こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

8月も終わります。我が家の近くでは雷が落ちました(^^;; 急に涼しくなるような気配ですね。

労働政策審議会労働条件分科会の開催

本日、8月30日(水)午前10:00~12:00に厚生労働政策審議会の第138回労働条件分科会が開催され、「労働基準法等の一部を改正する法律案」について審議されました。

以下がその要点です。これが恐らく9月の最終週に開会される臨時国会に法案提出されることになりそうです。

8月29日(火)の加藤勝信厚生労働大臣の記者会見でも、労働政策審議会の審議を経て、「(法案を)一体として出していくのが一つの姿」とスタンスを明らかにしています。

労働側からはホワイトカラー・エグゼンプションに反対意見が出ていますが、法案は長時間労働是正、同一労働同一賃金なども含めて、すべて働き方改革関連法案としてまとめて提出されることになるのではないでしょうか。

労働基準法等の一部を改正する法律案の概要

長時間労働を抑制するとともに、労働者が、その健康を確保しつつ、創造的な能力を発揮しながら効率的に働くことができる環境を整備するため、労働時間制度の見直しを行う等所要の改正を行う。

Ⅰ 長時間労働抑制策・年次有給休暇取得促進策等

(1) 中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金の見直し

• 月60時間を超える時間外労働に係る割増賃金率(50%以上)について、中小企業への猶予措置を廃止する。(3年後実施)

(2) 著しい長時間労働に対する助言指導を強化するための規定の新設

• 時間外労働に係る助言指導に当たり、「労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない」旨を明確にする。

(3) 一定日数の年次有給休暇の確実な取得

• 使用者は、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、5日について、毎年、時季を指定して与えなければならないこととする(労働者の時季指定や計画的付与により取得された年次有給休暇の日数分については指定の必要はない)。

(4)企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組促進(※労働時間等の設定の改善に関する特別措置法の改正)

• 企業単位での労働時間等の設定改善に係る労使の取組を促進するため、企業全体を通じて一の労働時間等設定改善企業委員会の決議をもって、年次有給休暇の計画的付与等に係る労使協定に代えることができることとする。

Ⅱ 多様で柔軟な働き方の実現

(1) フレックスタイム制の見直し

• フレックスタイム制の「清算期間」の上限を1か月から3か月に延長する。

(2) 企画業務型裁量労働制の見直し

• 企画業務型裁量労働制の対象業務に「課題解決型提案営業」と「裁量的にPDCAを回す業務」を追加するとともに、対象者の健康確保措置の充実や手続の簡素化等の見直しを行う。

(3) 特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設

• 職務の範囲が明確で一定の年収(少なくとも1,000万円以上)を有する労働者が、高度の専門的知識を必要とする等の業務に従事する場合に、健康確保措置等を講じること、本人の同意や委員会の決議等を要件として、労働時間、休日、深夜の割増賃金等の規定を適用除外とする。

• また、制度の対象者について、在社時間等が一定時間を超える場合には、事業主は、その者に必ず医師による面接指導を受けさせなければならないこととする。(※労働安全衛生法の改正)

長時間労働抑制は人材サービスにとってチャンス

この中で長時間労働抑制策は、人材サービス事業者にとっては追い風になるはずです。

3年間の猶予期間はあるものの、業務の生産性を向上させることができなければ、時間外勤務の割増賃金は50%アップになり人件費率が上がることになります。

規模感にもよりますが、割増賃金を50%負担するよりも、人員数を増やすという発想になるのではないでしょうか。

当然、業務内容の精査がされたうえで、社員で行う業務と外部人材に振り分ける業務に切り分けが行われ、後者について外部人材で充当するという考え方になるのだろうと思います。

政府は職務分離を避けたいようですが、現実的には職務分離が進むと考えるべきでしょう。

分離された後の業務については外部人材を増員することで対処するとするならば、人材サービス事業者にとってはビジネスチャンスですね。

有給休暇の取得促進もビジネスチャンス

同様に年次有給休暇の取得促進も人材サービス事業者にとってはビジネスチャンスです。

長時間労働の抑制ほど目立たないのかも知れませんが、例え年間5日でも有給休暇で就労率が落ちるのであれば、その部分の業務について生産性の向上がない限りは人材不足の状態が生じるということです。

仮に5日の有給休暇を取得する社員が10人いたとすると単純計算では50日分の業務を受注することができるということです。

100人であれば500日分ですから、派遣社員を年間2名は増員する必要があるということです。マクロでみると2%程度はニーズが増えるということになります。

以前であれば、残った社員が時間外勤務で対処したのかもしれませんが、前述のように割増賃金が増加するのであれば、一時的、臨時的に派遣サービスを利用した方がよいという判断も成り立つはずです。

もちろん、これらは人材派遣に限りません。いわゆる正社員の増員、無期雇用社員の増員など、人材サービス事業者が必要とされる機会が増えると考えることが必要ではないでしょうか。

なぜホワイトカラー・エグゼンプションに反対?

さて、今日のNHKのニュースによれば、高度プロフェッショナル制度=残業代ゼロ法案=脱時間給=ホワイトカラー・エグゼンプションについて、労働側が反対をしているとのこと。

先月、容認した途端、数日で撤回したというチグハグさが露呈しましたが、連合としては反対に意思統一したということでしょうか。

以前にも書いたことがありますが、法案で言われている内容であれば、ホワイトカラー・エグゼンプションで何が問題になるのかよくわかりません。

企画業務などでは、頭が回っている時間はずっと回りっぱなしで、途中で水を差される方が結果を出しづらいということはよくあります。

「職務の範囲が明確で一定の年収を有する労働者」と限定されているのであれば、生産性向上のためにもこの法案はとおした方がよいように思うのですが、連合が反対している想定を教えてほしいものです。

加藤大臣会見概要

(H29.8.29(火)11:27~11:36 省内会見室)

(記者)

働き方改革に関連してお伺います。連合が高度プロフェッショナル制度の創設に関する労基法改正案と残業時間の上限規制に関する法案の一本化に反対する方針を決定しました。こうした連合の態度決定について受け止めがあればお聞かせ下さい。

(大臣)

先般、そうした態度表明があったことは承知をしております。そうしたことも踏まえて、これから労働政策審議会で議論していただくことになると思います。いずれにしても、この働き方改革に関する法案をその審議を踏まえて、出来るだけ早く国会に法案として提出できるよう努力をしていきたいと思います。

(記者)

二つの制度を一本化した法案として出す狙いについてご説明ください。

(大臣)

これからどう出すかについては、労政審の審議を聞いてから、最終的な審議を得てからとなります。前から申しあげていますように、今回の長時間労働の是正といった部分、あるいは同一労働同一賃金ということですけれども、色んな方々が様々な事情があるなかで、多様な働き方ができるそういう社会を目指していこうということであります。そういった意味においても、元々いま出している労働基準法の改正案自体もそういう趣旨に沿ったものであります。そうした同じ理念のものであり、それぞれが条文としても関わり合っているわけでありますから、国会で審議いただくうえにおいても一体として出していくのが一つの姿ではないかと申しあげてきたわけであります。いずれにしても、これから労働政策審議会でしっかり議論していただきたいと思います。

 

「高度プロフェッショナル制度」と時間外規制 一本化の方針

NHK News Web 8月30日 12時29分

働いた時間ではなく成果で評価するとして労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」と、時間外労働に上限規制を設ける法律の改正案を一本化して臨時国会に提出する国の方針が、30日、厚生労働省の審議会で初めて示されました。これについて、労働組合側からは「高度プロフェッショナル制度は長時間労働を助長しかねない」などと反対の意見が相次ぎました。

政府は、働いた時間ではなく成果で評価するとして労働時間の規制から外す「高度プロフェッショナル制度」や、裁量労働制を適用する業務の拡大、それに、時間外労働を年間で720時間以内などとする対策を打ち出しています。

30日に開かれた厚生労働省の審議会で、国側からこうした政策の実現に必要な労働基準法の改正案を一本化し、秋の臨時国会に提出する方針が初めて示されました。

これに対して、経営者側の委員は「人口減少社会を迎え、効率的に仕事を進めて生産性の向上を図っていくには、高度プロフェッショナル制度などを導入し柔軟な働き方を実現することが不可欠だ」と主張しました。

一方、労働組合側の委員は「高度プロフェッショナル制度は労働時間の規制が外れるため長時間労働を助長しかねない。すでに柔軟な働き方を可能とする制度はあり、新たな制度の新設は不要だ」として、導入に反対する意見が相次ぎました。

厚生労働省は来月中旬ごろまでに審議会の議論を取りまとめたいとしていますが、労働組合側は反発を強めていて難航することが予想されています。

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