年末年始、よいお天気が続きさわやかな年明けとなりました。本年もどうぞよろしくお願いします。
さて、年初に当り、今年を見通してみたいと思います。
■ 世界が変わる
昨年を振り返ってみると、いつになく変化の大きい年だったと思います。申年だったからでしょうか。
イギリスのEU離脱とかアメリカの大統領選とか、世の中これまでとは違ったことが起きているような気がします。
いずれも選挙という民意によるまさかの出来事でした。
私がドイツで暮らしていた1989年にベルリンの壁が崩壊し、その後1993年にEU誕生、今となっては歴史の教科書に載るような出来事から20年以上が経ちました。
世界はひたすらグローバリズムの波にのって統合・協調の道をひた走ってきたわけですが、ここにきて初めてイギリスからグローバリズムにNOが突きつけられたことになります。
今月誕生するトランプ政権も、対抗するクリントン候補への拒否感だけで生まれたわけではないのではないでしょうか。ロシアの陰謀説までありますが、それにしても偶然とは思えないものがあります。
保護主義的な考え方が支持されている、つまりグローバル化に待ったがかかっているということなのでしょう。
よくよく考えると「人」「モノ」「金」「情報」のうち「人」は思うほど移動していません。グローバル化され統合が進む社会環境に人が疲れてしまったということなのでしょうか。
単にポピュリズムの台頭という言葉だけでは表せない何かが起こっているように思います。
今年は、オランダ、フランス、ドイツの選挙があります。その結果によっては世界の情勢も大きく変わることになるのでしょう。
グローバル化が進んだだけに海外のことは他人事ではなくなっています。
不確実な時代だからこそ視野を広げて大局を掴み、戦略思考で新たな道を切り開いていく必要があるでしょう。
■ 時代が変わる
昨年のトピックとしてもう一つ興味深かったのは、人工知能、ロボット、IoTなどに代表される第4次産業革命です。
これまで私たちはこの50年ぐらいの間、情報革命と言われる第3次産業革命の中で生きてきました。しかし、ここに来てついに次のフェーズに入ったということが言えるでしょう。
人口知能の「Alpha Go(アルファ碁)」が人に勝ったというのは一つの象徴的な出来事なのでしょう。
「ポケモンGo」「Amazon Go」という名称もここから派生したのでしょうか。今年は「Deep Zen Go」という日本版の囲碁のAIも登場するそうです。
この1年だけでもものすごい勢いで世の中が変わってきているような気がします。時代は次のフェーズに「Go」ということなのでしょう。
人類の歴史という観点で言うと、現在は「Society 5.0」にあたるのだそうです。社会のあり方として碁盤目…ではなく五番目の社会ということです。
狩猟社会が1.0で100万年単位、農耕社会が2.0で万年単位、工業社会が3.0で百年単位、情報社会が4.0で十年単位。大きな目で見るとどんどん社会の変化のスピードが速くなっています。
今始まっている5.0のスマート社会は恐らく年単位で進むということでしょう。
次の東京オリンピックまであと3年となり日本も急速に変わっていくのだろうと思います。
1964年の東京オリンピックのとき、東京の青空にブルーインパルスが描いた五輪をポカンと口を開けて家の庭からながめていた自分を思い出します。
それからの半世紀、まさに時代が大きく変わったと思います。
新たな時代、多くの雇用が失われるということも言われます。むしろ新たな雇用を創造することができる時代に入ったと、悲観するよりもワクワク感をもって臨みたいものです。
■ 雇用が変わる
昨年末に「働き方改革実現会議」から示された同一労働同一賃金のガイドライン案、今年から来年にかけてはこれが台風の目になります。
同一労働同一賃金は、「不合理な差別取扱いの禁止」という位置づけにされます。しかし、何を以て不合理と言うのかの判断は恐らく誰もできません。
個別の事例で可否の判断をしているガイドライン案も賃金の部分になるとかなり歯切れが悪いものがあります。
そもそも、法律が過度に介入することに無理があります。ガイドラインはその名のとおりガイドラインであるべきです。
行政が裁量で可否を判断することは、むしろ労働市場を歪めることにもなってしまいます。
適度に是正を促すような政策に留めるべきでしょう。
いわゆる「2018年問題」、すでに改正されている労働契約法の無期転換ルール、労働者派遣法の雇用安定措置も一定の方向性が見えてくる時期にも差し掛かります。
職種や業種にも動向に差があるとは思いますが、労働契約法の無期転換ルールでは、企業の意向として6割以上が何らかのカタチで無期転換をするとしています。
一方4割未満の企業は5年を超えないように運用するとも言っており、見方を変えればいわゆる非正規雇用の中での流動性が高まると捉えることもできます。
労働者派遣法の雇用安定措置も「新たな派遣先企業の提供」は一定程度可能だとは考えられます。
その反面、「労働者派遣事業者での無期雇用」には自ずと限度があるため、この部分のハンドリングには慎重な対応が求められるでしょう。
特に景気の悪化や技術革新などにより人材ニーズが低下するような局面を想定した戦略を策定する必要があるでしょう。
■ 経営を変える
日本経済新聞の産業景気予測によると、人材サービス業界は継続して「晴れ」とのこと。たしかに社会全体の景気がよい中で、人材ニーズが旺盛であることは間違いないのだと思います。
しかし、本当に人材サービス業界が「晴れ」かと言うと、必ずしも手放しで喜べる状態ではないはずです。
人材不足はそのまま募集コストの増大にもつながります。募集コストの削減のためには企業体質から変革をする必要があるかもしれません。
受注ができてもマッチングができなければ業績にはつながりません。マッチングできない受注は無駄な営業コストになってしまいます。
派遣法改正による雇用安定措置、キャリア形成支援などでのコスト負担も増加しています。卓越したオペレーションが求められます。
少なくとも、従来どおりの経営手法だけでは厳しくなるばかりです。当然ながら、経営を変えなければ勝ち進めません。
昨年、出版した拙著「雇用が変わる 人材派遣とアウトソーシング ─ 外部人材の戦略的マネジメント」の第4章では、政治、経済、社会、技術によるPEST分析を行い、マクロレベルの考察を行いました。
実際には企業ごとの市場に引き寄せた分析も必要になります。その中で明確に機会や強みを見出しながらバリューチェーンへのインパクトを考える必要があります。
客観的な視点も交えて的確な競争優位戦略を構築しなければなりません。
最も重要なことはその戦略のもとに組織や制度に落とし込むこと。そして組織を構成する人が機能するしくみを創ることです。
昨年マイケル・ポーターから直接聴いた言葉が非常に印象的でした。
「独自アプローチをする企業にチャンスがある」
戦略は目標でも願望でもありません。求められる姿になるために、いつまでに何をどのように行うかを明確にすることです。
昨年、今年、来年と続くこの数年は人材サービス業界にとって大きな転換点になるのではないでしょうか。
変化こそ最大のビジネスチャンスです。世界が変わり、時代が変わり、雇用が変わる中、経営を変えることは急務と言えるでしょう。
その前にまず健康。酉年も変化が多いといわれています。心から皆さんのご多幸をお祈り申し上げます。
「聴くことを多くし、語ることを少なくし、行うところに力を注ぐべし」成瀬仁蔵(日本女子大学創設者)
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