こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。今週はなんとなくスッキリしない天気が続きましたね。

資金繰りの悪化が社会保険料未納に

先日、金融機関の方とお話をしていたところ、最近、人材サービス業では社会保険料の滞納が多くなっており、年金事務所が滞納解消に向けて督促を強化しているとのことでした。

人材不足、賃金上昇、資産要件の確保などで資金繰りが悪化していることが理由とのことで、さすがに金融機関はよく調べていますね。

たしかに、人材不足により求人広告コストなどがかかり、賃金上昇に派遣料金の交渉が追いつかなければ負担も増えます。資産要件を満たすために融資を受けたとすると金利負担も増えるということになるのでしょう。

さらにキャリア形成支援や、そもそもの社会保険の加入要件も引き下げられているので負担も増えるでしょう。

雇用安定措置も実態としてはマッチングのサイクルが早まっているということが考えられます。つまりこれも求人広告費の負担増になりますし、マッチングに関わるコストも増えるということにつながります。

社会保険料は法定の福利厚生費

ただ、これらの要因によって社会保険料の滞納や未納につながるとしたら、これは大問題です。

社会保険料は法定の福利厚生費ですから、そもそものコストに織り込まれていて然るべきです。最初から無いものとして考えなければなりません。

マージン率開示の話で必ず出る話ですが、社会保険の加入、有給休暇の取得は派遣労働者の権利ですから、賃金と同じように派遣労働者のものです。ここに影響が及ぶとしたら、そもそものオペレーションに問題があると考えた方がよいと思います。

つまり、社会保険料に影響が出るということはすでに赤字なのです。

当然ながら、派遣料金から賃金、社会保険料、有給休暇を除いたコストで事業運営が成り立つ状況を作らない限り将来はありません。

派遣料金も賃金も市場相場が前提

GW中のブログ「百害あって一利なし、『マージン率の開示規制廃止』を」では、マージン率開示の規制廃止について書きましたが、資金繰りという観点からも同様のことが言えます。

実際の市場をみると派遣料金も賃金も競合他社と大きな差をつけることができないことは、まっとうにこの業界でビジネスをしている皆さんなら百も承知のことでしょう。

市場競争が激しい中で、派遣先への派遣料金を競合他社よりも過剰に高く設定することはできないでしょうし、人材不足の中で極端に賃金を低く設定することもできません。

だからマージン率を開示しても何の意味もないということなのですが、ここではいかに社会保険料と有給休暇の引き当てコストを差し引いたマージン率を向上させるかという話です。

入るを計って出を制す

当たり前中の当たり前ですが、商売の鉄則としては「入るを計って出を制す」です。

これをそのまま労働者派遣に当てはめてしまうと、「可能な限り派遣料金を高め、可能な限り賃金を下げる」となり、特に派遣労働者の方からは非難轟々になりそうです。

しかし、実際に官公庁の求人を見るとどうでしょうか。恐らく一般企業での業務内容と変わらないものであっても、賃金が若干低いということがよくあるのではないでしょうか。

これは官公庁には安定という安心感があり、ある意味でブランド力なのだと言えます。同一労働同一賃金の議論に照らすと、現実的には、派遣労働にはまず企業横断的な市場の相場があることが原則で、さらに派遣先による均衡もあるということになります。

また、派遣登録をしてもそのまま放置され、まったく仕事の紹介もないような事業者よりも、きちんと希望を聴いてもらえ、適切なアドバイスのもとに派遣先を紹介してもらえる事業者の方が、若干、賃金が低くても就業するのではないでしょうか。

モノには限度がありますが、ここにはサービス料が含まれているので、結局は事業者のブランド力ということにいきつくのではないでしょうか。話が行き来しますが「マージン率開示」は、企業努力を認めない法律でもあるのです。

当たり前の努力をする

派遣料金も同様です。派遣先企業の気持ちになれば、発注したままいつまでたっても人材の紹介がない事業者よりも、適切な人材をきちんと紹介してくれフォローもしっかりしている事業者であれば、多少派遣料金が高くても応じるはずです。

これも明らかにサービス業としての努力の差です。適切な人選は業務の質や生産性が高まるので料金が高くても当たり前でしょう。

こう考えると、同一労働同一賃金の議論の中にサービス料という概念がないのもおかしな話ですね。

派遣料金にしても賃金にしても、競合他社と極端な差をつけることはできないことを前提としながらも、サービスの質やブランド力を背景として少しでも「入るを計って出を制す」を考えることが重要です。

日本ではあまりクローズアップされませんが、海外ではプライシングという概念が発達しており、理論的には粗利益率を1%改善させると営業利益率は12%向上すると言われています。

「売上最大、経費最小」

売上拡大を図ることももちろん重要ですが、赤字体質のまま売上を上げても、赤字が増える一方です。あるいは薄利多売で無駄な徒労が多い状態になりかねません。「売上最大、経費最小」は、稲盛和夫氏の経営哲学の中でもかなり中核をなすものです。

私には染みついているものですが、これは、言葉上は非常に簡単です。売上から経費を差し引いたものが利益。当たり前すぎますね。

ここで考えなければならないことは、派遣料金から賃金と社会保険料と有給休暇の引き当てを除いた諸経費です。

人件費、家賃、広告宣伝費、情報システムなどを初め、諸々のコストをどこまで下げられるか。 

もちろん人件費については社員の定着も考慮しなければならないでしょうし、それ相応の家賃負担も必要だと思いますが、これらを如何に下げていくのかが、経営的には最も重要なところです。

「売上最大、経費最小」は、言葉はシンプルですが、実際には非常に難しいのです。

「公明正大に利益を追求 」できるしくみを創ることが何より大切ではないでしょうか。

稲盛和夫氏の言葉をご紹介しておきます。

公明正大に利益を追求する

会社は利益を上げなければ成り立ちません。

利益を上げることは恥ずべきことでもなければ人の道に反したことでもありません。

自由市場において、競争の結果で決まる価格は正しい価格でありその価格で堂々と商いをして得られる利益は正しい利益です。

厳しい価格競争の中で合理化を進め付加価値を高めていく努力が利益の増加を生むのです。

お客様の求めに応じて営々と努力を積上げることをせずに投機や不正で暴利を貪り、一攫千金を夢見るような経営がまかり通る世の中ですが、公明正大に事業を行い正しい利益を追求し、社会に貢献していくのが京セラの経営です。

売上最大、経費最小

経営とは非常にシンプルなもので、その基本はいかにして売上を大きくし、いかにして使う経費を小さくするかということに尽きます。

利益とはその差であって、結果として出てくるものにすぎません。

したがって私たちはいつも売上をより大きくすること、経費をより小さくすることを考えていればよいのです。

常識や固定概念にとらわれてはなりません。売上最大、経費最小のための努力を、日々創意工夫をこらしながら粘り強く続けていくことが大切なのです。

だからマージン率開示には絶対反対で、堂々と商いしていない社会保険の加入逃れは許せないなのですが…(笑)。自由競争のためにも是正してほしいものです。

明日からは晴れの日が続きそうです。よい週末をお過ごしください。

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