こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

今日は久しぶりに人気のないAIネタです。

一昨日の日曜日、4月23日の日本経済新聞朝刊一面トップにあった記事「ロボットと競えますか 日本の仕事、5割代替 主要国トップ」はご覧になりましたか?

2014年にオックスフォード大学のオズボーン准教授からAIによって47%の仕事が失われると報告されたことを契機として、この手の議論が高まっています。

この記事によれば、日本の自動化が可能な業務の割合は55%だそうです。

少子高齢化で人材不足になるとは言うものの、55%も仕事がなくなったら、さすがに困ったことになるのではないでしょうか。

「AI代替防止」は規制できない

諸説ありますが、いずれも日本はAIに代替される率が高いというものが多いように思います。

人材派遣では「常用代替防止」という言葉があります。そして、正社員を派遣に代替しないことを目的として労働者派遣法の建てつけがされています。

では、雇用を奪うという観点で言うと「AI代替防止」ということも考えられるのでしょうか?

実際には「AI代替防止」などできるはずがありません。そのような企業活動を邪魔するようなことをしたら日本の競争力は落ち、完全に国力を失うことになるでしょう

企業活動について「常用代替防止」「AI代替防止」といった規制をかけること自体が不自然な話なのです。

強いて言えばビルゲイツが言うロボット税なのかもしれませんが、それを言うなら仕事を自動化するものすべてに課税しなければなりませんよね。

「AI代替率」の高さは「常用代替防止」による?

そもそも日本の「AI代替率」の高さは、いわゆるホワイトカラーの生産性が低いということに起因しているようです。

ホワイトカラーや事務系職種で単純作業をやっている割合が多いため、その分が「AI代替」されるということなのでしょう。

この点では、成果よりも時間で評価してきたツケが回って来たとも言えるのかもしれません。

これまで、いわゆる正社員が過度に守られ、「常用代替防止」の概念が強かったことが生産性を起こし、結果として「AI代替率」の高さを助長することになる、という皮肉な状況が生まれようとしているのではないでしょうか。

本丸はやはり「予見可能性の高い紛争解決システム」

実際には全労働者のうち派遣労働者が占める割合は3%足らずです。

労働者派遣法の「常用代替防止」が「AI代替」を招いたとは言えないでしょう。

逆に「AI代替防止」ができない、つまり企業にAIを導入するなとは言えない状況の中で職を失う人はどうなるのでしょうか。

特に現状のように中小企業を中心に簡単に雇用が終了してしまうのは問題があります。

労働者保護の観点からも、やはり「予見可能性の高い紛争解決システム」が必要ということになるのだろうと思います。

40~60%の仕事は「AI代替」される

ここでは、日経とFTが開発した分析ツールによる結果として「AI代替率」が算出されています。

https://vdata.nikkei.com/newsgraphics/ft-ai-job/

しかし、実際にこのツールを使ってみるとかなり粗削りであることがわかります。

例えば、「業種」の選択肢に挙げられているもののほとんどは「職種」になっています。

さらに「職種」の選択肢もかなり狭い範囲のものばかりです。

運よく「業種」と「職種」に該当するものがあり、「より詳細に調べる」までいくと、それなりに信憑性のある結果も表示されるようになっていきますが、実際には入り口で選択肢に困ることが多いように思います。

これでは、まともな結果は得られません。オズボーン准教授の報告もすべての仕事(職)がなくなるという切り口で算出されており、実際には一部の仕事(タスク)だけがなくなることも多いことから懐疑的な見方もあります。

今後、このような予測を精緻なものにする研究もされていきそうですね。

それでも備えは必要

オズボーン准教授の「雇用の未来」以降の同様の調査では、概ね40~60%の仕事は「AI代替」されるとされています。

当たらずとも遠からずということになるのだと思います。かなりの仕事がAIを初めとするロボット、IoTなどに取って代わられることは間違いありません。

なくならない仕事、一部がなくなる仕事、丸ごとなくなる仕事に分かれるのだろうと思いますが、それに加えて新たに生まれる仕事をどのように創造するかを考えていくことも重要です。

今日はこれから病院に行きます。前回から精算が人ではなく機械に代わりました。支払いが終わった時に自動精算機から「おだいじに」と言われても嬉しくないですね(笑)。

ロボットと競えますか

日本の仕事、5割代替 主要国トップ

日本経済新聞 4月23日朝刊

人工知能(A.I.)の登場でロボットの存在感が世界で増している。

日本経済新聞と英フィナンシャル・タイムズ(FT)が実施した共同の調査研究では、人が携わる約2千種類の仕事(業務)のうち3割はロボットへの置き換えが可能なことが分かった。

焦点を日本に絞ると主要国で最大となる5割強の業務を自動化できることも明らかになった。

人とロボットが仕事を競い合う時代はすでに始まっている。

日経とFTは、読者が自分の職業を選択・入力するとロボットに仕事を奪われる確率をはじき出す分析ツールを共同開発し、22日に日経電子版で公開した。

米マッキンゼー・アンド・カンパニーが820種の職業に含まれる計2069業務の自動化動向をまとめた膨大なデータを日経・FTが再集計し、ツールの開発と共同調査に活用した。

■ 丸ごと自動化も

調査の結果、全業務の34%に当たる710の業務がロボットに置き換え可能と分かった。

一部の眼科技師や食品加工、石こうの塗装工などの職業では、すべての業務が丸ごとロボットに置き換わる可能性があることも判明した。

ただ、明日は我が身と過度に心配する必要はない。

大半の職業はロボットでは代替できない複雑な業務が残るため、完全自動化できる職業は全体の5%未満にとどまる。

19世紀の産業革命に始まる製造業の歴史は、自動化への挑戦そのものだった。

200年を経た今、AIの進化が新たな自動化の波を起こしつつある。

マッキンゼーによるとエンジンを組み立てる工場労働者の場合、77ある業務の75%が自動化できる。

部品の組み立てや製品の箱詰め作業などだ。

米ゼネラル・モーターズ(GM)は世界各国に合計3万台のロボットを導入しており、うち8500台のロボットは稼働情報を共有して生産ラインに故障の前兆がないかAIが目を光らせている。

自動化の流れは、難しいとされたホワイトカラーや事務系職場にも押し寄せる。

米通信大手のAT&Tは顧客の注文の文書化やパスワードのリセット作業など500業務相当をソフトウエアロボットで自動化している。

データ抽出や数値計算は人より高速にできるため「2017年末にはさらに3倍に増やす」(同社)計画だ。

ホワイトカラーの象徴といえる金融機関でも自動化が進む。

事務職では60ある業務のうちファイル作成など65%がロボットに代替できる。

米ゴールドマン・サックスでは00年に600人いたトレーダーが株式売買の自動化システムに置き換わり現在は数人に減った。

著名投資家のジム・ロジャーズ氏も「AIが進化すれば証券ブローカーなどの仕事は消える」と断言する。

一方で意思決定や計画立案にかかわる仕事、想像力を働かせる仕事はロボットの苦手分野だ。

最高経営責任者(CEO)など経営幹部には63の業務があるが、ロボット化が可能なのは業務進捗表の作成など22%にとどまる。

俳優や音楽家など芸術関連の職業も65ある業務のうち自動化対象は17%にすぎない。

■ 人手不足の解

今ある業務が自動化される割合を国別に比較すると、日本はロボットの導入余地が主要国の中で最も大きいことが明らかになった。

マッキンゼーの試算では自動化が可能な業務の割合は日本が55%で、米国の46%、欧州の47%を上回る。

農業や製造業など人手に頼る職業の比重が大きい中国(51%)やインド(52%)をも上回る結果となった。

日本は金融・保険、官公庁の事務職や製造業で、他国よりもロボットに適した資料作成など単純業務の割合が高いという。

米国などに比べ弁護士や官公庁事務職などで業務の自動化が遅れている面もある。

米国の大手法律事務所では膨大な資料の山から証拠を見つけ出す作業にAIを使う動きが急速に広がっているが、日本はこれからだ。

一部の職場ではすでに雇用が失われ始めるなどロボット化には負の側面が確かにある。

それでも生産年齢人口が50年後に4割減る見通しの日本では、ロボットに任せられる業務は任せて生産性を高めることが国力の維持に欠かせない。

(中西豊紀、FT=ロビン・クウォン)

ロボ脅威論を超えて 世界の生産性「年0.8~1.4%アップ」 問われる使いこなす力

ロボットは人の雇用を奪う半面、導入した企業の生産性を高める効果が期待できる。

マッキンゼー・アンド・カンパニーは、ロボットの活用が進めば世界全体の労働生産性を年間0.8%から1.4%高めることが可能になると分析する。

脅威論を克服し、ロボットを使いこなせるかどうかが、国家、企業、個人それぞれの競争力を左右する。

■ 人の仕事生む

豪大手銀オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)はインドの事務作業を自動化し、一日に処理できる契約件数を増やすことに成功した。

顧客データの抽出や移し替えなどを自動化し作業効率を高めた。

マネージングディレクターのパンカジャブ・スリデビ氏は「データの最終確認などロボットの活用で結果的に人の仕事も増えている」と話す。

産業用ロボット大手、独クーカのジョー・ジェマ米国法人社長は「ロボットはデータサイエンティストなど新たな仕事を生む」と話す。

すでに一部の自動車メーカーの工場では、ロボットが生産・販売状況などのデータを適切に処理するよう監視する「ロボット管理者」の仕事が生まれているという。

企業がロボットの活用を進めるのは、業務の効率化や正確性を高めるためだ。

単純な繰り返し作業などロボットが得意な分野は思い切って自動化し、従業員には創造性や付加価値の高い業務に集中してもらう。

ロボット化が新たな業務を生むケースも出始めた。

こうした積み重ねが企業の生産性を高めることになる。

■ 賃金下押しも

国際ロボット連盟(IFR)は2015年末に163万台だった世界で稼働する産業用ロボットの総台数が19年末には約260万台に膨らむと予想しており、自動化の勢いはグローバルで強まる一方だ。

こうした動きに比例する形で、雇用を脅かすやっかいな存在としてロボットをみなす声が欧米を中心に高まっている。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究者らは3月末、千人の労働者に対して1台のロボットを投入した場合、5.6人分の雇用が失われるとの論文を発表した。

ロボットが賃金の下押し圧力にもなることも同時に指摘した。

特に米企業はトランプ政権の誕生で雇用問題には敏感だ。

雇用を奪うのは貿易かロボットか。そんな議論が米国では始まっている。

雇用不安の広がりを防ぐには政府、企業それぞれの取り組みの重要さが増す。

どの国も持続的な成長には生産性の向上が避けては通れない時代になっており、ロボットと共存共栄することを前提にした議論が必要になる。

(中西豊紀)

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