっていると思います。
人材サービス企業にとって重要なことは、それまでの間どのように経営のカジ取りをするかということだろうと思います。
漫然と過去のやり方を踏襲していただけでは、必ず淘汰されることになります。経営戦略を精査し、卓越したオペレーションにつなげるしかありません。
とうとう12月第三週も終わりますね。忘年会シーズンも佳境でしょうか。あまり飲み過ぎないように…。
経済(日経新聞)
▽目的 本ガイドライン案は、正規か非正規かという雇用形態にかかわらない均等・均衡待遇を確保し、同一労働同一賃金の実現に向けて策定するものである。同一労働同一賃金は、いわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものである。 我が国の場合、基本給をはじめ、賃金制度の決まり方が様々な要素が組み合わされている場合も多いため、同一労働同一賃金の実現に向けて、まずは、各企業において、職務や能力等の明確化とその職務や能力等と賃金等の待遇との関係を含めた処遇体系全体を労使の話し合いによって、それぞれ確認し、非正規雇用労働者を含む労使で共有することが肝要である。 ▽趣旨 本ガイドライン案は、いわゆる正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で、待遇差が存在する場合に、いかなる待遇差が不合理なものであり、いかなる待遇差は不合理なものでないのかを示したものである。この際、典型的な事例として整理できるものについては、問題とならない例・問題となる例という形で具体例を付した。なお、具体例として整理されていない事例については、各社の労使で個別具体の事情に応じて議論していくことが望まれる。 【基本給】 労働者の職業経験や業績・成果、勤続年数などに応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の能力を蓄積している有期雇用労働者またはパートタイム労働者には、その能力に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。 ▽問題とならない例 同じ職場で同一の業務を担当している有期雇用労働者であるXとYのうち、職業経験・能力が一定の水準を満たしたYを定期的に職務内容や勤務地に変更がある無期雇用フルタイム労働者に登用し、転換後の賃金を職務内容や勤務地に変更があるのを理由にXに比べ高い賃金水準としている。 基本給の一部について労働者の業績・成果に応じて支給している会社で、フルタイム労働者の半分の勤務時間のパートタイム労働者であるXに対し、無期雇用フルタイム労働者に設定されている販売目標の半分の数値に達した場合には、無期雇用フルタイム労働者が販売目標を達成した場合の半分を支給している。 ▽問題となる例 基本給について労働者の職業経験・能力に応じて支給している会社において、無期雇用フルタイム労働者であるXが有期雇用労働者であるYに比べて多くの職業経験を有することを理由として、Xに対して、Yよりも多額の支給をしているが、Xのこれまでの職業経験はXの現在の業務に関連性を持たない。 基本給の一部について労働者の業績・成果に応じて支給している会社において、無期雇用フルタイム労働者が販売目標を達成した場合に行っている支給を、パートタイム労働者であるXが無期雇用フルタイム労働者の販売目標に届かない場合には行っていない。 【賞与】 会社の業績等への貢献に応じて支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の貢献である有期雇用労働者またはパートタイム労働者には、貢献に応じた部分につき、同一の支給をしなければならない。また、貢献に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。 ▽問題とならない例 賞与について、業績等への貢献に応じた支給をしている会社において、無期雇用フルタイム労働者であるXと同一の会社業績への貢献がある有期雇用労働者であるYに対して、Xと同一の支給をしている。 ▽問題となる例 無期雇用フルタイム労働者には職務内容や貢献等にかかわらず全員に支給しているが、有期雇用労働者またはパートタイム労働者には支給していない。 【役職手当】 役職の内容、責任の範囲・程度に対して支給しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の役職・責任に就く有期雇用労働者またはパートタイム労働者には、同一の支給をしなければならない。また、役職の内容、責任に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた支給をしなければならない。 【精皆勤手当】 無期雇用フルタイム労働者と業務内容が同一の有期雇用労働者またはパートタイム労働者には同一の支給をしなければならない。 【時間外労働手当】 無期雇用フルタイム労働者の所定労働時間を超えて同一の時間外労働を行った有期雇用労働者またはパートタイム労働者には、無期雇用フルタイム労働者の所定労働時間を超えた時間につき、同一の割増率等で支給をしなければならない。 【通勤手当・出張旅費】 有期雇用労働者またはパートタイム労働者にも、無期雇用フルタイム労働者と同一の支給をしなければならない。 【福利厚生】 ▽福利厚生施設(食堂、休憩室、更衣室) 無期雇用フルタイム労働者と同一の事業場で働く有期雇用労働者またはパートタイム労働者には、同一の利用を認めなければならない。 ▽慶弔休暇、健康診断に伴う勤務免除・有給補償 有期雇用労働者またはパートタイム労働者にも、無期雇用フルタイム労働者と同一の付与をしなければならない。 ▽病気休職 無期雇用パートタイム労働者には、無期雇用フルタイム労働者と同一の付与をしなければならない。また、有期雇用労働者にも、労働契約の残存期間を踏まえて、付与をしなければならない。 【その他】 ▽教育訓練 現在の職務に必要な技能・知識を習得するために実施しようとする場合、無期雇用フルタイム労働者と同一の職務内容である有期雇用労働者またはパートタイム労働者には同一の実施をしなければならない。また、職務の内容、責任に一定の違いがある場合においては、その相違に応じた実施をしなければならない。 【派遣労働者】 派遣元事業者は派遣先の労働者と職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情が同一である派遣労働者に対し、その派遣先の労働者と同一の賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない。また職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情に一定の違いがある場合、その相違に応じた賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない。 |
「同一賃金」指針 識者の見方(日経新聞)
山田久・日本総合研究所チーフエコノミストの話 ガイドライン案が示されたことで非正規労働者の処遇改善は一定程度進むとみている。 賞与については踏み込んだ表現になっており、手当も支給が見込める。日本と欧州の賃金制度の違いがあるので基本給については抑制的に書かれている。第一歩としては妥当な内容だ。現段階では現場に混乱を招くことなく、できる範囲で相当程度書き込んだ。 同一労働同一賃金の実現に向けては、非正規労働者の賃金制度を整備することが必要だ。賃金の決め方を明確化すれば、待遇の改善にもつながりやすい。政府にはそうした取り組みを後押しするような施策が求められる。 労働法制に詳しい水口洋介弁護士の話 ガイドライン案を策定し、非正規労働者の労働条件是正に乗り出したことは評価できる。賞与や手当については同一賃金の実現へ前進した内容という印象だ。例えば業務の危険度に応じた手当などは前提条件を付けずに「同一の支給をしなければならない」と明記した。 逆に基本給に関する記述は、踏み込み不足の感が否めない。経験や能力に応じて支給する場合など、同一賃金でなくても問題とならないケースの具体例を多く盛り込んだのが気がかりだ。企業が基本給の賃金体系を大きく変える動機づけになるか疑問で、今後の法改正でどこまで徹底できるかに注目している。 |
このほかの主要紙の記事
- 読売新聞: 非正規社員にも賞与…処遇改善へ政府が指針案
- 朝日新聞: 同一労働同一賃金へ政府が指針案 格差固定の懸念も
- 毎日新聞: 同一労働同一賃金 「真の同一賃金を」 国指針、非正規雇用者ら不満
- 産経新聞: 「非正規」待遇改善へ初の指針 賞与・通勤費支給促す 基本給の差は容認
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