こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

立春も過ぎ、なんとなく日差しも柔らかくなったと思うと、やたらに寒くなったりしています。

三寒四温と言いますが、これからの一か月ぐらいが春に向かうことを実感できる季節になっていくということでしょうか。

インフルエンザはピークを過ぎつつあるようですが、花粉症はこれからしばらく続きます。

重症の方はお気をつけください。

毎度お馴染みの「同一労働同一賃金」ネタ

さて、今週に入り、「解雇」「ベーシックインカム」「AI」と皆さんの関心が薄い(…ような気がする)コンテンツが続きましたが、今日のトピックはこれからの法制化に近い「同一労働同一賃金」です。

実際に法律が成立し、施行されるのは来年以降ということになると思いますが、話題としてはまだ遠いでしょうか?

昨年、12月16日に厚生労働省の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」から中間報告が出され、これに続いて12月20日には内閣府の「働き方改革実現会議」から同一労働同一賃金の「ガイドライン案」が公表されました。

12月16日から12月20日とわずか4日間で法律の方向づけがされるのですから、すごいものがあります。

日本の雇用に新しい風が吹く?

厚生労働省と内閣府のこれら2つの会議を主導しているのは、いずれも東京大学の水町勇一郎教授なので、その意味では水面下では調整済みということでしょうか。

水町先生は、かれこれ5年以上前でしょうか。厚生労働省のある会議を傍聴したときに初めてお説を拝聴しました。

大変失礼ながら、重厚な会議でも比較的カジュアルにポンポンとモノを言う珍しいタイプで好感がもてました。もちろん中身がカジュアルなわけではありません。

実際、多くの場合、ジーンズですし、私が水町先生の研究室をお訪ねしたときには、ソファのうえに靴のまま上がるというフランスぶり(笑)。

私も隣国のドイツに住んでいたことがあるので、まったく違和感はなかったのですが、当時から新しい風を期待できそうな雰囲気でした。

3月上旬に向けた論点整理の伏線

閑話休題、これら2つの会議の流れについては、拙ブログでも12月16日には「『同一労働同一賃金』派遣先社員と同一待遇!?」、12月20日には「『同一労働同一賃金』始めなければ始まらない」と、まるでメディアのようにタイムリーに勝手なことを書かせてもらいました。

振り返ってみると、我ながら結構、内容もいい線いってるという感じです。

これらに加えて、つい先日2月2日の拙ブログ「報道されない働き方改革実現会議の『同一労働同一賃金』」では、「裁判で争えるか」「立証責任の所在」「ADR(裁判外紛争解決手続)などの運用」とポイントを押さえたこともお伝えしています。

求められる開かれた議論

そこで報じられたのが、昨日2月8日の日本経済新聞「『同一賃金』法改正へ議論 待遇差の説明義務、焦点に 厚労省検討会」です。

要するに内閣府の「働き方改革実現会議」から厚生労働省の「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」に検討の場が移ったというものです。

以前、塩崎恭久厚生労働大臣が加藤勝信働き方改革担当大臣と「しっかりと連携して」と言っていたのはこういうことなのでしょう。

そこで気になるのがこの検討会の内容ですが、以前にも書きましたが、これまで12回開催されているものの、いずれも率直な意見交換を期すため非公開。

カジュアルな発言の多い水町先生だからこそ率直な意見交換が必要ということになるのだろうとは思いますが、やはりもっと開かれた議論をしてもらいたいものです。

かろうじて資料は公開されています。その資料の陰に隠れた話や空気感は伺いしれませんが、少し資料を紐解いてみます。

法整備に向けた「同一労働同一賃金」の論点

注目すべき資料の一つは、「法整備に向けた論点(パート・有期雇用関係)」というもの。これはもうほとんど論点そのものです。

大きくは以下の3点で構成されています。

  1. 司法判断の根拠規定の整備関係
  2. 説明義務の整備・いわゆる「立証責任」関係
  3. その他(履行確保の在り方等)

2月2日の拙ブログで書いたとおりの内容ですが、3月上旬までに微調整して論点整理が完了した状況とし、再度、内閣府の働き方改革実現会議で3月中にそれが確定。

その後、また厚生労働省に戻り、労働政策審議会で「労働契約法」「パートタイム労働法」「労働者派遣法」それぞれに分かれて議論が進められたうえで建議ということでしょうか。

来年度となる4月からは労働政策審議会に各部会に横串をさす企画的な機能をもつ部会もできるはずなので、そこを経由することもあり得ます。

最短最速で秋の臨時国会で成立、来春施行ということになりそうですね。

相変わらず「労働者派遣法」は別扱い

ただし、労働者派遣法については、扱いが違うのでもしかすると労働契約法とパートタイム労働法とは違う歩みをたどるかもしれませんね。

つまり、この資料では、むしろ「(パート・有期雇用関係)」というカッコづきであることが気になります。

「(パート・有期雇用関係)」があれば、当然ながら「(労働者派遣関係)」というものがあってもよさそうなものですが、この時点ではありません。

これも2月2日の拙ブログでお伝えしたように「労働者派遣法」は別扱いとなっていますが、現時点では扱われてさえいない状態です。

3月上旬に論点整理となっているので、それまでに「(労働者派遣関係)」が出るのか出ないのか、そこが問題ということになります。

「同一労働同一賃金の実現に向けた検討会」の論点整理が注目点です。

法整備以外にもやるべきことはある

もう一つの注目すべき資料は「これまでの主な御議論について(パート・有期雇用法整備関係)」というものです。

これも「(パート・有期雇用法整備関係)」です。

論点整理の「(パート・有期雇用関係)」と比較すると「(パート・有期雇用法整備関係)」となっています。

「(パート・有期雇用法整備関係)」以外にも「(パート・有期雇用〇〇〇関係)」というものが存在しているということでしょうか。法整備以外にもやることがあると受け取れますね。

「知らない幸せ」も存在する

この資料では、各委員の主なコメントが載っています。

その中にはいくつか注目すべきものがあります。

松浦民恵委員の「他の雇用管理区分の者との待遇差の理由の説明は、現場では、労働者のモチベーションに与える影響が悩ましい」というコメント。

現場感覚を持ち合わせた非常によいポイントだと思います。

会議とは直接的には関係がないものの、会議当日の2月7日に毎日新聞に掲載された「同一労働同一賃金 指針案、『対応可能』企業が多数」という記事にあるアンケート結果を裏づけるものとなっています。

この記事では「ガイドライン案」によって総人件費について半数近くが「増えない」と回答したことからも窺えるように、すでに企業では職務分離が完了しているということです。

職務分離が進んだ状態では、明確に待遇差の理由を聞くことはむしろモチベーションがさがることも十分考えられるのです。

こう言ってしまうと身も蓋もありませんが、「知らない幸せ」ということもあるのかもしれません。「知らぬが仏」とも言いますし…。

原則的には、水町先生がおっしゃるように「企業毎に賃金制度が様々であるからこそ、説明義務が重要」だとは思いますが、まさに悩ましいところです。

チェック機能のさじ加減

「複数の雇用管理区分を横断して、合理的な賃金制度になっているかのチェック機能をどう担保するか」という中村天江委員のコメントもごもっともなところです。

チェック機能がなければ、しくみ自体が機能しないので重要なポイントです。

ただ、どこまで厳密に「同一」を目指すのかということの議論が必要ではないでしょうか。

「長期的には、…略… 雇用管理区分間の不合理な待遇差が生じないようにしていくのが望ましい」とのコメントもあるので、最初からがんじがらめな状態を求めているわけではないということだと思います。

私自身は方向性として「同一労働同一賃金」は望ましいと考える反面、政府が介入しない方がよいと思っているので、どの程度のさじ加減でチェック機能を求めるのかということろでしょうか。

非正規労働者の意見を聴くことが重要

この他、神吉知郁子委員の以下のコメントも重要なポイントだと思います。

「労働条件について「労使」で決定すると言いながら、実際は使用者側の一方的な決定で決まっている。非正規労働者の意見を聴き、反映させていくための具体的道筋をどうするかが重要」

ただし、仮に非正規労働者の意見を聴くことが求められたとしても、その意見を言ったがために不利益を被るようなことがないような配慮も併せて必要になるのではないかと思います。

総人件費が「増える」と「増えない」が拮抗

最後に前述の毎日新聞「同一労働同一賃金 指針案、『対応可能』企業が多数」という記事ですが、アンケートそのものは面白いのですが、記事の採り上げ方がチョット…。

そもそも、調査対象が126社でよいのかという問題もあり、対象とした企業の業界や規模などの偏りも気になります。

このアンケートでは、「ガイドライン案」について99社を対象に総人件費の増減を訊いています。

結果について「総人件費が「増える」としたのは回答企業の4割弱にとどまった。半数近くが「増えない」と答え、現状のままで対応可能と考えている企業が多数派を占めた。」と書いてあります。

トランプ大統領的に表現すると「フェイクニュース」と言いたくもなりますが、実際には分母99社のうち「増える」が38社(38.4%)、「増えない」が45社(45.4%)。

調査対象の適切性や誤差を考えると両者拮抗と考えるのが妥当で、「増える」が4割にとどまり、「増えない」が多数派、とは言えないのではないでしょうか。

「ガイドライン案の効果は限定的」ということが言いたいところのようです。

まぁ、私としては個人的には限定的なものにしておくぐらいで丁度よいと思っていますが…。

関連記事:

タイトルに「同一労働同一賃金」と入っているものだけでもこんなにあります(笑)。

「同一賃金」法改正へ議論 待遇差の説明義務、焦点に 厚労省検討会

日本経済新聞 2017/2/8

厚生労働省の有識者検討会は7日、政府の働き方改革実現会議がまとめた同一労働同一賃金のガイドライン案に沿った法改正について議論を始めた。

待遇差に関し、説明義務や裁判でどのように立証するかが焦点となる。政府が3月中にまとめる働き方改革の実行計画に反映させる。3月上旬をメドに論点整理をする。

政府は昨年12月に同一労働同一賃金のガイドライン案を示した。

法改正ではその根拠となる条文を整備する。労働契約、パートタイム労働、派遣労働者の3法が対象となる。

法改正で争点となるのは主に2点。

1つは正社員と非正規労働者の待遇差について、企業側に説明義務を課すのかどうかだ。

現行法では本人の待遇がどう決まったかについては企業側に説明義務があるが、待遇差に関し明確な規定はない。

検討会では、説明義務を課せば「労働者の納得性や人事制度の透明性が高まる」という意見が出た一方で「日本と欧州の賃金制度の違いを考慮する必要がある」といった意見も出た。

もう1つの焦点が裁判における待遇差の立証責任だ。

現在は非正規労働者が正社員との間の非合理な待遇差を無くすように裁判で訴えた際に、労働者側は待遇差が不合理である理由を説明し、使用者側は待遇差が不合理でない根拠を説明する仕組みになっている。

労働界は企業側が待遇差の合理性を立証するよう求めている。

立証のハードルが高くなるため、経済界は反対の立場だ。

同一労働同一賃金 指針案、「対応可能」企業が多数

毎日新聞 2017年2月7日

毎日新聞は主要企業にアンケート

政府が昨年12月に「同一労働同一賃金ガイドライン(指針)」案を公表したことを受け、毎日新聞は主要企業に非正規労働者の人件費負担への影響の見通しについてアンケートした。

指針によって総人件費が「増える」としたのは回答企業の4割弱にとどまった。半数近くが「増えない」と答え、現状のままで対応可能と考えている企業が多数派を占めた。

安倍晋三首相は「正規と非正規の賃金差が顕著な大企業で是正する必要がある」と述べているが、指針の効果は限定的となる可能性がある。

アンケートは1月中下旬、126社を対象に実施し、99社が回答(回答率79%)。総人件費が「増える」との回答は38社にとどまり、「増えない」は45社に上った。

16社は「未定」など具体的に回答しなかった。

増えない理由(複数回答)では15社が「既に処遇改善を進めている」と回答。

一方、「対応の必要性を感じない」も15社あった。

このほか、「正規と非正規では職務内容が異なる」(不動産)など正社員と非正規労働者で職務を明確に分けることで待遇に差を付けているケースもあった。

連合幹部は「正社員と契約社員の職務分離が進めば待遇差は縮まらない。

主力とみなされる総合職と、補助業務を担う一般職のような格差が残るだけにならないだろうか」と懸念する。

増える理由(複数回答)で最も多かったのは「賞与」で22社。

「慶弔休暇や有給休暇など福利厚生」(20社)、「通勤手当や時間外手当など」(15社)と続き、「基本給を引き上げる」は10社にとどまった。

コンサルタントの山口博・リブコンサルティング事業部長は「人件費が増える理由で多かったボーナスは業績によって変動が大きく、福利厚生面はコストが比較的少ない。

処遇の『幹』になる基本給よりも周辺部分での対応にとどまっていることがうかがえる」と指摘する。【阿部亮介】

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