こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。
一昨日のことになりますが、日本総合研究所調査部長の山田久さんのご著書「同一労働同一賃金の衝撃『働き方改革』のカギを握る新ルール」の出版記念イベントにお伺いしました。
開催直前に「働き方改革実行計画」が公表されたこともあり、すごいタイミングでした。
昨日は敢えて触れませんでしたが、このイベントは、日ごろ私が考えていることについていろいろと確認できるものでした。
日頃の山田久さんのご主張は非常に納得感がありますが、実は私は前職で広報宣伝を担当していた折に山田さんにインタビューをお願いしたことがありました。
当日、私は急用で伺うことができなくなり、以来ずっと不義理を感じていたのですが、一昨日改めてご挨拶ができてよかったです。
■ 成り立ちが違う「同一労働同一賃金」
まず、最初に「同一労働同一賃金」の成り立ちの話から始まりましたが、そもそもヨーロッパの「同一労働同一賃金」は、男女間の格差是正を求めたものであるという話。
これについては、何事も源流を理解しておくことが必要と考え、拙著「雇用が変わる 人材派遣とアウトソーシング ─ 外部人材の戦略的マネジメント」でもEUの条約の原文にまで遡って採り上げました。
そして、「同一労働同一賃金」から「同一価値労働同一賃金」にという流れがあることに対して、日本ではいわゆる正規・非正規の賃金格差の是正が出発点となっているというご指摘。
出発点が違うものに無理やり同じような制度を組み込むことには無理がありますよね。
■ ガラパゴス化した日本型雇用
世界の潮流のほとんどは企業横断的に賃金が決定されている職務型の賃金体系の中で、いわゆる日本型雇用は終身雇用、年功序列、企業別組合をベースとした職能型の賃金体系。
これは「同一労働同一賃金」以前の問題として、雇用のあり方がまったく異なることを意味します。
180度違うものを無理やり合わせようとしても上手くいかないことは目に見えています。
山田さんも指摘されていましたが、日本型雇用にも良いところはあり、ハイブリッド型がよいのではないかというのは、私も常々思っていたことと同じです。
なんでもかんでも欧米流がよいというのは、外国かぶれみたいで節操ない。
私自身もドイツで仕事をした経験から言って、必ずしもドイツがすべてよいわけではないと思っています。
よいところを採り入れるという柔軟性が必要ではないでしょうか。
■ ヨーロッパの「同一労働同一賃金」
一般に一言で「ヨーロッパ」ということが多いのですが、ヨーロッパは決して一枚岩ではありません。
英仏独、いずれも民族からして異なります。アングロサクソン、ラテン、ゲルマン。
日本人であれば、日本民族、韓民族、中華民族の違いはわかるはずですが、欧米の人から見ると違いが分からないようです。
同じようにヨーロッパの中でも、お互いに民族の違いや国の違いによって、かなり考え方が異なることもあるので、十把一絡げに「ヨーロッパ」という捉え方をすると間違えます。
ステレオタイプなジョークでも、フランス人は信号が赤でも車が来ていても道路を渡る、ドイツ人は車が来ていなくても信号が青になるまで待つというぐらい違うと言われます。
「ヨーロッパでは〇〇」というのは、中国だけを見て「東アジアでは〇〇」と言っているのと同じなのです。
法律に対する向き合い方もかなり違います。
フランスはよく言えば大らか、悪く言えばいい加減で、法律は法律、現実的に法律はあってもないのと同然ということも多く、仮にフランスでは〇〇と言っても、それを真面目?な日本に直輸入しても機能しないということも多いはずです。
法律だけを見て文化を見ずに論じていることも問題です。
■ まやかしの「同一労働同一賃金」
そんな中で今回の同一労働同一賃金の議論では、企業別組合の枠組みから脱することができず、企業内の均衡に留まったということになります。
結局のところ過去からのガラパゴスを引きずったままで、グローバルスタンダードにはほとんど歩み寄っていないと言えるのではないでしょうか。
むしろ、昨日のブログ「「働き方改革実行計画」、派遣はどうなる?」でもお伝えしたように、労働者派遣が職務型の賃金決定システムとなる派遣元均衡についても可としたいう点では評価できます。
本来の「同一労働同一賃金」が同じ職務であれば同じ賃金ということで捉えるならば、王道はこちらということになり、将来への布石を残すことができたものと考えられます。
すでにパート・アルバイトは職務分離が進んだ結果と捉えるならば、これらの職務も概ね職務型の賃金決定システムとなっています。
今後、第4次産業革命の進展に伴い、さらにこの傾向が高まることは間違いないと思いますが、賃金格差を問題視するのであれば、むしろ最低賃金を上げるというような政策の方がわかりやすいのではないでしょうか。
■ 生産性の向上は必須
ただし、ただ単に最低賃金を上げるだけでは賃金水準の低い海外に仕事が出ていくことにもなるため、同時に生産性の高さを求めていくことも必要になります。
日本は生産性が低いと言われますが、本当にそうなのかと、いつも疑問がわきます。
雑な仕事に高い料金を払うことと、丁寧な仕事に低廉な料金を払うことでは、当然後者の方が生産性が高いということになるのではないでしょうか。
日本は過剰な品質、過剰なサービスが多いということもありますが、むしろ後者の力があることは間違いないと思います。
企業は今後ますますこれを極めていくことが求められています。
■ やっぱりスジが悪い「同一労働同一賃金」
山田さんのお話を伺いながら、併せていろいろなことが頭をよぎりました。
今回の「同一労働同一賃金」の議論はやはりスジが悪いと思います。
まず、ガイドライン有りきで話が進み、法律が後付けというのは、どうにも薄気味悪い気がします。
法律が定まったうえで、細部についてはガイドラインでというのがモノの順序かと思いますが、先にガイドラインが出てしまうとロジックの整合性がとれなくなります。
ここは本当にスジが悪いと思います。
そして、政府がここまで介入すべきものではないと思います。
本来は、もっと市場原理に任せるべきです。箸の上げ下ろしにまで口出しをすることは、結果としては企業の自立を妨げることにつながり競争力が低下します。
政府がやるべきことは同一労働同一賃金に向かわせるための音頭取りだけで十分ではないでしょうか。
■ まずは、大きな一歩
このイベントには、リクルートワークス研究所の中村天江さんも登壇されていました。
「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」の議事録を読んでほしいというコメントに言外に含みもあったのだろうと思いますが、今回の「同一労働同一賃金」については、「大きな一歩」と評価されていました。
これについては、本当にそう思います。何も動かなければ何も始まりません。
私の隣にいた方からは、「同一労働同一賃金」で変わるかという単刀直入な質問もあり、会場に笑いが溢れましたが、そう簡単に変わるわけはありません。
長い目で見る必要があるのだろうと思います。男女雇用機会均等法も30年以上前に制定され、いまだに「202020」などと言っている状態です。簡単に変わると思う方がおかしいと言えるのではないでしょうか。
昨年12月20日の拙ブログ「『同一労働同一賃金』始めなければ始まらない」でも、「まず一歩を踏み出すことに意義があると考えるべきか」と書きましたが、まさにそのような捉え方になるのだろうと思います。
山田さんは、若い頃は職能、一定時期以降は職務、最終的に独立、インディペンデントコントラクターというカタチが望ましいのではないか。今後、流動化に向かっていく、と仰っていましたが、そうであれば流動化の担い手となるのは間違いなく人材サービス事業者ではないでしょうか。
2時間以上にわたり、一つのことを議論するトークイベント。あまりないパターンですがとても楽しい時間を過ごさせてもらいました。
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