昨日のエントリー「『大貧乏』にみる人材派遣会社の廃業リスク」、これまで何度かリスクマネジメントについて書いた中で、思いのほか関心をもっていただけました。ありがとうございます。

タイトルが刺激的だったからでしょうかねぇ。

その後、このドラマの中にほんやりと娘が映っていることが確認できました。馬子にも衣裳と言いますが、立派な振袖を着せてもらったら、どこかのお嬢さまみたいですね…親バカですみません(笑)。

大貧乏

労働調査会の「先見労務管理」

さて、今日は労働調査会さまの「先見労務管理」という雑誌に私の記事を掲載していただいたので、その内容について…。

まず、その「先見労務管理」ですが、どのような雑誌かというと、「管理・監督者のための実践情報誌」とのことで、主に以下がセールスポイントだそうです。

  • 雇用管理・賃金管理を中心に豊富な情報を掲載
  • 難しい法律改正の内容を専門家が分かりやすく解説
  • 実務担当者に役立つ今日的な人事労務問題をタイムリーに紹介

先見労務管理2原稿執筆のお話を頂いたのは昨年の11月の終わりごろだったと思いますが、このような超専門雑誌に記事を書かせていただくとなると、相当心してかからないといけませんねぇ。

内容的には企業の人材マネジメントに携わる方が読者ということになりますが、労働調査会さんの発行ということで、実際には厚生労働省や各労働局、社労士の方も多く読まれるとのこと。ますます真面目になってしまいます(笑)。

2017年、5つのキーワード

今回採り上げていただくのは、なんと新春特集「2017年、5つのキーワード」というコーナー。

20ページにわたる巻頭特集のうち4ページが私の部分になります。

2017年、5つのキーワード

今年注目の5つのキーワードを解説

2017年がはじまりました。新年最初の特集は、毎年恒例となりました、年間のキーワードを押さえます。本年は①働き方改革、②兼業・副業、③テレワーク、④マタハラ、⑤改正労働者派遣法、の5つのキーワードについて、それぞれ識者の方々にご解説いただきました。

フタを開けてみると、以下のオーダーです。

  1. 働き方改革(独立行政法人労働政策研究・研修機構 主席統括研究員 濱口桂一郎氏)
  2. 兼業・副業(安西法律事務所 弁護士 外井浩志氏)
  3. テレワーク(アサミ経営法律事務所 弁護士 浅見隆行氏)
  4. マタハラ(職場のハラスメント研究所所長 労働ジャーナリスト 金子雅臣氏)
  5. 改正労働者派遣法(人材サービス総合研究所 経営コンサルタント 水川浩之)

先見労務管理1濱口先生と同じところに載せていただくというのは、なんとなく居心地が悪いのですが、私の記事の次のページをめくってみると、ナント、厚生労働省職業安定局長生田正之氏の年頭所感「『地方版ハローワーク』でサービス向上」です。

なんとも敷居の高いところに記事を掲載していただいたものです。

私のフィールドは人材サービスのビジネスであり、マネジメントですからね。

改正労働者派遣法

私にいただいたお題は「改正労働者派遣法」。一昨年改正され、さらにこれから同一労働同一賃金の議論で再改正が見込まれる谷間の今年です。

しかも、何を書いてもよく、言いたいことを好きに書いてよいとのことでしたが、今年にこのキーワードでよいのかなと思いながら頭を悩ませました。

実際には現場の実務にはまだまだ浸透していないのだろうということと、同一労働同一賃金の推進に向けて、平成27年改正派遣法をベースに書いてみました。

対象となる読者が主に企業の人材マネジメントに携わる方ということを前提にしています。危ないことは書いていないと思いますが(笑)。

内容は、以下のとおりです。

  • 「政争の具」にされる労働者派遣法
  • 「附帯決議」で歪められた立法趣旨
  • 派遣先企業にとっては規制緩和
  • 「期間制限のルールの変更」によって厳格化される「意見聴取手続」
  • 新たな人材採用方法としての「雇用安定措置」
  • 適正な運用が求められるアウトソーシング

言いたいことは、改正法の解説になっている後半よりも、最初の2項目ですかねぇ。

今後、再改正もあると思いますが、そろそろ本当に労働者目線で改正をしてもらいたいものです。

よろしければ、お目通しください。

なお「先見労務管理」のご購読は、こちらからどうぞ。ご購読の方は、無料労務相談室を利用できる特典があるそうです。

Keyword ⑤ 改正労働者派遣法

新労働者派遣法、いわゆる「平成27年改正法」では様々な改正項目が盛り込まれた。水川氏は派遣先企業が特に注意すべき事項の1つとして「派遣労働者と派遣先社員の均衡待遇の推進」を挙げる。これは同一労働同一賃金の推進を先取りするもので、企業には何らかの措置や対応を講じることが求められ、講じなければ指導・助言・罰則の対象となる。

(写真)

水川浩之 Hiroyuki Mizukawa

人材サービス総合研究所所長(経営コンサルタント)。近著に「雇用が変わる 人材派遣とアウトソーシング - 外部人材の戦略的マネジメント」がある。

先見労務管理「政争の具」にされる労働者派遣法

一昨年、2015年9月30日に施行された改正労働者派遣法、「平成27年改正法」とも呼ばれますが、過去5年間に成立した労働政策系の17法案のうち4番目に長い期間が審議に費やされました。

「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」で10.2か月、「労働政策審議会」で6.1か月、国会審議で18.3か月。法改正の契機となった時点から、法案が成立するまでのインターバルなども含んだ期間の合計で35.3か月の紆余曲折を経て成立したものです。

ちなみに最も長かったのが、労働者派遣法の「平成24年改正法」で50.1か月、2番目が労働契約法の41.9か月、3番目がパートタイム労働法の38.9か月と、いずれもいわゆる非正規雇用に関するものであり、我が国が抱える問題を色濃く反映しています。

労働者派遣法については「平成24年改正法」の50.1か月と「平成27年改正法」の35.3か月の合計85.4か月が、17法案すべての合計323.2か月の26.4%を占めており、物議を醸す法制度であることが顕著です。

内訳をみると圧倒的に国会での審議期間が長く、国会審議の期間だけを採り出すと、一番長い「平成24年法」が24.1か月、次いで「平成27年法」が18.3か月と続いています。「政争の具」にされる労働者派遣法の一端が垣間見えます。

「附帯決議」で歪められた立法趣旨

「平成27年改正法」の成立に至るまでの特徴的なことは、前述のように長期間費やされた国会審議の最後に、異例ともいえる39項目の附帯決議がつき、同時に成立した同一労働同一賃金推進法の11項目と合わせ、50項目もの附帯決議がされたことです。

この附帯決議によって、それまで「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」、「労働政策審議会労働力需給制度部会」で議論された法案の原型が大きく崩れたことのみならず、労働者派遣法の立法趣旨まで国会の場で歪めてしまうことになりました。

従来、「雇用慣行との調和に留意し、常用雇用の代替を促すこととならないよう十分に配慮する」とされていたものが、この附帯決議によって、「常用代替の防止」が「労働者派遣法の根本原則である」と置き換えられたのです。

また、1999年の改正法で解禁された自由化業務について「臨時的・一時的なもの」としていたものが、この附帯決議では「派遣就業は臨時的・一時的なものであるべきとの基本原則については本法施行後も変わらない」と上書きされたかたちになってしまいました。

本法施行後も変わらないのではなく、本法成立とともにその位置づけが変わってしまったのです。

「労働契約申込みみなし制度」の発動前に成立させなければ労働市場の混乱が予想されるという背景があったこともさることながら、安全保障関連法案をめぐる与野党対立のドサクサ紛れに、半ば安保法案成立の交換条件のように、専門性に乏しい国会審議によって今後の労働者派遣法のゆくえをさらに難解なものにする引き金をひいてしまったことになります。

「平成27年改正法」は、9月11日に成立し、十分な周知期間のないまま、3週間足らずの同月30日に施行されました。

今後も「同一労働同一賃金推進法」に伴い、2018年に向かってさらなる労働者派遣法の改正が見込まれるなか、その議論の過程においてこの附帯決議の内容が火種になることは目に見えています。

派遣先企業にとっては規制緩和

さて、改めて「平成27年改正法」の内容を見てみましょう。

人材サービスを利用する企業にとっては、おおむね規制が緩和されたものとなっています。

その中で、派遣先企業が注意すべき事項としては、「派遣労働者と派遣先社員の均衡待遇の推進」、「期間制限のルールの変更」、「派遣労働者のキャリアアップ支援」、「労働契約申込みみなし制度」などを挙げることができます。

「派遣労働者と派遣先社員の均衡待遇の推進」は、同一労働同一賃金の推進を先取りするもので、派遣労働者と派遣先企業で同種の業務に従事する労働者の待遇の均衡を図るための配慮義務が求められています。

具体的には、「派遣元事業主に対し、派遣先の労働者に関する賃金水準の情報提供等を行うこと」、「派遣先の労働者に業務に密接に関連した教育訓練を実施する場合に、 派遣労働者にも実施すること」、「派遣労働者に対し、派遣先の労働者が利用する一定の福利厚生施設の利用の機会を与えること」について具体的な行動を行うことが必要とされています。

これらは、従来、努力義務とされていたものですが、「平成27年改正法」によって配慮義務へ規制が強化されました。

企業は、何らかの措置や対応を講じることが求められ、これを講じていなければ、指導・助言・罰則などの対象となります。

同一労働同一賃金は、いわゆる正規・非正規労働者間の処遇格差是正に向け、非正規労働者に対して「合理的な理由のない不利益な取扱いをしてはならない」ことが骨子になるとされています。

いずれにしても今後は、企業の責任としてこれらの対応が求められることになります。

「期間制限のルールの変更」によって厳格化される「意見聴取手続」

「平成27年改正法」の目玉の一つとされているのが、「期間制限のルールの変更」です。

これは、従来の業務単位(政令26業務以外の業務について、上限を原則1年(最長3年)とするもの)の期間制限が見直され、すべての業務について「派遣先事業所単位の期間制限」と「派遣労働者個人単位の期間制限」の2つの期間制限が適用されることになったものです。

「派遣先事業所単位の期間制限」は、同一の派遣先の事業所において、労働者派遣の受入れを行うことができる期間が、原則3年を限度とされ、派遣先が3年を超えて受け入れようとする場合は、過半数労働組合などから意見聴取をする必要があります。

意見聴取は、派遣の受入れの継続の是非について労使間で実質的な話合いが行われることが重要とされ、事業所単位の期間制限の抵触日の1か月前までに該当する事業所に対して行うことが必要です。

過半数労働組合などから異議が示されたときは、対応方針などを説明する義務があり、これらの手続きについては従来よりも規制が厳格化されています。

また、意見聴取や対応方針などの説明については、その記録を3年間保存するとともに、派遣先事業所において周知することも求められています。

「3年ごとに人さえ変えれば永遠に派遣雇用のままが可能になる」といわれますが、この意見聴取手続は必須となります。

意見聴取手続は、人材派遣事業者などの他人任せにできず、派遣先企業が自らのこととして適正に行わなければなりません。

違反した場合は、行政指導や労働契約申込みみなし制度の適用対象となるため十分な注意を払うことが必要です。

実際に意見聴取の手続きが生じるのは2018年以降になりますが、心づもりとして、対応方針などについて事前に検討をしておくとよいでしょう。

「派遣労働者個人単位の期間制限」については、同一の派遣労働者を、派遣先事業所の同一の組織単位、いわゆる「課」などにおいて受け入れることができる期間の限度が3年となるものです。

裏を返せば、「課」が異なれば同一の派遣労働者を受入れることが可能ということになります。

なお、派遣元で無期雇用されている派遣労働者、60歳以上の派遣労働者などについては事業所単位、個人単位ともに期間制限の対象とはなりません。

新たな人材採用方法としての「雇用安定措置」

そもそもこの「平成27年改正法」は、派遣労働者のより一層の雇用の安定、キャリアアップを図ることを目的として成立したものですが、その中核となるのが「派遣労働者のキャリアアップ支援」です。

ここでは、「キャリアアップ支援に必要な情報の提供」、「雇入れ努力義務」、「正社員の募集情報の提供義務」、「労働者の募集情報の提供義務」が定められています。

まず、「キャリアアップ支援に必要な情報の提供」では、派遣元から求めがあったときには、派遣元によるキャリアアップ支援に資するよう、派遣労働者の職務遂行状況や、職務遂行能力の向上度合などの情報を提供することが努力義務とされています。

また、「雇入れ努力義務」では、事業所単位で受け入れていた派遣労働者の契約終了後、同じ業務に従事させるため新たに労働者を雇い入れようとする際、一定の場合にはその派遣労働者を雇い入れるよう努めなければなりません。

そして、「正社員の募集情報の提供義務」と「労働者の募集情報の提供義務」では、正社員、あるいは正社員に限らず労働者の募集を行う際、一定の場合には受け入れている派遣労働者に対してもその募集情報を周知しなければならないとされています。

一方、派遣元事業者に対しては、派遣労働者が派遣先の同一事業所単位で3年継続して勤務をした場合は義務、1年以上継続して勤務が見込まれた時点で努力義務として雇用安定措置を講ずることが求められます。

雇用安定措置では、「①派遣先企業への直接雇用の依頼」、「②新たな派遣先企業の提供」、「③人材派遣事業者での(派遣労働者以外としての)無期雇用」、「④その他安定した雇用の継続を図るための措置」のいずれかを講じなければなりません。

この中で、「①派遣先企業への直接雇用の依頼」に基づき、派遣労働者が希望し派遣元事業者から直接雇用の依頼を受けた場合は、すでに1年以上、あるいは3年間の就労実績を評価できているわけですから、優良な労働者であることが認められる場合は、採用することを検討してはいかがでしょうか。

必ずしも直接雇用が義務づけられているものではありませんが、ますます人材採用が逼迫していくことが見込まれる中、紹介予定派遣の類型として、新たな人材採用のかたちと捉えることができます。

職務、勤務地、労働時間を限定した、多様な正社員・限定正社員といわれる就労形態での無期雇用も可能です。

このような制度がない場合は、併せて人事制度も検討するとよいでしょう。

適正な運用が求められるアウトソーシング

「平成27年改正法」によって、期間制限の単位が従来の「業務単位」から「事業所単位」と「個人単位」に分かれたことから、従来の政令26業務に該当するかどうかによって派遣受入期間の取扱いが大きく変わるという曖昧さがなくなり、すでに施行されている「労働契約申込みみなし制度」に抵触する可能性は大きく低減されました。

最も注意を要するものとして考えられるのは、規定の適用を免れることを目的とした偽装請負です。人材派遣だけでなくアウトソーシングを利用している企業は注意が必要です。アウトソーシングの運用には、これまで以上に人材派遣との区分について厳格な対応が求められることになります。

詳細については、拙著、「雇用が変わる 人材派遣とアウトソーシング ─ 外部人材の戦略的マネジメント」で、人材サービスを公正かつ有益に利用できるよう要点を押さえながら、戦略的に活用するための考え方や実務について解説していますのでご参照いただければ幸いです。

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