こんにちは。人材サービス総合研究所の水川浩之です。

天皇陛下の退位特例法が成立し、改元の時期は2019年元旦か、と取り沙汰されています。

オリンピックを翌年に控えたこの時期に改元されるというのは、よいタイミングなのかもしれません。

浩宮は私と同い年でもあり、浩は私の名前と同じでもあるので、なんとなく親近感があります。

失礼ながら、昔は「とっちゃん坊や」みたいだと思っていましたが、最近は貫禄も出て立派になられたと感じます。

多くの同期が定年を迎える2019年、浩宮にとっての仕事はそれからが本番。

基本的人権がなく可哀想でもありますが、国民の象徴として頑張ってほしいと思います。

新たな時代に、新たな制度で、新しい働き方を

現在、労働政策審議会では、働き方改革に伴う議論がされていますが、これらの多くも秋の臨時国会での成立が目指されているようです。

政省令などの細則の検討が行われ、準備期間も置いたうえで2019年4月1日から施行ということになるものも多いように思います。

後付けであっても、「平成から〇〇に変わり、新たな時代に、新たな制度で、新しい働き方を…」という言われ方がするのだろうなと想像してしまいますね。

同一労働同一賃金

さて、そんなことを考えながら、第6回同一労働同一賃金部会に行ってきました。前回の第5回6月6日から3日目の開催です。

労働政策審議会の労働条件分科会・職業安定分科会・雇用均等分科会を横断して議論されてきた同一労働同一賃金部会は、4月28日の第1回からこの第6回まで、わずか44日で「同一労働同一賃金に関する法整備について(報告)(案)」がまとめられました。

労政審では一般的に分科会で報告書がまとめられると、そのまま建議として扱われるのですが、今回は3分科会をまたいでいるため扱いが違うようです。

それぞれの分科会の位置づけが異なるため、実際には6月16日に予定されている職業安定分科会で承認されるようですが、実質的には今回の報告書の内容が建議の内容になると考えてよいと思われます。

かなり早いペースで進むだろうとは聞いていましたがここまで早いとは思いませんでした。

概ね「同一労働同一賃金ガイドライン案」どおり

私は、6回開催された同一労働同一賃金部会のうち前回を除くとすべて傍聴しましたが、以下のようにブログでも逐次その内容をお伝えしてきました。

総じてみると、ほぼほぼ妥当な内容で決着したのではないかと思います。

官邸主導の政策決定とはこういうものだと改めて感じます。労政審主導ではいつまで経ってもまとまらないという現実もあるので、痛し痒しといったところでしょうか。

アリバイのための意見

第6回の予定された時間は15時から17時までの2時間でしたが、実際には開始後21分で終了。最後はあっけない幕でした。

前回の第5回で示された報告書(案)に10カ所ほど加筆・修正された部分についての説明があり、若干の意見が述べられただけという内容です。

ただし、ここでの意見は議事録には残るので、ある意味でアリバイ作り的な発言だったのだろうと思います。

「あの時、〇〇と言いましたよね」という布石とも言えるので、今後、施行前の議論も含めて注意深く見守る必要があります。

「基本的考え方」に加筆

今回、加筆された中でいくつか懸念されることを挙げると、まず、「基本的考え方」の中で、「企業内における正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇座の解消…」と「企業内における」と一言追加されました。

いわゆる非正規雇用者のほとんどを占める短時間労働者、有期契約労働者について「正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の不合理な待遇座の解消…」を図るのは当然なので、それについて基本的考え方とするのはよいのだろうと思います。

しかし、労働側はこれを以て、派遣労働についても「派遣先均衡」が原則であるとしたいのだろうと考えられます。

この日出された意見では「派遣先均衡が原則で、施行段階で議論が必要」という趣旨の発言があったことから、意図するところは明らかです。

派遣労働者の原則は選択制(重要)

実際には、報告書の中では「派遣先均衡が原則」という記述は一つもなく、派遣労働の現実を踏まえたうえで「派遣先の労働者との均等・均衡方式」と「労使協定による一定水準を満たす待遇決定方式」の二つの選択制としか書かれていません。

これまでも何度か書いていますが、労働者派遣はいわゆる職務型の同一労働同一賃金に最も近い雇用形態です。

同じような仕事でも、派遣先が違うことによって待遇が異なるということは、あまりにも不自然です。むしろ派遣労働者にとっては不安定になります。

労働市場の相場によって賃金が決まることがほとんどという現実もあります。事実、昨今の人材不足では賃金は上昇傾向にあります。

「派遣先均衡が原則」とすることは、限界に達した終身雇用、年功序列、企業別組合の日本的雇用慣行をさらに助長することになり、本来の働き改革とは逆行することを意味します。

少なくとも検討会、部会での議論で派遣労働の現実的な姿についてきちんと語られてきた経緯があります。改革の歩みを止めないでほしいものです。

現実をきちんと捉えることが必要です。選択制が原則。これを堅持しなければ本当の意味の同一労働同一賃金は遠のいてしまうのです。

施行後の運用について

偶然にも第6回の前日6月8日のブログ「働き方改革、教育環境は経済的なことだけですか」に「労働法制は実態が伴うのに時間がかかる」と書きました。

報告書では、その認識の通りのことが反映されています。

「労働者が司法判断を求める際の根拠となる規定の整備」の中で、運用について「計画的に」「支援措置」「丁寧な支援」「プロセスも重要」といった言葉が加筆がされました。

仮に2019年4月1日に施行されても、その日から完璧に運用できる企業はないはずです。

戦後70年に渡って築かれてきた日本的雇用慣行が一夜にして変わることは考えづらいものがあります。

男女雇用機会均等法が施行されてから現在までの期間を考えると、このような変革には、それ相応の時間がかかります。

現実的な問題としてプロセスを踏みながら待遇の調整をしていかなければ社会的な混乱も想像に難しくありません。

施行された法律を守らなくてもよいとは決して言いませんが、政策的に一定のプロセスを踏みながら変革をしていくことが社会的に必要とされるのだと思います。

努力義務を努力義務に?

私の理解不足かもしれませんが「行政による裁判外紛争解決手続きの整備等」の中で1点不可解な加筆あります。

「就業規則の作成・変更時の意見聴取(努力義務)については、派遣労働者についても同様に、派遣元事業主の努力義務として新たに対象としていくことが適当である」という文章に「派遣元事業主の努力義務として」が加筆されました。

これは、就業規則の作成・変更時の意見聴取には、派遣元の内勤社員だけでなく、派遣社員についても意見聴取の対象とするということでしょうか。

加筆されたことで、文章がわかりづらくなったように思います。

「等」

最後に「法施行に向けて(準備期間の確保)」の中に一文字「等」という言葉が加筆されました。俗な言い方をすると、この「等」は曲者です。

試行段階で以下の3つが検討要と書かれていたものに、「それだけではない」「他にもある」という意味を込めての「等」だと思います。

  • 派遣先の労働者の賃金等の待遇に関する情報提供義務の具体的内容
  • 「一般の労働者の賃金水準」や労使協定の詳細
  • 待遇差に関する説明義務の具体的内容 

平成27年改正法では、労政審で議論されなかったような常軌を逸したことまで国会審議の附帯決議で盛り込まれました。

今回も国会での議論ももちろんですが、公布された以降、施行までの議論でも何が加えられるかわかりません。

結局、施行間際まで目が離せない状況が続くことになりそうです。

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