こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

そろそろスギ花粉のピークは山を越しそうですね。これからはヒノキ??

敢えて表面化させない報告書?

さて、二週間ほど前のことですが、3月8日に厚生労働省の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」から報告書が提示されました。

ブログで採り上げたいとは思いながら、どうコメントをしたらよいのか考えているうちに時間が経ってしまい、すっかり遅くなってしまいました。

実は、この報告書は、メディアではほとんど採り上げられられておらず、私の知る限り、主要紙では日本経済新聞のWeb版だけが採り上げたようです。その日経の記事にしても、パートタイマー、有期雇用についてのみで労働者派遣についてはほとんど触れられていません。

これまでも何度かお伝えしたように、この「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」は毎回、非公開。

しかも、この報告書を発表したことも厚生労働省の「新着情報配信サービス」には記載されておらず、意識をして情報を採りに行かなければわからないという状況です。

うがった見方をすると、厚生労働省はあまり表面化してほしくないのではないかという意図が見え隠れしているようにさえ思えます。

今後の議論にとって重要な位置づけ

今後、この報告書をもとに労働政策審議会での議論を経て建議、国会提出という流れを考えると、この報告書の内容は、本来、極めて重要な位置づけとなるはずです。

その割には話題にならないように影を潜めているのはいかがなものかと思いますがなぜでしょう。

どうしてもそのままにしておくことはできないので、今日は改めて、この報告書をよく見てみたいと思います。恐らく最後まで読まれる方はほとんどいないとは思いますが、大切なことなのできちんと書き進めたいと思います。

この報告書は、パートタイマー、契約社員などの有期雇用者、派遣労働者のそれぞれについて、いわゆる正規雇用者(通常の労働者)とそれぞれどのように均等・均衡待遇を求めるのかについて議論されたものです。

すでに12月16日には同検討会から中間報告が出され、これに続いて12月20日に内閣府の「働き方改革実現会議」から同一労働同一賃金の「ガイドライン案」が公表されています。

12月16日から12月20日のわずか4日間で法律の方向づけがされたこともさることながら、ここにきて同一労働同一賃金の議論に拙速感を禁じえない状態になっているような気がします。

労働者派遣に関するこれまでの議論

まずは、12月16日の同検討会からの中間報告と12月20日の内閣府「働き方改革実現会議」からの「ガイドライン案」を振り返ってみます。

労働者派遣については、12月16日の中間報告では、以下のように記載されています。

12月16日 厚生労働省「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」中間報告

派遣社員に対する対応 

…省略…

派遣先社員との均等・均衡待遇に関しては、派遣元事業者と派遣先事業者との間の連携・協力の在り方、労働市場における派遣社員のキャリア形成等、派遣特殊的な論点があり、その在り方については、本検討会でも議論が尽くされていない。

欧州諸国では、派遣先社員と派遣社員の均等・均衡に関しては、直接雇用とは異なる派遣特殊的な方法が採られている国もあり、企業横断的賃金決定メカニズムが存在しない我が国ではさらに丁寧な制度設計が求められる。

一方、さらにこの4日後、12月20日の「ガイドライン案」では、派遣労働について以下のように述べています。

12月20日 内閣府の「働き方改革実現会議」同一労働同一賃金「ガイドライン案」

3.派遣労働者

派遣元事業者は、派遣先の労働者と職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情が同一である派遣労働者に対し、その派遣先の労働者と同一の賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない。

…省略…

つまり、派遣労働についてだけ抽出すると、12月16日時点では、厚生労働省から「議論が尽くされていない」「さらに丁寧な制度設計が求められる」と中間報告がされているにも関わらず、わずか4日後には内閣府から「派遣先の労働者と同一の賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない」とガイドライン(案)が示されているのです。

これは労働者派遣事業にとって、非常に大きな分かれ目であると考えるのは筆者だけでしょうか。

検討会の報告書は議事録

3月8日の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」報告書から「2.労働者派遣法制関係」だけを採り出してみます。

まず、項目として「(1)労働者派遣法制における司法判断の根拠規定の整備関係」「(2)派遣元事業主・派遣先の責任・協力の在り方、労働者派遣法制における説明義務の整備関係」「(3)その他(履行確保の在り方等)」の3つに分かれています。

そして、それぞれについて「論点」と「主な御意見」、さらに個別の意見が記載されています。

それぞれに目を通してみると、ガイドライン(案)を前提としたと思えるような「論点」に対する「主な御意見」や個別の意見であり、とても「報告書」と言えるものではありません。単なる意見の羅列のみにとどまっています。

残念ながら検討会としてのまとまりがあるものには見受けられません。

「検討会」=「検討をする会」ということで、検討された内容が網羅されることが大切ということであればそれでもよいのかもしれませんが、それにしても「こんなにたくさんの意見がでました」というだけの内容で、これであれば私でも意見はたくさん言えます。

報告書というよりも議事録という趣きのものと言えるかもしれませんが、一定の結論らしきものを期待していただけに残念です。

語りつくされていない「検討会」報告書

この検討会は、昨年12月16日の時点で「議論が尽くされていない」「さらに丁寧な制度設計が求められる」と中間報告があったのち、2月7日と2月20日に2回開催されています。

そして、実際に労働者派遣について議論がされた形跡があるのは2月20日の2時間のみです。

どう考えても語りつくされたとは思えないというのが正直なところです。

一つだけ特長的な救いを挙げるならば、内閣府の「派遣先の労働者と同一の賃金の支給、福利厚生、教育訓練の実施をしなければならない」に対して、有識者からは「派遣先との均衡を求める方向に慎重な御意見」がことのほか多くだされているということでしょうか。

今後の労働力需給制度部会でさらに議論がされることになるのだろうとは思いますが、内閣府のガイドライン(案)ありきではなく、これらの論点をもとにゼロベースで論じて欲しいものです。

実情の理解と机上の空論

検討会がすべて非公開だったことから、委員のどなたがどのようなスタンスでどのように発言をされたかは知る由もないのですが、それぞれのコメントを見ていると、実情を理解している方のコメントと机上の空論の方のコメントが飛び交っている様子がよくわかります。

ここからは、さらに「検討会」報告書を分解して詳細に見ていきます。

(以降、報告書の原文を囲み、その後、逐次、筆者のコメントとして記述します。)

2.労働者派遣法制関係  

派遣元内における派遣労働者と他の労働者との均等・均衡待遇については、パートタイム労働契約や有期労働契約の派遣労働者に関しては「1」の議論が適用される。「2」では、派遣先の労働者と派遣労働者の均等・均衡待遇に関して論点を整理する。

あくまでも、派遣労働者はパートタイマーや契約社員などとは扱いが違うということが前提になっています。

(1) 労働者派遣法制における司法判断の根拠規定の整備関係 

【論点】

〇 派遣労働者と派遣先労働者との待遇差に関する司法判断の根拠規定の整備について 

・派遣先との均衡を求める必要性・考え方(労働契約法の適用との関係等) 

・具体的制度設計(均衡を判断する考慮要素、派遣労働者のキャリア形成との関係等)等

論点の段階で「派遣労働者と派遣先労働者との待遇差に関する司法判断の根拠規定の整備について」となっており、この段階ですでに前提が派遣労働者の均等・均衡待遇は派遣先労働者との比較ということになっています。本当にそれでよいのでしょうか。

労働契約法の中にパートタイマーも派遣労働者も含まれるという観点で言えば、たしかに派遣先との均衡ということになるのだろうとは思いますが、そもそもパートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の切り分けの整理すらできていないのが実情だと思います。

事実として、労働契約法の5年の無期転換と労働者派遣法の3年の雇用安定措置がダブルに規制されること自体がすでに法律を難解なものにしています。

本来は、これらのいわゆる非正規雇用を規制する3つの法律の整理からするのがスジではないでしょうか。

【主な御意見】 

前提として、労働者の待遇の向上のための規制を、労働市場における労働者派遣制度の位置づけと整合的に整備していくべきとの意見があった。そのうえで、派遣先との均衡を求める考え方については、

平成27年改正労働者派遣法の附帯決議で、「常用代替の防止」が「労働者派遣法の根本原則である」とされ、さらに「派遣就業は臨時的・一時的なものであるべきとの基本原則」であるとされました。(詳細は拙ブログ「労働調査会の『先見労務管理』1月10日号に寄稿させていただきました!」を参照)

凡そドサクサ紛れの定義づけですが、「労働者派遣制度の位置づけ」がこれらに該当するとするならば大問題です。

前提条件が誤っているものを前提としても正しい解は得られません。

・ 職種別労働市場を形成している派遣にはなじまない、個人請負による非労働者化などの副作用が懸念される、派遣先との均衡を担保する実務プロセスがイメージできない、そもそも派遣が成り立たなくなるおそれがある、現状理解が不十分など派遣先との均衡を図ることに対して慎重な意見が多数指摘された一方で、

すでに労働者派遣は、職種別の労働市場を形成しています。「職種別労働市場を形成している派遣にはなじまない」というのは、前提として極めて正しい認識だと思います。

多くの有識者の方の認識が冷静であることに安心感がありますが、一方では…

・ 派遣がコスト削減目的で使われることは避けるべき、パート・有期・派遣の規制の強さのバランスが必要、請負への切替えが違法な形で行われないようチェックは必要としたうえで、個別の待遇について派遣先との均等・均衡という原則を明確にすることが重要との意見があった。

規制の強さで、労働者派遣からパート・アルバイトに多くの移動があった平成24年法を考えると、労働者派遣への過度な規制は、さらに官製派遣切りを助長することになります。

規制の強さよりも雇用の成り立ちを重視した方がよいのではないでしょうか。すでに職種別の労働市場を形成していることに着目する必要があります。

これを規制することは、ただでさえ特異とされる日本型雇用を、さらにグローバルスタンダードから離れていくことを助長することになります。

日本型雇用の良い点はあるのだと思いますが、一方ではグローバルスタンダードから敢えて乖離することは避けた方がよいのではないでしょうか。

また、派遣労働者の待遇改善を図るために、

・ 派遣先との均衡ではなく、職種別労働市場の中で賃金相場を上げていくアプローチによるべきという意見

せっかく形成されつつある、職種別の労働市場を破壊することは望ましくありません。このご意見は至極当然と考えられます。

・ 個別の待遇について派遣先との均等・均衡を原則とした上で、派遣労働者のキャリア形成の視点からの調整を行う仕組み(キャリア形成と両立しうる工夫)、派遣がある程度の期間継続して行われた時点から派遣先との均衡を求める仕組み等によるべきという意見(そうした仕組みとすると、その時点で派遣契約を終了させる効果を招きかねないという意見)

現状でも派遣先との均等・均衡について配慮義務が課されていますが、実態から言うと派遣元が配慮をしたとしても派遣先がそれに応じないことがほとんどではないでしょうか。

派遣先に派遣先社員の待遇を開示する義務を負わさない限り、厳密な均衡は不可能ということになりますが、派遣先はこれについては承諾しないでしょう。

仮に承諾したとしても、実際のところは派遣元にはその妥当性の判断がつきません。事実上不可能なことを制度化しても機能しないことは目に見えています。

・ データ等から規制の必要性が明らかな範囲に限り派遣先との均等・均衡を求めることとし、雇用確保の困難性や賃金水準、雇用契約期間、派遣継続期間、把握可能な金銭給付などの観点で、対象を限定した制度を検討すべきとの意見があった。また、

派遣料金については、拙著「雇用が変わる 人材派遣とアウトソーシング ─ 外部人材の戦略的マネジメント」の第2章5項の「人材派遣サービスの料金」に細かく記載したつもりですが、「労働力需給調整」という観点では、実態としては労働市場の需給バランスで料金が決まり、多くがそれに沿って給与が決定されています。

あまりにも一般的な金額と水準が違う場合には派遣先との均等・均衡を求めることは必要だとは思いますが、実際にはこのご意見のとおりだろうと思います。

・ 派遣労働者の派遣先労働者との均等・均衡待遇に関しては、このように複数のアプローチがありえるため、今後、労働政策審議会で議論を尽くしていただく必要があるとの意見が複数あった。

順序としては、続く労政審での議論ということになるのだろうとは思いますが、検討会としてもう少し方向感を明確にしてほしかったというのが正直なところです。

(検討に際しての留意点ー労働市場における派遣制度の在り方)

○ 労働者派遣に関する規制の在り方を検討する際には、労働者派遣法の目的に鑑み、労働力の需給の適正な調整を図る目的と、派遣労働者の保護等、雇用の安定その他福祉の増進に資する目的とを勘案しなければならない。 

その際、労働者派遣のそもそもの役割が、短期的な労働力の需給調整に対応するものなのか、それとも、長期的な派遣労働も、それが派遣労働者の雇用の安定等につながるのであれば積極的に許容されるものなのかについては、制定から現在までに至るまでの労働者派遣法の規制の経緯や現行法の規制を見ても、必ずしも明確ではないように思われるが、今後、派遣労働者の待遇の改善や派遣先の労働者との待遇格差是正のための規制について検討するには、上記の点を踏まえ、どの目的を達成するにはどのような規制が適合的かを検討する必要があると考える。

前述のように、常用代替防止や臨時的・一時的であることが基本原則であるといったドサクサ紛れの前提条件に捉われずに議論する必要があります。

あくまでも派遣労働者の保護、もっと言うと、職業選択の自由を保障することを前提として議論してほしいものです。

○ 派遣先均衡を原則にするのであれば、派遣労働者が大幅に減るということを認識・覚悟する必要がある。

直接雇用の場合の賃金より高いコストを払ってでも一時的に確保したい人材しか、派遣として受け入れられなくなることが予想されるが、それは今の派遣の実態と大きく乖離している。

本当にそのとおりです。派遣先均衡の原則は、官製派遣切りパート2を意味します。

すでに起こった未来…つまり、派遣を規制すれば正規雇用が増えるという幻想はありえません。

派遣を規制すると、派遣よりも待遇が悪くなる可能性が高いパート・アルバイトに流れるだけです。

政府にはそのような実態をきちんと把握して欲しいものです。

そのような派遣制度に関する大きな方針転換が、均衡の規制に関する議論の延長線上で決められるのには違和感がある。

本来、派遣制度の在り方を議論し直した上で決定すべき事柄であり、均衡の規制を強化した結果として、派遣労働者が大幅に減少するというのは順番が違う。

はい。本末転倒です。ヨーロッパの同一労働同一賃金を参照しながら、職種別の労働市場である派遣労働を派遣先との均衡に置き換えることにも違和感があります。

むしろ、パートタイマーは、ほぼほぼ最低賃金プラスαの職種と捉えることもでき、すでに多くは職務分離が進んだ末の状況であることを考えると、パートタイム労働法も通常の労働者との均衡ではなく、職種別の労働市場ができあがっていると捉えることもできるような気がします。

日本のガラパゴス化から脱するためにも、少なくとも派遣は職種別の同一労働同一賃金をより高度化させることが望ましいのではないでしょうか。

(派遣先との均衡を求める方向に慎重な御意見)

○ 日本において同一労働同一賃金を進めるにあたっては、欧州のような企業横断的な同一労働同一賃金ではなく、まずは同一企業内での均等・均衡とするという方針を立て、かつ派遣労働者に関しては派遣元事業所内の内勤の労働者との均等・均衡を求めるにもかかわらず、派遣労働者に限って派遣先との均衡をさらに求めるということは、派遣だけに企業横断的な仕組みを入れることとなる。パート・有期・派遣という雇用形態で整合的な規制となっていないのではないか。

報告書の文章の意図がよくわかりません。派遣だけに企業横断的な仕組みを入れることは悪いことなのでしょうか。

前述のように、パートも最低賃金の職種という位置づけ、有期の契約社員なども概ね職種によって年収の相場ができているという考え方はできるはずです。

人材サービスとして人材紹介も視野に入れると、人材派遣だけでなく需給調整バランスの市場原理が働いていることは明らかです。

「就職」ではなく「就社」と揶揄される中で、いわゆる非正規雇用者も「就社」の枠組みに押し込めるのは本当に違和感があります。

○ 中間報告で、直接雇用については、日本は職種別賃金相場がないので当面は同一企業内での均等・均衡に焦点を当てようという整理がなされた一方で、職種別賃金相場が形成され得る派遣についてまで、なぜ同一企業内(派遣先ごと)の判断とするのか疑問。

また、派遣先均衡を原則にして、同じ職務の一般の労働者との比較を例外にするというのは、今までの派遣に関する議論や労働者派遣法における整理からも説明がつかないのではないか。

本当に疑問です。説明がつきません。「職種別賃金相場が形成され得る」とありますが、実態としてはすでに形成されていると言っても過言ではありません。

特に今後ますます需給バランスが逼迫することを考慮すると、その水準も自動的に上がることは目に見えています。実際に昨今はじわじわと派遣料金は上昇傾向にあることは周知の事実です。

○ 有期契約労働者や派遣労働者の無期転換が2018年に始まり、派遣先の使用者企業に対し、直接雇用の有期契約労働者やパートタイム労働者への均等・均衡を求めるタイミングで、加えて、外部人材である派遣労働者にも直接雇用の有期契約労働者などと同じレベル以上の規制を求めると、個人請負化など労働者保護がかえって弱くなる副作用が出るリスクがどんどん上がっていくのではないか。

本来はタイミングの問題ではなく普遍的な枠組みの中で語られるべきものと思いますが、実態上はこのような状況も起こり得るように思います。

○ 非正規雇用全般に対して均等・均衡待遇に関する規制強化をしていくと非労働者化の進展は免れない。非労働者化すると非常に捕捉しにくいという社会的な問題がある。そのような方向に誘導しないような政策形成が重要。

よく「職務分離が進む」という表現が使われますが、実態上はすでに「職務分離が進んだ結果」が現状であるとの認識が必要ではないでしょうか。

いわゆる非正規雇用の問題、とりわけ不本意な非正規雇用は、職務分離が進んだ結果起こっていることです。

職務分離をしないようにすること自体は不可能です。今後、AIやロボット、IoTなどが進展すれば、それこそ職務分離はますます進みます。

仮にそれを進めさせないとするならば、我が国の生産性はますます低下することになります。

最低賃金を上げるとか、ベーシックインカムを検討するなど他の枠踏みで検討した方がよいように思います。

○ 通勤交通費等の個別の労働条件は別として、賃金に関する派遣先の労働者との「均等」 については、そもそも派遣期間が限られており、人材活用の仕組みも派遣先と異なることから、ケースの想定自体が難しい。派遣先の労働者との「均衡」については、それを担保できるようにするためのプロセスがイメージできない。

例えば派遣先から同種の業務に従事する派遣先労働者の賃金情報の開示を受け、派遣元事業主が派遣先に待遇差に関する説明を求めたとしても、人材活用の仕組みが違うからと言われたら、派遣元事業主にそれ以上追及する術はないので実効性を確保するのは難しい。

フランスではキャリアコースの違いも考慮の対象になるとされている、一方、我が国の派遣は臨時的・一時的という考え方が横たわっている中で、前提条件が違うことは明らかです。

ここに均衡を求めることは大きな無理があります。フランスのように派遣の反復更新の脱法行為が横行しているのと違い、我が国では派遣労働には派遣先企業でのキャリアコースはないということですから。

また、①派遣先の労働者並みの賃金水準を確保するための派遣料金引き上げを派遣先から断られた場合、派遣労働者が同じ派遣先にい続けたいと希望しても、派遣元事業主はその派遣労働者を派遣先から引き上げさせなければ規制に違反したことになるのか、

②賃金に見合った派遣料金を拒否した派遣先にも責任は及ぶのか等、派遣先均衡で求められる責任の内容や所在が曖昧。

①のように断られる可能性が非常に高いと思います。派遣先に義務付けるしか方法はありませんが、その場合、派遣先は労働者派遣を利用するメリットが得られません。結局、パート・アルバイトの直接雇用になります。

ちなみにパート・アルバイトの方が派遣よりも待遇がよいという保証はどこにもありません。

②もごもっともです。実際に派遣先にこれを義務付けることは不可能でしょう。

○ 均衡の確保に向けた取組は、1つの企業内でも相当の負荷を伴う。大手の派遣元事業主であれば膨大な数の登録型派遣労働者の派遣先一つ一つに関して、同種の業務の派遣先の労働者を特定し、派遣先との交渉を通じて均衡を確保することが原則となれば、派遣元事業主の実務のキャパシティを超える懸念が大きい。

大手、中小の別なく、その負荷はかなりのものとなりますが、その負荷の結果として実際に成果を挙げられるかというと、成果も得られない。

労多くして得るものはないというのが実態。もっと言えば、そもそも不可能であり、得るものはないと思います。キャパの問題ではなくはっきり言って無駄です。

(派遣先との均衡を求める方向の御意見)

○ 職務待遇確保法で検討を求められている派遣先均等・均衡は、“派遣がコスト削減目的で使われるのを避けるために、パート・有期に均等・均衡を求めるのと同様に派遣にも均等・均衡を求める”という趣旨のもの。

派遣先との均衡は実質的に無理であり無駄。机上の空論は慎むべきだと思います。

○ 派遣に関する均等・均衡については、パートタイム労働法9条をもとにした規定を置くかどうかよりも、まずは、均等・均衡の両方が含まれるパートタイム労働法8条や労働契約法20条のような規定を置くかどうかを中心に検討すべき。  

すでに労働者派遣法平成27年改正法では「派遣労働者と派遣先社員の均衡待遇の推進」として、派遣先との均衡について配慮義務とされていますが、これは、明らかに逸脱をした給与とならないように配慮をするもので、均衡を義務付けるものではないはずです。

政策的にそのレベルにしておくことが必要であるように思います。さもなければ、これまで述べてきたように矛盾に満ち満ちたものになってしまいます。

○ 派遣先が派遣労働者を不当に低い待遇としないことが目的なのであれば、派遣先均衡の考慮を派遣元事業主に課す労働者派遣法30条の3の改正を前提に議論するのではなく、派遣先に外部人材であるという理由で不当に待遇を低くしてはならないというパートタイム労働法8条の変形をいれることも考えられる。

一足飛びに労働者派遣法30条の3の改正を前提に議論すると、規制の目的とその実現の仕方にねじれがでる。

法制について技術的、専門的なことはよくわかりませんが、前述のようにパートタイム労働法、労働契約法、労働者派遣法の位置づけからきちんと見直した方がよいのではないでしょうか。

どう考えてもMECEの関係にはなっていません。ダブりあり、漏れありです。小手先の法制ではなく根本からロジカルに整理をした方が速いのではないでしょうか。

○ 非労働者化の問題は、労働時間規制強化や最低賃金の議論など労働法改正の議論では常に問題となるものであるとともに、労働法改正にかかわらず実態として進んでいる問題でもある。

今回の法改正でも、脱法行為が横行しないよう注意しながら検討を進めていく必要がある。

実態が伴わない法制度は、悪意のない脱法行為にもつながります。

派遣労働者の均等・均衡を実現していくうえで実際に生じる可能性が高いのは、非労働者化よりも派遣から業務処理請負への切り替え。その際には、業務処理請負が適法な形で行われているか、偽装請負になっていないかといった点を十分にチェックすることが必要になるだろう。

派遣先との均衡という実態からかい離した法制度を考えると偽装請負というような抜け穴を作ることになります。実態に基づいた法規制が必要です。

(他の雇用形態間との規制の強さのバランスを考慮する必要性)

○ パート・有期・派遣の3つの雇用形態間で、規制レベルの差異があると、雇用主の立場から見て利用しやすさに差異が生まれ、3つの雇用形態間での代替が生じる恐れがある。規制の強さについてバランスを考える視点が必要。

有期(ここでは主に契約社員)と派遣は本来は主に職務型の雇用形態です。同じ職務型でありながら、通常の労働者との均衡、派遣先との均衡に差ができるのは困るということだろうと思いますが、具体的には、概ね期間の差が大きいように思います。

契約社員が概ね一年以上の雇用を前提としていることに対して、派遣は一時的・臨時的という考え方もあります。

前者では、本来は職務型でありながら職能型として捉え、通常の労働者と均衡を図ることに無理があるようにも思います。

人材紹介市場を見れば明らかでしょう。企業別の均衡はやはり無理があります。

キャリア形成の観点からは、言い方は別として大手企業で歯車の歯となるよりも、中小企業でハブとなる方が、鶏頭となるも牛尾となるなかれということもあります。

必ずしも通常の労働者との均衡がよいわけではありません。

(派遣先との均衡とは異なる方法での派遣労働者の待遇改善方策に関する御意見)

○ 派遣は職種別労働市場を形成しているので、職種別労働市場の賃金相場の底上げを図る規制のアプローチの方が、派遣先均衡よりもわかりやすいし、実効性が期待できる。派遣先均衡は、労が多い割に実効性に乏しい。

はい。そのとおりです。委員のどなたがこのように発言されているのか知りたいですね。

(派遣先との均衡を求めることとする場合の具体的制度設計に関する御意見)

○ 派遣労働者の多くは有期契約労働者でもあるため、派遣先との均衡を求めた場合、派遣元内(無期―有期)の均等・均衡(労働契約法)も二重にかかってくるため、法的な調整が必要ではないか。

派遣先との均衡は不可能であることを前提としますが、その場合も派遣元での均衡も難しい場合の方が多いと思います。

例えば、販売や技術者、製造、通訳、翻訳など、いわゆる派遣会社にはそのような職種はありません。つまり比較の対象がありません。どうしても同様の仕事に従事している人の市場での水準が参照されることになります。

派遣元との均衡ということも簡単そうに言われますが実際には派遣会社内には無い職種で派遣しているケースの方が多いのではないでしょうか。もっと実態を見て欲しいものです。

○ 派遣先均衡を最初から厳格に求めると、派遣元事業主の負担が増大し、短期的な労働力の円滑な需給調整に支障が生じる可能性がある。

このため、労働者派遣がある程度の期間継続して行われ、派遣元事業主にとっても派遣先の協力を得て、派遣先の労働者の労働条件を踏まえた対応が現実に可能となる時点から検討されるべきことが望ましい。

繰り返しますが、厳格もなにも派遣先との均衡は不可能です。当然、需給調整機能は働きません。

「ある程度の期間継続して行われ」とありますが、すでに3年の雇用安定措置があることから、派遣先との均衡は意味のないものになります。

3年の雇用安定措置がないのであれば、3年経過後は派遣先との均衡を図ることを義務付けるということは考えられるかもしれません。

ドイツの改正労働者派遣法(2017年4月1日施行)の趣旨の1つも、このような考慮によるものと考えられる。

また、派遣先の労働者との均等・均衡待遇の検討に当たっては、派遣労働者が無期雇用の場合と有期の場合とで、派遣期間に関する規制が異なっていることも考慮されるべきであろう。

ドイツがどのように派遣法を改正したのかわかりませんが、ドイツはギルドにみられるように最も職務型の雇用形態が発達したところです。

私自身、ドイツで仕事をした経験から、「みんなで」とか「和を以て貴しとなす」というような発想はありません。ジョブディスクリプションに従って業務をこなせばそれで仕事は成立します。

日本のようなウェットな感覚がないので、比較の対象としてはいかがなものかと思います。

申し訳ありませんが、ここら辺の発言をされている委員の方は実態を無視しているのではないでしょうか。

非公開だけに、どなたがこのような発言をされているのかわからず、闇鍋のような状態ですが、敢えて勇気を出してコメントさせてもらいます。

無期雇用の場合は、派遣元内での待遇決定を尊重し、有期の場合は、同一派遣先への派遣が一定期間に達した時点から、派遣先の労働者との均等・均衡待遇を強化していくという方法が考えられる。

その場合、無期雇用の場合と有期雇用の場合の均衡はどのように図るのでしょうか。考えられないと思います。

○ ドイツの改正労働者派遣法(2017年4月1日施行)のように、一定の時期の到来(例: 9か月)をもって派遣先との完全な均衡を求める制度設計とすると、その時点で派遣契約を終了させる効果を招きかねないので、慎重な検討が必要。もしもこのような制度を導入するのであれば、スムーズに派遣労働者の賃金を派遣先労働者の賃金に収束させていくような制度設計が必要。

無理の上に無理を重ねるようなことを考えるだけでも生産性が悪いと思います。

○ 賃金の高い派遣先から低い派遣先へ移ると、能力が上がっているにもかかわらず派遣先に合わせて賃金が下がる凸凹が生じるなど、派遣に特殊な事情もあるため、キャリア形成の視点からの調整は必要。

どのように調整するのでしょうか。比較的、水準の高い大手企業で職務分離された仕事をするよりも、水準の低い中小企業で何でもこなす仕事の方が能力的には高いものが求められます。調整のしようがありません。

○ 派遣先に合わせて賃金を変えなければならないとなると、派遣業者の立場からすると、 派遣先を変更して派遣労働者の技能形成を図ることが難しくなる恐れもある。

正規労働者について職能給的な賃金制度を採ることで、配置転換を通じた技能形成を図っているという議論があり、その議論が参考になる。

そのとおりです。キャリア形成支援と待遇改善は必ずしも一致しません。明らかに派遣は職務給であり、職能給にはなりえません。

○ 派遣先との均等・均衡を基本としつつも、一つのやり方としては、例えば「正規労働者の職種別賃金水準を下回らないレベルで基本給、賞与が設定されている」、「派遣元で長期キャリア形成の措置をとっている」、「福利厚生等でも一定のきちんとした対応をとっている」という派遣のパッケージも一つの調整形として政策的にはあり得る。

イメージが付きません。机上の空論ではないでしょうか。ただでさえ、複雑怪奇な法制度にさらに幾重にも規制が重なるとますます実効性が担保されなくなります。

○ 派遣労働者はそもそも雇用者の2%程度に過ぎず、非正規雇用労働者の約半数はパー トタイム労働者。

そのパートタイム労働者や有期契約労働者の均衡については、人材活用の仕組みなどを考慮して正規労働者との賃金格差を認めるということになっているのに、派遣に限って、職種別労働市場横断的な最低基準を正規労働者の賃金水準に合わせるのは理屈が通らない。

この文脈で「雇用者の2%程度に過ぎず」というのは乱暴です。2%だから切り捨ててもよいという話ではない話です。

「雇用者の2%程度に過ぎず」というのは、いわゆる非正規問題のすべてが派遣にあるとされる議論に対する話であり、2%だからどうなってもよいという話ではありません。

そのうえで、「職種別労働市場横断的な最低基準を正規労働者の賃金水準に合わせるのは理屈が通らない。」というのはそのとおりだと思います。妙なねじれができてしまいます。

○ パート・有期と並んで待遇改善の議論をしているので、パート・有期と同様、比べる対象は正規労働者の水準。

恐らく、ここら辺からこの検討会の報告書はいよいよ議事録化しているのだと思いますが、待遇改善はよいとして、派遣先との均衡が目的化するのは主旨が違うのではないでしょうか。

○ まずは派遣先の中で、労働契約法により有期契約労働者と正規労働者の均衡待遇を実現した上で、然るべき対象労働者と、派遣労働者を比較することを検討すべき。派遣先でも、派遣元でも、非正規雇用労働者の均等・均衡を進める中で、企業横断的な派遣先均衡の規制を他よりも高いレベルで求めるのは違和感がある。

企業横断的な派遣先均衡というと、派遣元の力関係によって水準が決まるということにもなりかねません。

概ね、大手事業者は大手派遣先、中小派遣元は中小派遣先を取引先としているケースが多く、せっかくの職務型の雇用形態が崩壊します。

○ 派遣労働者の賃金水準が高いところはよいが、事務職派遣や製造業派遣など賃金水準が安い人たちについてどう実効性のある規制を入れていくかが大切。

これだけでは発言の意図がよくわかりませんが、派遣社員の方が派遣先企業よりも賃金水準が高いこともあります。すでに職務型の水準ができあがっているからです。

○ 事務系派遣の賃金水準は非正規雇用労働者の中では高い方にある。

製造業は、派遣だから賃金が低いのではなく、有期契約労働者も低く、非正規雇用労働者全体の問題。

製造業の中でも、技術系派遣は、派遣先より高いことさえある。

賃金水準が高い労働者も低い労働者もいるときに、一部の労働者の待遇改善を、派遣先、派遣元事業主に二重に規制をかけて全体で実現しようとするのはやりすぎであり、必要最低限の規制となるよう検討が必要。

必要最低限…そのとおりです。現実を見なければなりません。この委員の方は実態をよく把握されているようです。

 (派遣先との均衡は範囲を限定して制度を検討すべきという御意見)

○ 派遣労働者が企業横断的にキャリア形成し待遇が上がる仕組みを整備しつつ、派遣先均衡は現行では足りない部分があればそこだけに範囲を限定して導入すべき。

「現行では足りない部分があれば」という部分的な解決策は避けた方がよいと思います。概ね企業横断的な市場が形成されているということが前提とするならば、現行で足りない部分についても市場原理に任せた方が自然な解決策になると思います。

例えば金銭給付はドイツの15ヶ月のように派遣先に入ってから一定期間以上が過ぎている、キャリア形成などの観点から派遣先3年の適用除外となっている「無期雇用派遣ではない」「雇用確保の困難さが認められない」という派遣労働者に限るということを考えるべき。

繰り返しますが、ドイツと日本はベースとなるものがまったく違います。あまりに違うものを真似しても上手くいかないのではないでしょうか。

○ 派遣先均衡を求める場合、適用除外の在り方について、現行労働者派遣法40条の2で定めている派遣期間の適用除外との整合性も重要。

具体的には無期雇用派遣と雇用確保が困難な者を適用除外とすることが考えられる。雇用確保が困難な人たちに対して派遣先均衡を全てに優先して求めることが適切だとは思わない。

すべての派遣労働者がキャリア形成をしたいと思っているわけでも、派遣先との均衡を望んでいるわけでもないという根本的なことへの理解が必要ですね。

○ 仮に派遣先均衡を考える場合、どこまでの待遇について均等・均衡を求めるかは直接雇用の非正規以上に丁寧な議論が必要。

派遣労働者の教育訓練は2015年改正で年間8時間の教育訓練が派遣元事業主に義務付けられ、派遣先・派遣元事業主ともに配慮義務の規定も入っている。

さらに均等・均衡待遇の規制を強化する必要があるのか。また、十数種類ある手当を全て派遣先と派遣元で比べ、それぞれ給付するのはとても現実味がない。

御意。

○ 派遣元均衡も進めるうえでの派遣先均衡は、あらゆる待遇を対象とするのではなく、把握可能な金銭給付に限定するということが現実的なのではないか。

派遣元均衡(=他の派遣労働者との職務型の均衡)はよいと思いますが、派遣先均衡は考えるのをやめましょう。実態からかい離しています。

(派遣労働者の待遇改善に向けたアプローチについて検討が必要との御意見)

○ 派遣労働者の派遣先労働者との均等・均衡待遇に関しては、職種別労働市場の中での賃 金相場の引上げから取り組むべき、派遣先との均等・均衡を原則とした上で一定の調整を行うべき、派遣労働者の保護強化の必要性がある範囲を特定した上でその方法を検討すべきといった複数のアプローチがありえるため、今後、労働政策審議会で議論を尽くしていただく必要がある。

結局、労政審に持ち越しということですね。いずれにしても、派遣先均衡は労働市場を崩壊させるばかりか、これからの必然的に起こる雇用の流動化、二極化の中で雇用を救う手立てさえ失うことになるのではないでしょうか。

やっと、二番目のトピックに移ります。

(2) 派遣元事業主・派遣先の責任・協力の在り方、労働者派遣法制における説明義務の 整備関係 

【論点】

〇 派遣元事業主・派遣先の責任・協力の在り方

〇 派遣における説明義務の在り方(意義/派遣元事業主・派遣先の責任・協力の在り方/説明の時期・具体的内容等)

労働者派遣法全体の印象からすると、派遣元にきつく、派遣先に甘いというのが、派遣先企業、派遣元企業の双方を経験した筆者の感覚です。

派遣元ではいかんともし難いことまで派遣元が義務を負うようなことがあり、ある意味、理不尽さも感じます。

フェアに考えるならば、いずれが責任をもつべきことか、合理的な見直しが必要ではないでしょうか。

【主な御意見】

仮に派遣先との均衡を求める場合、派遣先からの情報提供が必須であること、その履行確保手段が重要であることについて指摘があった。

また、派遣先における比較対象労働者について、比較対象労働者がいない場合に仮想比較対象労働者を認めることの利害得失などについて議論があった。

はい。必須です。しかし、必須としたところで実効性は担保できません。また、仮想比較対象労働者を設定することに意味があるとは思えません。仮想はあくまでも仮想です。

(派遣元事業主・派遣先の責任・協力の在り方に関する御意見)

○ 仮に派遣先均衡を求める場合、賃金支払いなので一義的には派遣元事業主に均衡に関する努力が課せられるが、派遣先からの情報提供や料金設定の配慮なくして実現しえない。

はい。派遣先均衡は求めませんが、理屈のうえでは派遣先からの情報提供は必須です。配慮では無理です。エビデンスまで含めて開示が必要になります。

○ 派遣先から派遣元事業主への情報提供は、労働者の待遇が納得いくものになっているかという観点からも重要であるし、かつ、派遣先均等・均衡という体制をとるとすると、派遣先労働者の労働条件が分からないと派遣元事業主が処遇を合わせられないため、派遣先均等・均衡を実現するという観点からも重要であり、実効性をどう担保するかが課題。

実効性は担保できません。

派遣先に罰則を課すことができるか、また、例えば派遣先が故意・有過失で一定の労働者派遣法違反行為を行った場合に「労働契約申込みみなし」というサンクションがあり、それも含めてどういうサンクションをつけることが適当かも検討する必要がある。

実効性の担保ができないうえに罰則は無理でしょう。不毛な議論になっていませんか?

 (派遣先における比較対象労働者に関する御意見)

○ 派遣先における比較対象労働者の賃金情報について、仮想のもので良いとすれば、低めの賃金情報を提供する負のインセンティブが働くのではないか。実際には、比較対象労働者が1人もいないケースが多い。仮に採用するのならこの労働条件でという情報は何とでも操作できてしまうため、設計上留意が必要。

仮想はダメでしょう。根拠に乏しすぎます。すでに職務分離はかなり進んでいます。その事実を直視して欲しいものです。

○ 現実の比較対象労働者か仮想比較対象労働者かというと、なるべく近い現実の比較対象労働者の方が実効性は増すのではないか。

いや、やっぱり仮想はだめです。説得力がありません。

〇 比較対象労働者がいないところでは企業内での同一労働同一賃金という話からすれば あまり大きな問題ではないので仮想比較対象労働者であっても構わない一方、全く同じ仕事をしている人がいる場合にはその人と派遣労働者を比べて大きな違いがあってはならないとすると割り切るというのもひとつの考え方。それがいいというわけではないが、様々なパターンがある。

すでに職務分離が進んでいる状態では、むしろ仮想は危険です。事業者の立場で考えると料金設定の交渉で根拠をもたなくなります。むしろ、企業横断的な職務型の賃金に合わせた方が派遣労働者の納得感があります。なぜ、ここだけアバウトになるのか理解できません。

○ 基本給、特に職務給や教育訓練は同じ職務の比較対象労働者と比較することが重要だが、福利厚生や賞与は同じ職務の比較対象労働者がいなくても派遣先でどういう制度を採っているかで合わせればよい。

大手派遣元事業者の福利厚生は中小派遣先企業を上回っていることも多いですが、中小派遣元事業者では企業体力として派遣先企業と均衡を保つことは経営的に不可能なこともあるのではないでしょうか。

○ 派遣料金が派遣労働者の賃金を上回る派遣の構造から、職務分離のインセンティブは パート・有期以上に強い。

比較対象労働者は実際に比べられる派遣先の労働者がいる場合だけにすると、比較対象労働者をおかないよう職務分離を招き、派遣を長期的なキャリア形成の一つの要素として位置付けていこうという前回改正の趣旨から外れる懸念がある。

有期(=いわゆる契約社員とするならば)はともかく、派遣とパートはすでに職務分離が進んだ状態だと思います。インセンティブ以前の状態ということです。

企業横断的に職務で賃金を決定していった方がキャリア形成の観点からも実効性があります。

(3) その他(履行確保の在り方等)

【論点】

〇 派遣における労使コミュニケーションの在り方

残念ながら、派遣の企業横断的な組合の構築は難しいものがあります。

【主な御意見】

派遣元横断的な労使話合いの仕組みを目指すべきとの意見、派遣元における労使コミュニ ケーションにおいて直接雇用スタッフとは異なる派遣労働者の意見をどう吸い上げるかが重要といった意見があった

現実的には、派遣労働者は派遣先にも派遣元にも正直な意見を言いづらいという環境だと思います。いかに派遣労働者の声を吸い上げ、適切に待遇に結び付けるかは、派遣事業者の力量によることになるのではないでしょうか。

ここでも競争原理が働き、適切に声を吸い上げる事業者は栄え、声に耳を傾けない事業者は廃退するということではないでしょうか。

○ 労使協定等を通じた労使コミュニケーションは、無期雇用の派遣労働者が中心の派遣元であればリアリティがあるが、有期の派遣労働者が大半の派遣元の場合、形式上はできるとしても、実効性に課題。

登録型派遣が主で人が入れ替わっていく中で、個々の派遣元・派遣労働者での労使コミュニケーションには課題が多く、時間がかかっても、欧州のような派遣元横断的な労使が話し合っていく仕組みを目指す方が現実的。

派遣元横断的な労使コミュニケーションが図れるのであれば、理想に近づくかもしれませんが、現状ではなお現実的とは言えないのではないでしょうか。

○ 派遣元の中で直接雇用のスタッフと派遣労働者とは利益が異なるので、どのように派遣労働者の意見を吸い上げられる方法にするかが重要なポイントとなる。

これは派遣元事業者の企業哲学によるところが大きいと思います。善き思いであれば栄えるでしょうし、悪しき思いであれば廃れます。

○ 派遣先均衡を原則とした場合、派遣労働者の賃金は基本的には派遣先によって決まることになるため、賃金水準について派遣元事業主と労使交渉をする意味がほぼなくなる。

また、日本は欧州のような職種別の労使コミュニケーションの地盤がない上に、派遣先によって派遣労働者の利害が異なるようになることから、派遣労働者の集団的な合意形成を図るのに困難をきわめる可能性が高い。

派遣先均衡は実効性がないので議論してもしかたがないと思います。

報告書の全体にかかること

この報告書では、「1.パートタイム労働法制及び有期労働契約法制関」に続いて、これまで述べてきた「2.労働者派遣法制関係」、そして最後に「3.全体の「時間軸」の在り方・その他 」という整理がされています。

「3.全体の「時間軸」の在り方・その他 」では、両社にかかることが記載されているので、これについても主な部分で気になったところだけコメントをしておきます。

3.全体の「時間軸」の在り方・その他

【論点】

○ 全体の「時間軸」の在り方

〇 法整備とガイドライン案の関係性(法的根拠・法的効力)

議論が必要です。

【主な御意見】

中小企業や非正規比率が高い企業への配慮が必要との意見、パート・有期・派遣の3雇用形態で規制導入のタイミングを合わせることを前提に施行までに一定の時間を確保すべきとの意見があった。

法整備とガイドライン案の関係については、ガイドラインが法的効力を持つためにはきちんとした立法プロセス、特に労働政策審議会で議論を尽くすことが必須との意見があった。

また、現状を正しく把握するために統計を整備する必要があるとの意見があった。

3雇用形態でタイミングを合わせることは、わかりやすいのかもしれませんが、それぞれの雇用形態には特有のものがあるのでタイミングを合わせることが目的にならないようにする必要があると思います。

どうしてもタイミングを合わせるのであれば、最も時間のかかるところに合わせるのが拙速を防ぐ手段となるのではないでしょうか。この場合のスコープは期限よりも、実効性ではないでしょうか。

今回の法整備については、ガイドライン(案)が先に出てしまったことに大きな問題があると思います。あくまでもガイドライン(案)有りきではない議論を望みたいものです。特に内閣府での議論は専門的な見地からの議論が先行し、実効上疑問が残るものが多いように思います。

事業者も含め広く意見を求めたうえで、労政審で議論を尽くすことは必要だと思います。

統計ももちろん必要ですが、第4次産業革命の足音が明らかになってきた今、これから考えられる雇用のあり方も踏まえて議論されるべきだと思います。

***** 以上 *****

報告書の内容が五月雨式の議事録のようなもののため、どうしてもまとまった見解を示すことはできませんでしたが、個々の意見に対する異論・反論・オブジェクションは網羅したつもりです。

ほとんどが非公開の中で報告書だけを見ながら書いたのでもしかすると意図するところと違う部分もあるのかもしれませんが、読み取れる範囲で率直にコメントをしてみました。

なお、日経では派遣元の負担が増えるとされていますが、派遣元の負担云々よりも派遣労働者のためかどうかが最大の焦点だと思います。

これまで、平成24年改正法、平成27年改正法で、派遣法は歪んだうえに歪みを生んでしまいました。

恐らく、早ければ年内、遅くても来春にかけて、再改正の話題があふれることになると思いますが、同一労働同一賃金に伴う法改正は、人材派遣業界にとっても大きな試金石となります。

その改正の行方は、平成24年改正法、平成27年改正法の歪みの修正とともに見守っていく必要があるのではないでしょうか。

最後までお読み頂いた方はほとんどいらっしゃらないとは思いますが、最後までお読み頂いた方には深謝申し上げます。

P.S. ちなみにこの「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」の最終回でこの報告を受けた橋本岳厚生労働副大臣は、筆者の遠~~~い縁戚関係にあたり、多少は同じDNAが流れているはずですが、どのような方向性をお考えなのでしょう。お伺いしたいものです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(※写真は労働調査会さんのサイトから拝借しました)

同一賃金、待遇差で企業に説明義務 厚労省が論点整理

日本経済新聞 2017/3/8

厚生労働省は8日、同一労働同一賃金の詳しいルールを話し合う有識者検討会に論点整理案を示した。

正社員と非正規社員の待遇差を説明する義務を「強化・拡充する必要がある」と指摘。給与や福利厚生などで差がつく理由を、事前に社員に説明するよう企業側に求めた。

各企業は賃金体系や研修に関する情報を、非正規社員とも共有する必要に迫られそうだ。

同じ仕事をしていれば同じ賃金を払う同一労働同一賃金は、政府が掲げる「働き方改革」の柱の一つ。

昨年末には、政府が正社員と非正規社員の不合理な待遇格差の例を示したガイドライン(指針)案を公表した。

厚労省はこの指針の実効性を高めるため、労働政策審議会(厚労相の諮問機関)の議論を経て、年内に関連法案を提出する方針。

今回の論点整理では、法案づくりに向け課題を整理した。

焦点の一つは従業員への説明義務だ。現在のルールでは、企業に自社の賃金制度などについての説明義務は課しているが、正社員と非正規労働者の待遇差の説明までは義務付けていない。

昨年末の指針案では、成果などに応じた合理的な待遇差は認める一方で、合理的でない格差は縮めるよう求めている。

格差がある場合でも、その理由を説明して、非正規社員を納得させるよう企業に促している。

そこで論点整理案は、待遇差の説明義務を今よりも強化するよう求めた。

政府も働き方改革の関連法案に、待遇差の説明義務を盛り込む方針だ。

関連法が施行されれば、企業は「正社員と非正規社員の賃金体系が違う理由」や、「一部の社内研修が正社員しか受講できない理由」などを非正規社員に説明する義務が生まれる。

待遇差を巡って裁判になったときに、その格差の立証責任を誰が負うのかも焦点の一つだ。

今は労働者側が待遇差が不合理である理由を説明し、企業側は待遇差が適切である根拠を説明するなど双方が立証責任を負う。

労働者側からは「立場が強い企業側にだけ、立証責任を負わせるべきだ」との声も上がる。

ただ論点整理案は現行のルールを支持。「日本と欧州では賃金制度が異なる」として、企業にだけ重い立証責任を課すことに慎重な姿勢を示した。

派遣労働者の扱いでは、見解が分かれた。派遣社員の待遇を、派遣元と派遣先の双方の正社員に近づけるべきだとの見解を示した一方で、双方との格差是正を目指すと「派遣元企業の負担が増す」といった慎重意見も併記した。

政府が同一労働同一賃金を目指すのは、非正規労働者の処遇改善により低迷する個人消費を底上げする狙いがある。

ただ経済界では単に非正規社員の待遇を良くして、人件費が増すことへの懸念は根強い。

日本企業はこれまで研修などのスキルアップの機会を正社員を中心に与えてきた。

能力やスキルの向上など非正規社員の生産性向上と待遇改善を両立しなければ、同一労働同一賃金の流れは長持ちしない。

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