気づいてみると、今日は3月3日、桃の節句、雛祭りですね。数日前にかつて「桃園」の地名がついていた実家にいったのですが、まだ桃の花は咲いていませんでした。いつもよりも寒いということでしょうか。
我が家では、もう何年もお雛様を飾ることがなくなりました。だから、いつまでも娘がふらふらしているのかもしれません。それはそれで困ったものですが…。
■ フラットな記事に好感
さて、今日は、今朝の日本経済新聞の私見卓見「日雇い派遣は主婦を助ける」の記事についてです。
ビースタイル「しゅふJOB総研所長」の川上敬太郎さんによって書かれたこの記事を読んでみると、とてもフラットに書かれているというのが第一印象です。
恐らく、まじめに人材サービスに携わる皆さんなら、同じような感想をもたれたのではないでしょうか。
■「日雇派遣原則禁止」は日本だけ?
実は、業界の仲間内では、「30日以内の短期派遣を禁止する国は日本だけだ」は言い過ぎだろう、マケドニアやコロンビアにはそもそも派遣法あるのか?…という冗談話まで飛び交っていました。
なぜ、マケドニアやコロンビアが引き合いにされたのかわかりませんが(笑)。
少なくとも私も拙著「雇用が変わる」をしたためていた時点では、欧米、東南アジアの主要国では日雇派遣の原則禁止などという国は他にありませんでした。
世の中には、まだまだ人身売買、奴隷制度、児童労働…なんでもありみたいな国もあるのではないでしょうか。北朝鮮はどうなんでしょう。。
そのような国があったとしても、それと比較しても仕方がありません。
■ メディアに踊らされた政府
閑話休題。「日雇派遣原則禁止」が決まったのは平成24年のこと。すでに5年も経ったのですね。
当時、「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」「派遣切り」「非正規格差」「年越し派遣村」というメディア独特の人材サービス業界へのいじめにも似た報道が続きました。
たしかに一部の心ない事業者の不正が横行したことも事実でしょう。
これを真に受けて、当時の与党が十分な検証も行わないまま、一事が万事とばかりに次々と一般的には考えられないような政策を打ち出しました。
当時の労働者派遣法改正の議論に伴い、不穏な動きを感じた私は厚生労働省の労働政策審議会労働力需給制度部会には足繁く通いました。
■「問題があれば見直せばいい」
「日雇派遣原則禁止」の年収要件について論じられたその日も、まさに私は労政審を傍聴していました。
その時の光景は今でもはっきり覚えています。
世帯年収が640万円より少ない人は日雇い派遣に従事してはいけない。どう考えてもおかしい議論が目の前で繰り広げられていました。
お金がないからなんとか稼ぎたいというのが普通のはずです。皆がみな、毎日フルタイムで働きたいわけでもないはずです。
当初、640万円だった金額が、いや540万円だ。キリのいいところで500万円だと、まるでマグロのセリでも見ているようでした。
結局最後は、座長の「問題があれば見直せばいい」という趣旨の発言で決定。
■ 50万人の官製派遣切り
少なくとも、人材サービスに携わる皆さんにとっては、その時点で問題があるということはわかっていたことだと思います。
恐らく、厚生労働省もこれについては、まずいと思われていたのではないでしょうか。
たしかに、やむをえず非正規雇用で働いている人が、非正規雇用者全体の16.9%いらっしゃるということは問題です。
ただし、この数字はパート、アルバイトも含めたものです。
派遣労働だけを規制しても何の意味もないばかりか、自らこの働き方を望んでいる人の雇用を閉ざすことは目に見えています。
結果、50万人の官製派遣切りという悲しい事態をまねいてしまいました。「規制すれば正規雇用に転換するはず」という机上の空論が、もののみごとに外れたということです。
■「志高い『真の経営力』習得を」
本日、労働新聞のWeb版の「人材ビジネス交差点」に掲載された私の記事「志高い『真の経営力』習得を」では以下のように書きました。まさに「日雇派遣原則禁止」の廃止もその一つです。
人材サービスの直接的な受益者は、いうまでもなく労働者と企業の双方である。これまでの労働者派遣法の変遷を振り返ると、政争の具として扱われたり、心ないメディアの報道に翻弄されたりと、本質とは異なるところで議論が進むことも多かった。
本来の受益者の利益を損ねる結論に至ったことも少なくない。そろそろ、受益者にとって何が本当に大切かを考えていかなければならない。 |
■ エビデンスに基づいた議論を
恐らく、この短絡的な「一事が万事」を振り返ってのことではないかと思うフシもあるのですが、昨今、厚生労働省での議論では「エビデンスに基づいた議論を」という言葉がたびたび口にされます。
すでに官製派遣切り50万人のエビデンスが厚生労働省の調査によって明らかになっているのです。
「問題があれば見直せばいい」…そのとおりです。一度決めてしまったものは戻せないというのはお役所の論理です。
本当に重要なことは労働者のためであるかどうかではないでしょうか。
■「マージン率の開示」も廃止を
同時に制定された「マージン率の開示」も極めてナンセンスです。エビデンス以前の問題です。
前提条件の違う数字を並べてみても誰の参考にもなりません。
どう考えてもこの法律は事業規制であり、感情論で制定されたものとしか思えません。
労働政策審議会に列せられているような何人かの学識者の方に伺っても「おかしな法律だ」とおっしゃいます。
問題は、社会保険や有給休暇の付与をしないで不当な利益をむさぼる事業者にあるのです。
正常な経済活動では、正当な活動のうえに少しでも多くの利益を得ようとすることは当然です。
それがあたかも悪いことかのように規制すること自体が人材サービス業界を歪めることになるのではないでしょうか。
「悪法も法なり」といいます。法治国家で法律があればそれを守ることは当然ですが、悪法であるということが明白であれば勇気をもって正すことは政府の責任ではないでしょうか。
そして、このような事業規制については「実害がないからがまんしよう」ではなく、業界も立ち上がるべきではないでしょうか。業界の健全な発展のためにも…。
今日はここまで!
皆さんよい週末をお過ごしください。桃でも見に行こうかな。。
私見卓見「日雇い派遣は主婦を助ける」
ビースタイル しゅふJOB総研所長 川上敬太郎 日本経済新聞朝刊 2017/3/3付 厚生労働省は労働契約の期間が30日以内の短期派遣を日雇い派遣と定めている。これが法律で原則禁止となってから5年目を迎えた。 日雇い派遣を禁止しようという機運が持ち上がったのは大きく2つの背景がある。1つはいわゆる「派遣切り」や「派遣村」などの報道で労働者派遣そのものへの批判が高まったこと。もう1つは一部の派遣事業者の違法行為がクローズアップされたことだ。当時の報道のすべてが間違いだとは思わないが、労働者派遣自体が悪であるかのような印象を世間に与えてしまった。その結果、傷ついたのは派遣事業者だけでなく、自ら望んで派遣という働き方を選んでいた労働者たちだ。 労働者派遣への批判の高まりは、事業規制の強化を推し進めた。その結果、2012年の派遣法改正で日雇い派遣は原則として禁止された。 困ったのは何らかの事情で短期の仕事を希望していた労働者だ。例えば主婦。家計を補助するために臨時収入を得たい場合、育児や介護、不妊治療などで長期的な就業がしづらい場合、あるいはブランク明けに少しずつ仕事に体を慣らしていきたい場合など。実際に主婦層にアンケートを取ってみると、日雇い派遣を解禁して欲しいという声の方が多いのが実情だ。 他にも失業時の生活費確保の手段であったり、資格試験の勉強や芸能活動などで夢を実現させるまでの間に収入を得る手段であったり、日雇い派遣という働き方を望む労働者は多数存在する。 12年の派遣法改正の内容は5年目を迎えても見直されていない。世界では労働者派遣は長期永続的な働き方ではないという認識が主流で、30日以内の短期派遣を禁止する国は日本だけだ。 また日雇い派遣の原則禁止に定められている4つの例外要件の中には、世帯収入が500万円以上で主たる生計者でない者という項目がある。世帯収入が500万円未満の主婦は、家計収入を補いたくても日雇い派遣で働くことができない。 派遣労働者の数は全雇用者の3%にも満たないため、実態が社会に伝わっていない面が多々ある。日雇い派遣を必要とする人は、その中でも更に一部の労働者だ。しかし数の大小ではなく、全ての労働者がより豊かで幸せな生活を望む権利を持っているはずだ。日雇い派遣を望む労働者のために、原則禁止を見直す必要があると考える。 |
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