こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

昨日5月30日に厚生労働省から4月の有効求人倍率が公表されました。今日の報道ではこれが大きく採り上げられています。

冷静に考えれば、これは少子高齢化や景気回復を考えればごく自然な流れで、ニュースで騒がれることでもないような気がしますが、実際に数字で雇用情勢を見せられるとどうしても反応してしまいますね。

誰も経験のない有効求人倍率

4月の段階で1.48倍。43年ぶりの高水準だそうです。

43年前と言うと1974年ということになりますが、山口百恵さんの「ひと夏の経験」がヒットした年、草彅剛さんが生まれた年です。

現在、企業で中心的な役割を果たす皆さんが生まれたころの話ということになりますね。

経済的には、第1次石油危機を契機に戦後初めてのマイナス成長になった年であり、我が国の高度経済成長期はここで終焉を迎え、安定成長期に入った年とされています。

若手はもちろん、大きな役割を担っている皆さんも含めて現役では誰もこの有効求人倍率を経験したことがないということになります。

一般企業での危機感は濃厚

数字は結果ですから、この1.48倍も実情を客観的に示しているということになりますが、実際に一般企業、特に建設、運送、警備、介護、飲食、ITといった以前から慢性的に人材不足が表面化している業種では、人材不足倒産さえ危ぶむ声も多く聞かれるようになっています。

実はここのところ私も地方に行ったり来たりということが重なり、求人、募集、採用といった言葉にどっぷりはまっている状況です。

お話を伺うと、すでに媒体をどうするというような話では状況が好転するようなレベルを超えており、それ以前に定着をどうするのか、さらに経営戦略は?、組織は?、人事制度は?といった根本的な経営改革に至るようなことがほとんどです。

実態にリンクしない有効求人倍率

有効求人倍率で注意をしなければならないことは、ハローワークにおける求人、求職、就職の状況を表す結果だということです。

入職経路として、ハローワークと民間の人材サービスでは、その対象となる人の住み分けがあることはご存知のとおりです。

また、一般的にニュースで有効求人倍率を採り上げるのは、パートも含んだものです。これについては、終身雇用が当たり前だった43年前とは単純に比較はできないはずです。

よく、有効求人倍率の数字ほどには求人が多いわけではないというような話もされますが、数字をどう読むかによって実態とは乖離したものになるということは注意をしておく必要があります。

人材派遣需要も好調

そうは言っても、やはり1.48倍のインパクトは大きいのだと思います。

5月24日づけの日本人材派遣協会の発表によれば、第1四半期平均は前年同期比107.5%で、実稼働者総数で2009年第3四半期平均を上回り、実稼働者総数も1月→3月で増加を続け、四半期平均では2016年第4四半期を上回ったとのことです。

前年同期比107.5%というのは、人材サービス業界では、久しぶりに好況感を得られているのではないでしょうか。

話は少し外れますが、業界内の有識者の間では、リーマンショックの時と同じ轍を踏まないようにするためにはどうすべきかというような声さえ聞こえるようになっています。

好調な時こそ、好調に甘んじない、売上・利益追求だけでなく、しっかり足元を固め、「真の経営力」を身につける企業こそが、継続的な発展を約束されるのではないでしょうか。

人材サービスにとってチャンス

話を戻します。有効求人倍率の高さは、当然ながら人材サービス事業者にとってはチャンスです。

ただし、そのチャンスを成果に結びつけるためには、それなりの対策が必要になることは言うまでもありません。

すでに取り組まれているとは思いますが、いかに効率的に多くの求職者を登録、あるいは直接雇用できるかがまず必要です。ここでは競合他社と比較してもということも付け加える必要があるでしょう。

また、いかに適切なマッチングを多くするかも重要です。売り手市場ですから、登録、あるいは直接雇用した人に合った案件を受注するかということになりますね。

これを意識的に行うのとそうでないのとでは、成果は大きく異なるということになるのではないでしょうか。

さらにマッチング後の継続就労も必要です。同一労働同一賃金による法改正も目に見えています。待遇改善、格差是正も視野に入れ、派遣料金の値上げ交渉は必須ですね。

分かりきったことだとは思いますが念のため…。

自社の備えも万全に

最後にもう一度「真の経営力」に話を戻します。

有効求人倍率が高いということは求職者にとってはよい話ですが、企業にとっては求人難、人材不足であることは言うまでもありません。

今回の有効求人倍率1.48倍というのは、同時に人材不足も顕著になったということです。

人材サービス事業者の経営の観点からも自社の人材不足は憂いべきことになるということを忘れてはなりません。

市況が好調で案件の受注ができたとしても、それに対応できるだけサービスを提供できなければ話にならないのです。

自社の働き方改革=経営改革も急務と言えるでしょう。

求人倍率 バブル期超え 4月1.48倍、43年ぶり水準

日本経済新聞 2017/5/30 10:48

企業の人手不足感が一段と強まっている。厚生労働省が30日発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は前月より0.03ポイント高い1.48倍だった。バブル経済期の水準を超え、1974年2月以来43年2カ月ぶりの高さとなった。4月は完全失業率も2.8 と低く、雇用情勢は「売り手市場」の様相を強めている。

有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。4月は2カ月連続で上昇し、バブル期で最も高かった90年7月の1.46倍を上回った。正社員の有効求人倍率は0.97倍で2004年に統計を取り始めて以来最高だった。企業は長期の視点で人手を確保するため、正社員の求人を増やしている。

新規求人を業種別にみると、製造業が前年同月比7.9%増で求人倍率を押し上げた。自動車やスマートフォン関連の企業が人員確保に動いた。このほか、トラック運転手などが不足する運輸業・郵便業が8.3%増、東京五輪需要が膨らむ建設業が6.9%増だった。医療・福祉業も3.2%増えた。

総務省が同日発表した4月の完全失業率(季節調整値)は2.8%と、前月と横ばいだった。求人があっても職種や年齢、勤務地などの条件で折り合わずに起きる「ミスマッチ失業率」は3%台前半とされる。3%割れは働く意思のある人なら誰でも働ける「完全雇用」状態にあると言える。

失業者数は197万人と前年同月に比べて28万人減った。自営業を含めた就業者は6500万人。パート賃金の上昇などを背景に、これまで職探しをしていなかった主婦層や高齢者が働き始めたことで、80万人増えた。

足元の雇用環境を40年前と比べると、ハローワークに提出される求人票の数と求職者数はともに増えている。大きく異なるのはパート労働者の増加だ。バブル期に10%台前半だったパート労働者の比率は足元で30%を上回る。

正社員より賃金水準が低いパート労働者を中心に雇用が増えれば、全体的な賃金上昇圧力は高まりにくい。従業員30人以上の企業の現金給与総額(1人あたり賃金)は2016年に1%増にとどまったが、1974年は27%増えていた。

4月の求人倍率を都道府県別にみるとすべての地域で1倍を上回った。厚労省は「雇用を生む業種が工業地帯を中心とした製造業から、医療や介護など場所を選ばない業種に広がったため」と分析する。74年度は製造業がフルタイム求人の半数近くを占めていたが、現在は10%程度。一方で4月の求人数が最も多い業種は医療・福祉業で、全体の約5分の1を占める。

大和総研の長内智氏は「地方の小売業ではパート労働者が(年収106万円など)社会保険料の壁を意識して労働時間を減らすため、さらに労働需給が引き締まる悪循環に陥っている」と負の側面を指摘する。

このままでは「人手不足倒産」という悪夢が現実になる

「バブル期超え」を喜んでいる場合か

2017.5.31. 現代ビジネス 磯山友幸

小売・医療介護にも波及

遂に「人手不足」がバブル期を上回る水準にまで達してきた。厚生労働省が5月30日発表した4月の有効求人倍率(季節調整値)は1.48倍と、前月に比べて0.03ポイント上昇した。

バブル期のピークだった1990年7月(1.46倍)を上回り、1974年2月に付けた1.53倍以来、43年2カ月ぶりの高水準を記録した。

人手不足は東京などに限らず全国的な傾向。13カ月連続で全都道府県で有効求人倍率が1倍を上回った。

運輸業や建築業など慢性的な人手不足業種だけでなく、製造業や小売業、医療介護など幅広い分野で求人が増えている。

職業別に有効求人倍率をみると、専門的・技術的職業の中で「建築・土木・測量技術者」が4.41倍と高いほか、「建設・採掘の職業」では「建設躯体工事」が8.35倍、「建設」が3.72倍、「土木」が3.10倍などとなっており、工事現場での人手不足が引き続き深刻であることを示している。

このほかの業種でも、「サービス」が2.93倍、「保安」が6.34倍、「自動車運転」が2.53倍などとなっている。

同日、総務省が発表した4月の労働力調査でも、完全失業率が3カ月連続で2.8%となるなど、失業率でみてもバブル期並みの低さを維持している。

 労働力調査によると、就業者数は6500万人と1年前に比べて80万人増加、企業に雇われている雇用者数も5757万人と、前年同月に比べて57万人増えた。

前年同月比での増加は、就業者数、雇用者数とも、安倍晋三内閣発足直後の2013年1月から52カ月連続。

アベノミクスの開始以来、雇用情勢の好転が続いていることになる。

有効求人倍率がバブル期越えとなった背景には、当然のことながら働き手の数自体が減少傾向にあることがある。

求人に比べて仕事を探している求職者の数がなかなか増えないわけだ。

もっとも、就業者数全体の数は2010年5月の6281万人を底に増加傾向が続いており、ピークだった1998年1月の6560万人に近づいている。

定年の延長など働く高齢者が増えたことや、女性の参画が活発になったことが背景にある。

安倍内閣も「女性活躍の促進」や「一億総活躍社会」といったスローガンを掲げ、働く人材の確保に力を入れていることが大きい。

今後も人手不足は一段と鮮明になっていく可能性が大きい。

東京商工リサーチによると、2016年度(2016年4月~2017年3月)の「人手不足」関連倒産は310件(前年度321件)だった。

代表者の死亡などによる「後継者難」型が268件(前年度287件)と大半を占めたが、「求人難」による倒産も24件と前年度の19件から増加した。

さらに、人件費高騰による負担増をいっかけに資金繰りが悪化して倒産する「人件費高騰」関連倒産も、18件(前年度25件)にのぼった。

まだ、人手不足倒産が急増しているわけではないが、東京商工リサーチでも「景気の緩やかな回復の動きに合わせて人手不足感が高まっているなかで『求人難』型の推移が注目される」としている。

結局、「働き方改革」が不可欠

人手不足の中でいかに人材を確保するかが、今後、企業経営者にとって大きな課題になることは間違いない。

すでに正規雇用化によって人材を確保しようとする動きは広がっている模様で、統計にもはっきり現れている。

4月の労働力調査で「正規の職員・従業員数」は3400万人で、前年同月比14万人、率にして0.4%増加した。正規雇用の伸びは29カ月連続である。

今後、人口の減少が鮮明になってくる中で、どうやって労働力を確保していくのだろうか。

高齢者や女性の活用はかなり進んでいる。非正規雇用の女性の正規化などは進むとみられるが、雇用者数を生み出す源泉にどこまでなるかは微妙だ。

そんな中で、期待されるのが、求人と求職のミスマッチの解消。例えば4月の調査で「一般事務職」の求人数は14万9971件に対して、求職者は47万9035件に達する。

有効求人倍率は0.31倍だ。「事務的職業」全体でみても、有効求人倍率は0.4倍にとどまる。

つまり、事務職に就きたいという希望者が多い一方で、企業の中では事務職の仕事自体がどんどん効率化され消えていっているという現実がある。

こうした事務職希望の人材に、慢性的な人手不足に陥っている販売職やサービス職に就いてもらうことができれば、ミスマッチが解消されるわけだ。

販売やサービスよりも事務を好む理由は、労働時間や賃金などの待遇が大きいと思われる。

事務職は定時に勤務を終えられるが、顧客を相手にする職種では勤務時間が不規則になりがちだという面もあるだろう。

また、事務職の方が安定的に長期間にわたって勤務できるというイメージもある。

つまり、このミスマッチ解消には、政府が今、旗を振っている長時間労働の是正など「働き方改革」が不可欠ということである。

小売りや飲食・宿泊といったサービス産業では、長時間労働の割に給与が低いという問題もある。

長年続いたデフレ経済に伴う価格破壊で、十分な利益を上げられる価格設定ができていないケースが少なくない。

インバウンド消費の増加もあって良い物にはきちんとした価格を支払うムードができつつある。

最終販売価格を引き上げ、それで従業員に適正な給与を支払うという「経済の好循環」が生まれれば、サービス産業にも人がシフトしていく可能性は大きい。

いずれにせよ、人手不足は改革のチャンス。従来通りのやり方では、早晩、人手不足倒産に直面することになる。

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雇用が変わる

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