こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

今日は、お盆シーズンに気になった記事、8月16日の講談社「現代ビジネス」のサイトで採り上げられた「働き方改革の『本気度』を測る『新たな会議』に注目せよ」という記事について採り上げます。

「労働政策基本部会」が第一回の会合開催

この記事にある「新たな会議」こそ、私が7月31日にブログ「『労働政策基本部会』が第一回の会合開催」で採り上げた労働政策審議会の「労働政策基本部会」です。

すでに1か月近く経っていますが、もう一度読み返してみると、たしかに「ひっそりと立ち上がった」という表現が相応しい。

そもそも、傍聴の申込みの締め切り日時を過ぎてから、開催の告知が周知されること自体が「ひっそり」というか、むしろ「隠れて」と言ってもいいぐらいの位置づけです。

ここで採り上げる記事のタイトルでは「働き方改革の『本気度』を測る」となっていますが、始まり方からして「本気度」があるようには見えないというのが正直なところです。

既出のブログにも書いたとおり、委員12名のうち3分の1の4名が欠席、2名が途中退室というバタバタぶり。

マスコミは気づいていない?

記事には「マスコミは気づいていない」と書いてありますが、私の知る限り7月31日にこれを採り上げたのはアドバンスニュースが「新設の労政審「基本部会」が初会合 『検討テーマ』は次回に持ち越し、委員の指摘や注文相次ぐ」と報じただけ。

報道機関でもない私がブログに掲載しているのは奇跡に近い状態です(笑)。

「本気度」があるなら、事前にメディアに声をかけるぐらいのことはするのだと思いますが、それもなく、検討テーマも次回に持ち越し…って、本来、検討テーマがあるから会議を招集するのではないのかという気にもなってしまいます。

実際、当日の委員の発言を思い返してみても、何のためにこの会議が設置されたのか疑問視する声が目立ったということも「本気度」がうかがい知れるところではないでしょうか。

委員たちの「本気度」?

この記事では「委員たちの『本気度』」を問うこと指摘されていますが、私はむしろ厚生労働省の本気度が問われているのだと思います。

審議事項は「技術革新(AI等)の動向と労働への影響等」「生産性向上、円滑な労働移動、職業能力開発」「時間・空間・企業に縛られない働き方等」「その他」となっているのですが、具体的に雇用政策としてどのようなことを掲げるのかが最も重要なのではないでしょうか。

これまで、労働政策審議会では多くの場合、顕在化した問題にどう対処するかということに重きが置かれていたように思います。

本来、来るべき時代を洞察し、そこに必要な政策を講じることこそ、「労働政策基本部会」の役割ではないでしょうか。

もとはと言えば有識者会議からの提言

そもそもこの「労働政策基本部会」は、昨年2016年7月26日~12月14日に5回に渡って開催された「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」によって提言された内容に沿ったものです。

この有識者会議が立ち上がった昨年7月26日にも「どうなる?『働き方に関する政策決定プロセス』」とブログを書きました。

私の記憶によれば、この会議での有識者ヒヤリングで、労働政策審議会の樋口美雄会長が「中長期の政策をどうすべきかの議論や分科会や部会を横串する議論が足りていない」と指摘されていたと思います。

そうであれば、審議事項は当初、この有識者会議が設立されたときに当時、塩崎厚生労働大臣から説明された主旨に則り、グローバル化、高度情報化、少子高齢化という大きな視点で今後求められる労働政策として議論すべきではないでしょうか。

雇用の多様化と流動化

以降は私の個人的な見解ですが、グローバル化、高度情報化、少子高齢化を前提とするならば、雇用の多様化と流動化は避けては通れません。

むしろ、雇用の多様化と流動化を円滑に支えるためにはどうしたらよいのかという観点で議論をする方が現実的ではないでしょうか。

雇用の流動化というと雇用の安定とは矛盾することになると思われるかも知れませんが、重要なことは人々が切れ目なく働くことのできる環境です。

誰がその環境を担うのかというと一つはハローワーク、もう一つは民間の人材サービス事業者です。恐らく、自助努力で切れ目なく適職を見つけることには限度があるでしょう。

ハローワークと民間人材サービス事業者では、すでに一定の住み分けがされています。

その意味では、民間人材サービス事業者に対していかに健全に成長を促し、雇用の多様化と流動化を担保するのか。

この観点からの議論もぜひ加えて欲しいものです。

働き方改革の「本気度」を測る「新たな会議」に注目せよ

去る7月に、ひっそりと立ち上がった

磯山 友幸 経済ジャーナリスト(講談社 現代ビジネス  2017.08.16. )

マスコミは気づいていないが

内閣改造が目前に迫っていた7月31日、厚生労働省でひとつの会議が始まった。労働政策の決め方を抜本的に変えるかもしれない会議体の初会合だったが、メディアはあまり取り上げず、世間の耳目も集めていない。

その会議体の名は、労働政策審議会「労働政策基本部会」という。昨年12月14日に「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」が出した報告書を受けて、新設が決まったものだ。

これまで労働政策は、厚労大臣の諮問機関である労働政策審議会(労政審)が一手に引き受けてきた。労働政策は「三者合意」によって決定するというのが戦後日本の不文律となってきた。

「三者」と「労働者代表」「使用者代表」「公益代表」の三者で、そこには「政治」の意思は反映されない。労政審はこの三者が同数の10人ずつで構成され、その合意については、大臣も事実上、口をはさめないという「別格」の審議会なのだ。

また、審議会の下にある分科会や部会でも「三者合意」が徹底されている。審議会のホームページに行ってみれば分かるが、それぞれの部会の名簿も、「労働代表」「使用者代表」「公益代表」と区分されて表示されている。

焦点は労政審という壁

安倍晋三内閣は官邸主導で「働き方改革」を掲げ、政策を実行しようとしてきた。官邸に首相自らが議長を務める「働き方改革実現会議」を設置、「同一労働同一賃金」や「長時間労働の是正」などについて議論してきた。今年3月末には「働き方改革実行計画」をまとめている。

だが、実際に残業時間の上限規制などを入れようとした場合、首相官邸だけでは仕事が終わらない。厚生労働省に法律案を作らせ、国会で成立させなければならないのだ。厚労省で法律案を作るとなると、出て来るのが労政審ということになる。政治の意思で働き方改革のメニューを作りあげても、労政審がウンと言わなければ法律案は出来上がらない。

残業時間の上限規制のように、従来からある規制を修正するのならばまだよい。まったく新しい制度を作ろうとなると、労政審からは柔軟なアイデアは出て来ない。これまでも経済財政諮問会議や、自民党から「労政審改革」を求める声が挙がって来た。それを受けてまとめられたのが昨年12月の、「働き方に関する政策決定プロセス有識者会議」報告書だった。

そこでは、 ILO(国際労働機関)条約で要請されている最低賃金制度の運用や、職業安定組織の運営などに関する政策の立案や、労働時間や賃金といった労働条件に関わるルールの制定に当たるものについては、引き続き「三者合意」で決定するべきだとした。

一方で、「働き方やそれに伴う課題が多様化する中、旧来の労使の枠組に当てはまらないような課題や就業構造に関する課題などの基本的課題」については、三者構成にとらわれない体制で議論すべきだとしたのだ。そして審議会の下に「労働政策基本部会」を設置することを提案したのだった。

やっと「部会」を作ったが

基本部会の初会合が内閣改造ギリギリになったのは、塩崎恭久前厚労相のところで、委員の人選が止まっていたからだとされる。

だが、これ幸いと、現場も大臣に催促するでもなく放置していた。労働系官僚の多くは今も「三者合意」を金科玉条のように感じている人が少なくない。三者合意の前提を崩せば、労働者が不利益を被ることになると考える労働官僚がベテランになるほど多い。現在議論になっている「高度プロフェッショナル制度」などにも抵抗感を感じている人が少なくない。

新しい会議体を労政審の下に置くことにしたのも、労働官僚の抵抗の結果だ。三者合意が前提の労政審の本審議会の下に部会として置けば、部会が決めてことを三者合理で再度「追認」する格好になる。つまり、「三者合意」の原則を守ることができるわけだ。

7月31日に公表された基本部会の委員は12人。あと3人枠が決まらないまま初会合を開いた。12人の内訳は学者5人、経営者4人、弁護士1人、エコノミスト1人それに連合の元会長である古賀信明氏だ。さらに企業代表者と労働組合関係者を合計3人選任するとしている。

老若男女そろった幅広い人選だが、「基本部会運営規程」には、「委員は公益を代表するもののみとする」と書かれている。経営者や労働組合から参加しても、使用者代表、労働代表ではない、という扱いになっているのだ。この部会で何を決めても、労働者代表や使用者代表の意見を聞いた事にはならない、としたいのだろう。

役所はお茶を濁す

今後、AI(人工知能)やロボット、ICT(情報通信技術)の発達によって、仕事の仕方は大きく変わり、より自律的な働き方をする人が増えるだろう。そうした多様な働き方をする人たちを規定する法律が未整備なのが現状だ。

そうした新しい働き方を規定する法律づくりの提案などが基本部会に求められているはずだが、どうも役所の説明を聞いていると、大きな役割を担う会議体にはしたくないムードだ。

事務方の案では、基本部会では1年かけて、AIなどの導入による労働市場への影響などを調査し、報告書をまとめることでお茶を濁そうとしている。

第1回の会合時に配布された資料の「今後の進め方について(案)」では、「技術革新の動向と労働への影響」「生産性向上、円滑な労働移動、職業能力開発」「時間・空間・企業に縛られない働き方」「その他」と列記されているが、何をやるかは今後の委員たちの「本気度」にかかってくるということだろう。

働き方改革は、8月の内閣改造で、それまで官邸で「仕掛け人」として「働き方改革実行計画」をまとめてきた加藤勝信・内閣府担当相が、厚生労働相に横滑りし、実務を担うことになった。

将来に向けた自由な働き方を広げ、生産性を高めていくことに力点を置いた場合、これまでの労働法制の枠組みを超えた改革が必要になる。加藤厚労相がこの「基本部会」を活用するかどうかが、改革への本気度を測る1つのバロメーターになるだろう。

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