こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。
7月15日付の朝日新聞の記事「『残業代ゼロ』連合容認に波紋『次期会長候補が独走』」によれば、連合がホワイトカラー・エグゼンプションを条件付きで導入を容認したとのことです。
7月13日夕刻に連合・神津会長が、安倍総理に対して、労働基準法等改正法案に関する要請を行い、14日にそれが話題となり、15日に記事となったという流れのようですが、なぜか、寄っている?新聞ばかりに採り上げられています。
もともと「残業代ゼロ」と言われている「高度プロフェッショナル制度」ですが、要するにホワイトカラー・エグゼンプションですね。
「高プロ」と省略されているようですが、それはそれで何の意味も為さないので、返ってわかりにくくなりそうです。
■ ホワイトカラー・エグゼンプションも政争の具
さて、このホワイトカラー・エグゼンプション、長い間「残業代ゼロ」と野党から反対されてきたのですが、その反対そのものに違和感がありました。
どのような職種を想定するのかによっても考え方は違うのだろうと思いますが、裁量労働の管理職は遠のむかしに「残業代ゼロ」だったわけで、マネジメントレベルではないにせよ、一定の専門職は「担当部長」とか「担当課長」といった呼称で管理職待遇を受けていたはずです。
それが「残業代ゼロ」になると騒がれていたのですが、すでにこれらの人は「残業代ゼロ」のはずなので、この「高度プロフェッショナル制度」が導入されても、それほど大勢に影響ない、というか何も変わらないと思えなくもないのですが、私の理解が間違っているのでしょうか。
むしろこの「残業代ゼロ」は労働者派遣法と同様に政治利用されてきたような感じがします。
■ 実は民進党も大敗
この朝日新聞の記事でも「政権が弱っている中、わざわざ塩を送るようなまねをするなんて」とあからさまに政争のタネとして扱っていることが採り上げられています。
たしかに先日の都議会議員選挙以来、自民党の政権が弱っているのだろうと思いますが、その中身を見ると、連合の支持母体の民進党が強くなったわけでもなんでもありません。
自民党が歴史的な大敗をしたことが目立つだけで、民進党も議席を減らしていることはあまり報じられていません。
都民ファーストの大躍進もある種のポピュリズムの結果と捉えることもでき、新人議員ばかりで結果が出せなければ次はないという懸念も残ります。
■ 労働者の視点で議論を
いずれにしても、雇用問題は国民の生活そのものの問題です。すでに連合内での議論が噴出し、19日に予定されていた政労使会議が延期されるというようなニュースまで報じられました。
政権が弱っているかどうかよりも、本当の意味で労働者にとってよいことかどうかを論じて欲しいものです。
私自身、時間に関係なく働く裁量労働の立場を長く経験しました。
必要に応じて夜まで仕事することもあり、逆に必要がなければ出社時間を遅らせるということをよくやっていましたが、何の問題もなかったと思います。
雇用問題を政局のタネとするような政党こそ、国民からの鉄槌を受けるべきではないでしょうか。
なお、秋の臨時国会で働き方改革関連法案として、長時間労働の是正、このホワイトカラー・エグゼンプション、同一労働同一賃金の3法一括改正など、多くの労働法制がまとめて議論される可能性も高く、その動向が注目されるところになりそうです。
「残業代ゼロ」連合容認に波紋 「次期会長候補が独走」
朝日新聞デジタル 7月15日 専門職で年収の高い人を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」を「残業代ゼロ法案」と強く批判してきた連合が、条件付きで導入の容認に転じたことが組織内に波紋を広げている。 方針転換を主導した次期会長の有力候補の「独走」に、傘下の労働組合が冷めた視線を注いでおり、今秋の会長人事にも影響しそうだ。
高プロの修正を求めて安倍晋三首相と会談してから一夜明けた14日午前、都内で開かれた産別のOBでつくる団体の定期大会に連合の神津里季生(こうづりきお)会長の姿があった。 同席した民進党の蓮舫代表らを前に神津氏は、高プロの導入を条件付きで容認した理由についてこう釈明した。 「共謀罪法案は与党が強引に成立させた。高プロも、ずさんな健康管理態勢のもとで制度が入れられるのではないかと考え、やむにやまれず、せめて年間104日以上の休日は義務づけるべきだと申し出た」 しかし、高プロを含む労働基準法改正案は、野党や連合が「残業代ゼロ法案」などと猛反発し、2年以上にわたって一度も審議されずにたなざらしにされていたものだ。 加計(かけ)学園問題などで安倍内閣の支持率が下がり、都議選で自民党は大敗。 政治情勢が変化する中で、秋の臨時国会で政府・与党が改正案の審議入りを決めれば、批判が再燃する可能性もあった。 主要産別出身のある連合幹部は「要請内容はどれも根本的な修正ではない。政権が弱っている中、わざわざ塩を送るようなまねをするなんて、政治的センスを疑う」と突き放す。 今回の要請は、逢見(おうみ)直人事務局長や村上陽子・総合労働局長ら執行部の一部が主導し、3月末から水面下で政府と交渉を進めてきた。直前まで主要産別の幹部にも根回しをしていなかったことから、組織内には逢見氏らの「独走」への不満がくすぶる。 逢見氏は連合傘下で最大の産別「UAゼンセン」の出身。事務局採用で、産別の会長まで歴任した後、2015年10月から現職。村上氏は、連合の事務局採用の職員から幹部に昇進してきた。 逢見氏は事務局長に就任する直前の15年6月、安倍首相と極秘に会談し、批判を浴びたこともある。労働者派遣法や労基法の改正案に連合が反対し、政権との対立が深まるなかでの「密会」だった。当時も、組織内から「政権の揺さぶりに乗った」と厳しい指摘が出ていた。 ■ 今秋人事に影響必至 逢見氏は、10月で任期満了を迎える神津氏からバトンを引き継ぐ有力な会長候補だ。神津氏が新執行部の体制を検討する「役員推薦委員会」に対し、異例の1期2年で辞任する意向を伝え、後任人事は逢見氏の昇格を軸に進んでいた。 しかし、逢見氏ら執行部の突然の「変節」に対し、傘下の産別からは「組織に諮らずに、こんなに重要な方針転換を決めるのはあり得ない。会長になったらどれだけ独断で決めていくかわからない」といった批判が噴き出している。 労組の中央組織のリーダーとしての逢見氏の資質を疑問視する声も出始めており、会長人事の行方も流動的になってきた。もともと逢見氏の会長就任に慎重な意見があったことに加え、神津氏の留任を望む声もあり、今後の調整には曲折も予想される。 逢見氏らの「独走」を追認した神津氏の責任を問う声もある。ある連合幹部は言う。「会長の立場なら止められたはずだ。主導した責任もあるが、それを許した責任も重い」 ■ 経団連は歓迎 経団連の榊原定征会長は14日、連合が「高度プロフェッショナル制度(高プロ)」の導入を条件付きで容認する姿勢に転じたことについて、「できるだけ早く(連合と)考え方をまとめていきたい」と語り、歓迎する姿勢を示した。首相官邸で記者団に語った。 連合が健康への配慮などを条件に掲げていることについては「懸念は理解できるので詳しく分析し、日本商工会議所などとも連携して検討したい」と述べた。 |
安倍総理に対して、労働基準法等改正法案に関する要請を実施
聯合ニュース(2017年07月14日) 7月13日夕刻、連合・神津里季生会長は、安倍晋三内閣総理大臣に対して、労働基準法等改正法案に関する要請を行いました。 ※ 先方出席者:安倍晋三内閣総理大臣、塩崎恭久厚生労働大臣、加藤勝信働き方改革担当大臣 過労死・過労自殺ゼロはもとより、健やかに働き続けられる社会の実現に向けて、長時間労働の是正は喫緊の課題であり、「働き方改革実行計画」踏まえた時間外労働の上限規制等については、労働政策審議会の建議に基づいて、速やかな法改正と施行が求められています。その一方で、国会においては、2015年に提出された労働基準法等改正法案が継続審議となっています。法案には、中小企業における月60時間超の時間外労働に対する割増賃金率を引き上げてダブルスタンダードを解消すること等、評価すべき内容も盛り込まれています。 しかし、同法案に盛り込まれている企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大や高度プロフェッショナル制度の創設については、長時間労働・過重労働を助長しかねないため、労働政策審議会の議論の段階でも反対意見を表明しました。現在でも、これらの制度を導入すべきではないという考えは変わりませんが、このままの内容で法案が成立することへの危惧が非常に強いため、要請を行いました。 神津会長から、継続審議となっている労働基準法等改正法案に関して、企画業務型裁量労働制の対象業務の拡大や高度プロフェッショナル制度の創設については、現在でも導入すべきでないと考えているが、少なくとも、①裁量労働制が営業職全般に拡大されないことの明確化、②高度プロフェッショナル制度で働く方の健康確保の強化、という点からの是正が不可欠であることを述べました。 また、現在の裁量労働制の問題点として、裁量労働制で働く者は、仕事の進め方や時間配分に関して主体性を持ちたいと思いつつも、実際には、労働時間(在社時間)が長かったり、取引関係における短納期などの要因により業務に対する裁量性が小さかったりするなど、本来の制度趣旨に沿わない実態にあり、対象業務拡大の前に、裁量労働制の適正な運用がなされるようにすべきことも発言しました。 その後、要請書を安倍総理に手交しました これに対し、安倍総理からは、以下のとおり発言がありました。 ○ 本日いただいた修正提案については、労働者団体の代表のご意見として、重く受けとめる。責任をもって検討させていただく。 ○ 現在提出している労働基準法改正案の目的は、働く人の健康を確保しつつ、その意欲や能力を発揮できる新しい労働制度の選択を可能とするものであり、残業代ゼロ法案といったレッテル張りの批判に終始すれば、中身のある議論が行えないと考えていたところ、本日の提案は、中身についての提案であり、建設的なもの。 ○ ご提案に沿うかたちで、私と神津会長と榊原会長との間で、政労使合意が成立するよう、私自身、最大限、尽力したい。 |
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