こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。この数日、暖かくなったかと思うとまた少し肌寒いですね。

過去10年で最高、顕著な人材不足

さて、少し前の話になりますが、2月21日に帝国データバンクから「人手不足に対する企業の動向調査」という調査結果が発表されています。

この調査結果の要旨としては、以下とのことです。

調査結果(要旨)

 1. 企業の43.9%で正社員が不足していると回答、半年前の 2016年7月調査から6.0ポイント増加した。正社員の人手不足は、過去10年で最高に達した。業種別では「放送」の 73.3%でトップとなった。さらに、「情報サービス」や「メンテナンス・警備・検査」「人材派遣・紹介」「建設」が6割以上となった。また、規模別では、規模の大きい企業ほど不足感が強く、「大企業」では 51.1%と半数を超えている。大企業における人手不足が中小企業の人材確保にも影響を与えている可能性がある

2. 非正社員では企業の29.5%が不足していると感じており、半年前から4.6 ポイント増加した。業種別では「飲食店」「娯楽サービス」「飲食料品小売」などで高い。上位10業種中 8業種が小売や個人向けサービスとなり、個人消費関連業種で人手不足が高くなっている。規模別では、規模の大きい企業ほど不足感は強い。他方、正社員と非正社員の両方で上位にあがったのは「メンテナンス・警備・検査」と「人材派遣・紹介」の2業種にとどまり、雇用形態による不足業種が大きく異なる結果となった。

「人材派遣・紹介」は正規・非正規ともに不足

人材不足については、人材サービス業界に携わる皆さんにしてみれば、すでに当然の状況だとは思います。

その中で、正社員が不足していると回答している「人材派遣・紹介」の事業者さんが60.8%で第4位、いわゆる非正規社員については51.1%で第8位。

結構、由々しき事態だと思いませんか?

ちなみに正社員が不足していると回答している事業者のベスト10…ワースト10と言った方がよいかもしれませんが、以下のとおりです。

  1. 放送
  2. 情報サービス
  3. メンテナンス・警備・検査
  4. 人材派遣・紹介
  5. 建設
  6. 家電・情報機器小売
  7. 運輸・倉庫
  8. 専門サービス
  9. 自動車・同部品小売
  10. 電気通信

人気のない業種は概ね予想どおり

「放送」は、一見、華やかなイメージもありますが、前々からキツイ、安いで有名です。「メンテナンス・警備・検査」「建設」「運輸・倉庫」は想像に易いですね。

「家電・情報機器小売」は家電量販でしょう。これもどちらかというとあまり評判がよい業界とは言い難いものがあります。

自動車は、トヨタ、ホンダ、日産本体の人気がないということはないでしょう。販売会社や部品会社の人気がないということなのだと思います。

同様に電気通信もNTTやKDDIの人気がないわけではなく、家電量販同様に販売代理店の人気がないように思います。

いずれも、軽作業、建設などのブルーワーカー系や小売系といった以前から人材不足が言われていた業種は軒並みランクされていますね。

情報システムはますます人材不足に

唯一、性格が違うのは「情報システム」業界と言えるように思います。有効求人倍率をみても以前から圧倒的に人材不足が顕著です。

人気がないというよりもAIやIoTを初めとする技術開発に本当に人手不足なのでしょう。システム系の知識や経験をもつ人が足りていない、これは今後ますますそうなるのでしょう。

子どもの頃からの人材育成をしないと日本はもちませんね。

「人材派遣・紹介」の足元

このランキングの中で注目したいのが「人材派遣・紹介」業界です。

人材サービス業は人気がない業種ということが鮮明です。

日ごろはこのランキングにあるような業種への人材の派遣や紹介に忙しいということもあると思います。

その一方で、サービスを提供する側が人材不足に陥っているという事実は見逃せません。

この調査では、人材サービス業界は、正規、非正規ともに人材不足とされています。しかも、上位にランクされています。

悲しいことに人材サービスは人気がないということですね。

労働力人口の減少だけでは説明不能

なぜ、人材サービスは人気がないのでしょうか。

人材サービス業界の不人気は、ただ単に労働力人口の減少だけではないような気がします。

人材サービス業は、ブルーワーカー系や小売系とは異なり比較的ホワイトカラー系とも言えます。システム系のような知識労働とも違います。

他の不人気業種と比較しても少し違った原因があると考えた方が自然ではないでしょうか。

人材サービス業界の地位向上を

いくつか原因は考えられますが、その一つはレッテルです。

リーマンショック以降、人材サービス業は悪徳事業だというレッテルが貼られているという理由が大きいのではないでしょうか。

本来、人びとの職の選択に立ち会える仕事、企業の発展に貢献できる仕事として意義のある業界であるはずですが、メディアのネガティブキャンペーンに完膚なきまで叩きのめされた感じがあります。

これについては、悪徳事業者が存在した事実があるので、自ら身を正して社会からの信頼を取り戻すしかありません。

業界全体の待遇改善を

もう一つは、マージン率の開示にみられるように、業界が暴利を貪っているかのようかの誤解です。

実際には人材サービス業界の給与水準はあまり高い方ではない…というよりも低い方ではないでしょうか。

私自身の経験から言っても、情報通信業界から人材サービス業界に転身して驚いたことの一つが給与水準でした。

待遇が低ければ、当然ながら業界から人材が流出します。よい人材が流入することもありません。待遇改善は必要です。

営利事業である限り、適性な利益を得ることは必須です。マージン率開示は本当にバカげた法律ですね。

精神的なプレッシャーも原因か

人材サービスの特徴的なこととして、企業と労働者の板挟みということもあるのかもしれません。

根本的な原因を突き詰めるとマッチングの甘さということになるでしょうか。

売上ほしさに安易なマッチングをしてしまえば、当然、そのツケは自分に戻ってきます。

私が言うまでもなく、皆さんの方がよくご存知のことではないでしょうか。

人材サービスはマッチングビジネスです。本当の意味でマッチングを考えて仕事をしないと結局、クレームを引き起こし後ろ向きな仕事をしなければならないことになってしまいますね。

長時間労働の是正も重要

もう一つの特徴的なこととして、求職者の方との連絡が挙げられます。在職中の方が対象であれば、夜に連絡をとる必要があることが多いということになります。

私がお付き合いしているある人材サービス事業者の方からは、必ず22時以降にメールが届きます。

仮に9時から就業しているとしたら、すでに13時間の拘束時間はあるということになります。

生産性の向上ということとは違った側面で、シフト勤務やフレックス勤務など制度面を整えなければ離職率があがってしまいます。

働き方改革は、他人ごとではなく、雇用・労働にかかわる人材サービス業自らのこととして取り組む必要があるのではないでしょうか。

総務省が1月の完全失業率を発表していますが、前月より0.1ポイント低下して、3.0パーセントだそうです。

もはや、失業率よりも人材不足の方が大きな問題になってきましたね。

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雇用が変わる

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