こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

4月6日のブログ「働き方改革実行計画にビジネスチャンスはあるか」でもお知らせしたように、働き方改革実行計画は、「働き方改革実現会議」の初会合時(2016年9月27日)に設定された9項目が、実行計画では以下の11項目に分けられて示されています。

  1. 同一労働同一賃金など非正規雇用の処遇改善
  2. 賃金引上げと労働生産性向上
  3. 罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正
  4. 柔軟な働き方がしやすい環境整備
  5. 女性・若者の人材育成など活躍しやすい環境整備
  6. 病気の治療と仕事の両立
  7. 子育て・介護等と仕事の両立、障害者の就労
  8. 雇用吸収力の高い産業への転職・再就職支援
  9. 誰にでもチャンスのある教育環境の整備
  10. 高齢者の就業促進
  11. 外国人材の受入れ

個別の項目への理解も必要

働き方改革実現会議では実際には同一労働同一賃金と長時間労働の是正がメインで、それ以外はオマケのような扱いがされています。

しかし、実行計画に盛り込まれたことで、今後、オマケについてもそれなりに採り上げられることは間違いありません。

個別の項目への理解も必要ではないでしょうか。

拙ブログでは同一労働同一賃金以外に、すでに以下について採り上げています。

こうなると他の項目についてもつぶさに見たくなるのが人情です。探求したくなる私の性分とも言えるかも知れませんが(笑)。

無関係ではない「病気の治療と仕事の両立」

そこで、今日は「病気の治療と仕事の両立」について採り上げます。

人材サービスではこのテーマは関係ないことが多いような気がする方も多いかもしれません。

しかし、そうは言うものの「働き方改革」は人材サービス業にとって切っても切れないものが多くあります。

変化はチャンスですから、一見ビジネスと無関係に見えることにも敏感に反応することが必要ですね。

少なくとも俎上に載せて自社にとってビジネスチャンスになり得るのかどうかの検討はしなくてはなりません。

健康な人にはわかり得ない

「病気の治療と仕事の両立」…健康な人には、なかなかわかり得ない話なのかもしれません。

以前は私も持病を持ちながらも表面上は健康だったため、病気の人をいたわる気持ちはあっても、実際にはなかなかその苦しさを理解してあげられないというのが正直なところでした。

しかし、数年前にその持病を治すために半年間あまり治療をした時に「病気の治療と仕事の両立」を考えることは大切なことだと思い知りました。

治療の間はずっと発熱が続き、足取りも覚束なく、何度も気を失い、救急車で運ばれたことさえありました。

治ると分かっている治療でしたが、抗がん剤としても使われる薬の副作用で本当に辛い思いをしました。

お陰さまで、すっかり完治しましたが、なぜか当時は周囲には治療を受けていることは伝えずに仕事を続けていました。

なぜでしょうね。余計な心配はかけたくないとという気持ちが強かったのでしょうか。複雑な心理もあったように思います。

身近にがん治療を受けている人もいる

ちょうど昨日、NHKに前職の同僚が出ていました。

彼女、風間沙織さんは、本名でこの取材を受けていたこと、すでにネット上にいくつかの記事があることから、既知のこととして採り上げさせてもらいます。

彼女は現場のバリバリの実務担当、私は経営周りのフワフワした企画職だったこともあり、共通の話題もなくほとんど接点がなかったのですが、2年ほど前に彼女ががんを患っていることを風の噂で聞いたときにはとてもショックでした。

彼女は「第1回派遣検定」(人材ビジネスコンプライアンス推進協議会)をトップの成績で合格したツワモノ、いや大ベテランです。

実務では私など彼女の足元にも及ばないのですが、いつもチャキチャキしている彼女でもそれほど重い病気になるのかと驚きました。

昨日の番組では「楽しいことをさがそうと思えば がんだって、何だってみつけられる」とポジティブにベートーベンの「第九」を唄う姿が印象的でした。

聞くところによると現在は新たな職場で頑張っているとのこと。企業が「病気の治療と仕事の両立」を可能にする仕事にアサインすることも重要ですが、まずは、本人の考え方が最も重要ということですね。

私の母も20年以上前に乳がんを患いました。その後もっと絶望的な他の病気も患いましたがそれも治りました。風間さん、必ず治って「歓びの歌」を唄えると信じて頑張ってくださいね。

ひるまえほっと (NHK/2017年4月25日)

アッ!と@ほっと

♪交響曲第九番(ベートーヴェン)。

チャリティーコンサートでプロの演奏家とともに舞台に立ったのは、がん患者など一般の人で作る合唱団。

このコンサートは2年がかりで準備が進められていた。

公募で集められた合唱団はがん患者を中心にその家族、医療関係者など、総勢144人。

その半数は初心者。共にがんに立ち向かっていこうと、去年から周に1回、取り組んできた。

参加者の1人、ソプラノ担当の風間沙織さんは、3年前乳がんが見つかり治療を続けている。

会社に通いながらの抗癌剤治療。一時髪が抜けるなど副作用に苦しみながら気丈に振る舞っていた。

次第にがんを語り合える友人がほしいと思い、がん患者の集まりに参加することにしたという。そうした中で見つけたのが合唱団募集の要項だった。

友人たちと共にすぐに参加を決めたという。今回のコンサートを主宰したのは、がん治療が専門のがん研有明病院。テノールを勤める医師の佐野武さん。

合唱をするなら第九がいいと強く押した1人。第九は友がいる人生の素晴らしさを歌った曲。歌詞には友よという呼びかけや喜びという言葉が度々使われていて、この合唱団にふさわしい曲だと考えている。

企業の意識改革

さて、話を元に戻します。働き方改革実行計画にも「まず、会社の意識改革と受入れ体制の整備が必要」とありますが、まさにそのとおりだと思います。

その昔は「病気をして戻ってきたら自分の席がない」などという笑えない話もあり、今以上に病気であることが憚られるような風潮もあったように思います。

さすがに最近はそこまで極端な話はないのかもしれませんが、それでも実態として一定期間の治療が必要になった場合のことまできちんと考えて対応できる企業は少ないということでしょう。

意識としては、人道的にまず弱者救済。人が最も弱っているときに、切り捨てるようなことがあってはならないことは言うまでもありません。

経営的にも人の道に反するような対応は従業員から見透かされ、ロイヤルティが低下し業績があがらない企業風土になってしまいます。

従業員ファーストの企業風土がまず求められるということですね。

正しい知識の共有も必要

病気のなかには、感染症のようなものもありますが、これにしても周囲の無知からあらぬ誤解や差別を生むようなこともあるかもしれません。

あまり多くない例かもしれませんが、エイズのように握手をしたぐらいでは感染しないような病気でも過剰に反応してしまうこともあるかもしれません。

逆に本人にとってそれほど仕事に支障がないような病気にもかかわらず、周囲が忖度しすぎてむしろ仕事がしづらいということもあるかもしれません。

いずれにしても、周囲が正しい知識をもって対応できるようなことも必要なような気がします。そのような従業員教育も併せて必要だと思います。

安心して治療できる体制づくり

一定規模の企業であれば、配転が可能な部署をもつことも多いとは思いますが、中小企業では難しい場合もあるのかもしれません。

それでも、治療が必要な人をサポートするしくみ創りはできるはずです。

多くの場合、マネジメントの力が大きいのだと思います。

日ごろから、その人がいなければ業務が回らないような環境はつくらない、業務分掌を明確にする、常に情報共有をする、さらに人事ローテーションを図るということが求められるのではないでしょうか。リスクマネジメント上も重要です。

健康診断、受けなければクビ!

もう一つ、企業経営の観点で非常に大切なことがあります。

そもそも従業員が病気にならないようにすること、仮に病気になっても早期発見できるようにすることです。

過労死ラインに達するような時間外勤務はもちろん、健康を害するような長時間労働がないようにする必要があります。

そして健康診断です。前職時代に上司だった社長はよく「健康診断を受けない社員はクビだ!」と言っていました。実際にクビ(不当解雇)にするかどうかは別として、派遣スタッフの受診率の向上にもかなり気を遣っていました。

人材サービスの出番

これらのようなマネジメントをしていても「病気の治療と仕事の両立」を担保することが困難なこともあるでしょう。

そこで人材サービスの出番です。

すでに4月21日のブログ「『女性・若者の活躍しやすい環境整備』、日雇派遣も解禁を」でも書いた出産、育児への対応と同じように治療の期間を人材派遣で対応するようなしくみは、該当する本人にとっても企業にとっても安心なのではないでしょうか。

もちろん代替要員となる派遣社員も、必ずしも正社員になることを望んでいるわけではないので、このしくみは「三方良し」です。

そもそもの労働者派遣制度の原点ですから、改めて見直してみる必要があるのではないでしょうか。

さて、明日は昨年末の紅白歌合戦で来日の発表があり、元旦に予約開始したポール・マッカートニーの公演に行ってきます!

ビートルズにとっての「喜びの歌」は「ヘイジュード」でしょうか。唄ってきます(笑)。

7.病気の治療と仕事の両立

(1)会社の意識改革と受入れ体制の整備

病気を治療しながら仕事をしている方は、労働人口の3人に1人と多数を占める。

病気を理由に仕事を辞めざるを得ない方々や、仕事を続けていても職場の理解が乏しいなど治療と仕事の両立が困難な状況に直面している方々も多い。

この問題の解決のためには、まず、会社の意識改革と受入れ体制の整備が必要である。

このため、経営トップ、管理職等の意識改革や両立を可能とする社内制度の整備を促すことに加え、がん・難病・脳血管疾患・肝炎等の疾患別に、治療方法や倦怠感・慢性の痛み・しびれといった症状の特徴など、両立支援にあたっての留意事項などを示した、会社向けの疾患別サポートマニュアルを新たに作成し、会社の人事労務担当者に対する研修の実施等によりその普及を図る。

さらに、治療と仕事の両立等の観点から傷病手当金の支給要件等について検討し、必要な措置を講ずる。

加えて、企業トップ自らがリーダーシップを発揮し、働く人の心身の健康の保持増進を経営課題として明確に位置づけ、病気の治療と仕事の両立支援を含め積極的に取り組むことを強力に推進する。

(2)トライアングル型支援などの推進

自分の仕事に期待してくれる人々がいることは、職場に自分の存在意義を確認できる、いわば居場所があると感じさせ、病と闘う励みにもなる。他方、自分のキャリアを失うことを恐れて周囲に言えない方もおり、誰にも伝えていない中での治療は肉体的にも精神的にも厳しいものがある。

また、倦怠感やうつ症状など本人以外には理解しにくい副作用もあり、やる気がないと思われがちで、そう思われたくないために必要以上に頑張り、体を壊してその職場を離れるという悲しい選択をする方もいる。

このため、病気の治療と仕事の両立を社会的にサポートする仕組みを整え、病を患った方々が、生きがいを感じながら働ける社会を目指す。

具体的には、治療と仕事の両立に向けて、主治医、会社・産業医と、患者に寄り添う両立支援コーディネーターのトライアングル型のサポート体制を構築する。(図2)

とりわけ、両立支援コーディネーターは、主治医と会社の連携の中核となり、患者に寄り添いながら継続的に相談支援を行いつつ、個々の患者ごとの治療・仕事の両立に向けたプランの作成支援などを担う。

両立支援コーディネーターには、医療や心理学、労働関係法令や労務管理に関する知識を身に付け、患者、主治医、会社などのコミュニケーションのハブとして機能することが期待され、こうした人材を効果的に育成・配置し、全国の病院や職場で両立支援が可能となることを目指す。

(図2:病気の治療と両立に向けたトライアングル型支援のイメージ)

加えて、今や子供100万人のうち4.7%が体外受精によって出生されており、不妊治療と仕事との両立についても、問題を抱えている。

不妊治療への支援については、医療面だけでなく就労・両立支援にまで拡大して実施する。

(3)労働者の健康確保のための産業医・産業保健機能の強化

治療と仕事の両立支援に当たっての産業医の役割の重要性に鑑み、治療と仕事の両立支援に係る産業医の能力向上や相談支援機能の強化など産業医・産業保健機能の強化を図る。

また、過重な長時間労働やメンタル不調などにより過労死等のリスクが高い状況にある労働者を見逃さないため、産業医による面接指導や健康相談等が確実に実施されるようにし、企業における労働者の健康管理を強化する。

加えて、産業医の独立性や中立性を高めるなど産業医の在り方を見直し、産業医等が医学専門的な立場から働く方一人ひとりの健康確保のためにより一層効果的な活動を行いやすい環境を整備する。

これにより、働く人々が健康の不安なく、働くモチベーションを高め、最大限に能力を向上・発揮することを促進する。

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