先週1月31日の日本経済新聞朝刊に「金銭払い解雇 導入争点 労働者側は助長懸念 厚労省が論点提示」という記事が掲載されました。
これは、前日の1月30日(月)に開催された厚生労働省の第12回「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の内容に基づくものです。
■ようやく半歩踏み出した?
この記事によると、解雇の金銭解決について「本格的な議論を始めた」となっていますが、この検討会自体は、「第12回」が示すように、実際には2015年10月29日から延々と続いています。
私も時間があるときに傍聴にいくのですが、そのたびに労使双方の意見がまったく嚙み合わず、空中戦の連続です。傍聴のたびに空虚感を味わっていました。
うがった見方をすると、議論を結論付ける気がないのではないかと思えるほどです。
この記事で「本格的な議論を始めた」といっているのは、12回目にしてやっと厚生労働省から論点が示されたということでしょうか。
実際に示された論点を見てみると、相当遠慮がちな表現になっています。
■ 早期に適切な方向性を
「解雇」は、雇用・労働にまつわる議論の中でも、安全衛生にまつわる生死を伴うものに次ぐ、最悪な内容ですから時間がかかって当然です。
十分な議論が必要であることは言うまでもありませんが、かと言って、いつまでも目を背けていられるものでもありません。
大企業では、解雇権濫用法理によって厳しく守られている、正規雇用者を増やしたくないというマインドが強く、雇用の機会を狭めています。
その一方、中小企業では、能力不足、勤務態度、体調不良や感情的な人間関係などを理由とした不当な解雇が横行している事実もあります。
労働市場全体を見渡すと、いつまでもうやむやにしておくことはむしろ弊害の方が大きいと言えます。
早期に適切な方向性を見出していくことが必要です。
■ 不当解雇は言語道断
ここで提示された論点の中に「労働契約法第16条において無効とされる解雇を対象とすること」について挙げられています。
しかし、絶対に間違えてはいけないことは、国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇はもちろん、ハラスメントや差別、不当な評価、好き嫌いなどによる解雇権の濫用が許されるというものではないはず、ということです。
ここで言われている「解雇」は、簡単にクビが許されるかどうかの議論ではないという認識をもつことが重要です。
あくまでも、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない解雇」は許されないということが大前提。不当解雇は言語道断です。
■ 適切な需給バランスを
この問題を捉えるときにメディアはセンセーショナルな表現を使いがちです。
ただ、実態として金銭で解決が図られていることを考えると、一定の要件を満たした場合のガイドラインを設けることは、むしろ、労働者保護につながると言えるのではないでしょうか。
「解雇」というと、どうしても目を逸らしたくなる問題ではありますが、この問題を正面から捉えないと、我が国の雇用問題は解決されません。
労働契約法第18条、労働者派遣法雇用安定措置などによって、企業の負担が増えるばかりです。
雇用は、労使の需給バランスによって成り立っているのですから、そのバランスが崩れると破綻します。
決して企業側の立場だけで見ているのではなく、企業の負担が増えることはマクロの視点で考えると企業の競争力が低下し、結果として雇用が失われるという悪循環に陥る可能性も高いと言えるのです。
巡り巡って労働者の雇用が失われるというのは、避けたいものです。
■ 人材サービスにも大きな影響
特に今後、AIやロボットなどの第4次産業革命の伸展によって、以前にまして雇用の流動性が求められることになります。
すでにイタリアでは、解雇規制を緩和したら雇用が増加したという例もあります。
適切な需給バランスが保てるようにしていく必要があるのではないでしょうか。
「解雇規制」の問題は、人材サービスに携わる皆さんの事業にとっても大きな影響を及ぼすものです。
そのゆくえについてはきちんとフォローをしていきましょう。
第12回「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」検討事項
解雇無効時における金銭救済制度について ○ 解雇をめぐる紛争については、以下のような実態があることがこれまでの検討会でわかってきたが、これをどう評価するか。 ・解雇が裁判によって無効となった場合であっても、職場復帰せず、退職する労働者が一定数存在。 ・行政組織によるあっせんや労働審判制度、民事訴訟上の和解においては、解雇をめぐる個別労働関係紛争の多くが金銭で解決されているという実態(特に平成18年に施行された労働審判制度においては、ほぼ全ての解雇をめぐる紛争事案が金銭で解決されている現状)。 ・解雇無効の地位確認訴訟に代えて、解雇を不法行為とする損害賠償訴訟に訴え、それが裁判で認められる例も出てきている。 ○「日本再興戦略」改訂2015等で掲げられている解雇無効時における金銭救済制度については、これまでの検討会において、制度導入に賛成の立場と反対の立場の両方の意見があったが、これについては、個別の検討事項について議論を深めた上で、制度の在り方とその必要性について検討することとしてはどうか。 ○「日本再興戦略」改訂2015等を踏まえ、制度の在り方とその必要性を検討するにあたっては、国民にとってわかりやすく、労働者及び使用者双方にとって予見可能性があって、労働者の保護が図られ、当事者の納得を高め、解雇をめぐる個別労働関係紛争の未然防止や迅速な解決に資するような仕組みが可能かを検討することが必要ではないか。 また、併せて、濫用的な利用を防止でき、かつ、既存の労働紛争解決システムにマイナスの影響を与えることのないような仕組みが可能かを検討することが必要ではないか。 ※なお、本検討会の検討事項は「解雇無効時における金銭救済制度の在り方(雇用終了の原因、補償金の性質・水準等)とその必要性」であることから、例えば、裁判等において解雇が無効とされた際に、労働者が職場に戻りたくないというときなどの、いわゆる「事後型」に限定して検討を行うことが前提。 ○ こうした観点からは、以下の点についてどのように考えるか。 ◇ 現行制度との関係について 解雇された労働者の保護を図る観点から、現行制度で利用可能な救済の仕組みは維持しつつ、労働者の選択肢を増やす方向とすることについてどう考えるか。例えば、職場復帰を希望する者は従前どおり労働契約法第16条による地位確認請求ができることとしつつ、職場復帰を希望しない者が利用できる新たな仕組みとすることについて、どう考えるか。 ◇ 対象となる解雇について 労働契約法第16条において無効とされる解雇(客観的合理性を欠き、社会通念上相当であると認められないもの)を対象とすることが考えられるがどうか。この場合において、国籍、信条、社会的身分を理由とする解雇など、通常の解雇と異なり、労働基準法等他の法律によって禁止されている解雇についてはどう考えるか。 ◇ 一回的解決について 紛争の迅速な解決、制度のわかりやすさや利用者の負担、予見可能性等を考慮すると、一回的解決(※)が可能となる仕組みとすることが考えられるがどうか。 ※ 裁判上の争いになった場合に基本的に1回の裁判で解決する仕組み ◇ 金銭救済を求める主体の在り方について 労働者による申立のみ認める仕組みと、労働者だけでなく使用者による申立も認める仕組みについて、どのように考えるか。 ※規制改革会議の「『労使双方が納得する雇用終了の在り方』に関する意見」(平成27年3月25日)においては、労働者側からの申立のみを認めることを前提とすべきと提言されている一方、日本再興戦略2015等においては、申立主体の在り方については特に言及されていない。 ◇ 金銭的・時間的予見可能性を高めるための方策の在り方<次回以降に検討> |
金銭払い解雇 導入争点 労働者側は助長懸念 厚労省が論点提示
日本経済新聞 2017/1/31付 厚生労働省の有識者検討会は30日、裁判で不当とされた解雇を職場復帰でなくお金で救済する「金銭解決制度」の導入に向けた本格的な議論を始めた。 企業側からも制度の利用を申し込めるかどうかや、解決金の額などが主な争点となる。 厚労省は議論を十分に重ねた上で結論をまとめる考えだが、解雇を助長するとして連合など労働者側は激しく反発している。 30日の検討会では、厚労省が新制度について複数の検討事項を示した。 一つが労働者が求めた場合だけでなく、企業側がお金による解決を望んだときも仕組みを使えるようにするのかどうかだ。 もともと今回議論されている制度は、中小・零細企業でほとんどお金を得られずに、泣き寝入り同然に解雇される労働者を救済する目的が大きい。 2013年には裁判で不当とされた解雇が約200件あった。 制度の導入を掲げた日本再興戦略では、仕組みを新たに作ることで、解雇を巡る紛争処理の「時間的・金銭的な予見可能性を高める」ともしている。 十分な解決金を迅速に得られれば、次の仕事も探しやすくなり、結果として労働市場の流動化促進にもつながる。 労働者側が懸念しているのは、新制度を企業が使えるようになれば、金銭による安易な解雇が助長されるのではないかという点だ。 労働者側からは「今回は利用を労働者だけに限ったとしても、次の見直しで労使双方に認められることは明らかだ」といった意見が出た。 解決金の金銭水準に基準を設けるかも焦点になる。 勤続年数や解雇される前の年収などが考慮の要素となりそうだ。 また、金銭水準に上限や下限を設けるかも議論になる。 上限を設けることに労働者側は反対の立場だが、下限の設定には解決金が膨らむとして中小・零細企業の反対が強い。 ただ大企業からすれば、新制度導入を通じて解決金の相場が形成されれば、解雇をする際のコストの見通しが立ちやすくなる側面もある。 ただ、金銭水準の議論は制度設計の根本に関わる点だ。新しい仕組み自体を不要とする労働者側の反発は必至で、議論は次回以降に持ち越しとなった。 既存の紛争解決の仕組みとの関係も焦点だ。 解決の手段には、(1)都道府県の労働局などによるあっせん (2)裁判所での労働審判 (3)裁判――の3つがある。 30日の検討会では、委員から「救済のメニューを増やすならば労働審判制度の充実で可能」などとして新制度は不要との意見も出た。 ▼不当解雇の金銭解決 日本の労働法は客観的に合理的な理由や社会通念上の相当性を欠く解雇を禁じている。会社の経営悪化による整理解雇も回避するための最大限の努力や労使間の十分な協議などが条件だ。裁判で不当な解雇と認められても会社に戻りにくい人は多い。そこで解雇された人が望めば、職場復帰を諦める代わりに会社から補償金を受け取れるようにすることを「不当解雇の金銭解決」と呼ぶ。 |
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